2014年1月12日日曜日

中国における石油貯蔵タンクの避雷設備

 今回は、2012年5月 中国のAdmin氏によって発表された中国における石油貯蔵タンクの避雷設備(Lightning Protection and Grounding Design of Oil Storage Tank)について紹介します。 
    中国の青島国家石油備蓄基地のタンク地区の風景 (写真はグーグルマップから引用
 はじめに 
■  石油化学会社にとって、落雷によって時として起こる石油タンクの爆発や火災事故のため、石油貯蔵タンクに関して落雷対策を施すことは重要な施策の一つである。甚大な損害を与える事故を回避することは、国や国民にとって大きな願望である。1989年8月12日、青島市黄島の石油基地で起こった落雷による爆発・火災は大きな被害を出したことで、人びとにとって忘れられない事故となった。このため、石油タンク地区における落雷対策は極めて重要であり、実際の落雷対策を検討する段階において、いくつかの課題を解決するために注意を払う必要がある。

 落雷の基本認識
■ 落雷は自然界における放電現象である。通常の落雷は、電圧が300,000ボルト超で、電流は200,000アンペアを超える。落雷が起こると、衝撃的な力が生じるとともに熱を発する。このときの大きなパワーは岩を砕くほどの力である。落雷時には火災を起こすのに十分な熱量を有している。事故を回避するためには、まず雷の性質を知ることから始める。雷光は、通常ほとんどが線状であるが、時として球状のものを見られることがある。線状雷光には、一般的に避雷装置が使用される。これは雷光の落雷電流を地中へ導き、タンクを保護しようというものである。一方、球状雷光の場合にはこの方法は効果がない。球状雷光が発生することは極めて少ないが、起こりうることを想定し、落雷対策を行うとすれば、静電遮蔽を用いるべきである。この方法としては金網ケージ型落雷保護ネットワークによるものである。

 タンクの種類と避雷設備
■ シール機構のある鋼製石油タンクは、側壁厚さが4mm以上ある場合、一般的に避雷針を設置せず、誘導雷以外を対象として側壁を通じて接地する。接地抵抗は3Ωを超えないようにすべきである。

■ フレームアレスターを付けた通気口でハイドロリック型セーフティ・バルブを設置した固定屋根式タンクは、側壁および屋根の厚さが4mm以上ある場合、配管やその他の金属部品との接続によって電気的に良好な導電機能を有しており、これらを通じて接地する。避雷針が設けられることはない。

■ 外部式浮き屋根タンクの場合、浮き屋根が上下して常に液面と接しており、タンク上部のわずかな空隙部に爆発混合気が形成することはない。タンクの浮き屋根と側壁の間にはシール機構が設置されている。一般的には、接地のみで、避雷針が設けられることはない。しかし、メタル式シール機構の浮き屋根の場合、ジャンパー線を設けて鋼製タンクと接続し、これを通じて接地する。接地抵抗は1Ω未満とすべきである。内部浮き屋根式タンクの場合、タンクの浮き屋根部材と底部は良好な導電性をもっており、接地の信頼性は高いといえる。しかし、浮き屋根のプレートとタンク頂部の間には空間があり、爆発混合気が形成する可能性がある。従って、落雷対策の措置が必要だといえる。

■ 落雷を考慮すべきその他のタンクの場合、個々に避雷針を立てるのが好ましい。この代わりとしてタンク頂部または側壁上端部に避雷針を溶接することがある。ドーム型タンクの場合、タンク頂部に長さ40mm、厚さ4mmの鋼板を溶接し、それに避雷用の針を立てる。

 注意すべき落雷対策の設備と問題点
■ 落雷対策の設備を設置するに当たっては、タンク本体のほかにすべての金属製部品、電気設備、配管およびその他の設備について総合的に検討する必要がある。タンク内へのオーバーヘッド配管は、放電火花や落雷の導波路になることを避けるため、実施すべきでない。

■ 雨天時は油の受入れに適した時間とはいえないので、受入操作は厳密に安全手順どおりに行うべきである。タンク内外において可燃性混合気や爆発混合気が形成することを避け、落雷による引火が生じないようにする。落雷防止設備は定期的に検査を行い、常に機能するようにしておく。

