2017年3月2日木曜日

米軍・相模補給基地の保管倉庫の爆発・火災(2015年)の原因調査結果

 今回は、貯蔵タンクではありませんが、過去に二度取り上げた米軍・相模補給基地(相模総合補給廠)の倉庫爆発事故に関する原因調査結果を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、神奈川県相模原市中央区にある在日アメリカ陸軍の相模総合補給廠(U.S. Army Sagami General Depot)である。相模総合補給廠は工場用地として補給関連の保管倉庫や修理工場などが設置されている。
■ 発災があったのは、相模総合補給廠内の倉庫で、鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造)平屋建である。
 米軍によると、保管物は酸素ボンベ、消火器等であり、管理状況としては換気扇、スプリンクラー設備、自動火災報知設備(煙感知器)が設置されていたという。

< 事故の状況 >
事故の発生
■ 2015年8月24日(月)午前0時45分頃、米軍相模総合補給廠の平屋の倉庫が突然、爆発を起こした。爆発が複数回起こり、火災は夜の空を照らした。発生した火災は、6時間以上くすぶり続けたのち、次第に消えていった。8月24日午前7時9分に鎮火した。
相模原市の米軍・相模総合補給廠の発災場所
(写真は防衛省・外務省発表資料から引用)
< 事故の原因 >
■ 2015年12月に発表された原因調査状況は「米軍・相模補給基地の保管倉庫の爆発・火災(2015年)の原因調査」を参照。相模原市はこの報告について納得せず、国に対して引き続き原因究明に努め、その結果を報告するよう要請していた。
 
■  2016年11月1日、日本の防衛省・外務省は米側から提供された情報をもとに相模原市につぎのように報告した。
 ● 米陸軍は原因究明のためWHAインターナショナル社(WHA International Inc.)に調査依頼(契約)し、
  2015年11月9日~12日の間に調査が行われた。
 ● WHA社の調査結果を踏まえ、米側において検討を行ったが、 火災原因を特定できなかった。
 ● 米陸軍による事故原因の推定はつぎのとおりである。
     「酸素ボンベの1つにガスケットの欠陥又はバルブの機能不全があり、そこから漏れ出した酸素が
    バルブを振動させ、何らかの拍子に発生した火花が蓄積さ れていた塵等の可燃物に引火し、燃え
    広がったものと思われる。さらに発生した火災による熱で付近の酸素ボンベが加熱され、次々に
    破裂した」
酸素ボンベの例
(写真は防衛省・外務省発表資料から引用) 

< 原因調査結果への反応 >
■ 相模原市は、11月1日に防衛省・外務省から報告を受けた後、在日米陸軍立会いのもと、本市消防局ほか職員が相模総合補給廠に立ち入り、米軍の再発防止策について確認を行った。この結果を受け、相模原市長は、つぎのような声明を発表した。
 「昨年8月の事故発生以来、市としては原因究明を求めてきたところであるが、結果として昨年12月の中間報告に引き続き、今回の報告 においても火災の原因が特定されなかったこと、また、本日まで1年以上という長い期間を要したことは、遺憾である。 一方、本市の要請に基づく立入確認が、米軍立会いのもと本日実現 したことについては一定の評価をしたい。 今回のような事故が二度と起きないよう、米軍においては、基地内の安全対策について万全の対策を講じてもらいたい。 今後とも、市民の安全・安心の確保の観点から、万一、事故や事件 が発生した場合には、速やかに必要な措置がとられるよう、米軍や国 に対して、引き続き強く要請してまいりたい」

■ 神奈川県知事は、11月1日の定例記者会見で、「原因を特定できなかったことは残念だが、従来よりも踏み込んだ再発防止策が打ち出され、自治体に報告があったことは評価したい」と述べた上、「根本の問題は日米地位協定にある。調査は米軍自らが実施し、日本政府や地方自治体など第三者のチェック機能も働かない」と問題点を指摘し、「改めて渉外知事会などを通じて協定の改定や、米軍の事故防止策に自治体の意見が反映される仕組みを設けるよう働きかけていきたい」と語っている。

■ 毎日新聞(地方版)では、11月2日付け「補給廠爆発火災、出火原因特定されず 米軍、市に再発防止策」という見出しで、つぎのように報じている。
 「米軍からの最終的な報告では、原因を不特定としながら推定される可能性として、“保管していた酸素ボンベの一つにガスケットの欠陥かバルブの機能不全があり、漏れた酸素でバルブが振動。発生した火花が倉庫内の可燃物に引火し、火災の熱で付近の酸素ボンベが過熱され、つぎつぎと破裂したと考えられる”」

