2016年12月27日火曜日

米国カリフォルニア州の製油所でアスファルトタンクが火災

 今回は、2016年12月16日、米国カリフォルニア州カーン郡ベーカーズフィールドにあるサンホアキン製油所のアスファルトタンクで火災が発生した事例を紹介します。
(写真はBakersfieldnow.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、米国カリフォルニア州カーン郡(Kern County)ベーカーズフィールド(Bakersfield)にあるサンホアキン製油所(San Joaquin Refinery Co., Inc.)である。サンホアキン製油所はナフテン系原油の精製を行い、潤滑油基油やアスファルトなどの特殊製品を製造している。

■ 事故があったのは、製油所のプラント内にあるアスファルトタンクである。タンクの容量などは不詳である。
ベーカーズフィールドのサンホアキン製油所付近 (写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年12月16日(金)午前11時半過ぎ、ベーカーズフィールドのシェル通りにあるサンホアキン製油所のアスファルトタンクで火災が発生した。

■ カーン郡消防署は、午前11時37分にサンホアキン製油所で火災が発生したという通報を受け、出動した。消防隊が現場に近づいたとき、煙と火を伴ったアスファルトタンクが見えた。製油所の従業員による迅速な対応によって、消防隊が到着したときには、火災はほぼ制圧されていた。製油所の消火水モニターノズルが使用されて冷却が行われ、火災が鎮圧された。

■ 事故に伴う負傷者は出なかった。また、火災による環境や健康上の問題も報告されていない。

■ カリフォルニア州ハイウェイ・パトロール隊によって近くの交通規制が行われた。予防措置として道路が閉鎖され、近くにある職場は施設を離れないよう指示された。

被 害
■ アスファルトタンク1基が火災による損傷を受けた。被災額は150,000ドル(約1,700万円)と見積もられている。

■ 事故に伴う死傷者はいなかった。

< 事故の原因 >
■ 事故原因は調査中である。

< 対 応 >
■ 発災に伴い、カーン郡消防署が出動し、消火活動が行われた。消防隊が現場についたときには、火災はほぼ制圧されており、消防隊による消火活動は20分もかからなかった。 
(写真はBakersfieldnow.comから引用)
(写真はBakersfieldnow.comから引用)
(写真はBakersfieldnow.comから引用)
補 足
■ 「カリフォルニア州」は、米国西部の太平洋岸に位置する州で、人口約3,880万人である。州都はサクラメントである。 
 「カーン郡」(Kern County)は、カリフォルニア州の中南部に位置し、人口約84万人の郡である。
 「ベーカーズフィールド」(Bakersfield)は、カーン郡の中央部に位置する郡庁所在地で、人口約25万人の都市である。
 カリフォルニア州ベーカーズフィールドの位置 (写真はグーグルマップから引用)
■ 「サンホアキン製油所」(San Joaquin Refinery Co., Inc.)は、1969年に設立され、現地の油田で出油しているサンホアキン・バレー・ヘビー・ナフテン原油を原料として、特殊用途向けの製品を生産している製油所である。生産製品としては、潤滑油基油やアスファルトのほか、印刷インキ、ゴムおよびプラスチック、接着剤、塗料、電気絶縁、燃料などである。 製油所の従業員は130名で、精製能力24,300バレル/日の常圧蒸留装置、14,300バレル/日の減圧蒸留装置など8つのプラントがある。なお、サンホアキン製油所では、2010年12月に製油所構内でタンクローリーの流出火災が起こっている。
 今回の発災場所をグーグルマップで調べたところ、消防車の止まっていた位置はわかったが、発災タンクを特定するだけの情報がなく、タンクの場所や大きさなどは分からなかった。
事故のあったプラント付近 (矢印は消防車が止まっていた場所)  
 (写真はグーグルマップから引用)
所 感
■ これまでの事例紹介の際に述べてきたように、アスファルトタンクの爆発・火災に関して注意すべき項目はつぎのとおりである。
   ① 水による突沸
   ② 軽質油留分の混入
   ③ 運転温度の上げ過ぎ
   ④ 屋根部裏面の硫化鉄の生成
 今回の事故は、爆発があったような状況ではなく、また火災も大きな火炎が立ち昇ったようでないので、上記以外の要因で発災した可能性があるように思う。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  Kerncounty.org,  San Joaquin Incident,  December 16,  2016   
    Turnfo23.com,  Kern County Firefighters Put out Fire at San Joaquin Refinery,  December 16,  2016
    Kerngoldenempire.com,  Firefighters Knock down Asphalt Container Fire at San Joaquin Refinery,  December 16,  2016
    Bakersfieldnews.com,  Employees at a Local Refinery Help Put out a Fire,  December 17,  2016
    Kuzz.com, Fire at Bako Refinery,  December 16,  2016