■ 独立した避雷針設備やタンク頂部に雷接地設備を設けたところでは、雷シーズン前に点検を完了させておく。接地用リード線に断線や接続部の緩みがないことを確認しておく。接続部は重ね溶接を施しておくとよい。ボルト箇所は緊結を確認し、クランプを用いている接続はソフトワイヤーとボルトを溶接し、ワッシャは亜鉛メッキ製にすべきである。

■ 地上から2m、地中0.3mの範囲の接地用リード線は完璧な状態にしておく。リード線は直線的に短かくする。曲げたり、鉄製パイプを使用したり、他の構造物の近くを通すと、落雷電流による電磁誘導や火花発生の要因となる。

■ タンク側壁の接地用端子とリード線は直接接続し、ボルトの接する面に腐食がないことを確認するとともに、緩みがないように緊結する。接続面は、適当な時期に、クリーニングして緊結し直す。

■ 避雷針の無いタンクの場合、タンク頂部の付属物や金属部が絶縁された状態で接続しない。特に、大気弁やフレームアレスターの接続部はボルトとナットによって導電する。部品が欠けたり、腐食していたり、緩んでいたりすると、電の放電に影響する。

■ 外部式浮き屋根型タンクおよび内部式浮き屋根型タンクの場合、浮き屋根とタンク本体間は等電位の状態であるようにし、銅線に断線や傷がないことを年次点検で確認する。

■ 接地抵抗の試験は2回行い、雷シーズンには固有抵抗が1Ωを超えないようにする。この基準値に合致しない場合や接地抵抗が急速な増加傾向にある場合、詳細検査あるいは接地電極の交換を行うべきである。

■ シンプルな電気的アースの場合、毎年、抵抗値が3Ω未満であることを確認する。この基準値に合致しない場合、対処すべきである。

■ 地上式タンクあるいは地下式タンクの建設段階では、接地に関する土壌の影響についてよくチェックしておくべきである。

■ 接地抵抗が小さければ、落雷電流を地中に流すことを保証し得ることになる。一方、落雷の多いところでは、接地設備によってタンクへの落雷が予防しうるものではなく、別な金属物に落雷が移ることもある。接地本体の配置においては、人が負傷しないように、落雷のステップ電圧を考慮したアース設備を検討する必要がある。

■ 要するに、トップの強いリーダーシップ、大多数の労働者の防火安全意識、火災予防と防火管理を改善しようとする組織とマネジメントを強化し、有効な落雷対策がとられ、正常に維持されていれば、落雷に起因する石油タンクの火災事故は完全に避け得るといえる。

 避雷針の設置
■ 落雷を逃がすためのリード線下端は、接地設備と溶接し、丸鋼を使用する場合、直径は8mm以上とし、平鋼を使用する場合、厚さは4mm以上とし、断面積は48m㎡以上とする。接地抵抗は1Ω未満とする。

■ 一本の避雷針による防護範囲は、図2に示すように、高さh/2までは頂点から45°斜め角度の下範囲で、その下方は地上1.5hの円と結ぶ下範囲である。

■ 式で表すと、地上部における落雷防護半径 r=1.5h である。石油タンクの保護高さHx=23.5mとすれば、水平面における防護半径Rxはつぎのように表される。
 
 Hx>H/2の場合; Rx=(h-hx)P
 
 Hx<H/2の場合; Rx=(1.5h-2hx)P
 
ここで、P=高衝撃係数で、Hが30m以下ではP=1、H>30mではP=5.5

■ 大きな雷電流がリード線から接地設備を通って地中に流れるようなときには、避雷針には逆電圧またはステップ電圧のかかる可能性が高い。これを回避するため、接地抵抗を小さくし、避雷針まわりには十分な距離をとり、5m以内に物がないようにする。

■ タンク地区にまわりのタンクより2倍高い避雷針を30~40m毎に設置することは、落雷対策として実行可能な主力の対応策である。タンク落雷例の分析によると、タンクだけによる落雷対策では不十分であることがわかった。

■ 避雷針の機能の中には、雷フィールドに別な電界を形成(避雷針による電界とは静電誘導を形成することである)し、雷フィールドに歪みを起こさせ、避雷針自身へ落雷させ、避雷針ーリード線ー接地設備へ引き込む。これによって、雷電流はタンク地区の地中へ流れ、貯蔵タンク本体へ直接落雷することから免れる。
図1
図2

