2012年8月24日金曜日

貯蔵タンクの火災要因と防止策

 今回は、最近の事故ではなく、2009年に書かれた「貯蔵タンクの火災要因と防止策」(原文標題;Preventing Storage Tank Fires)を紹介します。
 
 本情報はインタネットで得た「Preventing Storage Tank Fires」(Hydrocarbon Processing;2009年11月)の記事について関連事項を要約したものである。
はじめに
■  英国ハートフォードシアで起こったバンスフィールド油槽所の事故はよく知られているが、タンク火災事故の多くはバンスフィールド事故と同じ規模ではない。 石油貯蔵施設ごとに総合的な安全に関して評価しなければならないが、貯蔵タンクに係るリスクを低減したり、仮に火災が起こっても被害の拡大を小さくするような基本事項がある。 この基本事項について検討すれば、リスクを許容レベル以下にすることはできるかも知れない。しかし、完全に無くすというわけにはいかないことは認識しておくべきである。
貯蔵タンクの種類
■  地上式常圧石油貯蔵タンクにはいろいろな型式と大きさがあり、それぞれ火災の危険性をもっている。 一般的に、これらのタンクは直径が3~100mであり、平均高さは16mである。 個々に違うが、石油の貯蔵能力は1.5MMバレル(24万KL)までである。 一箇所の施設に100基を超すタンクを保有するところもある。 一般的に、タンクは土盛りやコンクリート製の防油堤によって個々に分離されている。 しかし、一つの防油堤の中に数基のタンクが入っている場合もある。 このような場合、通常、タンクは同じ内容物をもとにグループ分けされている。 防油堤の高さは、通常、全タンク容量に安全率を加えた容積を保持できる高さに設定される。
 地上式貯蔵タンクの分類方法でよく知られているのは、屋根の設計に基づいて分類する方法である。 大型の常圧地上式タンクの設計基準としてはAPI(American Petroleum Institute)およびBS(British Standard Institute)である。
固定屋根式タンク
■  固定屋根式タンクは、タンク側板に固定して設置された屋根を有する型式である。 屋根の形は、円錐形、ドーム形、平面に近い形のものがあり、リブ構造のものやそうでないものがある。 形式にかかわらず、屋根と側板の溶接部は意図的に弱くして、事故が起こったときに、タンク屋根が側板から外れ、底板や側板の継手部が破断しないようになっている。 こうしてタンクから内容物が流出しないようにしている。 タンクには、通常、ベント装置が付いており、荷繰り、温度変化、圧力変化時に生じる膨張や収縮に追随するようになっている。
浮き屋根式タンク
■  浮き屋根式タンクは鋼製、アルミニウムまたはプラスティック製の浮き屋根を有しており、直接、内容液に浮かんでいるか、あるいはポンツーンを介在して内容液に浮かんでいる。 浮き屋根はタンク液のレベルに応じて上下している。浮き屋根式タンクはタンクの側板と屋根の間にシール部を有している。このシール部がタンク内容物の蒸発を少なくしている。
 API 2021によれば、“タンク設計者は、浮き屋根がタンク火災の危険性に影響のある極めて重要な設計変数であることを認識しておくこと”とある。 浮き屋根が沈まない限り、屋根はタンク内容物の蒸発を少なくするし、浮き屋根と側板の隙間における火災の潜在危険性を小さくする。 通常、この隙間はタンク面積の2%程度である。 そして、浮き屋根と側板の間にシール部があることによってこの隙間は一層小さくなる。
  浮き屋根式タンクは、さらに天候を考慮して追加される屋根をもとに分類される。追加される屋根は、風雨にさらされる浮き屋根を保護するために設置される。 分類はつぎのようになる。
 ▼ 開放型外部浮き屋根式タンク; このタンクでは、浮き屋根自体が直接、外部環境に曝される。 このタンクは“オープン・フローター”と呼ばれることがあり、原油の貯蔵によく使用される。 タンク側板には他で見られるようなベント装置はない。
 ▼ カバー付き内部浮き屋根式タンク; このタンクでは、浮き屋根の上に固定屋根が付き、浮き屋根が直接、外部環境に曝されるのを保護する。 タンクには、浮き屋根と固定屋根の間の空間に“ブリーフ”と呼ばれるベントが設けられ、過充填時にタンク容量以上の液レベルにならないようにされている。 このタンクは、ガソリンのような蒸発性の高い液を貯蔵するのによく使われている。
 ▼ ドーム型外部浮き屋根式タンク; このタンクは、浮き屋根を天候からの影響を防護するためドーム型の屋根を付けるよう改装されたもので、基本的に外部浮き屋根式タンクである。 このタンクは標準的に最終製品を貯蔵するのに使われる。
タンク火災の原因と対策 
