2012年11月30日金曜日

大型浮き屋根式タンクの新しい泡消火モニター

 今回は、2012年に米国ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社から大型の浮き屋根式タンク用に開発された泡消火モニターについて紹介します。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・FireDirect.net, New Tyco Monitor for Floating Roof Storage Tank, October 5, 2012
      ・OMAGdigital.com,  AMBUSH Mega-tank Fire Suppression Solutions, (Eric LaVergne Tyco), Industrial Fire World-Summer 2012  
      ・WilliamsFire.com, Learn about Ground-Baced TypeⅢ Tactics and AMBUSH System-based Applications

 <概 要>
■ ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社は、浮き屋根式タンク用の泡消火モニターを新しく開発したので、この設備について紹介する。

 <設備の内容> 
■  新しく開発された泡消火モニターは、“待ち伏せ攻撃”を意味するアムブッシュ(Ambush)と称し、外部浮き屋根式タンクの全面火災とリム・シール火災に対して効果的な泡消火システムを構築できるように設計されたものである。
新しい泡消火モニター“アムブッシュ”(AMBUSH)
(写真はFireDirect.netら引用) 
■ 全面火災の消火設備としては、過去の経験をもとに多量の水と泡を供給できるよう開発された搬送式の大容量泡放射砲(ビッグ・ガン)がある。この大容量泡放射砲は、火災タンクからある程度距離をとって配置し、“オーバー・ザ・トップ”と呼ばれる側板越えの放射曲線によって安全な消火攻撃が可能である。この地上配置場所からタンク火災表面へ泡混合液を放射するモニターは、“タイプⅢアプリケーション”と呼ばれている。
■ リム・シール火災の消火設備の一つには、固定式泡消火システム(フォーム・チャンバーまたはフォーム・ポアラー)があり、 “タイプⅡアプリケーション” と呼ばれている。この泡消火設備は、タンク自体に取付けた無人のシステムで、泡混合液を滝のようになって流すようになっている。この方法は、屋根のシール部のみを目標にして比較的少量の泡放射で済むようにしている。従って、固定式泡消火システムは全面火災の消火活動には不十分だということがわかっている。
■ タンクの外側から放射する場合、 タイプⅢアプリケーションでは泡がうまく火災面に降下するように配慮しなければならない。風の影響を受けてタンク内側へ届かなかったり、地上からの攻撃では泡放射流が先に従って弱まっていきやすい。タイプⅡアプリケーションのような固定式システムでは、泡放射量すなわちガロン/分/平方フィートを増やすことができる可能性を持っている。
■ “アムブッシュ”をタンク側板上部の縁に取り付けることによって、タイプⅢアプリケーション型のモニターがタンク中心に向かって泡放射して全面火災に対応し、同時にタイプⅡアプリケーション型のモニターがタンク壁沿いを横方向に泡放射してシール部火災に対応することができる。 “アムブッシュ”システムをタンクの縁に設置することで、風の影響を無くしたりあるいは弱めたりすることができ、屋根シール部へは強力に泡放射することができる。このため、結果的には、“タイプⅢアプリケーション”型モニターを使用するよりも消火時間を短縮し、泡混合液の使用量も少なくすることができる。
(写真はWilliamsFire.comの動画から引用)
=開発の理由=
■ 固定式泡消火システムのように “アムブッシュ”システムは固定式であり、搬送式の大容量泡放射砲に比べると、初動の開始時間が速く、必要な人員も少なくて済む。また、固定式“アムブッシュ”システムは必要な泡放射量(ガロン/分/平方フィート)を低く設定でき、必要な流量を少なくすることが可能である。そして、このシステムを使用することによって、特別な訓練が少なくて済み、火災に近い危険な場所で操作する消防士を減らすことができる。

