2016年8月24日水曜日

米国テキサス州の原油貯蔵施設で工事中にフラッシュ・ファイヤー、7名負傷

 今回は、2016年8月12日、テキサス州ジェファーソン郡にあるサノコ・ロジスティクス社ネダーランド・ターミナルにおいて配管工事中にフラッシュ・ファイヤーが発生し、7名が負傷した事例を紹介します。
   サノコ・ロジスティクス社ネダーランド・ターミナル  写真Slideshare.netから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国テキサス州(Texas)ジェファーソン郡(Jefferson)にあるサノコ・ロジスティクス社(Sanoco Logistics)の石油貯蔵施設である。

■ サノコ・ロジスティクス社はジェファーソン郡ネダーランド(Nederland)に原油、天然ガス、石油製品の貯蔵タンク130基を有しており、貯蔵能力は24百万バレル(382万KL)である。当該石油貯蔵施設は石油パイプライン網と接続している。発災があったのは原油用貯蔵タンク地区で、新しいタンクにパイプラインをつなぐ計画のため、当時、配管の工事中だった。
            ジェファーソン郡ネダーランド周辺   写真Google Mapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年8月12日(金)午後9時頃、サノコ・ロジスティクス社ネダーランド・ターミナルにおいて配管工事中にフラッシュ・ファイヤーが発生した。フラッシュ・ファイヤーは、作業員が配管のフランジを接続するための溶接を始めたときに起ったという。

■ 発災に伴い、ネダーランド警察とアカディアン救急が現場に出動したほか、ジェファーソン郡保安官事務所が対応した。

■ この発災によって7名の負傷者が出た。このうち4名は救急車によって病院へ搬送され、3名は救急ヘリコプターでヒューストンなどの火傷治療センターへ搬送された。死者は出ていない。負傷した人たちは、サノコ・ロジスティクス社の工事請負会社エル-コン社(L-Con, inc.)の従業員だった。

■ サノコ・ロジスティクス社の広報は、今回の事故が操業に大きな影響を及ぼすことはないと語っている。

■ 8月15日(月)、被災者である溶接士がサノコ・ロジスティクス社と特殊施工管理専門会社のカーバー社(Carber Inc.)を過失責任で告訴した。
 訴状によると、発災時の状況はつぎのとおりである。
  ● 施設内の配管で2枚のフランジの溶接作業を行っていた。
  ● 原油配管は清掃され、きれいな状態で、作業を行える準備は終えていたとサノコ社は話していた。
  ● 作業員たちは地上から10フィート(3m)以上の足場上で作業するよう指示されていた。
  ● 作業員が工事を始めたとき、配管内の圧力が上がり始めていた。
  ● カーバー社によって設計・取付けられた口径30インチのプラグによる密封に失敗し、配管内から噴き出し、溶接士の胸と肩の付近を襲った。このとき、配管内の原油に引火し、フラッシュ・ファイヤーに至った。
  ● 溶接士は溶接マスクを飛ばされ、顔と上体を炎に覆われた。溶接士は衣服を脱ぎ捨て、足場から飛び降りた。
            出動した救急車などの緊急対応部隊   写真Metro.us から引用)
被 害
■ フラッシュ・ファイヤー(爆発)によって7名の負傷者が出た。うち、4名は重度の火傷である。

■ フラッシュ・ファイヤーによる設備の被災状況は不詳である。

事故の原因 >
■ 米国安全衛生労働局(OSHA)および米国化学物質安全性委員会(CSB)が原因調査中である。

■ 訴状の事故状況からつぎのように推測できる。
 ● 原油配管のホットタップ工法で取付けたプラグの密封機能が喪失し、配管内の原油の軽質ガスが噴出した。この軽質ガスに溶接工事の火花で引火し、爆発的な燃焼であるフラッシュ・ファイヤーが起ったものと思われる。
 ● 原油配管は上流側のバルブを閉止し、内部の液抜きをしたが、閉止機能が完全ではなく、徐々に漏れ出ていたと思われる。

