2016年5月5日木曜日

中国の石油・ケミカル貯蔵所で爆発・火災、消防士1名が死亡

 今回は、2016年4月22日、中国の江蘇省靖江市にある江蘇徳橋倉庫の燃料油とケミカル類を貯蔵する施設で爆発・火災があり、消防活動中に消防士1名が死亡した事故を紹介します。
写真RT.com から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、中国の江蘇省(チャンスー/こうそ省)靖江市(ジンジャン/せいこう市)にある燃料油などの貯蔵が専門の江蘇徳橋倉庫(江苏德桥仓储有限公司:Jiangsu Deqiao Storage Co.)の施設である。

■ 江蘇徳橋倉庫は、恒陽石化物流(恒阳石化物流有限公司:Hengyang Petrochemical Logistics Co.)グループの子会社で、施設は長江の靖江港にあり、各種タイプのタンク139基で総貯蔵能力58.3万KLを有して2010年7月から操業を始めた。同社のウェブサイトによると、取扱い品目は原油、燃料油、精製油、灯油、ナフサのほか、炭化水素、カルボン酸、芳香族炭化水素、アルコール、エステル、ケトン、フェノール、その他の化学物質とある。
     発災前の江蘇徳橋倉庫の工場付近(矢印が発災場所)   (写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年4月22日(金)午前9時40分頃(8時あるいは9時という情報もある)、江蘇徳橋倉庫の燃料油とケミカル類を貯蔵していた施設で爆発が起こり、火災となった。貯蔵タンク地区の一画から火炎が上がり、黒煙が立ち昇った。炎は数十メートルの高さになった。

■ 事故発生に伴う死傷者は無かったが、近くの工場の労働者が避難した。当局は施設のポンプ場付近から発災したと発表した。当局によると、火災となった原料には、メタノールおよび芳香族混合物を含んでいるという。

■ この爆発・火災は、2015年8月に天津市の港地区で死者165名を出したケミカル貯蔵所の爆発事故を想起させるものだった。

■ 発災に伴い、公設の消防隊が出動した。靖江市当局は火災を制圧したと発表しているが、新華社などのメディアは22日正午の時点でなお燃焼中であると報じていた。

■ 火災の燃焼はガソリンタンクから配管を通じて油が供給される状況であった。火災はポンプ場から近くの貯蔵タンクを巻き込むように広がった。タンクは容量5,000KLと報じられている。火災はときどき爆発的な燃焼を繰り返した。火災面積は2,000㎡に達した。

■ 消防活動中に消防士1名が死亡するという被災者が出た。亡くなったのは靖江市消防署の26歳の消防士で、この消防士は、ほかの消防士を支援するため、火炎に噴霧水を放射していたが、火炎が急に大きくなって逃げ遅れ、炎に巻き込まれたものである。

■ 火災は発災から約16時間を経過した4月23日(土)午前1時50分に鎮火した。  
             発災前のポンプ場付近   (写真はグーグルマップから引用)
(写真はBotanwang.comから引用)
写真Chinadaily.com から引用)
写真Chinadaily.com から引用)
被 害
■ 貯蔵施設のポンプ場、配管、タンクなどが被災した。被災した範囲や程度は分かっていない。

■ 消火活動中に消防士1名が死亡した。また、消防隊の消防車2台が被災して壊れた。 

< 事故の原因 >
■ 原因調査中である。ポンプ場付近で発災し、ガソリンタンクから配管を通じて油が流出し続けたため、消火が難航したとみられる。

< 対 応 >
■ 発災に伴い、公安省下の消防署の消防隊が出動した。出動した消防士は消火活動に努めたが、火災はガソリンタンクから油が供給され、燃え広がり、消防隊は一時近づくことができないような状況で、消火活動は難航した。

■ 消火活動には、上海、南京、南通、蘇州、無錫の各市から応援部隊が駆け付け、当初400名といわれていた対応は最終的に600名を超す消防隊によって行われた。

■ 火災は4月23日(土)午前1時50分に鎮火した。それとともに、油配管のバルブを閉止し、燃料源の流出を止めた。消防隊は、再点火しないように現場の冷却を続けるとともに監視している。