= “アムブッシュ”システムの性能=
■  “アムブッシュ”システムは異なったサイズにすることができる。各サイズの機能は同じである。放射流は4つに分かれる。左右の放射流は、お互いに等しく、タンク壁に対して“アムブッシュ”ユニットの左方向と右方向へ泡を出すようになっている。上向き放射流はわずかに角度を付けており、タンク中央方向へ泡を放出するようになっている。4番目の放射流はタンク側板裏面に対して少量の泡を出し、 “アムブッシュ”ユニットの下部エリアの防護を行う役目になっている。
(写真はWilliamsFire.comの動画から引用)
■ 複数の上向き泡放射流がタンク中央部に向かって集中的に放出し、タンク中央部の火災を消火させる。その後、泡はタンク側板方向へ向かって流れる。同時に、左右の泡放射流はタンク周囲に放出され、タンク側板近くの火災を消火させる。タンク側板部の火災が消火できたら、この左右の泡放射流から放出された泡はタンク中央部の方向へ流れ始め、上向き泡放射流の泡と一緒になり、表面を覆うようになる。そして、タンク全面が完全に泡で覆われる。 
■ アムブッシュ・システムの種類 
     種 類                タンクの大きさ                          流  量
 アムブッシュ3305  160フィート未満  (48m未満)      411~   682ガロン/分(1,553~2,578 L/分)
 アムブッシュ4421  161~230フィート(49~70m)      696~1,154ガロン/分(2,630~ 4,362 L/分)
 アムブッシュ5541   231~310フィート(70~94m)       949~1,573ガロン/分(3,587~ 5,946 L/分)
 アムブッシュ6661  311~360フィート(95~109m)   1,138~1,888ガロン/分(4,301~ 7,136 L/分)
 アムブッシュ6681   361~410フィート(110~124m)  1,328~2,203ガロン/分( 5,020~ 8,327 L/分)
 アムブッシュ8811   411~500フィート(125~152m)  1,708~2,832ガロン/分( 6,456~10,705 L/分)
 (訳者注;本表は1ユニット当たりの流量を示しており、例えば、タンク周囲に6ユニットを設置すれば、必要な流量は上記数値を6倍すればよい)