後 記: 今回の製油所を調べていて、メジャーといわれていた石油会社が製油所操業から撤退していき、日本国内でも製油所が閉鎖されたりしていく中で、小さくても、特殊製品を生産しているサンホアキン製油所のようなところは生き残っていくということを感じました。山口県でいえば、岩国市にあるユニオン石油工業のような会社(製油所)でしょうかね。ただ、サンホアキン製油所は、現地の油田であるサンホアキン・バレー・ヘビー・ナフテン原油を原料としているという絶対的な優位性があり、この点は米国が原油産出国であることを改めて思い知らされます。 

2016年12月21日水曜日

石油貯蔵タンク施設の消火戦略・戦術

 今回は、2015年、 インターナショナル・ファイヤー・ファイター誌に載った「Petroleum Storage Tank Facilities – Part3 」(石油貯蔵タンク施設 - パート3)の石油貯蔵タンク施設における消火戦略・戦術に関する情報を紹介します。
< 消火戦略・戦術 >
■ 消火活動の戦略と戦術は、事故対応の事前計画を十分に練り、確認の訓練を行うことから始まる。このことについては後で述べる。貯蔵タンク火災は複雑な要素を含んだ事象である。これらの火災に立ち向かうには、事前計画書、準備、人員・資機材の有効な活用、そして広範囲なロジスティクスを必要とする。特にロジスティクス部門は、必要な資機材をタイミングよく現場に持ち込む上で重要な役割を果たす。
 ここで消火活動の戦略と戦術を考える前提として、石油施設の事業者とその自衛消防隊によって事前計画と準備が進められているものとする。経験によると、タンク火災を安全且つ成功裡に消火するには、訓練を含めた関連事項を網羅した事前計画と準備が行われていることが重要である。事前計画を確認するためには、定期的な実戦形式の訓練のほか、机上による想定訓練を実施する。

■ 消防署は事故の通報を受けたら、ただちに関係者へ連絡をとるとともに情報収集を開始すべきである。迅速に情報を集めて、消火戦略の検討を始めなければならない。考慮すべき事項はつぎのとおりである。
 ● 直近エリアにいる人の救出
 ● 施設内にいる人の身の安全と危険性
 ● 事故の拡大
 ● 事故の最小化
 ● 消火方法
 ● 環境への影響
 ● 地域への影響

■ 初動で対応すべき事を片付けた後、目の前に起こっている火災の種類を明確にする必要がある。
 ● ベント火災
 ● シール火災
 ● 配管接続部からの火災
 ● 全面火災
 ● 過充填火災
 ● タンク火災と堤内火災
 ● 複数タンク火災
 ● 放射熱の曝露状況

■ 上記のような情報の内容を確認すれば、資機材のリストと事故対応のアクション・プランを作成し始めることができる。このとき、作成したものが私たちの欲する資機材のニーズや戦術にも影響するということを認識しておく。火災の種類とその消火戦術を以下に述べる。

< 地上流出、堤内火災 >
■ これらの火災の見た形は、シンプルなプールの火災または流出の火災である。まず、面積(長さ×幅)を計算する。そして、米国防火協会のNFPA11「Standard for Low-, Medium-, and High-Expansion Form」(低・中・高発泡泡消火設備の規格)にもとづく泡の放射量を用いる。泡薬剤の製品性状を知ることによって、泡の混合比率と放射量について正しい方法をとることができる。耐アルコール泡薬剤はていねいに扱う必要がある。

図1 ハイドロ-ケムの例
(写真はWilliamsfire.comから引用)
■ 消防士は堤内区域に入るべきでない。ただし、安全であることが確認できており、事故対策本部の了解を得た上で、指揮者の承認をとった場合には、堤内区域に入ることは認められる。堤内区域へ入る前および途中で、空気中のガス検知を実施すべきである。火災に曝露しているまわりのタンク、関連配管、ポンプなどは地上モニターや固定モニターで散水して防護すべきである。最初に地上火災を消火すべきである。それから、ドライケミカル設備を使用してバルブやフランジ部の火災を消火する。このような複合した火災に対して最も有効な機材は“ハイドロ-ケム”(Hydro-Chem)モニターノズルである。 “ハイドロ-ケム”は、ドライケミカルと消火泡を同じノズルで放出することができる。

