2012年12月5日水曜日

カナダのパイプライン石油ターミナル油流出事故-2012の原因

 今回は、2012年1月24日に起こった「カナダのキンダー・モーガン社の石油ターミナルで油流出」(当ブログで2月に紹介)事故の原因について紹介します。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・Canada.com, Pipeline Operators Ignored Alarms Warning of Abbotsford Oil Spill, November 28, 2012 
  ・TheProvince.com,  Kinder Morgan Ignored Warnings in Sumas Mountain Oil Spill : Report, November 29, 2012 
  ・AbbotsfordNews.com, Delayed Response Impacted Oil Spill, Says Report,  November 28, 2012

 <事故の状況> 
■  2012年1月24日(火)、カナダのブリティッシュコロンビア州のアボッツフォードにあるキンダー・モーガン社スーマス石油ターミナルの貯蔵タンクから原油が漏れた。流出した量はタールサンドから精製した軽質原油約110,000L(110KL)であった。

 <事故の原因> 
■ 2012年11月初めに国家エネルギー委員会は、キンダー・モーガン社スーマス石油ターミナルの油流出事故に関する報告書をまとめ、11月22日に公表した。報告書は、「会社のマネジメントの方法が不適切であったこと」と「オペレータが漏洩の確認を怠ったこと」の2つの問題を指摘した。
 報告書の中で、トランス・マウンテン・パイプライン担当のオペレータが警報が鳴っているにもかかわらず無視していたため、対応がとられるまでの3時間半にわたってガスケット破損部から油が流出し続けたという。
■ 最初に警報が鳴ってから6時間してオペレータが現場に到着したとき、油が流出しているのを発見した。原油は防油堤外へ出てはいなかったが、有害なガスが大気中に放出されており、近くの住民へ影響を及ぼしていた。油流出の報告書によると、パイプラインの所有者であるキンダー・モーガン社は、アジア市場向けに毎年300,000~750,000バレル(48,000~120,000KL)の量拡大を行っているという。環境保護団体のワイルダーネス・コミッティのベン・ウェスト氏は悪評の眼で見ざるを得ないと語っている。
■ 報告書によると、エドモントンにあるトランス・マウンテン・コントロール・センターの監視職員に問題があったという。1月23日夕方、スーマス石油ターミナルでは油の移送が行われていた。コントロール・センターのオペレータは警報がなったら15分間以内に対応することになっていたが、油漏洩の警報が鳴っているにもかかわらず、何も処置せず、つぎのシフトとの引継ぎがあるまで、警報は無視され放しだった。
■ 報告書によると、油漏洩の発見までに随分時間がかかっており、コントロール・センターのオペレータは決められた手順で作業を行っておらず、最近導入したデーター収集システムを調べてみると、警報設定が不適切であったことがわかった。国家エネルギー委員会は、キンダー・モーガン社に対して報告書で指摘した事項について是正処置を行うよう勧告し、「委員会は、この改善行動によって、今後、同様な事故を防止することができると判断している」と述べている。
■ 報告書によると、オペレータは警報が鳴っているのは強風によるものだと思い込み、調査のための現場担当者を派遣しなかったという。さらに、オペレータはタンクの容量が減っているのを見過ごしてしまった。
 報告書では、「夜勤のコントロール・センターのオペレータは低下に傾向気がついていたが、当初の容量に比べて小さい変化であり、天候の影響だと解釈し、漏れの可能性について考えなかった」という。