=開発の背景=
■ ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社は、30年以上にわたって、石油火災の対応分野においてリーダーシップを発揮してきた。特に、タンク火災に関するそれまでの戦術を変え、対応に適した特別な消火設備を開発・製作してきた。
■ ウィリアムズ社は、大型タンクの全面火災に対して、“オーバー・ザ・トップ”と呼ばれるタンク側板越えの泡放射を可能した泡放射モニターの開発に成功し、タイプⅢと呼ばれる放射性能;6,000ガロン/分(22,700 L/分)、10,000ガロン/分(37,800L/分)、15,000ガロン/分(56,700L/分)のモニターを世に送り出してきた。
■ しかしながら、貯蔵タンク建設における最近の傾向は直径400フィート(122m)を超えるものが出てきており、さらに直径500フィート(152m)のタンクが計画されつつある。このような超大型タンクの火災事故に必要な資機材、ロジスティクス、消火戦術は、防火設備に払える代価規模を越えている。また、このような超大型タンクではタンク間距離の低減も検討されている。
■ このような状況変化は、従来の地上からの消火戦術では、消火活動の安全を確保するのが難しくなっている。このため、ウィリアムズ社は、地上式のタイプⅢ泡消火モニターを超大型タンクの側板上部の縁に持ってくる方法を開発した。この新しい泡消火モニターによって、火災時に曝露される消防士を少なくすることができ、必要な消防資機材を減らすことができ、そして全面火災時に必要な泡放射量を確保できるものとした。
地上攻撃では、タンクが大きくなるに従って泡放射砲の許容配置距離が制限される。タンク縁に設置する“アムブッシュ” では、消防士を危険に曝すことなく、泡放射量を確保できる。   (写真はWilliamsFire.comから引用) 
 <解 説> 「Industrial Fire World – 2012」におけるEric LaVergne(Tyco)氏の発表
■ 建設エンジニアリングの発展によって、直径400フィート(122m)を超える浮き屋根式タンクの製作が可能となってきたが、このような原油を貯蔵する巨大タンクにおける防火対策は逆に難しくなっている。タンクの直径が360フィート(110m)、420フィート(128m)と大きくなるに伴って、そのタンク全面火災を有人による地上攻撃で消火するために必要なマンパワー、泡消火薬剤の保管量、展張ホース、供給水量などの資機材は、ローカルで保有する範囲を越えている。最も重要なことは、このような巨大タンクにフットプリント理論に基づいて泡混合液を放射するために、操作する消防士を防油堤内の距離範囲へ入れなければならないかもしれないということである。しかし、これは許容できないことである。
■ このような状況から、最近、ウィリアムズ社はアムブッシュ・システムを開発した。この最新の設備は、タイプⅡとタイプⅢの泡消火設備を組み合わせ、巨大タンクの側板上部の縁に取り付け、リム・シール火災と全面火災に対応できるようにしたものである。必要ならば、この2つを分けて使ったり、一緒に使ったりもできる。
■ リム・シール火災の消火は、従来、タイプⅡに相当するフォーム・チャンバーあるいはフォーム・ポアラーから消火泡を重力でシール部に流し込むか、あるいは消防士がタンクの階段を昇っていき、踊り場に泡モニターノズルを設置し、タンク内を横断して泡放射する方法で対処できていた。しかし、巨大タンク規模の直径では、この人による方法はとれないので、アムブッシュ・システムでは頑丈なタイプⅡの泡消火設備で泡を放射し、巨大タンクのリム・シール火災に対応できるようにした。
■ 全面火災では、地上からタイプⅢの泡放射モニターを使用して消火することが多い。この方法では、搬送式の大容量泡放射砲を火災タンクから離れた安全な位置に設置し、泡混合液を放射する。
 直径が400フィート(122m)近くになるような巨大タンクの場合、大容量泡放射砲の弾道距離の限界によってタンク中心部に泡を放射するためには、大容量泡放射砲を火災タンクに近づけなくてはならず、地上からの攻撃は消防士を危険に曝すようになる。
■ 大規模なタンク火災には、ローカルで保有している資機材では対応できないものもあり、消火活動のためにいろいろな組織・機関の協力を要する。多くの経験を積んだ消防機関でさえ、準備に時間を要することがあり、厳しいタンク火災と戦うには特別な訓練が必要になる。しかし、特にタイプⅢの泡放射モニターを用いる地上攻撃の消火活動については、自治体や一般工場の消防組織では教育や訓練が行われていない。さらに、巨大タンクが建設されている場所は小さな町の外れにあることが多く、地元消防署やボランティア型消防の人たちに重い負荷をかけることになる。アムブッシュ・システムが設置されていれば、消防士への負担は軽くなり、熟練を要する設備からも開放される。
■ 最近、実際の浮き屋根式タンクを使用し、アムブッシュ・システムの有効性を実証するテストがウィリアムズ社によって行われた。このテストでは、直径277フィート(84m)のタンクの側板上部の縁にアムブッシュ・システムが6ユニット設置された。アムブッシュ・システムが完全に機能した状態において、全流量は9,000ガロン/分(34,020 L/分)に達し、これは1ユニット当たり1,500ガロン/分(5,670 L/分)に相当する。アムブッシュ・システムのタイプⅡの放出部でカバーされたエリアの泡放射量は、0.13ガロン/分/平方フィート(5.29 L/分/㎡)となった。これは、米国防火協会(NFPA)の最小必要量より25%多い値である。タイプⅢの放出部による泡放出量は、0.22ガロン/分/平方フィート(8.95 L/分/㎡)に相当し、これはNFPAの基準よりはるかに大きい値である。
(写真はWilliamsFire.comの動画から引用)
■ 一旦、貯蔵タンクで火災が起こると、生命と財産が脅かされ、タンク喪失による事業中断は大きな影響を及ぼすことになる。今日、貯蔵タンクは数十年間にわたって数十億ドルの収入を生み出す源となっており、石油・ガス事業のリーダーには、最も貴重な財産の一つであるタンクが大火災事故に遭った場合の長期間にわたる損失について考えてもらいたい。トップダウンでタンク火災への防護に取り組むべきである。

補 足
■ 「ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社」(Williams Fire & Hazard Control)は1980年に設立し、石油・化学工業、輸送業、軍事、自治体などにおける消防関係の資機材を設計・製造・販売する会社で、本部はテキサス州モーリスヴィルにある。ウィリアムズ社は、さらに、石油の陸上基地や海上基地などで起こった火災事故の消防対応の業務も行う会社である。
 ウィリアムズ社は、2010年8月に消防関係の会社であるケムガード社(Chemguard)の傘下に入ったが、2011年9月にセキュリティとファイア・プロテクション分野で世界的に事業展開している「タイコ社」(Tyco)がケムガード社と子会社のウィリアムズ社を買収し、その傘下に入った。
 ウィリアムズ社の名前を世界的に有名にしたのが、2001年米国ルイジアナ州のオリオン製油所において発生した直径82mのガソリンタンクの全面火災に同社が出動し、大容量泡放射砲を使用して65分で消火させた対応である。この事例は、当ブログで2011年10月に「米国オリオン製油所のタンク火災ー2001」として紹介した。