< リムシール火災 >
■ リムシール火災は、固定泡消火設備または半固定泡消火設備が設置され、メンテナンスが適切に行われていれば、通常、容易に消火することができる。外部式浮き屋根タンクにおいて、固定泡消火設備または半固定泡消火設備が設置されていない場合、人による消火活動に頼る必要がある。この場合、水を噴霧して防護した上で、消防士が消火泡モニターを携行し、タンク頂部のプラットフォームに昇ることになる。

図2 特殊モニターの例
■ よくとられる方法としては、フォーム・ワンド(Foam Wands)と呼ばれる消火用機材が用いられる。フォーム・ワンドは、タンク頂部の縁に取付けることのできる特別なモニターである。図2は特殊モニターの例である。このモニターは、放出される泡の届く範囲のリムシール火災を消火することができる。このため、人がホースを展張して、ラダーから離れてウィンド・ガーターから操作するようなことがない。この消火用機材を用いることができない場合、泡のホースを展張し、ウィンド・ガーターから操作することになる。手すりの付いた構造的に安全なウィンドガーダーでなければ、この操作は危険な作業といわざるをえない。消防士の落下防止策は講じるべきである。図3は手すり付きのウィンドガーダーとフォームチャンバーである。

図3 手すり付きのウィンドガーダー
およびフォームチャンバー
■ 消防車によるタンク側板越えの泡放射の方法がとられる例がある。しかし、これは基本的な消火方法とはいえない。この方法は、泡消火水を過剰に入れることによって屋根の沈下や傾きの要因をつくることになり、全面火災や障害物あり全面火災のような一層大きな問題に進展させる恐れがある。内部浮き屋根の付いたタンクでは、火災が起こるのは稀だと思われるが、実際に起こっている。このタンクでは、固定泡消火設備や半固定消火設備が設置されていなければ、消火することは極めて難しい。最も有効な対策方法はフォームチャンバー(発泡器)とフォームダム(泡せき板)を設けることであるが、消火システムの設計は全面火災を前提にすべきである。特に、浮き屋根のパンがアルミニウム製の場合は全面で火災になる可能性が高い。外部屋根の付いた内部浮き屋根式タンクの消火で最も難しいのは、特殊通気口を通じて消火泡を投入することである。過去の例では、ハイドロ-ケムのモニターノズルを使って効果をあげたことがある。

< 全面火災 >
■ 大きなタンク火災時における緊急事態対応メンバーに求められることは、火災タンクの種類、発災の場所、消火用水の供給、事故の性質、訓練された人の実行能力などいろいろな要素がある。この火災への攻撃としては、タイプⅢの“オーバー・ザ・トップ”(頂部越え)による泡放射の方法をとることが多い。泡消火の流量は、必要な泡放射量と泡薬剤の混合比率によって決められる。また、泡放射量はタンクの大きさによって決められる。直径の大きなタンクほど、大量の泡放射量を必要とする。表1は、業界の専門家に認められたタンク直径にもとづく泡放射量の最低値を示すものである。
表1 必要な泡放射量
■ 必要な泡放射量(泡薬剤を混合した消火水の流量)はつぎのような式で求める。
   ・必要な泡放射量=タンク表面積×面積当たりの泡放射量
   ・タンク表面積=3.14×(タンク半径)2
   ・面積当たりの泡放射量=表1による

■ タンク火災の消火のために必要な泡放射量の総量はつぎのような式で推定する。
   ・必要な泡放射量の総量=必要な泡放射量(L/minまたはgpm)×消火時間
   ・消火時間=タイプⅢの“オーバー・ザ・トップ”(頂部越え)による泡放射の場合は65分
 この総量は消火に必要な量であることに注意すること。消火後の可燃性ガスの発生抑制のためには、消火に要する供給量の2倍の泡放射の量を確保する必要があるといわれている。このようにして、可燃性ガス発生の抑制を保持し、燃料の再引火を防がなければならない。ある場合には、この量が37,854 L/min (10,000 gpm)を超えるようなことがあり、これを供給するためには、大容量の泡放射モニターや大型送水ポンプのような消火用装備を必要とする。

■ 必要な流量や泡混合比率を確認するとともに、つぎのような要因についても把握しておく必要がある。
   ● 屋根排水管の位置と条件
   ● タンク内液の容量
   ● 関連タンクとバルブ類の状態
   ● タンク底部の水の深さ
   ● タンクの構造的条件
   ● タンク内液の性状
   ● タンク内の余裕空間は、投入する泡消火液で溢れ出すことはないか
   ● 放射熱に曝露される可能性のある隣接のタンク、配管類、構造物はどのようなものがあるか
   ● 風向き
   ● 気象状況(現時点および予報) 

