2013年7月4日木曜日

米国ペンシルバニア州でタンク施設からガソリン流出

 今回は、2013年6月22日、米国ペンシルバニア州チェスター郡イースト・ホワイトランド・タウンシップのバックアイ・エナージー・サービス社のマルバーン・ターミナルからガソリンが漏洩し、構外の雨水排水溝に流出するという事故を紹介します。
ペンシルバニア州チェスター郡の石油ターミナルからガソリン流出で対応する人たち
 (写真はPottsmerc.comから引用)
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Pottsmerc.com,  Gasoline Spill Closes Lancaster Avenue in Frazer,  June 23,  2013
      ・Article.Philly.com, Malvern Gas Spill Closes Roads, Threatens Waterway, June 24,  2013  
  ・MainlineMediaNews.com, Clean-up Continues after Malvern Gasoline Spill, June 24,  2013      

 <事故の状況> 
■  2013年6月22日(土)、米国ペンシルバニア州にある石油ターミナルで油が漏洩し、構外の雨水排水系統に流出するという事故があった。事故があったのは、ペンシルバニア州チェスター郡イースト・ホワイトランド・タウンシップのバックアイ・エナージー・サービス社のマルバーン・ターミナルで、タンク施設内からかなりの量のガソリンが漏れ、近くにあった豪雨時の非常用排水溝に流出してしまったものである。
 バックアイ・エナージー・サービス社はバックアイ・パートナーズ社の子会社で、マルバーン・ターミナルはイースト・ホワイトランド・タウンシップのフレーザー地区サウス・マリン通り沿いにあって石油製品の貯蔵と荷役を行っている。
           構外へ流出したガソリンを注視する人たち   (写真はPottsmerc.comから引用)
■ 事故の通報があったのは午後330分過ぎだった。ペンシルバニア州環境保全庁の広報担当であるデボラ・フライズさんによると、油漏洩は午後330分にバックアイ・エナージー・サービス社の従業員によって発見されたという。ただちに、数社の会社が避難を行い、緊急時対応や環境保全の担当者が現場に集結し、通常、交通量の多い幹線道路のランカスター通りが封鎖された。 
 イースト・ホワイトランド消防署のケン・ハーレー署長によると、流出影響のあった区域は午後6時30分頃、ほぼ封じ込みに成功し、その後、制圧下にはいったという。ランカスター通りの交通遮断は23日(日)午前2時に解除された。バックアイ社広報担当のデイビット・ブーン氏は、消防隊によって堤の構築とオイルフェンスが張られ、漏れたガソリンは封じ込められたと語った。イースト・ホワイトランド消防署のハーレー署長は、流出したガソリンがバレー・クリークに流れ込まないように、消防隊と緊急時対応メンバーが豪雨時の非常用排水溝に堤を構築したと語っている。バレー・クリークは流出場所から半マイル(800m)も離れていない。州環境保全庁広報担当のフライズさんは、「クリーンアップと油回収は22日夜から始まることになるでしょう」と語った。
排水溝に投入された吸着式オイルフェンスとチェスター郡ハズマット隊の車両
(写真はPottsmerc.comから引用)
■ 当局によると、地上と排水溝に漏れたガソリン量は10,000ガロン(37,800リットル)以上になるだろうと述べていた。その後、バックアイ社は、漏れたガソリンの推定量について5,300ガロン(20,000リットル)と見込まれると発表した。また、当初、バックアイ社広報担当のブーン氏は、ガスケットが破損したためタンク施設から油漏洩に至ったと話していたが、同社によると、漏れはマルバーン・ターミナルのベーパー回収装置のストレーナ容器が破損したためで、破損したストレーナ容器は交換したという。ベーパー回収装置は油貯蔵タンクから出るヒュームを捕捉するように設計されたものだという。
バックアイ社のマルバーン・ターミナルの正門(左)と油回収用ドラム缶を荷下ろしする作業員(右)
(写真はMainlineMediaNews.comから引用) 
  ■ バックアイ社広報担当のブーン氏は、クリーンアップ作業についてルイス・エンヴィロンメンタル社に委託したと述べ、周辺地区の清掃作業とバキューム車による油回収を行うと発表した。
 6月23日(日)はクリーンアップ作業が続けられた。イースト・ホワイトランド・タウンシップのケン・バッティン消防保安官によると、現場ではバキューム車、吸着式オイルフェンス、吸着マットが使用されているという。バックアイ社広報担当のブーン氏は、「(流出の)修復は、現時点で、大半を終えています。状況は安定しており、クリーンアップも順調です」と語った。修復作業としては、流出のあった豪雨時対策の排水溝を水で何度も洗浄し、油混じりの水をバキューム車で回収する方法がとられた。
 豪雨時の非常用排水溝は、サウス・マリン通り沿いにあるバックアイ社のターミナルから北の方向へ流れ、ランカスター通りの下を通ってノース・マリン通りに沿って最終的にリトル・バレー・クリークを経由してバレー・クリークへ至っている。ルイス・エンヴィロンメンタル社の作業員は、マリン通りにあるリンカーン・コート・ショッピング・センターの東口周辺で作業を行なった。この地区は、クリーンアップ作業のため、23日(日)午後まで交通遮断が実施された。
報道によれば、油は豪雨時対策の非常用排水溝を通って矢印のように流れた 
■ 当局は、流出事故に伴う爆発や負傷者の発生は無かったと発表した。排水溝近辺は油流出によって土壌が汚染されていないかの試験が行われている。バックアイ社広報担当のブーン氏によれば、もし土壌汚染が判明すれば、その土壌は掘削して除去するという。バックアイ社の声明では、地方自治体など関係機関による調査に対して緊密に協力すると述べている。また、バックアイ社広報担当のブーン氏は、ガソリンが地下水へ浸透していないことを確認するため、監視用の井戸を設置することも検討していると述べた。さらに、ターミナルの操業を24日(月)まで停止して補修を行うとともに、引き続き破損の原因を調査すると語った。
フェースブックの投稿写真
(写真はFacebook.com,Buckeye Energy Services. Gasoline Spillから引用) 