■ アムブッシュ・システムの性能について今回の情報を整理してみる。実証テストでは、タイプⅡ放出部の泡放射量は5.29 L/分/㎡で、NFPAの最小必要量より25%多く、タイプⅢ放出部の泡放出量は8.95 L/分/㎡で、NFPAの基準よりはるかに大きいというのが正しければ、評価は妥当である。ただし、実証テストは、タンク径70~94mに適用される「アムブッシュ5541」を使用したと思われ、この機種の1ユニットの流量は3,587~ 5,946 L/分の性能で、6ユニットでは21,500~35,700 L/分となり、実証テストの34,020 L/分と符合するが、内訳であるタイプⅢ放出部の8.95 L/分/㎡にタンク全面積を掛けると、約50,000 L/分となり、これだけで実証テストの全流量を超えてしまう。詳細はわからないが、おそらく、泡放射量(L/分/㎡)は、タイプⅡとⅢのそれぞれがカバーするエリア(面積)を設定して算出したと思われる。
 なお、日本の法基準(消防法・石災法)では、浮き屋根式タンクの固定式泡消火設備の放出率は8 L/分/㎡と定められており、75~90m径の浮き屋根式タンクは50,000 L/分の大容量泡放射砲を必要とする。従って、現状の法基準上では適用解釈に課題があるといえる。

所 感
■ 今回の新しい泡消火モニターを知って最初に感じたのは、米国らしい技術開発だということである。大容量泡放射砲を開発してきたウィリアムズ社は、おそらく泡放射砲のサイズ拡大に限界を感じていたに違いない。確かに、オリオン製油所の直径82mのタンク全面火災を消火させた実績があるが、このタンクは高さが9.8mと通常より低く、泡放射条件は良かった。それでも、放射死角(放射位置側のタンク内壁付近)に火炎が残り、別な泡ノズルで対応している。そして、さらに直径の大きい巨大タンクの出現を考えると、地上式の泡放射砲では対応できないと判断し、新しい発想に基づき、“アムブッシュ”システムを開発したのだと思う。リム・シール火災においてタンク上に昇り、泡ノズルで消火する実経験がないと、打ち込む形のタイプ泡放射方法は思いつかないし、思考の根底に消火戦略と消火戦術の思想があるから生まれるアイデアだと感じる。
■ 日本では、固定式泡消火設備や3点セットといわれる高所化学消防車などは全面火災に対して機能せず、大容量泡放射砲システムの導入を法制化して、34mを超える浮き屋根式タンクの保有事業者へ義務付けた。配備後、大容量泡放射砲システムを使用するようなタンク火災はなく、幸いである。しかし、現実の大型タンク全面火災に有効に機能するか、一抹の懸念はある。日本で最大のタンク直径は100.1mである。法律上は80,000 L/分の大容量泡放射砲(複数可)で消火できることになっている。今回の資料でも指摘されているように消防士(防災要員)への教育・訓練、搬送やホース展張の課題、そして輻射熱曝露対策など実際の運用に関する課題は少なくない。
 この点、 “アムブッシュ”システムは興味深い消防設備である。全面火災時の火炎にどのくらい耐えるか、地震時の屋根スロッシングに衝突しないように設置できるかなどの疑問はあるが、特に、日本では石油貯蔵タンクに固定式泡消火設備の設置が義務付けられており、放出口を除く泡消火配管や泡混合設備など既存設備が転用可能ならば、都合の良いシステムといえよう。 

後記; 日本では、10年前、大容量泡放射砲システムは見向きもされませんでした。2003年の十勝沖地震に伴う出光興産北海道製油所のタンク全面火災事故を契機に、既存の消火資機材では対応できないことがわかり、日本でも大容量泡放射砲システムが導入されることになりました。それまで、国内メーカーでは大容量泡放射砲(システム)を製作できるところはなく、急きょ開発・製作に取組みました。あっという間に海外と同じような大容量泡放射砲システムを作ることのできる日本の技術は素晴らしいと思います。
 今回の情報について、消火戦略・消火戦術に関連していても、日本の法基準に合わないような消火設備には関心を払われないだろうな、というようなことを思いながらまとめました。




 









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