< 対 応 >
■ サノコ・ロジスティクス社は、8月12日(金)、同社ネダーランド・ターミナルで建設工事中に火災があったという声明を出した。この中では、7名の負傷者が出て、病院へ搬送されたことなどが述べられている。

■ ジェファーソン郡保安官事務所は、フェイスブックなどを使って、近隣住民には危険のないことを伝えた。

■ 米国安全衛生労働局(OSHA)および米国化学物質安全性委員会(CSB)が事故の原因調査に乗り出した。米国化学物質安全性委員会(CSB)は、火気作業に関わる危険性について安全資料や安全ビデオなどで事故防止の啓蒙を図ってきた。(「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」を参照)

■ 被害者の弁護人は、8月16日(火)、「今回の事故はたまたま起ったものではありません。この法律事務所では、毎年、50件ほど今回のような事故を取り扱っています」と語っている。さらに、「製油所や石油施設では、炭化水素が塔槽や配管から放出しないようにすることが原則です。炭化水素が放出すると、爆発する機会が大きくなります。今回の事故は、バルブが故障したか、あるいは適切に設置されていなかったことが、炭化水素を漏れ出させたものとみています」と語った。

補 足
■ 「フラッシュ・ファイヤー」(Flash Fire)は、可燃性ガス、可燃性または爆発性液体あるいは可燃性粉体と空気の混合気が着火して突然、激しい火災を起こすことをいう。高温、短時間、急速な火炎前面が特徴である。一般には「爆発」(Explosion)という用語で表現するが、消防など専門分野では区別している。今回の報道でも「爆発」という表現を使っているところもあるが、ここでは「フラッシュ・ファイヤー」という用語を使用した。フラッシュ・ファイヤーの事例としては、「米国ニューハンプシャー州の地下タンクでフラッシュ・ファイヤー、2名負傷」20139月)を参照。 

■ 「テキサス州」は米国南部にあり、メキシコと国境を接している州で、人口は約2,700万人である。
 「ジェファーソン郡(Jefferson)は、テキサス州東部に位置し、人口約25万人の郡である。ボーモントがジェファーソン郡の郡都である。
 「ネダーランド」(Nederland)は、ジェファーソン郡の東中部に位置し、人口約17,500人の町である。 
        テキサス州ジェファーソン郡周辺   写真Google Mapから引用)
■ 「サノコ・ロジスティクス社」 (Sanoco Logistics)は、原油、天然ガス、石油製品の物流業務を行い、米国の東北部、中西部、メキシコ湾岸を中心に13,700kmの石油パイプラインを有し、763万KLの貯蔵能力を有する石油企業である。テキサス州ネダーランドの石油貯蔵施設(382万KL)は国内最大級の原油貯蔵基地である。製油所を有する石油会社のサノコ社の関連企業であったが、現在は、天然ガスの物流会社であるエネルギー・トランスファー社(Energy Transfer)の系列会社である。
           サノコロジスティクス社の石油施設   (図はSunocologistics.comから引用)
      サノコ・ロジスティクス社ネダーランド・ターミナル  写真GoogloMapから引用)
■ 「エル-コン社」(L-Con, inc.)は、テキサス州ヒューストンに本社を置き、石油精製、石油化学、電力、重工業、石油ターミナルなどの建設関連事業を行っている企業である。同社は鉄鋼会社のレキシコン社(Lexicon Inc.)の系列会社である。エル-コン社は、2012年6月、「米国テキサス州のタンク施設で工事中の爆発、死傷者2名」の事故で被災者を出している。