補 足
ペンシルバニア州 
■ 「ペンシルバニア州」は米国東部にあり、人口は約1,270万人で、州都はハリスバーグである。ペンシルバニア州は米国において最も歴史のある州で、米国発祥の地といわれるフィラデルフィアは独立宣言や合衆国憲法が立案された場所である。
 「チェスター郡」はペンシルバニア州の南東部に位置し、人口約50万人の郡で、郡庁はウエスト・チェスターにある。
 「イースト・ホワイトランド・タウンシップ」はチェスター郡の中央部にあり、人口約10,600人の町である。

 ペンシルバニア州では、2010年8月11日、ファレルにある製鉄会社のデュファーコ・ファレル社が誤って油水混合液(推定52KL)をシェナンゴ川へ流出した事故がある。同州には、ペンシルバニア州フィッシュ・アンド・ボート委員会というフィッシュング(魚釣り)やボート遊びを保護・支援するため、州知事が任命する独立行政委員会の組織があるように、ペンシルバニア州は川や湖を大切にしようという風土がある。

■ 「バックアイ・パートナーズ社」(Buckeye Partners, L.P. )は、19世紀後半にスタンダード・オイル社のパイプライン事業を行う会社として設立された経緯をもち、ペンシルバニア州を本拠地にした石油流通会社である。現在は、中部大西洋地域を中心に1,100万KLの石油製品の貯蔵能力を有し、パイプラインの総延長9,600kmのネットワークを保有している。運用はバックアイ・パイプラインやバックアイ・ターミナルなど多くの子会社を設立して分散している。ペンシルバニア州チェスター郡のマルバーン・ターミナルはガソリン、ディーゼル燃料、暖房油など数種類の石油製品を取り扱っており、「バックアイ・エナージー・サービス社」(Buckeye Energy Services LLC)によって操業されている。

 バックアイ・パートナーズ社では、2010年8月21日、米国インディアナ州ナイルズのナイル・ターミナルにおいてガソリン(推定75KL)を漏洩させた事故がある。油漏洩は、タンクから離れた石油ローリー積み場へ無鉛プレミアムガソリンをポンプで移送中、タンク近傍配管の接続フランジがずれた時に起こり、噴出油の直径は5mになったという。 今回のペンシルバニア州マルバーン・ターミナルの漏洩事故で当初、ガスケット不具合によるものという発表があったのは、 2010年のナイル・ターミナルにおける漏洩事故が頭にあったのかもしれない。
2010821日、米国インディアナ州ナイルズのバックアイ・パートナーズ社の石油ターミナルからガソリンが漏れ、現場に出動した完全防護服のハズマット隊員(中央)             写真はWSBT.comから引用)