■  地上式常圧石油貯蔵タンクは毎年多数の火災が起こっている。 表1はタンクの型式ごとに火災の起こる危険度を示したものである。
過充填火災
■  過充填火災はタンクまたは配管からの漏洩によってタンクまわりの防油堤内で起こる火災である。地上式タンクは型式にかかわらず、すべてこの火災危険性の問題を有している。 この火災のほとんどは設備の不調またはオペレーターのエラーが原因で起こっている。 これらの原因で防油堤内へ油が漏洩してしまう。 バンスフィールド事故はこの種の火災であった。 もし、過充填を発見したら、火災を防止するため着火源を無くすことである。 バンスフィールド事故の場合、着火に至るまで40分間にわたって過充填し続けてしまった。 
ベント火災
■  ベント火災は、通常、タンクへの充填時に、タンクベントから放出される炭化水素ガスに着火して起こる火災である。
■  ベント火災は通常、落雷によってよく起っている。 しかし、電気的なアーク、静電気、タンクまわりでの人の活動によっても可燃性混合気の着火源になりうる。 2003年に起こったオクラホマ州グレンプールのタンク火災の調査結果によると、移送操作の際、オペレーターが流速を速くしすぎたために静電気の帯電が起こったという。 そして、浮き屋根の下から油のベーパーが内部浮き屋根と固定屋根の間の空間に流れ、静電気によってベーパーに着火した。 API RP 2003(Protection Against Ignition Arising Out of Static, Lightning and Stray Currents)では、適正流速およびタンクに静電気の帯電を防ぐ条件を明確に記載している。 外部浮き屋根式タンクを除けば、ベント火災はすべてのタンク型式に起こりうる。
リムーシール火災
■  リムーシール火災は浮き屋根式タンク、特に外部浮き屋根式タンクに特有な火災である。 ある分析によると、リムシール火災の95%は落雷によって発生しており、リムシールを保有する全タンクの0.16%は使用期間中にリムシール火災に遭うといわれている。 図1(標題ページを参照)は人工衛星によるモニタリングに基づく世界の雷分布を示すものである。この図から世界のどの地域も雷の問題を抱えていることがわかる。 その中でヨーロッパと北アジアは比較的落雷を受ける率が低い地域といえる。
■  NFPA 780(Standard for the Installation of Lightning Protection Systems) に従えば、火災に至らないよう落雷のエネルギーを分散するルーフ・シャンツを設置することになっている。 しかし、API RP 545タスクグループによるテストでは、落雷による火災の危険性を減少させるよりも、むしろ実際には危険性を増加させているかもしれないという。テスト結果では、屋根とサブマージ式シャンツは、落雷の条件下においてシャンツと側板の間にアークを生じるという。 屋根の上にシャンツがあるタイプは、可燃性混合気の形成する領域でアークが生じる可能性があり、火災の危険性は一層大きくなる。
■  最近の検討では、つぎの事項を確実に行えば、リムシール火災の危険性を低減できるといわれている。
 ▼ 緊密式の1次および2次の二重シールを採用して、タンクから逃げるベーパーを効果的に抑制すること。
 ▼ サブマージ式接地ケーブルを取付けて、タンク屋根と側板を直接接続させること。 側板がコーティングされていたり、腐食していたり、あるいは側板が真円でなければ、ルーフ・シャンツは側板と屋根が確実に接する役目を果たさない可能性がある。
■  API RP 545タスクグループは、タンク屋根と側板を接続する代替方法について評価する検討をさらに計画している。
 リム火災を発見して早期に対処するため、タンクリムまわりには監視システムおよび消火システムを設置するのが標準である。 これらのシステムは定期的に検査を行い、リム火災が拡大せず、小さい状況のうちに機能を発揮できるように確認しておかなければならない。
全面火災 
■  全面火災はタンクの全液面が火災になることをいう。 さらに全面火災は、「障害物あり全面火災」と「障害物なし全面火災」の2つに分類される。 
■  障害物あり全面火災は、燃焼面が部分的に屋根やパンが障害になって泡放射に支障のある場合の火災をいい、通常、屋根やパンが部分的に沈んでいる場合に起こる。 屋根が沈む理由はつぎのようにいろいろある。
 ▼ 屋根の排水系統が不調で屋根上に雨が溜まる場合。 この理由としては、屋根排水系統が閉塞してしまっている場合、あるいはタンクの設計基準を超えた大量の雨が降った場合である。
 ▼ 屋根のポンツーンの内部にタンク液が一杯になってしまった場合。 この理由としては、ポンツーンの腐食あるいはその他の損傷による場合である。
 ▼ リムシール火災時の消火活動において消火剤投入が不適切で、屋根を沈下させて場合。