■ 「カーバー社」(Carber Inc.)は、1996年に設立し、テキサス州ヒューストンに本拠地を置く特殊施工管理を行う専門会社である。同社の専門は溶接試験、ボルト締付管理などで、そのうちのひとつにホットタップ工法がある。同社の工法は、浮き屋根式タンク屋根沈下時の緊急油抜き対応で側板に開口部を設ける際に活用されたり、供用中の配管に穿孔するためのホットタッピング・マシンとはタイプが異なる。(「メキシコで原油パイプラインからの油窃盗失敗で流出事故」の補足を参照)
 カーバー社のホットタップ工法は、パイプラインの油抜きをした後、専用のパイプカッターで配管を冷間切断し、パイプラインにフランジを溶接する際には、特殊なプラグを配管内にセットして工事箇所を孤立化する方法である。概要は下図に示すが、詳細はYouTube 「Cold Cut, Isolation and Weld Test for tie-in or tie point」を参照。
               カーバー社のホットタップ工法  (図はYouTube.comの動画から引用)
所 感
■ 石油パイプライン網を張り巡らしている米国ならではの独創的アイデアのホットタップ工法が使用されたと思われる。特殊プラグ部はよく考えられた構造で多重シールになっている。この密封機能がなぜ喪失したのだろうか。その要因を考えると、つぎのようなことが挙げられよう。
  ● 口径30インチ(外径762mm)の原油配管であり、真円でなく、シール部に大きな隙間ができた。
  ● 配管の液抜き・内面清掃の作業に予定より時間を費やした。
  ● 圧力液による封入が完全にできなかった。
  ● 工事時間に余裕がなく、 密封が完全でないまま、見切り発車で溶接を始めた。
 今回の事故は、米国化学物質安全性委員会(CSB)がまとめた安全資料「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」とは異なった事例である。米国安全衛生労働局(OSHA)と米国化学物質安全性委員会(CSB)が原因調査に乗り出しているので、明確な結論が出され、公表されることが期待される。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・Foxnews.com, 7 Injured in Flash Fire at Texas Refinery,  August 12,  2016 
  ・KHOU.com,  Seven Injured Following Flash Fire at Sunoco Logistics,  August 13,  2016
  ・Edition.cnn.com, Seven Injured in Explosion at Texas Oil Plant,  August 13,  2016  
  ・CDAnews.com, Seven Injured in Flash Fire at Sunoco Logistics Crude Oil Terminal,  August 13,  2016
    ・Reuters.com,  Sunoco Logistics Sees No Impact to Texas Terminal Ops,  August 13,  2016
    ・Fox4beaumont.com,  Seven People Injured in Explosion and Flash Fire at Sunoco Plant outside Nederland,  August 13,  2016
    ・Reuters.com,  Sunoco Logistics Texas Terminal Operations near Normal after Fire,  August 14,  2016
    ・Hydrocarbonprocessing.com,  Seven Injured in Fire at Texas Crude Oil Terminal, Operations near Normal,  August 15,  2016
    ・Firedirect.net,  CSB Deploying to Refinery Terminal Incident that Injured Seven Workers in Texas,  August 16,  2016
    ・Chron.com,  Injured Worker in Sunoco Explosion Files Lawsuit,  August 16,  2016
    ・Houstonchronicle.com,  Worker Injured in Sunoco Explosion Files Lawsuit,  August 16,  2016
    ・Tankstoragemag.com,  Seven Injured in Fire at Sunoco Logistics Oil Terminal,  August 17,  2016



後 記: 今回は事故の画像がなく、事故の状況が当初はっきり掴めませんでした。フラッシュファイヤーというので、最初は貯蔵タンクの事故だと思いましたが、調べていくと、パイプライン(配管)だと分かりました。つぎに疑問に思ったのが、発災時刻です。午後9時は溶接工事を行うような時間ではありません。夜に緊急自動車が出動していますので、夕方以降に違いないのですが、サノコ・ロジスティクス社が声明を出した時間と重なり、発災時刻に疑問を持ちました。しかし、特殊なホットタップ工事に手間取ったこともありうるので、発災は午後9時頃にしました。しかし、一番手こずったのが、「30インチのプラグ」です。文章だけではイメージがつかめません。はっきりしたのは、「カーバー社」と「ホットタップ」で検索すると、カーバー社が特殊なホットタップ工法を有しており、PR用動画をYouTubeに投稿していたので、訴状の内容が理解できました。このため、報道では出てこなかったホットタップ工事という言葉を使いました。
 

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