2013年8月21日水曜日

ベネズエラの製油所でタンク地区に落雷して火災発生

 今回は、2013年8月11日、ベネズエラのアンソアテギ州プエルト・ラ・クルスにあるベネズエラ国営石油公社(PDVSA)のプエルト・ラ・クルス製油所においてタンク地区にある排水処理施設に落雷があり、爆発して火災が発生した事故を紹介します。
プエルト・ラ・クルス製油所において落雷による火災で立ち上る炎と黒煙  
(写真はphotoblog.BBCNews.comから引用)
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Reuters.com, Lightning Starts Fire at Venezuela Refinery : President,  August 11,  2013
      ・News.yahoo.com, Fire Crews Extinguish Blaze at Venezuela Oil Refinery, August 11,  2013
  ・Photoblog.NBCNews.com, Lightning Starts Fire at Venezuela Refinery,  August 11,  2013    
  ・Online.WSJ.com, Lightning Strike Sparks Fire at Venezuela’s Puerto La Cruz Refinery,  August 11,  2013    
  ・LosPueblosHablan.org, Fire in the Puerto La Cruz Refinery Fully Controlled,  August 11,  2013 
      ・Edition.CNN.com, Venezuelan Refinery Ablaze after Lightning Strike, August 12,  2013 
      ・Eluniversal.com, Fire in Puerto La Cruz Refinery under Control,  August 12,  2013 
      ・English.people.com.cn, Lightning Causes Fire in Venezuela,  August 12,  2013
      ・NamNewsNetwork.org, Fire at Venezuela’s Puerto La Cruz Oil Refinery,  August 12,  2013
      ・BBC.co.uk, Fire at Venezuela’s Puerto La Cruz Oil Refinery ‘over’,  August 12,  2013
      ・FireDirect.net, Venezuela – Fire at Puerto La Cruz Oil Refinery ‘over’,   August 15,  2013 

 <事故の状況> 
■  2013年8月11日(日)午後3時15分、ベネズエラの製油所でタンク地区に落雷があり、爆発が起こった後に火災となる事故があった。事故があったのは、アンソアテギ州プエルト・ラ・クルスにあるベネズエラ国営石油公社(PDVSA)のプエルト・ラ・クルス製油所で、タンク地区にある排水処理施設に落雷があり、爆発・火災となり、大きな炎と黒煙が立ち上った。プエルト・ラ・クルス製油所は、 PDVSAがベネズエラで操業している6製油所のひとつで、約20万バレル/日の精製能力を有し、約1,000名の従業員を擁している。
アンソアテギ州にあるベネズエラ国営石油公社のプエルト・ラ・クルス製油所
(写真はグーグルマップから引用)
■ プエルト・ラ・クルス地方では、週末にかけて雷を伴った大嵐に見舞われていた。当初、当局はプエルト・ラ・クルス製油所において貯蔵タンク1基に落雷があり、火災となったと報じている。しかし、その後の報道によれば、落雷があったのは製油所構内の燃料給油施設の近くにある排水処理施設(炭化水素を含む貯水池)とみられる。
 火災発生の通報を受けて公設消防署およびPDVSAの消防隊が出動し、大雨の中で消火活動を行なった。地元メディアは舞い上がるオレンジ色の炎と施設から湧き上がる黒煙の映像を放映している。発災現場から半径1km内に住む市民は避難した。情報省のデルシー・ロドリゲス大臣によると、事故に伴うけが人は発生していないといい、加えて、製油所の近隣地区には安全のため避難するよう指示を出したという。

■ 出動した消防隊によって消火活動が行われ、炎と2時間以上戦った後、ニコラス・マドゥロ大統領はツイッターで、火災は“制圧下” に入ったと書いている。マドゥロ大統領は、プエルト・ラ・クルス製油所で消火活動に当たっているチームと直接、連絡をとっているとツイッターで述べていた。
  11日(日)午後5時30分、州の治安保全機関は、PDVSA精製東地区の安全規約を履行し、火災を封じ込めたという。いくつかの専門家チームおよび治安保全担当者は、油施設の事故が完全に消滅するまで、現場に配置されている。

■  PDVSAのアズドルバル・チャベス副総裁は、他の生産施設および近隣地区の被害はなく、事故による製油所の生産への影響はないと話している。チャベス副総裁は、豪雨の最中に、雷光が、通常は炭化水素のエリア外のセパレータと呼ばれる貯水池に落ちたと語っている。

■ 地元メディアは、8月12日(月)、火災が鎮火したと報じた。

■ 本事故とは別に、 PDVSAによると、カラボボ州プエルトカベヨにあるエルパリト製油所(精製能力14万バレル/日)が、豪雨による停電によって8月11日(日)に操業を停止しているという。エルパリト製油所では、昨年2012年9月19日、今回の事故と同じように落雷によって、2基のナフサ用貯蔵タンクが火災となる事故があった。
■ PDVSAでは、昨年2012年8月25日、ファルコン州にあるアムアイ製油所(精製能力64万バレル/日)で、ガス漏れによるタンク爆発・火災があり、40名以上の死者を出し、多くの民家が損壊するという事故を起こしている。この事故は、昨年、ベネズエラが国内の燃料需要をまかなうためガソリンの輸入国となる要因となった。