■ どのような火災の状況下でも、発災事業所のメンバーが技術的な専門家として私たちの策定する事故対応の計画部署に参画するのがよいと思っている。実際、そのような人が指揮本部で、直接、指揮者に助言しているときもある。タンク火災は私たちの日常生活における活動とは違う。事故は急に且つ予想外の展開になり、時としてひどい結果に至ることもあるという前提で対処しなくてはならない。タンク全面火災は、現場に必要な人員・資機材がすべて揃っていないうちに、消火活動を試みるべきではない。

■ 泡放射できる資機材と人員が現場に配備できる前に行うべき戦術は隣接タンクの冷却である。火災となっているタンクの冷却は、完全に360度から冷却することがかなわなければ、実施することを推奨しない。そして、このように完全に360度から冷却できることは稀である。また、タンクを冷却する際には、必要な水量だけに限定する。冷却水を放水してタンク面から水蒸気が発生しなくなったら、放水を止めてもよい。また必要になった段階で再開すればよい。これは、消火用の供給水を節約するためであり、防油堤内へ流れ出る水の量を減らすためである。タンクへの冷却水量は、一般的に、1,893L/min(500gpm)から3,785L/min(1,000gpm)の間である。

■ 消火に適した泡放射装置と十分な泡薬剤が揃った段階で私たちが確認すべきことは、タンク燃焼面における泡放射の投入点である。消火泡が一旦投入されたら、確実に投入点から燃焼面に広がっていき、全表面を覆っていかなければならない。米国防火協会(NFPA)によれば、消火泡が燃焼液面を効果的に広がっていく距離は少なくとも30m(100ft)とされている。この消火泡の広がりを予測する際、消火泡が燃焼液面を効果的に広がっていく距離は24m(80ft)と少な目にみておくべきと考えている。これは投入点からの広がりを確実な範囲でみておき、複数の投入点から重なり合うようにする。このため、泡放射モニターを操作する消防士は、着水域の長さと幅とともに、主力の泡放射流に達する距離を考慮しておかなければならない。泡モニターの放射到達距離などについては製作者に聞いて確かめ、現場の試験や訓練時に現場で確認することができる。この情報にもとづくことによって、我々は主力の泡放射流の位置決めを事前に計画することができる。距離計を使用すれば、泡モニター操作時にタンクまでの距離を計測でき、泡モニターの位置決めに役立つ。

■ 貯蔵タンク火災時に発生する事象について、消防隊が認識しておくべきことがいくつかある。これらの事象と留意事項について以下で述べる。

< スロップオーバー >
■ この事象は、消火水の投入時に燃焼している熱い油面で起こるもので、油の粘性が高く、油温が水の沸点を超えるときに生じる。猛烈というほどではないが、熱い油面で瞬間的に泡立ち、燃焼している油を伴ってタンクの縁を越えることがある。

< フロスオーバー >
■ フロスオーバーは、比較的安定してゆっくりとした状況で泡立ちながらタンクの縁を越えるような事象で、急に激しく起こることはない。フロスオーバーは、火災になっていないタンクで起こることがある。それは、すでにタンク内に存在していた水分が粘性の高い熱油に接触したようなときに生じる。例えば、熱いアスファルトがタンク車に荷積みされ、タンク内の水分と接触したとき、アスファルト製品が泡立ってタンク頂部から溢れるような事象である。原油の火災時には、燃焼する原油によって形成したヒート・ウェーブが原油の中に存在していた水の層に達したときに生じることがある。ヒート・ウェーブによって水分が水蒸気に変わるときに、フロスオーバーの事象を引き起こすことがある。

< ボイルオーバー >
■ ボイルオーバーは、突然、激しくタンクから原油が放出する事象である。これは油の熱い層とタンク底部に溜まっていた水が反応して起こる。原油の軽質分は燃えていき、燃え残った熱い残渣分の中でヒート・ウェーブが生じる。残渣分であるヒート・ウェーブはタンクの底部へと下降していく。最終的に、このヒート・ウェーブはタンク底部に溜まっている水の層に達する。2つの層が接触すると、水は過熱され、続いて沸騰し、爆発的に膨張するため、タンク内の燃えている油が激しく噴出することになる。噴出して広がっていく熱い油は、タンク直径の10倍に相当する距離にまで及ぶ。事前の事故対応計画の中で、指揮所の設置位置、隊員の待機場所、救急隊の位置、消防資機材の場所などについて慎重な検討を行っておくべきである。

