2013年12月27日金曜日

米国テキサス州でタンク建設中に屋根部が崩れ、作業員2名死亡

 今回は、2013年12月15日、米国テキサス州ニュエセス郡コーパスクリスティ市にあるトラフィギュラ社の石油施設においてタスコ社が建設中のタンク屋根部が崩れ、作業員2名が死亡するという事故を紹介します。
コーパスクリスティ市のトラフィギュラ社発注の建設中タンク 
 (写真はKRISTV.comから引用)
 <事故の状況> 
■  2013年12月15日(日)、米国テキサス州ニュエセス郡コーパスクリスティ市にあるトラフィギュラ社の石油施設において建設中のタンク屋根部が崩れ、作業員2名が死亡するという事故があった。
       コーパスクリスティ市サザン・ミネラルズ通り付近 (写真はグーグルマップ から引用)
■ 事故は、コーパスクリスティ市の高速道路37号線から入ったサザン・ミネラルズ通り1501にある施設で午後3時頃に発生した。作業員二人は貯蔵タンク屋根のI形鋼で作業中だったが、突然、屋根の一部が崩れ、二人は60フィート(18m)落下して死亡した。工事はグループに分かれて作業が行われていたが、事故時の状況ははっきりしていない。屋根が崩れるのを目撃していた別な作業員が警察へ連絡した。警察のマーク・チューレー警部補によると、救助隊が二人を助け出すのにタンクで使用されていたクレーンを使ったという。ニュエセス郡検視官事務所の検視官が現場で二人の死亡を確認した。
                                   現場へ立入りした関係機関  (写真はKZTV10.com の動画 から引用)
■ 二人の被災者は、トラフィグラ社から受注した下請け会社のタスコ社(本社:カリフォルニア)の従業員で、コルトン・ハフさん(19歳)とアンドレス・オリバレスさん(57歳)と判明した。トラフィグラ社は事故に関して、「私どもは被災者のご家族に哀悼の意を表します。現在、事故原因はOSHAおよび関係機関によって調査中であり、追って適切な時期に詳細な情報が発表されることになると思います」という声明を出した。

■ 米国労働安全衛生局(OSHA)は、事故原因を特定するため調査を始めた。現場は工事が中断されて、調査官による調べが行われている。

■ タスコ社は地上式貯蔵タンクの建設会社であるが、2011年11月にテキサス州の別な施設で作業員の墜落防止策が不十分だとしてOSHAから約3,000ドル(30万円)の罰金を科せられている。

■ 米国労働省は、労働者にとって最も危険な業界は建設業界だという統計結果を公表している。テキサスでは、最近、建設市場が急成長しており、建設業が活発化すると、事故発生や死亡件数が増えるということを意味する。建設現場では多くの危険要因が潜在しているので、建設業界はOSHAによって多くの規制を受けている。OSHAでは、つぎのような分類による違反事例を頻繁に公表している。
  ● 墜落防止         ● 墜落防止訓練
  ● 足場           ● 危険予知
  ● ラダー(はしご)       ● 電気事故
  ● 掘削           ● 建設事故
  ● 頭部保護
 労働統計によると、2010年の民間企業における労働災害死亡者は4,206名で、そのうち18.7%に当たる774名が建設関係である。建設業における労働災害死亡の最も大きな要因は墜落、感電、衝突・挟まれである。

                                         補 足                  
■ 「テキサス州」は米国南部にあり、メキシコと国境を接している州で、人口は約2,510万人と全米第2位である。
 「ニュエセス郡」は、テキサス州の南部に位置し、人口約34万人の郡で、郡庁所在地はコーパスクリスティ市である。
 「コーパスクリスティ」は、メキシコ湾の一部であるコーパスクリスティ湾にあり、人口は約28万人の港湾都市である。湾岸には油田が多くあり、石油精製工場や化学工場が発達し、また綿花や穀物類の集散地でもある。

■ 「タスコ社」(Tarsco Inc.)は、1982年に設立された建設会社で、貯蔵タンクの建設・補修・保全工事を専門に行っている。主に北米、南米、中南米、カリブ海において事業を展開している。
                          タスコ社の工事風景   (写真はタスコ社のウェブサイトから引用)
■ 「トラフィギュラ社」(Trafigura Inc.)は、オランダの独立系石油取引会社である。トラフィギュラ社は、米国法人Trafigura AG Inc.を設立し、原油・シェールガスの取引に進出している。テキサス州コーパスクリスティにあるテキサス・ドッグ&レイル社(Texas Docks & Rail Inc.)を2012年に買収し、貯蔵・輸送施設を確保し、本格的に事業展開を行っている。 
 報道では、事故のあった場所はコーパスクリスティ市の高速道路37号線から入ったサザン・ミネラルズ通り1501となっているが、タンク建設の目的はわからない。貯蔵タンクであれば、テキサス・ドッグ&レイル社の将来計画地に建設するのが常識的である。タンク場所が間違っている可能性はある。
コーパスクリスティ市にあるテキサス・ドッグ&レイルの施設
所 感
■ 今回の事故は、建設工事中のタンク屋根部からの墜落災害である。屋根の一部が崩れたとあるので、屋根部材が仮止め状態(あるいは単に置かれた状態)にあった可能性がある。このほか、安全帯、親綱、危険予知、現場状態などいろいろな事故要因に関する疑問がある。いずれにしても、このような失敗事例はルール違反、危険予知不足、情報の認識不足から起こる。このため、事故を無くすには、①「ルールを正しく守る」、②「危険予知を活発に行う」、③「報連相(報告・連絡・相談)を行い、情報を共有化する」ことが大切である。
■ 米国の建設業における三大災害について言及され、墜落による労働災害が多いとある。日本の建設業における三大災害は、「墜落・転落」、「建設機械・クレーン等災害」、「倒壊・崩壊」で、墜落・転落が最も多く、全体の4割を占める。この点、米国と日本は同じ傾向にあるといえる。昔はとび工のプロ意識から安全帯や親綱が嫌われていたが、現在、この意識は大分薄れてきた。しかし、依然として墜落・転落による労働災害は多く、国を問わず事故撲滅にはまだまだ課題は多いといえる。

備 考
  本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
       ・KRISTV.com,  Work Halted on Oil Storage Tanks Following Death of Two Men,  December 16, 2013
       ・ABClocal-go.com, 2 Workers Killed in South Texas Tank Collapse, December 16, 2013  
       ・News92fm.com, Two Workers Killed in South Texas Tank Collapse, December 17, 2013
       ・Txinjuryblog.com, Two Workers Killed in Southern Texas by an Oil Storage Tank, December 18, 2013
       ・TexasWorkinjurylaw.com,  Two Construction Workers Die after a Storage Tank Roof Collapse in Corpus Christi,Texas, December 20, 2013
       Times-georgian.com,  OHSA, Law Firm Investigating Death of Temple Man in Texas, December 20, 2013 


後 記: 建設中のタンクと聞いて、ある面、米国の経済復興を示すものと思いました。しかし、調べを進めていくうちに少し独断的ですが、別な思いが出てきました。金融緩和で市場に出回っている資金を米国以外の海外商社が利用し、米国の物流企業が買収され、施設が建設されているのです。建設は最短工期という条件が出たのでしょう。日曜日も工事が行われていて、事故が起こったわけです。海外企業が儲け、米国の地道に働く若者が犠牲になっている構図が見えてきます。事故は時としてその国の国情を表すことがありますが、何かやり切れないものを感じながら本事例をまとめました。


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