 排水系統の閉塞やポンツーンの損傷に関しては、API 653にタンクの定期検査の要領の中で明記されている。 タンク火災を防止する上から、これらのタンク部品は完璧な状態に保持しておかなければならない。
■  障害物なし全面火災は、タンク全面にわたって障害がなく、泡放射が容易に行える場合の火災をいう。 直径45m以下のタンクの場合、有効な消火資機材(水、泡など)と人材が揃えば、消火活動は比較的容易である。 直径45mを超えるタンクの場合、鎮火するのに必要な資機材が大量に必要になるため、火災に対する消火活動はなかなか難しくなる。 この火災は、通常、内部屋根のない固定屋根式タンクに起こる。 発災に伴い、屋根と側板の溶接部が切断され、屋根がタンク外に飛んでしまうからである。
■  障害物なし全面火災(続)   この全面火災はまた、タンク屋根の排水能力が設計値を超えるような集中豪雨が降った場合、外部浮き屋根式タンクで起こる。 2001年6月8日ルイジアナ州ノルコで起こった全面火災は、これまで鎮火に成功した最も大きなタンク火災である。 直径82m、高さ10m、容量325,000バレル(51千KL)のタンクが熱帯性嵐“アリソン”に伴って発生した落雷を受けた。 タンクは火災発生後13時間経過したあと、65分の消火活動で鎮火に成功した。 使われた消火用水の量は、バンスフィールド事故で使用された全水量の50%を超えていた。
火災危険性の低減 
■  タンク火災の危険性をまったく無くすことは不可能であるが、適切な設計、適切な運転、適切な保全指針を明確にして確実に実施していけば、危険性を低減することはできる。 API 653の規格に従って適切な検査を実施していくことは、既設貯蔵タンクの設計および保全を明確にしていくことになる基本である。 API 653に記載されている検査には3種類があり、つぎのとおりである。
■  日常の供用中検査   この検査(点検)には、タンクの目視検査、漏洩、側板の歪み、安定性、腐食、基礎の状態、塗装、保温および付属物に関する外表面点検を含む。
■  定期の外部からの検査   タンクの腐食に関する余寿命が20年未満の場合、外部からの検査は供用中に5年毎または5年より早く行わなければならない。 後者の場合、検査の周期は予測されるタンク余寿命の1/4の年数で行わなければならない。 検査すべき箇所は、防油堤、基礎、側板、側板の付属物、操作用構造物、ウィンドガーダー、屋根、内部浮きデッキ、防火システムおよびタンクミキサーである。
■  開放の内部検査   タンクの内部検査は少なくとも20年毎に行わなければならない。 ただし、リスク・ベース・インスペクション方法を代替して採用すると判断した場合、あるいは予測した計算上の寿命の1/4の年数の周期で検査すると判断した場合を除く。 もしはっきりした腐食率を得ていなければ、10年以内に検査をしなければならない。 この検査を実施するためには、タンクは空にして清掃しなければならない。 検査項目としては目視検査に加えて、漏れ試験、磁粉探傷試験、超音波肉厚測定を実施する。 検査の第一目的は、タンク底板に著しい腐食がないことを確認し、底板と側板の最小板厚のデータを収集し、タンク底板の安定性を明確にして評価を行い、タンクを継続して使用することに対する健全性を保証することである。 さらに、側板と屋根の内面について全面腐食や局部ピッチングについて検査を行う。 タンクにポンツーンが付いていれば、破損に至るような歪みや腐食がないことを評価するための検査を実施する。
■  これらの検査に加えて、貯蔵施設で必要な内容を決めて、継続していくことが大事である。 グレンプールのタンク爆発火災では、要領に書かれていた内容どおり実施していれば、 タンク火災は恐らく避けられていたと思われる。 自分たちで決めた検査内容や推奨される工業規格を無視すれば、火災に至るような事故は避けられない。
 API RP 2021には、タンク火災を防止する石油貯蔵タンクに関する設計、運転、保全および検査について参考になる資料が明示されている。 
 ▼ 流出制御および過充填に対する防護方法(API RP 2350)
 ▼ 落雷のような環境着火要因、特に開放型浮き屋根貯蔵タンクのシール火災の関係(API RP 2003およびNFPA 780)
 ▼ タンクの適正配置およびスペース(NFPA 30)
 ▼ 火災の制御および消火設備とシステム(API RP 2001およびNFPA 11)  これは小火災から拡大することを防止するために役立つ。 
 ▼ タンクの安全な洗浄(API Std 2015およびRP 2016)
 これらの規格や参考資料は、貯蔵タンクを安全に操業しようと努力しているオペレータや担当部署の人たちにとって大いに役立つ。 しかし、これらが安全操業の代用になるわけでなく、継続的な安全操業は適切な訓練を受けた人たちによって達成されるのである。 