< 事前の事故対応計画 >
■ 石油貯蔵タンク施設における対応を計画する際、集められた情報が現場で適用でき、施設の人たちに役立つものとしておくことが肝要である。一方、現場では、消火用装置のために消防隊が行き来するかもしれないアクセス用道路は、車両が通行できるようにし、事故時に使えるようにしておくべきである。時には、消火用装置の向きを変えるための回転半径が施設内で必要とするものよりも大きいこともある。湿地帯や排水溝が消火用装置の移動の妨げになることもある。消防用装置の車台が非常に長い場合や低い場合、湿地帯や排水溝を通す際に吊り上げたり、敷き板を施すことになるかもしれない。新しい消防用装置が施設内の橋の重量制限に引っかかって、使用することができないこともありうる。

■ 事前の事故対応計画の中に入れておくべき情報としては、つぎのようなものがある。
 ● タンクの種類、大きさ、内容物、容量
 ● 配管の縁切り用バルブの場所と駆動方法
 ● 設置されている固定泡消火設備
 ● 施設への出入口、タンクへのアクセス
 ● 連絡用の電話番号
 ● 緊急停止装置の場所と操作方法
 ● 消火用資機材の保有リスト
 ● 消火用水の供給源
 ● 送水ポンプの能力
 ● 泡薬剤の保有量
 ● 共同支援・相互応援の内容

■ このほかの情報は、あなた方の部署のニーズや要求にもとづいて得るべきである。この資料は消防署の必要とする情報を網羅しているわけでなく、ひとつの起点として始めるべきである。ほかに参考とすべき資料は最後に付記する。消防隊員は、特殊な消火活動、施設の事前計画、事前計画の訓練に参画していくことが重要である。施設においては単にながめているだけに終わらないでほしい。

■ 参考資料
 ① API RP 2021, 「Management of Atmospheric Storage Tank Fires」, 2006
 ② Hildebrand, M. S.,「Storage Tank Emergencies: Guidelines and Procedures」, 1997
 ③ BP Process Safety Series, 「Liquid Hydrocarbon Tank Fires: Prevention and Response」, 2005
 ④ Shelley, C. H.,Industrial Firefighting for Municipal Firefighters, 2007

補 足
■ 「International Fire Fighter」(インターナショナル・ファイヤー・ファイター)は公設消防や産業界の消防士を対象にした消防関連の雑誌である。今回の「Petroleum Storage Tank Facilities」(石油貯蔵タンク施設」は3回にわたって連載されたもので、 第3回(Part3)が消火戦略・消火戦術に関する内容である。

所 感
■ 今回の資料は、これまで紹介してきた次のようなタンク火災の消火戦略に加え、消火戦術について言及されており、興味深い内容である。
 ● 「タンク火災への備え」(2012年9月)

■ 特記すべき事項はつぎのとおりである。
 ● 堤内火災における“ハイドロ-ケム”(Hydro-Chem)モニターの活用
       (泡放射とドライケミカルの併用)
 ● リムシール火災における“フォーム・ワンド” (Foam Wands)の活用
    (消防車によるタンク側板越えの泡放射の方法は基本的な消火方法といえないという見解)
 ● 全面火災における泡薬剤の必要総量
    (消火時間は65分と想定。消火後の可燃性ガスの発生抑制のためには、消火に要する供給量の2倍の泡放射の量を確保)
 ● 隣接タンクの冷却に関する必要性の判断と水量
    (冷却水の最小使用のため、タンク壁面からの水蒸気の有無で判断。水量は1,893~3,785L/minの間)
 ● 消火泡の広がりと投入点の判断
    (消火泡が燃焼液面を効果的に広がっていく距離は30mとするのではなく、24mとみておく)

■ 特に興味深いのは、消火泡の広がりと投入点の判断に言及している点である。この種の戦術について示しているのは、ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社(Williams Fire & Hazard Control)のフットプリント理論ぐらいしかない。(「メキシコで内部浮き屋根式タンクに落雷して火災」の「補足」を参照)
 消火泡が燃焼液面を効果的に広がっていく距離を24mとし、直径100mと80mのタンクにおける消火泡の広がりのイメージは図のようになる。(実際には、着水域で長さと幅をもった楕円状になるとみられる) 日本では、大容量泡放射砲システムの導入が行われたが、このシステムを使った消火戦術は研究されておらず、考えていく必要がある。(例えば、直径100mのタンク全面火災を大容量泡放射砲システムで本当に消火できるのか)
消火泡の広がりのイメージ