■ 時間ははっきり断定できなかったが、1月23日の真夜中ごろ、浮き屋根式タンクの雨水排水系統において水が凍結し、その圧力で屋根との接続ガスケットが破損したために漏洩が起こった。当時、気温は低く、風も強く吹いていた。夕方の早い時間から加温された原油がタンク内に移送されていた。移送が終わった頃、コントロール・センターのオペレータは警報を設定し忘れていた。
 警報システムは、新しいシステムと従来からあるシステムの2つが設置されていた。新しいシステムは1月23日午後11時26分に設定されたが、監視用に使用されるもう一つの従来からあるシステムは1月24日午前1時11分まで設定されていなかった。
■ 1月24日午前2時39分、従来からあるシステムから最初の警報が鳴った。コマンド・センターのオペレータは誤報と判断した。午前3時11分、パイプラインに設置されている新しいシステムから2回目の警報が鳴ったが、オペレータは再び誤報とみなした。午前4時11分、3回目の警報が鳴った。オペレータは注目すべきことだと思ったが、タンク液位の変化状況は確認しなかった。そして、引継ぎ簿にメモを記載したのみだった。次の直が午前5時に到着した。日勤のオペレータはタンク液位を確認したが、1KLの変化で計測器の精度範囲だと思った。
■ 午前5時47分、4回目の警報が鳴った。午前5時50分、オペレータはスーマス・ターミナルの担当者へ調査に行くよう指示した。ターミナルの担当者は6時50分に現場へ到着し、漏れを発見した。そして、屋根排水系統のバルブを閉め、漏洩源を縁切りした。 午前7時、最初の臭気の苦情がコントロール・センターに届いた。
■ 環境保護団体のデビッド・スズキ財団の事務局長であるジェイ・リッチリン氏は、今回の事実は、ミシガン州のカラマズー川で発生した「エンブリッジ流出事故-2010年」と同様、トランス・マウンテン・パイプラインの従業員が警報を無視したために起こっており、エドモントン~バーナビー・パイプラインと同様のトランス・マウンテン計画に懸念を覚えるといい、「どんなに高度なシステムがあっても、流出事故があるということです。今回のケースは実にひどいヒューマン・エラーだと思います。悲劇的なことですね。何かしなければならないと思っているときにも、人の健康と環境に対して重大な害を与える化学物質の漏洩が起こるということです。流出事故はもっと起こると思います。そして、私たちは、現実的な対応の難しさを目の当たりにしました。市民は本当に安全に実行することができるかどうか疑いの目で見るようになったと思います」と語った。
 比較された「エンブリッジ流出事故-2010年」とは、エンブリッジ・ノーザン・ゲートウェイ・パイプラインにおいてエドモントンにある監視オペレータが、漏洩警報が鳴ったにもかかわらず、17時間の間、対応しなかったため、20,000バレル(3,200KL)の油流出に至った事故である。
■ 流出事故後、キンダー・モーガン社広報担当のレクサ・ホーベンシールドさんは、弁明するように「住民の方にご迷惑をかけたのは、不快な臭いだけだったのです」と語っている。ホーベンシールドさんはEメールで、「私どもの施設で起こったすべての事故について私どもは重大にとらえています。2012124日、スーマス石油ターミナルの施設で貯蔵タンクから防油堤内に油を漏らした事故について、私どもは徹底した調査を行い、教訓を得ました。調査結果から、私どもは予防策と地元への広報の仕方について改善方法を確立しました。私どもは、スーマス・マウンテイン地区とのコミュニケーションが円滑にいくようにしましたし、これからも改善を図って参ります」と回答している。
■ アボッツフォードの住民でパイプライン反対派のマイケル・ヘイル氏は、国家エネルギー委員会の報告書を読み、「会社の体質の中には、何か起こっても事の重大性を小さくみせようとするところがあります」と懸念を強調するように語った。

補 足 
■  「カナダ」は、北アメリカ大陸の北部に位置し、連邦立憲君主制国家でイギリス連邦の加盟国である。10の州と3の準州をもち、人口は約3,400万人で、首都はオンタリオ州のオタワである。
 「ブリティッシュコロンビア州」は略してBCと呼ばれ、太平洋に面したカナダ最西部に位置し、人口約430万人で、州都はビクトリアである。
 「アボッツフォード」はブリティッシュコロンビア州の南西部に位置し、人口約12万人の都市である。

■ 「国家エネルギー委員会」 (National Energy Board)は、1959年、カナダ政府によって設立された独立した経済的な規制機関である。公共の利益に資するように石油・ガス・電力産業の調整を行い、エネルギー資源開発・利用について政府に助言する。エネルギー資源の輸出入許認可権やパイプライン・送電線の敷設許認可権を持ち、新設に際して公聴会を開くなど環境・安全管理対策を重視している。

■ 「キンダー・モーガン社」(Kinder Morgan Inc.)は、米国のエネルギー会社で、1997年に設立され、北米を中心にパイプライン輸送と石油貯蔵を行なっている会社である。Kinder Morgan Energy Partnersが親会社で、本社は米国テキサス州ヒューストンにあり、従業員は約8,000人である。
 事故のあったアボッツフォードのスーマスには、パイプライン用ポンプステーション兼貯蔵所の石油ターミナルがあり、6基のタンクを保有して総量103,000KLの貯蔵能力がある。石油ターミナルは遠隔管理で常時は無人と思われる。しかし、トランス・マウンテン・コントロール・センターのあるエドモントンと石油ターミナルのあるアボッツフォードは直線距離で約800kmあり、ターミナルの担当者は1時間ほどで到着できる所に駐在し、石油ターミナルとパイプラインルートの点検・操作などを行うものと思われる。
キンダー・モーガン社スーマス石油ターミナル。漏洩のあったタンクは右端タンクのいずれかである。
(写真はBCLocalNews.comから引用から引用)
■ 「トランス・マウンテン・パイプライン」(Trans Mountain Pipeline)は、エドモントンとバーナビー間1,150kmを結ぶパイプラインで、1952年に建設され、1953年にバーナビーからの出荷が始まった。
  2005年以降、キンダー・モーガン社が運営している。パイプラインは、36インチ径×150km、30インチ×170km、24インチ×830kmで、バッチング方式によって1本のパイプラインで原油(重質、軽質)、ガソリン、ディーゼル燃料の4種を移送しており、輸送能力は225,000バレル/日(約1,500KL/h)であるが、実能力は300,000バレル/日(約2,000KL/h)といわれる。
 近年、アルバータ州のオイルサンドから精製された原油をアジア向けに供給を拡大するため、太平洋側へのパイプラインの能力増強が計画されている。