 設置図 
■ ここで簡単な設置計画を示す。(図3参照) 接地極(接地モジュール)の深さは地表から0.8~1mである。各接地極はピットに埋設し、ピットの大きさは幅0.5m、深さ0.8mである。接地極の大きさは直径0.12m×長さ0.6mであり、ピットとの隙間部には接地抵抗低減剤を充填する。接地極が複数ある場合、同様なピットを掘削する。各接地極は亜鉛メッキの平鋼の間に接続する。亜鉛メッキの平鋼まわりにも抵抗減少剤で詰め固める。
図3 設置計画図
補 足                 
■ NASAによる世界の雷マップ」(当ブログ20126月)によると、中国の雷マップ(k㎡当たりの年間平均の雷光回数)は日本より落雷頻度が多く、特に南部の沿岸で多いといえる。
 「NASAによる世界の雷マップ」から東アジアにおける雷マップ
(k㎡当たりの年間平均の雷光回数)
  ■ 中国の石油貯蔵タンク基地では、タンク地区の中に独立した避雷塔(避雷針)を設置しているのが見受けられる。例えば、標題の写真は青島国家石油備蓄基地の風景であるが、独立した避雷塔らしいタワーが見える。また、鎮海国家石油備蓄基地のタンク地区の写真にも同様の独立した避雷塔らしいタワーが見える。落雷対策としての避雷設備は、今回の資料のような考え方で独立した避雷針が設置されていると思われる。
中国の鎮海国家石油備蓄基地のタンク地区の風景
(写真はEpochtimes.jpから引用)

■ 中国のタンク落雷事故としては、1989年、山東省青島市の黄島地区にある石油タンク基地における落雷によるタンク火災事故がある。 この石油基地では、タンク5基が面積1.5k㎡の中に配置され、合計40,000トンの原油を貯蔵していた。 5基のうちの1基のタンクに落雷があり、他の4基のタンクに爆発を伴いながら延焼していった。この事故では、消火活動中だった消防士19名が死亡するという痛ましい事故であり、結局、4日間燃え続けた。
 また、2011年11月22日、遼寧省大連市金州新区にある大連集団タンク区の10万トン級石油タンク2基で火災が発生したが、この原因は落雷だといわれている。火災は出火から1時間余りで消火され、負傷者は報告されていない。

所 感
■ 中国で国家石油備蓄基地の計画が進められていた10年ほど前に、中国の計画担当者が日本の石油タンク基地における避雷設備について関心を持っていた。当時はその背景がよく理解できなかったが、その後の状況や情報から、現時点ではつぎのように思っている。
 ● 中国では、日本より落雷が多く、落雷対策について関心をもっている。
 ● 日本では、中国の落雷によるタンク火災情報が余り入ってこなかったが、1989年、19名の消防士が亡くなるという山東省青島市の落雷によるタンク火災など、落雷による事例が少なくない。
 ● 中国では、タンク落雷事例の分析から、タンクだけによる落雷対策では不十分だとし、独立した避雷塔(避雷針)をタンク地区に設置することを標準としている。
 ● 独立した避雷塔(避雷針)の考え方は本資料の図3を標準としている。

■ 最近、日本でも異常気象が異常と感じられない状況になっており、従来にない強烈な落雷が起こりうる。タンクだけによる落雷対策では不十分だという事例が出れば、今回の資料は一つの参考になる。

 注記;米国におけるタンクの落雷対策や避雷設備の問題点については「可燃性液体の地上式貯蔵タンクの避雷設備」を参照。

備 考
 本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Chinaward.net, Lightning Protection and Grounding Design of Oil Storage Tank May 10, 2012


後 記: 今回の資料は入手しずらい中国の情報だったので、取り上げました。原文は英文でしたが、これがなかなか難渋させられました。というのも、おそらく中国文を自動翻訳機にかけただけではないかという英文で、句読点が多く、主語や動詞がはっきりせず、暗号を解くような感じでした。しかし、おかげで面白い情報が得られ、これまで漠然としていた疑問が晴れました。



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