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Iffmag.mdmpublishing.com, Petroleum Storage Tank Facilities – Part3 ,  International Fire Fighter,  May  27,  2015 



後 記: 今回の資料は、専門分野のひとを対象にしているためか、シンプルな表現が多々あって、わかりずらいところがありました。おそらく、このようなことを言っているのだろうと理解してかなり補足的な文章を入れました。また、泡放射量の単位は L/min/m2 と gpm/ft2 が併記されていましたが、 L/min/m2 の数値が間違っていましたので、修正しておきました。換算する際に、ガロン→リットルだけで、面積分がされていませんでした。インターナショナルとして併記はされてはいますが、やはり、米国ではSI単位になじみがないのでしょうね。

2016年12月12日月曜日

ニュージランドでアスファルトタンクが爆発、死者1名(2009年)

 今回は、2009年9月4日、ニュージーランドのグレイマウスにあるフルトンホーガン社の建設・道路工事用アスファルトプラントで、アスファルトタンクが爆発し、1名の死者を出した事例を紹介します。
(写真はStuff.co.nzから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、ニュージーランド(New Zealand)のグレイマウス(Graymouse)郊外にあるフルトンホーガン社(Fulton Hogan)のアスファルトプラントである。

■ 発災のあったのは、グレイマウス郊外のメイン・サウス通り沿いにある建設・道路工事用アスファルトプラントの容量18KLのアスファルトタンクである。当時、タンクには、15KLのアスファルトが入っていた。
           グレイマウスのフルトンホーガン社付近   (写真はGoogle Mapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2009年9月4日(金)午前9時40分頃、フルトンホーガン社のアスファルトプラントでアスファルトタンクが爆発した。爆発の衝撃は半径2kmのところで揺れを感じるほどだった。爆発によってタンク屋根が噴き飛び、数百mのところに落下した。

■ 住民のひとりは、爆発の衝撃で家全体が揺れたと言い、「大きな音がして、壁の額が落ちました。窓の外を見ると、金属のかけらが飛んでいるのが見えました」と語った。また、別の住民は、最初に黒煙がタンクから立ち昇り、タンクの破片が空中に舞い上がったのち、600m離れたグレイ・ブロス・エンジニアリング社の敷地に駐車していた車に破片の一部が当たったといい、まるで戦場のようだったと話した。

■ 発災に伴い、ボランティア型のグレイマウス消防署の消防隊が出動した。

■ 事故に伴い、死者1名が発生した。死亡したのは、タンクの上で作業していたサブコントラクターのキーラン・ジョン・ハドソンさん(21才)である。 ハドソンさんは、アスファルトタンクの上で手すりの溶接作業していたときに爆発が起こり、即死の状態だった。亡くなったハドソンさんの遺体はタンクから約30m離れたところで発見された。 

■ 亡くなったハドソンさんのほかに死傷者はいなかったが、近くの建物の多くで窓ガラスが割れる被害があった。 事故のニュースはたちまち町に広がり、住民が現場近くに集まり、工場地域で働く人の安全が保たれるのか不安そうに様子をみていた。 
■ フルトンホーガン社によると、容量18KLのタンクの上で手摺り(ガードレール)を溶接していたときに、突然爆発が起きたといっている。 

■ 労災による死亡事故を受けてニュージーランド労働省が原因の調査を始めた。 

被 害
■ 爆発によって1名の死者が出た。
 
■ アスファルトプラント内のアスファルトタンク1基が爆発によって損壊した。

■ 施設構外の建物の多くで窓ガラスが割れる被害などがあった。被害の範囲や程度は不詳である。 

< 事故の原因 >
■ タンク内には、カットバック・アスファルト、すなわち揮発性の石油と混合したアスファルトが入っていた。カットバック・アスファルトは温度165℃で加熱されており、タンク内には可燃性フュームが形成されていた。このため、タンク上での溶接作業によって可燃性フュームに引火して爆発したものである。
 注;カットバック・アスファルトには、ガソリンやケロシン(灯油)のような揮発性の高い石油を混合し、低温用途(タップコート、フォグシール、スラリーシールなど)や浸透式工法に用いられる。

■ アスファルトプラントの事業者は、カットバック・アスファルトの入ったタンク屋根部における危険性を認識していたが、溶接作業を止める措置をとらなかった。 

< 対 応 >
■ 出動した消防隊は、その日、現場に待機することになった。壊れたタンクがまだ安全な状態とはいえなかったし、2mほど隣には別なアスファルトタンクがあったためである。グレイマウス消防署の3台、隣町のコブデン消防署の1台、合計4台の消防車が待機した。