ルイス・エンヴィロンメンタル社の
資機材搬送車の例
 
■ 「ルイス・エンヴィロンメンタル社」(Lewis Environmental Inc.)は、1996年に設立された環境保全業務と緊急時対応のサービスを行う会社で、ペンシルバニア州ロイヤーフォードに本拠を置き、中部大西洋地域をカバーしている。緊急時対応はALERTプログラムというあらゆる環境問題の対応マニュアルを作り、 365日24時間即応体勢をとっている。

■ 揮発性有機化合物(VOC;Volatile Organic Compounds)は浮遊粒子状物質や光化学オキシダントに係る大気汚染の原因の一つとして排出抑制の対象となっている。今回、油漏洩の発災源となった「ベーパー回収装置」はガソリンベーパーの排出抑制のために設置されたものと思われる。日本では、一般にVOC回収技術として知られ、通常、活性炭などによる吸着法がとられるが、さらに二つの方式に分けられる。一つはTSA法(Temperature Swing Adsorption)と呼ばれ、吸着剤に活性炭を用い、加熱昇温によって脱着再生する方法である。もう一つはPSA法(Pressure Swing Adsorption)と呼ばれ、吸着剤にシリカゲルなどを用い、真空引きにより脱着再生する方法である。
 事故のあったベーパー回収装置の方式はわからないが、ガソリンベーパー回収装置の例を示す。ストレーナ容器は回収ガソリンの配管系に設置されていたものと思われる。
                  ガソリンベーパー回収装置の例    (図および写真はIdemitsu.co.jpから引用) 

所 感
■ ベーパー回収装置のストレーナ容器の破損原因はわからないが、タンク本体でなく、付帯設備でも油流出の要因になるという事例である。今回の事故で二つのことを感じた。
 ひとつは、タンク施設構外への油流出の対応が早いという点である。油流出事故は、環境保全部署、緊急時対応部署、消防署、警察署、地方自治体など関係機関が多い。ともすれば、このような混成チームでは行動が伴わず、後手後手になりやすい。おそらく、このような事故を想定して各関係機関の役割が事前に認識され、幹線道路の封鎖、周辺事務所の避難、排水溝の堤構築、吸着式オイルフェンスと吸着マットによる油拡散防止といった初期対応(第1段階)が素早く行われたと思われる。また、事態として最悪のシナリオを想定して対応していることである。今回の場合、油漏洩量を10,000リットル以上(~20,000リットルという記事もあった)と想定し、影響が大きくなるクリークへの流入防止を念頭に対応している。

■ ふたつ目は、その後(第2段階)の油回収および清掃のクリーンアップは、発災事業者から請負った専門の環境保全サービス会社が人員・資機材を投入して行う仕組みである。米国の油流出事例を見ていると、いつも365日24時間即応体勢の環境保全サービス会社が参画している。油や汚染物質の流出事故が日本では稀で、米国は頻繁にあるという背景があるにしても、対応の迅速性から参考にすべき点である。


後 記: 7月に入って山口県は梅雨終わりの豪雨に見舞われています。7月3日(水)、地元周南市は断続的に猛烈な豪雨が降りました。午後3時前、雨とともに大きな雷鳴が何回か轟きました。その直後、走っていく消防車のサイレンの音がしました。何かあったのだろうと思いましたが、道路の雨水がはけきらず、川のようになっている方が気になり、そのことは忘れました。
徳山工場東桟橋(下)
(写真はグーグルマップから引用)
 夕方のローカル放送で、つぎのようなニュースが報じられました。「7月3日午後2時50分頃、出光興産徳山工場内の東桟橋に着岸していた内航タンカー「海洋丸」(1,190トン)に火災がありましたが、従業員が消火しました。当時の状況から、火災の原因は落雷によるものと思われます」 毎日jpによると、「落雷があったのは船体中央にある排気口で、海洋丸はナイロンの原料であるシクロヘキサンを積んでおり、気化したガスに引火したらしい」とあります。
 いよいよ日本にも、落雷によるタンク火災の恐れが到来したように思います。とにかく、最近の猛烈な雨と落雷は昔のものと違っています。

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