所 感
■ 今回の資料はタンク火災の多くの経験からよくまとめられている。 タンク火災の発生頻度、タンク規模による消火の容易性、タンク開放検査の周期など定量的で興味深い点が多い。
 特に直径45m以下のタンクの場合、障害物なし全面火災では、有効な消火資機材(水、泡など)と人材が揃えば、消火活動は比較的容易だと述べている。米国では総じてタンク高さは低く、直径45mのタンクは容量20,000KLクラスだと思われる。
 一方、日本では、高さ20mを超え、容量30,000KLを超えるタンクもあり、直径45m以下でも消火活動は容易とはいえない。2003年9月26日、北海道十勝沖地震による出光興産北海道製油所のナフサタンク全面火災は、直径42.7m、高さ24.3mで容量32,779KLの浮き屋根式タンクだった。当時としては有効な消火資機材と考えられていた石油コンビナート等災害防止法に基づく3点セット(大型化学消防車、大型高所放水車、泡原液運搬車)は何台あっても有効に機能しなかった。放射した泡が火炎の勢いに吹き飛ばされ、燃焼面に届かなかった。このタンク火災が、日本で大容量泡放射砲システム導入のきっかけとなった。
■ リムシール火災の項で「シャンツ」に関する記載があり、シャンツが落雷時に火花発生の要因になっているという問題提起である。また、米国のタンク火災の要因として落雷があげられ、タンク構造の要因としては、今回の資料には詳細を記載されていないが、浮屋根と側板のシールとしてのメタルシール(メカニカルシール)がある。 米国ではメタルシールの採用している例が少なくない。 大型タンクのメタルシールは、資料でも言及されているようにタンクが真円でなく、わずかに隙間の出る箇所ができ、この間隙が落雷時に放電する危険性がある。
 これらのシャンツやメカニカルシールに関する問題については2010年のAPIタンク会議で発表されており、本ブログでは2011年5月に「可燃性液体の地上式貯蔵タンクの避雷設備」として紹介している。
 なお、幸いなことに日本国内では、シャンツやメカニカルシールは使用されていない。日本国内では、タンク浮屋根はソフトシールが一般的であり、この点、落雷による火災の危険性が低くなっていると思われる。  