■ 東京新聞は、11月1日付け「相模補給廠事故、爆発原因は特定できず 米の調査結果報告」という見出しで、つぎのように報じている。
 「爆発した倉庫には、酸素ボンベ約千本が保管されていた。報告書では、推定される原因として、ボンベの一つからバルブなどの不具合で酸素が漏れ出し、ボンベが倒れるなどして火花が発生。蓄積したちりなどの可燃物に引火して燃え広がった可能性が最も高いとした。
 爆発した際、米軍の夜勤担当者が倉庫に何が入っているか把握しておらず、鎮火に協力しようとした市消防局が爆発などを懸念して6時間、放水できなかった。報告書では再発防止策として、保管している物品の管理リストの共有を米軍内で徹底したことなどを挙げた」

< 日米地位協定における反応 >
■ 当該事故に関連して日米地位協定(Japan-U.S. Status of Forces Agreement)が問題視され、国会(衆議院)で議論されている。質問および政府の答弁はつぎのとおりである。
質問の主意(2015年9月18日)
 2015年8月24日、米陸軍相模総合補給廠において爆発火災が発生した。相模原市によれば、倉庫内の保管物の種類が不明であるため、米軍関係者の判断により現場へは接近せず、放水活動を行わずに警戒を実施し、火勢が弱まってから放水を行っている。
 周辺は住宅地であり、多くの住民が不安を感じており、相模原市長も「一歩間違えば大災害になるような事態」と遺憾の意を表明している。
 再発防止には、保管物の危険性について米軍からの情報提供が必要である。また、経緯や原因の情報提供においても、より積極的な姿勢がなければ、周辺住民の不安を払拭することは困難である。しかし、現状では、日米地位協定ゆえに情報を入手しにくいという指摘がある。

質問(Q)および政府の答弁(A)
 Q1 日米地位協定の改定は未だ行われたことがないが、理論上は改定できるのか?
 米軍基地がある14都道県の知事でつくる渉外知事会からも、2015年7月に地位協定改定を求める要望書が提出されている。要望書では、「米軍基地に起因する環境問題、事件・事故等を抜本的に解決するためには、日米地位協定の改定は避けて通れない」とし、国内法適用の拡充を求めている。これら渉外知事会の要望について、取り組む意欲はあるのか?
 A1 日米地位協定の改正に関する規定を有する。しかし、政府は、協定(第25条)に基づいて設置される日米合同委員会を通じた取組みにより、改善を図ってきている。 
 
 Q2. 他国において、日米地位協定に類する協定の改定を行った事例はあるのか?  様々な指摘がありながら、日本において改定を行ってこなかったのはなぜか?
 A2. 質問の「日米地位協定に類する協定」の意味が明らかでないため、回答は困難である。日米地位協定の改正に関する政府の考え方は前項で述べたとおり。

補 足
■ 「WHAインターナショナル社」(WHA International Inc.)は、2015年創業で、酸素や水素などの物質に関連したセフティ・エンジニアリング、安全テスト、安全トレーニングを専門分野として業務を行っている非上場会社である。もともと、この分野の専門家が1987年に設立したもので、本社は米国ニューメキシコ州ラスクルーセスにあり、社員数11~50名以内という会社規模である。
 当該事故の調査を請け負ったのは2015年11月9日~12日の間であり、すでに現場には何もない状態なので、現場調査から始めたのではなく、酸素ボンベの火災リスクに関するコンサルティングだと思われる。

 なお、酸素ボンベの「使用上の注意」について、前回ブログの補足でつぎのように記した。
 「酸素ボンベのバルブは、十分注意しながら静かに開閉しなければならない。これは、酸素ボンベの充填圧力約14.7MPaのガスが調整器内に一気に進入すると、調整器内でガスが圧縮され、断熱圧縮熱によって20℃だっ た調整器内部が約900℃以上に上昇する。この時、調整器内部に塵、アルミニウム粉、油分などが存在すると、発火源・可燃物となり、調整器の爆発・発火につながる恐れがあるためである。実際に、急速にバルブを開けて発火した事例がある。
 この酸素ボンベのバルブ急速開による発火事故は米国でも同様にあり、ASTMなどが注意喚起している。酸素高濃度雰囲気での固体の摩擦による発火実験例はあるようであるが、酸素ボンベのガスケットやバルブに開いた孔からの発火実験例は見い出せなかった」

