2017年4月8日土曜日

日本におけるタンク内部清掃作業に係る火災事故

 今回は、20062月に危険物保安技術協会がまとめた1975年~2004年の日本におけるタンク内部清掃作業に係る火災事例とともに、2005年以降に起きた3事例を付け加え、13事例の事故概要を紹介します。
< 概 要 >
■  危険物保安技術協会は、日本における屋外タンク貯蔵所のタンク内部清掃作業に係る火災事例を2006年2月に紹介している。タンク内部清掃作業に係る火災は1975年~2004年の30年間に10件の事例が発生している。ここでは、さらに2005年以降に起きた3事例を付け加え、13事例の事故概要をまとめた。

< タンク内部清掃時の火災事例 >
1.コーカー油タンクのスラッジの自然発火事故
 ● 発 生 日; 1977年8月20日
 ● タンク仕様; 固定屋根式タンク、容量2,600 KL、スチーム加熱器・保温付き、油種:コーカー油
 ● 発 火 源; スラッジによる自然発火
 ● 人的被害;  死傷者なし
 ● 事故の概要;
  重質油分解プロセスであるコーカー装置に付帯するコーカー油タンク内の油を可能な限り移送した後、スラッジの除去を目的としてハール油(引火点76℃)を48KL投入して、バキュームホースによる抜き取りを行い、作業終了後、タンク下部のマンホールを閉止した。翌朝、作業再開のため、マンホールを開けたところ、白煙が充満しており、まもなく黒煙が上がり、爆発した。 コーカー油スラッジの余熱による自然発火と推定された。

2.灯油タンクの残油抜き取り中の爆発事故
 ● 発 生 日; 1977年9月15日
 ● タンク仕様; 固定屋根式タンク、容量10KL、油種:灯油
 ● 発 火 源; 電動ポンプの電気火花
 ● 人的被害;    負傷者2名
 ● 事故の概要;
  灯油タンクの残油を抜き取るため、タンクのマンホールを開け、電動ポンプでドラム缶に移す作業を行っていた。電動ポンプは作業用フォークリフトのバッテリーに接続して、タンク内にポンプの先端を入れ、ドラム缶にロートで移していたところ、電動ポンプの電気火花で灯油の気化ガスに着火し、爆発した。

3.原油タンクの清掃準備中の内部ガス放出時に爆発事故
 ● 発 生 日;  1987年11月30日
 ● タンク仕様;  浮き屋根式タンク、容量3,000KL、油種:原油
 ● 発 火 源;  換気用ファンの電気配線のスパーク
 ● 人的被害;     負傷者なし
 ● 事故の概要;
  原油タンク内の清掃準備において内部のガスを大気放出(拡散)させるため、浮き屋根にあるマンホールを開けて換気用ファンを取り付けた。換気用ファンの電気配線コネクターを接続したところ、突然、タンク内で爆発が起きた。発火の原因は、通電状態のまま三相ケーブルコネクターの接続部位を誤って差し込んだため、マンホール部に設けた換気用ファンの電動機用アースを介して、ファンを仮止めした番線部でスパークしたものとみられる。

4.原油タンクの清掃準備中に内部ガスが流出して爆発
 ● 発 生 日; 1988年12月19日
 ● タンク仕様; 浮き屋根式タンク、容量99,600KL、油種:原油
 ● 発 火 源; 車両積載形トラッククレーンのマフラーの排気
 ● 人的被害;    負傷者5名
 ● 事故の概要;
  原油タンク内の清掃準備においてタンク側板のマンホールを開けるため、車両積載形トラッククレーン(通称、ユニック車)を使用してマンホールカバーを吊り上げた。このとき、マンホールから流出したガスがトラッククレーンの吸気口から吸い込まれ、エンジン内部で不完全燃焼を生じ、マフラーから排気された高温の燃焼カーボンがマンホール部から流出するガスに引火した。 

5.重油タンクの清掃作業中に溶断工事の火花で火災
 ● 発 生 日; 1991年11月28日
 ● タンク仕様; 固定屋根式タンク、容量1,000KL、油種:重油
 ● 発 火 源; 配管の溶断作業による火花
 ● 人的被害;    負傷者なし
 ● 事故の概要;
  重油タンクの内部開放点検にあわせ、貯蔵油種を重油から灯油に変更するため、タンク内外で工事を実施していた。タンク内では、重油スラッジを希釈剤の灯油で溶かして回収していた。タンク外の側板近くでは、スチーム配管の溶断作業を実施していた。溶断によって飛散した火花がタンク内部で使用していた灯油に着火し、タンク内の灯油と重油スラッジが火災となった。

