2016年5月11日水曜日

サモアの石油貯蔵施設で石油タンクが爆発して死者1名

 今回は、2016年4月4日、南太平洋のサモアの首都アピアにあるサモア政府所有の石油貯蔵施設においてタンク1基で爆発があり、死者1名を含む負傷者の出た事故を紹介します。
 写真Radionz.co.nz から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、南太平洋のサモア(Samoa)の首都アピア(Apia)のマタウトゥ埠頭にあるサモア政府所有の石油貯蔵施設である。石油貯蔵施設の操業管理はペトロリアム・プロダクツ・サプライズ社(Petroleum Products Supplies: PPS)が請け負っている。

■ 発災のあったタンクは、2015年に建設された貯蔵容量2,000KLのコーンルーフ式タンク3基のうちの1基である。タンクの建設はパシフィック・エンジニアリング・プロジェクツ社によって行われた。
             発災前のアピア湾付近(矢印が発災場所)   (写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年4月4日(金)午前10時頃、アピアのマタウトゥ埠頭石油貯蔵施設のタンク1基で爆発があり、その後、火災となった。タンクから空に向けて大きな黒煙が立ち昇った。

■ 隣接する2基のタンクへの延焼の懸念から、発災場所の近くにある会社・学校や居住区にいた人たちが避難した。この地区には、レストランやクラブ、4つの居住区のほか船舶や税関関係の事務所があり、日頃から人の多いところで、避難した人の数は千人を超えるとみられている。

■ 現場では、爆発によってペトロリアム・プロダクツ・サプライズ社の従業員1名(31歳)の死亡が確認された。別な1名が病院で手当を受けたが、その後退院している。死亡したのはメンテナンス作業を行っていた作業員の一人で、タンク上で手摺りの溶接を実施していたときに爆発があり、タンクから落下して亡くなったものとみられる。

■ タンク屋根は爆発時に側板から外れるよう意図的に溶接部を弱くしているが、今回の爆発では設計どおりタンク屋根が噴き飛び、地上へ落下した。

■ 発災のあったタンク内には、当時、約1,000トンのディーゼル燃料油が入っていた。(タンクの1/3だったという情報もある)

■ 発災に伴い、アピア消防署が出動してタンク冷却などの消防活動を行った。その後、特殊泡薬剤を有した消防車によって消火活動が行われた。サモア災害対応管理局は、火災は4日(金)午後3時15分に鎮火したと発表した。

■ 消防活動などの対応を行っているときに、消防士を含めて数人が煙吸入によって病院で治療を受けた。 

被 害
■ 貯蔵施設の燃料油タンク1基が火災によって被災した。このほかの被災した範囲や程度は分かっていない。タンク内の燃料油が5時間にわたって焼失した。

■ 爆発時にタンクで作業していた1名が死亡、1名が軽傷を負った。このほか、消防活動などの対応時に数人が煙吸引で治療を受けた。また、千人以上の地域住民が一時避難した。
                  ドローンによる映像  (写真はYouTubeの動画から引用)
 ドローンによる映像  (写真はYouTubeの動画から引用)
            ドローンによる映像  (写真はYouTubeの動画から引用)
< 事故の原因 >
■ 原因調査中であるが、溶接作業の火花がタンク内の可燃性ガスに引火したものとみられている。

■ 5月2日(月)、原因調査について、つぎのように報じられている。
 ● サモア消防・緊急対応庁による調査は終了し、サモア災害対応管理局が最終報告の手続きに入っている。(現時点で報告書の内容は発表できない)
 ● 発災タンクはディーゼル燃料用だった。
 ● タンク内液がディーゼル燃料だけだったら、爆発に至ることはなかった。
 ● タンク内はディーゼル燃料とガソリンの混合油だった。
 ● ディーゼル燃料とガソリンの混合油は溶接の火花で爆発する可能性がある。
 ● 溶接作業は3基のタンクで行われていた。最初の2基では何も起こらなかったが、3基目のタンクで爆発が起った。
 ● 最終報告書の内容を確認し、必要ならば、ディーゼル燃料とガソリンの混合油がどのような経緯で生じたか評価する。(当該貯蔵施設で生じたのか、フィジーから持ち込まれたものか)

< 対 応 >
■ 発災に伴い、アピア市の警察と消防署が現場へ出動した。警察は発災場所近くの道路を封鎖した。消防隊はほかのタンク2基への延焼防止に努めた。

■ 火災拡大を懸念して、隣接する2基のタンクから燃料を移送させようという試みがとられた。

■ アピア消防署はタンク冷却などの消防活動を行うとともに、アピアから約40kmの距離にあるファレオロ国際空港の消防隊の保有する特殊泡薬剤を放射できる大型化学消防車の出動を要請し、火災の消火活動が行われた。発災から約5時間後の午後3時15分に火災は鎮火した。

■ アピア消防署の消防車の放水はタンク高さまで届かなかったのが実情であった。このため、消防隊はタンクの冷却に変更せざるを得なかった。また、消火のための泡薬剤も不足していた。
■ アピア市内のソギにある石油貯蔵施設はタンク爆発の一報を受け、念のため運転を停止したが、その後、運転を再開して通常の操業に戻った。