所 感
■ 今回の調査結果は、「前回(2015年12月)の中間報告と同様の内容で、新たなことは明らかにならず、原因についても確定されず、推定のままとなっている」という意見があるが、文章の修飾語を省いてよく吟味すると、新たな見解がみえる。
 ● 発火源は「何らかの拍子に発生した火花」である。
    前回の見解では、「酸素ボンベから漏れ出す酸素から発火したのが、初期の炎の原因である」として
   いた。「何らかの拍子に」という事象について報告書にはないが、東京新聞によると、「ボンベが倒れ
   るなどして火花が発生」とある。すなわち、 「酸素ボンベ」が直接の発火源ではないという見解に
   変わっている。
 ● 燃焼源は倉庫内にあった「可燃物」である。
    前回の見解では、「初期の炎が原因となって、火災および酸素ボンベの爆発につながった」として
   おり、酸素ボンベが燃焼・爆発源という言い方だった。今回は、「酸素ボンベは発生した火災による
   熱で破裂した」という見解に変わっている。
    「可燃物」については「蓄積さ れていた塵等」という表現であり、明らかにしていない。
   一方、「可燃物 に引火し、燃え広がった」と述べており、相当量の可燃物があった
   ことを示唆している。
 ● 酸素ボンベの倉庫保管が火災・爆発の直接要因になることはない。倉庫内で火災があると、
   酸素ボンベは(爆発ではなく)「破裂」しうる。
    前回の見解では、酸素ボンベを倉庫に保管していると、火災・爆発の可能性があるという言い方
   だった。しかし、今回の見解では、酸素ボンベは「ガスケットの欠陥やバルブの機能不全があって
   酸素が漏れ出すと、バルブを振動させる」ような要因としか見ていない。酸素ボンベは火災による
   熱で破裂するだけという見解に変わっている。

■ 前回ブログの所感で、「確かに酸素ボンベを急速に開けると、圧縮熱によって調整器内が高温になり、発火する可能性があるが、倉庫に保管していた酸素ボンベのガスケットまたはバルブの小さな穴から漏れ出す酸素が発火し、さらに爆発に至るという理屈はあまりにも合理性に欠ける」と指摘したが、今回の報告では酸素ボンベについては常識的な見解になっている。しかし、報告書全体は、酸素ボンベを過剰に危険視した印象にし、倉庫内にあった可燃物の存在を曖昧にしている。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・City.sagamihara.kanagawa.jp, 相模総合補給廠における火災に係る調査報告について,  November  02, 2016
  ・Townnews.co.jp, 補給廠爆発火災 事故原因、特定に至らず 外務省などが市に報告,  November  10,  2016
    ・Mainichi.jp,   補給廠爆発火災 出火原因特定されず 米軍、市に再発防止策,  November  02,  2016   
    ・Tokyo-np.co.jp,   相模補給廠事故 爆発原因は特定されず 米の調査結果報告,  November  01,  2016   
    ・Blog.goo.ne.jp, 相模総合補給廠爆発火災の原因、最終報告でも「推定」のまま,  November  01,  2016
    ・Shugiin.go.jp,  日米地位協定に関する質問主意書,  September 18,  2016



後 記: 貯蔵タンクでない米軍・相模補給基地の事故情報を過去二度取り上げたので、続報として紹介しました。原因調査結果は昨年11月に出ていますが、実は今回の情報は最近になって知ったものです。爆発事故は全国的に大きく報道されましたし、世界中に発信されていますが、今回はローカルニュース扱いです。確かに今回の内容は、本来の「事故調査報告書」というべきものでなく、議会の答弁書風の文書です。よく「言語明瞭なれど、意味不明」と言われますが、今回の文書はその典型で、うそは言っていない、しかし真実も言っていないというべきものでしょう。なぜ、日本の官僚が米軍に代わってこのような文章を作るのでしょうかね。「日米地位協定」と日本語でいえば、条約のひとつのようですが、地位協定って「Status of Forces Agreement」で、端的にいえば“強さの地位付けの同意書” でしょう。今回の文書を作成した人はどのような思いをもって書いていたのだろうと、考えさせられながらブログをまとめました。

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