6.重油タンクの清掃作業中に溶接の熱で火災
 ● 発 生 日; 1991年7月2日
 ● タンク仕様; 固定屋根式タンク、容量15,000KL、油種:重油
 ● 発 火 源; 計装機器の溶接作業による熱
 ● 人的被害;    負傷者2名
 ● 事故の概要;
  重油タンクの補修のため、タンク内の重油を抜き取り、残油スラッジを除去した後、仕上げ清掃のために灯油を使用して底板上のスラッジ分の拭き取り作業を実施していた。タンク外側では、液面計のフロートガイド板取付けのための補強板の溶接作業を実施していたため、内部に熱が伝わり、灯油の気化ガスに引火して火災となった。タンク本体の破損は無かった。

7.覆土式タンクの清掃作業中に残留ガソリンの火災
 ● 発 生 日; 1992年7月13日
 ● タンク仕様; 覆土式石油地下タンク、容量100KL、油種:ガソリン
 ● 発 火 源; 電気器具の電気火花
 ● 人的被害;    負傷者4名
 ● 事故の概要;
  覆土式ガソリンタンクの清掃のため、タンク内のガソリンを抜き取った後、タンク上部のマンホールを開けて内部ガスの大気放出(拡散)を始めた。並行してタンク内のスラッジを除去するため、内部へ入槽するための側板マンホールを開けたところ、強烈なガソリン臭気が押し寄せてきた。作業員が危険を感じて出口への隧道(トンネル)を通って避難したとき、電気コードリールのコンセント/プラグを破損して、電気火花によって漏れたガソリン気化ガスに引火した。

8.覆土式タンクの残油をバキューム車で抜き取り作業中に爆発・火災
 ● 発 生 日; 1993年12月6日
 ● タンク仕様; 覆土式石油地下タンク、容量1,500KL、油種:ジェット燃料
 ● 発 火 源; バキューム車
 ● 人的被害;    死者3名、負傷者2名
 ● 事故の概要;
  覆土式タンクの点検修理のため、タンク内のジェット燃料(JP-4)を移送後、バキューム車を使用して残油を抜き取り中に、突然、タンクが爆発して炎上した。この事故に伴い、5名の死傷者が出た。

9.重油タンクの清掃作業中に洗浄用ベンゼンの爆発事故
 ● 発 生 日; 1996年1月29日
 ● タンク仕様; 固定屋根式タンク、容量500KL、スチーム加熱器・保温付き 油種:重油
 ● 発 火 源; 照明器具の電気火花
 ● 人的被害;    負傷者2名
 ● 事故の概要;
  重油タンクの油抜き取りが終わり、タンクを開放して、内部のスチーム加熱器に付着していた重油留分の洗浄を始めた。洗浄作業はベンゼンをしみ込ませたウェスで油分を拭き取っていた。作業を中断しようと照明器具のコードプラグを抜いたとき、火花が生じ、滞留していたベンゼンの気化ガスに引火して爆発した。

10.ガソリンタンクの清掃作業中にガソリン気化ガスが放出して火災
 ● 発 生 日; 2003年8月29日
 ● タンク仕様; 固定屋根式タンク、容量4,609KL、油種:ガソリン
 ● 発 火 源; 工事用電気器具の電気火花
 ● 人的被害;    死者3名、負傷者2名
 ● 事故の概要;
  隣接する2基の固定屋根式タンクを内部浮き屋根式に改造する計画を実施していた。1基のタンクは清掃作業の段階で、もう1基のタンクは内部浮き屋根の組立段階だった。清掃作業段階のタンクについて、側板マンホールと屋根マンホールを開放したとき、大量のガソリンの気化ガスが側板マンホールから流出した。このため、工事中の隣接タンク側に設置していたガス警報器が作動した。工事中の作業員が退避するときに、作業用電気器具のプラグをコンセントから抜いた際に出た火花によってガソリンの気化ガスに引火して火災となった。この事故に伴い、5名の死傷者が出た。