■ サモア政府のトゥイラエパ・ルペソリアイ・サイレレ・マリエレガオイ首相(Tuilaepa Lupesoliai Sailele Malielegaoi)は、豪州、ニュージーランド、米国に対して、このような事故が再発しないようにするための支援を要請した。
                タンク下に落下したタンク屋根  (写真はSamoaobserver.wsから引用)
               初期の消防活動 (写真は左:Samoaobserver.ws,  右:Spasifikmag.comから引用)
(写真はSamoaobserver.wsから引用)
補 足
■ 「サモア」(Samoa)は、正式にはサモア独立国といい、南太平洋にある島国で、イギリス連邦加盟国である。人口約19万人で、首都はアピアである。サモア諸島は、西経171度線を境として西側に位置するのがサモア独立国で、東側に位置するのがアメリカ領東サモアである。「アピア」(Apia)は、ウポル島北部にあり、人口約36,000人である。
 サモアは、経済的に生産されるものの80%以上が自給用である。農業と沿岸漁業中心で、タロイモなどを生産している。一方、ニュージーランドや米国(ハワイ、カリフォルニア)に国内人口を上回るサモア人が居住しており、この人たちからの送金が経常収支の赤字を埋めているといわれている。
          サモア独立国  (図Island.geocities.j pから引用)
■ 「ペトロリアム・プロダクツ・サプライズ社」(Petroleum Products Supplies: PPS)は、2002年に設立された会社で、2003年にサモア政府所有の石油貯蔵施設の操業管理の契約を入札で取得し、その後、再契約で業務を継続している。業務内容は石油貯蔵施設の運転のほか、石油製品の供給、設備(タンク、ポンプ)のメンテナンスを行っている。従って、亡くなった溶接士もペトロリアム・プロダクツ・サプライズ社の従業員である。

■ 「発災タンク」は容量2,000KLであるが、グーグルマップによると、直径は約14mなので、高さは約13mとなる。なお、タンクを建設したパシフィック・エンジニアリング・プロジェクツ社のウェブサイトには、建設時のタンク写真が掲載されており、タンク上部は写真のとおりである。タンク周囲の手摺りは設けられている。
建設時のタンク上部  (写真Pacificprojects.co.nzから引用)

所 感
■ タンク内液がディーゼル燃料にガソリンを混合され、気相部に爆発性混合気の形成されていた状態で、火気工事を行ったという過去に多くの類似例のある事故だといえよう。おそらく、ガソリンスタンドのタンク清掃などから出る廃棄ガソリンを利用したものと思われる。漁業の盛んなサモアであり、舶用のディーゼル機関には使用に支障ないと考えたのだろう。また、比較的新しいタンクにおいて、早くもタンク上で溶接作業を行うという要因が重なっている。
 2016年3月に起った「アフリカのガボンで石油タンクが爆発して死傷者7名」の事故と同様、米国でまとめられた「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」がまたしても活かされない事故が起きたと感じる事例である。7つの教訓の項目はつぎのとおりである。(詳細は同ブログを参照)
   ①火気作業の代替方法の採用  ⑤着工許可の発行
   ②危険度の分析        ⑥徹底した訓練
   ③作業環境のモニタリング    ⑦請負者への監督
   ④作業エリアのテスト

■ サモアでタンク火災の消火活動は初めてであっただろう。発災写真を見ると、タンク火災に対する初期の消防活動は手の打ちようのない状況である。サモアでは、今回の事例がタンク火災のための消火資機材を整備するきっかけになったようだ。
 一方、最新のドローンによる発災現場の映像が撮られている。タンク火災の状況把握に極めて有効だということが分かる。しかし、撮影者がタンク火災の怖さを認識していないので、タンクの真上を飛んでいる。ドローンが墜落して2次災害の可能性があった。日本でも、このような危険飛行への対策をとる必要があろう。(罰則規定だけでなく、このような事故があれば、実際の現場に飛んでくるドローンへの対策) 
 (ドローンによる映像はYouTube:「OilTank on Fire on Apia Wharf」を参照)

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
  ・Samoanews.com, AIP Fuel Tank Fire,  April  04,  2016 
  ・Radionz.co.nz,  Explosion at Samoa Fuel Tank Kills One,  April  04,  2016
  ・Stuff.co.nz, Fuel Tank Explodes in Apia, Samoa,  April  04,  2016  
  ・Abc.net.au,  Samoa Fuel Tanker Blaze at Matautu Wharf in Apia Claims One Life, Local Media Reports,  April  05,  2016
    ・M.nzherald.co.nz,  One Dead after Fuel Tank Fire in Apia,  April  05,  2016
    ・Spasifikmag.co,  An Investigation to Determine The Cause of An Explosion, Which Clamed The Life of a Maintenaunce Worker, at Apia in Samoa Has Begun,  April  05,  2016
    ・Talmua.com,  Fuel Tank Fire Exposes Urgent Needs for The Fire & Emergency Services,  April  06,  2016
    ・Radionnz.co.nz,  Overseas Experts Lead Inquiry into Fatal Samoa Tank FireApril  07,  2016
  ・Firedirect.net,  Samoa – One Dead after Fuel Tank Fire,  April  21,  2016
    ・Sobserver.ws,  Tank Fire Report Completed, F.E.S.A.,  May  02,  2016


後 記: 今回の事例を知ったのは4月の二十日過ぎで、発災から2週間近く経っていました。この頃、シンガポールや中国でタンク火災事故があり、ブログ投稿はそちらを優先してサモアの事故は後回しにしました。そのお陰で、5月初めに報じられた事故原因に関する情報を得ることができました。事故調査報告書はまとまっているのに公表できないという硬い話は、19万人の国でも、1億人の国でも同じですね。同じといえば、タンク火災という一報で近くの石油貯蔵施設の運転を一時停止していますが、テロ攻撃を想起させたのでしょう。南太平洋にあるのんびりしたような国でも、テロに敏感になっているのですね。


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