■ 2010年9月、フルトンホーガン社は、労働安全衛生法の法令違反によって80,000ドルの罰金とともに、請負会社の従業員への安全確保の義務違反で100,000ドルの罰金が科せられた。

補 足
■ 「ニュージーランド」 (New Zealand)は、南西太平洋のオセアニアのポリネシアに位置し、立憲君主制国家で、イギリス連邦加盟国である。国は二つの主要な島と、多くの小さな島々からなり、人口約440万人である。
 「グレイマウス」 (Graymouse)は、ニュージーランドのサウス島(南島)のウェストコート地方にあり、グレイ川の河口に位置する町で、人口約10,000人である。
     ニュージーランドのグレイマウス(Graymouth)の位置   (写真はGoogle Mapから引用)
■ フルトンホーガン社(Fulton Hogan)は、ニュージーランドやオーストラリアにおいて主として建設・道路工事を営んでいる会社である。 グレイマウスには、ウェスト・コースト事業所があり、建設・道路工事用のアスファルトプラントを保有している。事故後、発災タンクは撤去され、アスファルトタンクは1基のみになっている。
 注; 現地の報道では、事故の起こったタンクをビチューメンタンク(Bitumen Tank)という用語を使っている。北米以外では、石油精製の残渣留分からの製品はアスファルトと称さず、ビチューメンと呼んでおり、特に、オーストラリア英語圏では、道路表面に使用されるアスファルトは一般的にビチューメンという用語を使用しているが、ここでは日本の慣用に合わせ、アスファルトタンクと訳した。
        グレイマウスのフルトンホーガン社付近 (現在)  (写真はGoogle Mapから引用)
所 感
■ 一般に、石油精製プラントのおけるアスファルトタンクの爆発事故は軽質分を誤ってアスファルトへ混入させたものが多い。今回は建設・道路工事用のアスファルトタンクであるが、同様に揮発性の高い石油を混合したカットバック・アスファルトのタンクの危険性について無視したために起った事例である。建設・道路工事用プラントのアスファルトタンクといっても、危険性の高い油種がありうるわけで、火気工事開始時の環境条件を確認しなければならないということを示す事例である。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
     ・TheGreymouthstar.co.nz, Man Dead in Explosion, September 04.  2009  
   ・3News.co.nz, Storage Tank Explodes, Killing a Young Man,  September  04,  2009  
   ・Otagodailytimes.co.nz, Man Killed in Greymouth  Explosion,  September  04 ,  2009
     ・Odt.co.nz, Man Killed in Greymouth Explosion Named, September 11.  2009
     ・Stuff.co.nz, Fatal Bitumen Tank  Explosion on West Coast, September 04.  2009
     ・TheGreymouthstar.co.nz, Man Dead in Explosion, September 04.  2009
     ・Voxy.co.nz, Flammable Fumes and Welding Do Not Mix, September 03.  2010


後 記: 今回の事故情報は2009年当時に入手した情報をもとにしたものですが、新たにインターネット検索してみると、日本と違って2009年の報道記事も検索できるものが多くありましたし、肝心な原因に関する情報が出てきたので、事故情報として完結させることができました。この情報の取扱いに関する違いというのは、日本の国民性(熱しやすく、冷めやすい)ですかね、あるいは情報に関する価値観の違いでしょうかね。


2016年12月7日水曜日

米国テキサス州の油井施設で塩水タンクが爆発・火災

 今回は、2016年11月22日、米国テキサス州デウィット郡ノルドハイムにあるベイシック・エナージー・サービス社の油井施設で、塩水タンクが爆発・火災を起こした事故を紹介します。
(写真はBizjournals.com から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国テキサス州(Texas)デウィット郡(Dewitt)ノルドハイム(Nordheim)にあるベイシック・エナージー・サービス社(Basic Energy Services)の油井の関連施設である。

■ 施設は、ノルドハイム東方の国道72号線沿いでティーメ道路の近くにある。発災のあったのは、油井施設の塩水処理設備の塩水タンクである。
デウィット郡ノルドハイム周辺 (矢印が発災施設)
    (写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
(写真はBizjournals.com から引用)
■ 2016年11月22日(火)午後4時過ぎ、ノルドハイムにあるベイシック・エナージー・サービス社の油井施設で爆発があり、火災となった。爆発時にはファイアーボールが発生したという。近くの住民によると、火災によって立ち昇る黒煙は数マイル先からも見えたという。

■ 発災に伴い、ノルドハイム消防署が出動したたほか、ヨークタウン消防署とクエロ消防署が支援で出動した。また、火災から出る黒煙によって国道72号線のヨークタウンとノルドハイム間の約半マイル(800m)が通行止めになった。