■ 「ワイルダーネス・コミッティ」は正式にはWestern Canada Wilderness Committeeであるが、カナダでは略してWilderness Committeeと呼ばれる。カナダ太平洋側の自然を保護することを目的に1980年に設立された非営利環境教育団体で、ブリティシュコロンビア州のバンクバーを本拠して30,000人を超える会員がいる。戦略的な研究と草の根的な教育を通じて、野生の土地の保護、野生動植物の保護、公有地の防衛、太平洋岸の維持、健康づくりの支援を行なっている。

■ 「デビッド・スズキ財団」( David Suzuki Foundation)は、1980年にデビッド・スズキ氏らが設立した環境保護の財団である。カナダのブリティシュコロンビア州バンクーバーに本部を置き、カナダおよび米国に40,000人の資金提供者がいる。

所 感
■ 今年1月に起こった当該事故は、当ブログで「カナダのキンダー・モーガン社の石油ターミナルで油流出」として2月に紹介したが、当時は、石油ターミナル内のパイプラインから漏れた事故という情報だった。また、石油ターミナル近くの住民からの臭気クレームが発端で、漏れが発見されたという報道だった。しかし、事故発生源はパイプラインでなく、タンク内の原油が防油堤内に流出したものだった。そして、流出の発見が遅れたのは、再三、警報が鳴ったにもかかわらず、オペレータが誤報だと予断し続けて、現場に担当者を派遣しなかったためというヒューマン・エラーだった。
 警報システムには誤報がありうる。おそらく、以前にも強風や計測感度などの影響で誤報した例があったに違いない。そのために警報システムが2系統にされたと思われるが、機能が十分活用されていなかった。コントロール・センターのオペレータは、警報システムへの信頼が希薄な上に、石油ターミナルの担当者が1時間ほどかかるところにおり、現場調査の指示をためらう気持ちがあったと思われる。しかし、一旦、このような雰囲気が出ると、緩慢な職場風土になっていく。 事故自体は大事故ではなかったが、国家エネルギー委員会が調査に乗り出し、結果を公表するほど、操業の管理体制を問題視したのだと感じる。 

■  漏洩の直接原因は、浮き屋根タンクの雨水排水系統の配管接続部が凍結してガスケットが破損したためであった。今年11月初めに、当ブログで「安全警告;浮き屋根式タンクの雨水排水系統の健全性」(2011年6月、英国石油産業協会;UKPIA)を紹介したが、今回の事故原因はUKPIAの安全警告通りの事例だった。カナダはイギリス連邦加盟国であり、 UKPIAの安全警告の情報が入っている可能性は高い。カナダのキンダー・モーガン社が事例活用をしたかどうかはわからないが、まさに、リスクマネジメントの観点から、浮き屋根の雨水排水系統における漏れは、いろいろな要因によって、ある日、突然、顕在化する可能性があることを認識させられる事例である。

後記; 石油ターミナルという石油業の施設管理を行うオペレータは、危険物の知識があり、設備の機能・構造を熟知した人ですよね。一旦、事故が起こると、人の生命や環境に大きな影響を及ぼすので、責任感を持って従事しなければならない大変な仕事です。今回の事例のオペレータ(だけでなく、マネージャーも含む)の資質はどうだったのでしょうね。
 ところで、先日、朝日新聞に「石油備蓄基地管理 入札せず委託延長」という記事が比較的大きく報道されていました。内容は、国家石油備蓄基地を管理する独立行政法人「石油天然ガス・金属鉱物資源機構」が、民間会社に委託している契約を一般競争入札を行わず、延長しようということへの問題提起です。法制上は正しい見方といえないことはありませんが、元々おかしな体系なのです。放漫な石油開発事業を行った石油公団が解体されることになり、国家石油備蓄基地を管理する体制がおかしな体系になってしまったのです。石油公団に代わって石油天然ガス・金属鉱物資源機構が国から委託を受けて備蓄基地を管理するという建前となり、従来、国家石油備蓄基地を実質管理していた会社を一旦無くし、新たに操業だけを石油天然ガス・金属鉱物資源機構から委託される会社になったのです。
 これによって、国家石油備蓄基地を実質管理していた会社は石油業から警備業に変わったのです。ですから、警備業を対象にした一般競争入札が可能(?)になったわけです。でも、何かおかしいですよね。石油備蓄基地という石油業の施設管理をアルバイトのオペレータで管理するようなものです。
 無駄な費用は落とさなければなりませんが、入札の是非でなく、おかしな体系をやめることが先決だと思いますね。











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