■ 江蘇省環境監視センターは周辺環境のモニタリングを行った。避難は近くの住民に対しても行われ、7万人といわれている。鎮火後、住民は帰宅した。
(写真はHinews.cn から引用)
(写真はNews.sohu.comから引用)
(写真はM.v4.ccから引用)
(写真はM.v4.ccから引用)
(写真はM.v4.ccから引用)
(写真はWeibo.comから引用)
(写真はM.v4.ccから引用)
(写真はNews.sohu.com から引用)
(写真はNews.sohu.com から引用)
(写真はNews.sohu.com から引用)
(写真はNews.sina.com から引用)
(写真はM.v4.ccから引用)
(写真はNews.sina.com から引用)
補 足
■ 「江蘇省」 (チャンスー/こうそ省)は、中国(中華人民共和国)東部にある行政区で、長江の河口域にあり、人口約7,900万人で、省都は南京市である。
 「靖江市」 (ジンジャン/せいこう市)は、江蘇省泰州市に位置する県級市で、人口約65万人である。上海から約150kmのところにある。
 江蘇省では、最近、つぎのような事故が起きている。
        中国の江蘇省周辺  (図はEdition.CNN.comから引用)
江蘇省靖江市にある江蘇徳橋倉庫
(写真はHyplc.comから引用)
■ 恒陽石化物流のウェブサイトには子会社である江蘇徳橋倉庫の施設内容が掲載されている。これによると、貯蔵タンクは3期に分けて建設されており、容量700KLから20,000KLの間で、多いのは直径14~16mの2,000~3,000KLのタンクである。グーグルマップで見ると、発災点に最も近いタンク2基は直径約16mであり、容量は2,500KL(または3,000KL)と思われる。 記事中に出てくる容量5,000KLタンクは発災点から最も離れたところにあるので、信頼性に疑問がある。発災近くに並んでいるタンクは内部浮き屋根式で気封されている。また、多くのタンクに内部浮き屋根式を使用しているのが特徴である。

所 感
■ 今回の事故情報の数は少なくないが、総合的に見ると信頼性に欠ける記事があり、まとめとしては多くない内容になった。それでも、つぎのような疑問が残る。
 ● 発災後、割と早い段階で出た火災燃料源に、メタノールおよび芳香族混合物とあるが、その後はガソリンに変わっている。
 ● 火災の燃料源として油を供給しているタンクの容量が5,000KLと言われているが、発災点に最も近いタンク2基は容量2,500KL(または3,000KL)とみられる。
 あえて想像でいえば、2,500KLのタンク2基はガソリン混合用のメタノールおよび芳香族混合物の貯蔵タンクではなかろうか。ポンプ場から発災していることからみれば、ポンプのメカニカルシールが破損して、内部液が噴き出して地上火災になったとも考えられる。

■ 発災写真を見ると、消防活動は大変だったことがわかる。大型化学消防車、スクアート車、大型泡モニター、高発泡放出装置、大容量用のホースなどが見られ、資機材は整備されていると思われる。しかし、600名の消防士が出動したとはいえ、発災最前線で活動している消防士が多すぎるように思う。これは、過去の中国における消火活動と同様、2次災害の危険性の高い作業を行っている。今回の火災にメタノールが本当に存在していたかわからないが、メタノールは注水で薄められて火災が広がる可能性があるし、泡消火は泡がメタノールに吸収されてしまうので、耐アルコール性の泡消火薬剤を用いる必要がある。

■ 被災後の写真を見ると、ポンプ場は跡形がなく、パイプラックを一部崩壊するほど火災の勢いが激しい割に、延焼したタンクがなく、損傷が意外と大きくないと感じた。タンクは内部浮き屋根式が多く、中には気封されたものがあるので、この型式が好影響している可能性があり、この点は不幸中の幸いだっとといえよう。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・Chinadaily.com, Warehouse Storing Chemicals and Fuel Catches Fire in Jiangsu,  April  22,  2016 
  ・Reaters.com,  China Local Government Says Chemical Fire under Control, No Casualities,  April  22,  2016
  ・News.rthk.nk, Jiangsu Chemical Storage Facility Hit by Fire,  April  22,  2016  
  ・Edition.CNN.com,  Warehouse Storing Chemical Products Explodes in China,  April  22,  2016
    ・RT.com,  Huge Explosion & Fire at Chemical Facility in Eastern China,  April  22,  2016
    ・Indianexpress.com,  China:  Blaze  put out in jiangsu’s chemical factory,  April  23,  2016
    ・China.org.cn,  Firefighters Killed in Jiangsu Chemical Blaze,  April  24,  2016
    ・CNN.co.jp,  中国・江蘇省の化学製品倉庫で爆発April  22,  2016
  ・Crisismanagement.com.cn,  江苏靖江一危化品仓库发生火灾 燃烧14小时未灭April  23,  2016
    ・Baike.baidu.com,  4·22靖江仓储点爆炸事故, April  23,  2016
  ・M.v4.cc,  靖江危化品仓储大火 :16小时生死扑救如何进行?,  April  26,  2016



後 記: 今回の事例は日本のテレビ(JNN)で放送されましたが、一般にはほとんど知られていないというか、報じられなかった事故です。しかし、相変わらず、中国の当局から出される情報は内容が不明瞭で、結論は「問題ない」(今回の場合、火災は制圧された)というものが多いですね。これには、さすがに中国メディアもびっくりした様子がうかがえます。一方、発災状況の写真は豊富です。中国語で検索して得られた写真は、事故の状況を伝える文章をはるかに越えていますね。


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