■ 火災があったのは施設の塩水タンクで内部に油または油の残渣分が含まれ、これが火災の燃料源になったものとみられる。消防隊は、タンクが難燃性でできていると判断し、内部の燃料源を燃え尽きさせることとした。火災はその後鎮火した。

■ 事故に伴う負傷者の発生は報告されていない。

被 害
■ 爆発・火災によって油井関連施設内の塩水タンクが焼損した。被害の範囲や程度は明らかでない。

■ 事故に伴う負傷者は無かった。

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は当局によって調査中である。

< 対 応 >
■ テキサス州鉄道委員会は火災発生の報告を受け、調査に乗り出すという。

補 足
■ 「テキサス州」は米国南部にあり、メキシコと国境を接している州で、人口は約2,700万人である。      
 「デウィット郡」(Dewitt County)は、米国テキサス州南部にあり、人口は約20,000人である。
 「ノルドハイム」(Nordheim)は、デウィット郡の西にあり、人口約300人の町である。  

■ 「ベイシック・エナージー・サービス社」 (Basic Energy Services)はテキサス州フォートワースに本社を置き、原油・天然ガス掘削を行う石油会社であるが、先月(10月25日)、デラウェアでアメリカ合衆国連邦倒産法第11章による破産手続きの申請を出していると報じられている。株価はそれ以前から大幅に落ち込んでいるが、株取引は継続されている。同社のウェブサイトにも、破産手続きの申請の情報が公開されており、財務再建策が講じられているという。

■ 「発災タンク」は難燃性とあるので、鋼製でなく、グラスファイバー製の円筒タンクとみられる。しかし、タンクを含めた施設の詳細はわかっていない。グーグルマップで調べてみると、国道72号線沿いでティーメ道路の近くにある油井施設が該当すると思われる。この施設には、直径約4.6m×9基と直径約3.6m×2基の円筒タンクがある。原油掘削に付帯する塩水タンクは、一般に、グラスファイバー製が多く、直径約4.6mのタンクはグラスファイバー製のように見える。油分を取扱う場合、鋼製が使用され、直径約3.6mで黒色の円筒タンクが鋼製と思われる。従って、発災があったのは、直径約4.6mの円筒タンクではないかと思われる。発災状況の写真では、火災は延焼しているように見える。 

ノルドハイム東方にあるベイシック・エナージー・サービス社の油井施設
    (写真はグーグルマップから引用)
所 感
■ 最近では、水圧破砕法による油井の生産が増えたため、グラスファイバー製の油混じり塩水タンクの火災の起こる事例が多くなっていた。特に、2013年2月~2015年5月にかけて油井関連施設における火災事故が多く、このブログでも、この間で20件の火災事故を紹介している。しかし、2015年6月以降、事故件数が減り、わずか1件(2016年3月)だった。
 この状況について、この間の原油価格の推移と照らし合わせると、相関があるようにみえる。すなわち、原油価格が下がれば、原油(天然ガス)の生産が減って、既設油井の稼働が落ちたり、新規油井の開発が減り、結果として危険なタンク(油混じりの塩水タンクや原油の貯蔵タンク)が少なくなって、タンク火災の発生率が減少するという推論である。

■ 油混じり塩水タンクの爆発・火災の原因は圧倒的に落雷のよるものが多い。今回の事故は、落雷が関与したような状況でない珍しい事例である。このためか、デウィット郡当局のほか、原油生産やパイプライン管理に関係するテキサス州鉄道委員会が火災の原因調査に乗り出すものと思われる。
原油価格の推移 (価格図はEcodb.netから引用)

備  考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
  ・Isssource.com, TX Saltwater Tank Fire Closes Roads,  November 21,  2016 
  ・Bizjarnals.com,  Explosion, Fire Reported at Saltwater Tank near Nordheim,  November 21,  2016
  ・Hazmatnation.com,  Firefighters Battle Saltwater Tank Fire East of Nordheim,  November 21,  2016  


後 記: 2週間ほどタンク事故情報を調査できませんでした。従って、この間に何件かの事故情報があると思っていましたが、今回の事例の1件だけでした。このところ貯蔵タンク事故(の情報)が少なくなっており、この傾向は続いています。一方、発災事業所のベイシック・エナージー・サービス社が破産手続きの申請を出しており、原油・天然ガスの生産事業者の経営が厳しくなっているという状況も分かりました。このような情報から、油井施設のタンク火災事故と原油価格の推移を調べてみることとしました。