11.原油タンクの清掃作業中に原油スラッジの軽質油気化ガスによる火災
 ● 発 生 日; 2006年1月17日
 ● タンク仕様; 浮き屋根式タンク、容量約90,000KLクラス、油種:原油
 ● 発 火 源; 清掃作業時の機工具類などによる何らかの着火源(特定できず)
 ● 人的被害;    死者5名、負傷者2名
 ● 事故の概要;
  当日の朝、タンク内の可燃性ガス濃度と酸素濃度を測定し、入槽許可基準値の範囲内であることが確認され、タンク清掃工事の下請け会社の作業員がエアラインマスクを装着してタンク内へ入槽し、清掃作業に着手した。タンク内に残った原油スラッジを希釈用の軽油で溶かしながら、仮設ポンプで外部に排出する作業が行われた。午後の作業時に投光器が倒れた直後、タンク内の原油スラッジ中の軽質油分の気化ガスに引火し、火災となった。発火源は投光器による可能性が大きかったが、検証結果で特定できなかった。
 (当該事故の詳細は「太陽石油の原油タンク清掃工事中の火災事故」を参照)

12.原油タンクの清掃作業中、浮き屋根の出入口を開けたところ、火災発生
 ● 発 生 日; 2016年6月24日
 ● タンク仕様; 浮き屋根式タンク、容量48,000KL 、油種:原油
 ● 発 火 源; 不詳
 ● 人的被害;    負傷者なし
 ● 事故の概要;
  発災当時、原油タンクは清掃工事のため、内部の原油を抜く作業が行われていた。浮き屋根上で安全確認をしていた作業員が出入口を開けたところ、黒煙が上がって火災が発生した。

13.清掃中の原油タンクでスラッジの硫化鉄による自然発火
 ● 発 生 日; 2017年1月18日
 ● タンク仕様; 浮き屋根式タンク、容量100,000KL、油種:原油
 ● 発 火 源; 原油スラッジ中の硫化鉄による自然発火
 ● 人的被害;    負傷者なし
 ● 事故の概要;
  前年11月から内部の原油を抜いて清掃中だったタンクで、内部に人のいない早朝の時間帯に火災が発生した。内部に油は無かったが、原油のスラッジが集積(幅約6m×長さ約20m、高さ0.6~1.6m)されて残っており、スラッジ中に生成した硫化鉄の自然発火による可能性が高いとみられる。

所 感
■ タンク内部清掃作業中の火災事故を油種別に見てみると、「原油」が最も多く、約4割を占める。しかも、2000年以降に起きた4件の事故のうち3件が「原油」である。この原油タンクにおける内部清掃作業時の事故の傾向を断ち切る必要があろう。
タンク内部清掃作業中の火災の要因
■ 一方、総括的に見ると、「ガソリン」でも「重油」でも起こっており、軽質・重質の油種に関係なく、タンク開放時の清掃段階では、火災のリスクが内在しているといえよう。

■ 発火源別に見てみると、「電気火花」が約4割を占め、電気機器を使用する際の危険性を物語っている。
しかし、「車両」や「溶接・溶断」といった常識的に危険性のあることが分かっているはずの発火源が要因として出ているのは、“大丈夫だろう” という予断や危険予知不足が根底にあると思われる。

■ 発火源として「自然発火」が意外に多いと感じる。原油などスラッジの中で硫化鉄が生成する可能性のある油種では、留意する必要がある。これは、タンク底だけでなく、屋根の部材やマンホール部に生成する可能性がないか過去の知見を確認しておく必要があろう。

備 考
 本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。
  ・Khk-syoubou.or.jp, 屋外タンク貯蔵所の内部清掃作業に係る火災事例(昭和50年~平成16年) ,  February  03, 2006  
    ・Sozogaku.com,   自衛隊覆土式地下石油タンクの大気開放時の火災 
    ・Tank-accident.blogspot.jp,  エクソンモービル名古屋油槽所の工事中タンクの火災事故,  April 15, 2016
  ・Tank-accident.blogspot.jp, 太陽石油の原油タンク清掃工事中の火災事故,  March 11, 2017
  ・Tank-accident.blogspot.jp, JXエネルギー根岸製油所で浮き屋根式タンクから出火,  July 25, 2016
    ・Tank-accident.blogspot.jp, 東燃ゼネラル和歌山工場の清掃中原油タンクの火災原因(中間報告),  March 15, 2017


後 記: 危険物保安技術協会から2006年2月に出された資料は、 2006年1月に発生した「太陽石油の原油タンク清掃工事中の火災事故」に鑑みて広く参考にしてもらいたいという主旨で出されたものです。それから10年間、タンク開放清掃作業中の火災事故に接することはありませんでした。ところが、昨年の2016年から今年の2017年にかけて2件の事故が続きました。 そういうことで、危険物保安技術協会の資料を改めて紹介することとしました。まとめるに当たって、その後の事故を追加するとともに、表だったものを個々の事例紹介の形にしてみました。また、文章の用語はできる限り統一化し、分かりやすくするために補足的な言葉を入れてまとめました。 

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