■ マドゥロ大統領の前のウゴ・チャベス大統領は14年間の在任期間中に石油企業の多くを国有化し、石油による輸出収入の資金を食料などの社会開発事業へ惜しみなく提供した。批評家は、 PDVSAが結果として経営管理を誤り、施設への投資を減らしたことによって、事故の多発や施設の計画外停止に至っていると指摘している。野党は、爆発がメンテナンス不足の結果だということについて、PDVSAが頑なに否定していることを非難している。 PDVSAのチャベス副総裁は、会社としては予防的な方法でメンテナンスを継続して実施しているが、“時によって手に負えない状況”があると述べている。チャベス副総裁は国営テレビの中で、「ベネズエラの北部沿岸地域はかつてない異常な気象状態を経験している」と話している。
                    発災現場に急行する消防車   (写真はRT.comから引用
              消火活動に努める消防隊  (写真はNews.yahoo.com/reutersから引用
               製油所から立ち上る黒煙   (写真はEnglish.people.comから引用
               製油所から立ち上る黒煙   (写真はEnglish.people.comから引用
                 製油所の火災を見る住民   (写真はEnglish.people.comから引用
       火災があったと思われる排水処理施設と貯水池   (写真はグーグルマップから引用

補 足
ベネズエラのアンソアテギ州 
■  「ベネズエラ」は、正式にはベネズエラ・ボリバル共和国といい、南米の北部に位置する連邦共和制社会主義国家である。人口は約2,850万人で、首都はカラカスである。ベネズエラはマラカイボ湖やオリノコ川流域を中心に多くの石油が埋蔵し、古くから油田開発が進められ、経済は完全に石油に依存している。
 「アンソアテギ州」は、ベネズエラ北東部に位置し、美しいビーチのある観光地として知られている。州の人口は約148万人で、州都はバルセロナである。州経済は観光業のほか、ホセ石油コンビナートがある。
 「プエルト・ラ・クルス」は、アンソアテギ州北部のカリブ海に面し、人口約45万人の港湾都市である。

■ 「ベネズエラ国営石油公社」( Petróleos de Venezuela, S.A.、略称PDVSA)は1976年に設立され、ベネズエラ政府が100%出資する石油会社で、日本ではベネズエラ国営石油会社あるいはベネズエラ石油公団とも表記される。
 設立以来、人事の政治化を排除し、政府から独立した合理的な経営が行われていたが、チャベス前大統領が就任後、PDVSA上層部の刷新や職員の大量解雇が実施されたことに加え、PDVSA総裁はエネルギー石油大臣の兼務となり、PDVSAに対する政府の関与が著しく強まった。また、社会開発事業へ資金を提供するなど国家財政に対する貢献の度合いも増し、食料、電力、セメントなど石油関連以外の子会社をその傘下に加えるなど、政府の一機関としての側面も強まっている。
 アンソアテギ州プエルト・ラ・クルスには、約20万バレル/日の製油所を有している。

所 感
■ 事故の状況は今ひとつはっきりしない。写真を含めた情報から推測すると、排水処理施設の貯油設備(小型タンクなど)に落雷があり、爆発を起こして火災になり、貯油設備から漏洩した油が貯水池に流れ込み、火災面が広がったものと思われる。このため、火災面積の大きな炎と黒煙が上がっている割に、火災は比較的短時間(約2時間)で鎮火へ向かったと思われる。もし、タンクの全面火災であれば、燃焼速度を30~60cm/h程度とすれば、液面高さ10mの場合、燃焼時間は16~33時間程度になる。一方、油が一気に燃焼し、輻射熱は相当大きなものになっていたので、まわりの施設、特に貯蔵タンクへの延焼の危険性は高かったと思われる。雨による冷却効果があったと思われるが、周辺施設への冷却放水が行われており、適切な対応だといえる。
 今回の事故で感じるのは、雷は必ずしも高い設備(例えば、貯蔵タンク)に落ちるとは限らず、排水処理施設のような設備への落雷がありうるということである。そして、貯水池へ油が漏れ、大きな油面火災になりうるということである。これまで想定したことのない火災が、現実には起こるということを認識させる事例である。 

■ ベネズエラ国営石油公社(PDVSA)の製油所では、2012年8月25日、ファルコン州のアムアイ製油所で死傷者を出すタンク爆発・火災事故、 2012年8月17日、ベネズエラ沖のカリブ海に浮かぶオランダ王国キュラソーで実質的にPDVSAが運営しているイスラ製油所での油漏洩による環境汚染事故、さらに、2012年9月19日、カラボボ州のエルパリト製油所における落雷によるタンク火災が起こっている。
 昨年の事故でも、ベネズエラのカラボボ州地域に過去30年間経験したこともないような雷を伴った嵐に襲われたと言われていたが、今年も、カリブ海の沿岸地方には、雷を伴う豪雨の異常な天候が続いている。しかし、天災が関与しているにしても、PDVSAの製油所で大きな事故が起こっているのは、組織や操業方針に問題があるという指摘を否定できないように感じる。



後 記: 今回もいろいろな情報を整理してみて、やっと推測できるような事故状況がわかりました。情報で感じたのは、ベネズエラ国営石油公社(というよりベネズエラの国)の組織がうまく機能していないと思われることです。ベネズエラ国営石油公社からの情報は広報担当からでなく、副総裁から断片的に出ていますし、果たして現地から正しい情報が流れているか疑問を感じます。また、大統領が、直接、現場のチームと連絡をとって、その情報を流しているのも違和感を感じるところです。(東京電力福島原発事故時と同様ですが) 
 ところで、今回も事故状況の写真が参考になりましたが、面白い(?)のは、中国の人民日報が、発災現場に近い写真を多く発信していることです。本事故は日本でも一部の報道機関が報じていますが、内容は海外メディアからの情報です。中国が世界に進出していることを感じますね。


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