後記; 夏の高校野球は決勝戦で大阪桐蔭が青森の光星学院に勝ち、春夏連覇の優勝で終わりました。田中投手のいた駒大苫小牧高校を思い出させるような本当に強い大阪桐蔭高校でした。節電のため午前中の決勝戦でしたが、電力不足もなく、猛暑を乗り切りました。日本の「国民は一流」だと感じました。
 ところで、地元、山口県周南市にある出光興産徳山製油所のアスファルト・硫黄出荷場の解体工事が始まりました。製油所の閉鎖が決まっていますが、もともとアスファルト・硫黄出荷場は製油所構外の場所にあり、以前から使用されていませんでした。現在は、写真のように解体のための防火壁など仮設工事が行われています。タンクや配管内に可燃性物質が残存していなければ、昔と違って解体用重機が発達しており、あっという間にタンクは解体されるでしょう。










2012年8月18日土曜日

米国ウェストバージニア州でガソリンタンクから油漏洩

 今回は、2012年7月31日、米国ウェストバージニア州ニューマーティンズビルにあるトライ-ステート石油のローリー出荷場にある貯油タンクからガソリンが漏洩した事故を紹介します。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・WetzelChronccle.com, Gasoline Leaks from Vertical Tank, August 1, 2012
      ・TheIntelligencer.net, Storage Tank Leaks  2,000 Gallons of Gas,  August 1, 2012 
 <事故の状況> 
■  2012年7月31日(火)午後12時過ぎ、米国ウェストバージニア州ウェッツル郡にある燃料油ローリー出荷場の貯油タンクからガソリンが漏洩する事故があった。事故のあったのは、ウェッツル郡ニューマーティンズビルのメイン・ストリートにあるトライ‐ステート石油が所有している立型貯油タンクで、ガソリンの漏洩量は約6,000ガロン(22KL)で、うち1,500~2,000ガロン(5~8KL)が防油堤外に出たとみられる。
■ ニューマーティンズビル消防署のラリー・カウチ署長によると、タンクは87オクタンの無鉛ガソリン用で容量18,000ガロン(68KL)だという。事故当時、タンク内にどのくらいガソリンがあったかはわからないが、営業開始時点では11,000ガロン(42KL)入っていたという。

■ 燃料油ローリー出荷場は、通常、無人である。カウチ署長は、「ローリー車の一台が配管の一部にぶつかって事故を起こしたのは明らかです。その後、ローリー車は現場を立ち去っています。タンクの底部につながっているバルブ本体が壊されていました。運転手は呼び径3インチのバルブを車で壊したことに気づかなかったようです」と語った。
■ ニューマーティンズビル消防署に油漏洩の緊急通報が入ったのは午後1212分だった。通報が入るまでに、どのくらいの時間漏れていたかはわかっていない。
■ 法律によって、出荷場の外に油が流出しないように防油堤が設けられている。 カウチ署長は、堤外へ流出した油の量を1,0002,000ガロン(48KL)とみている。幸いなことに、油は近くの水路系に流入していないとみられる。カウチ署長は、「現時点で、フィッシング・クリークやオハイオ川に油膜は見られません」と語った。
                事故以前の貯油タンク底部付近 (写真はグーグルマップのストリートビューから引用

■ 消防隊は、事故のあったタンクから漏れた油を仮設ホースを使って可搬式水タンクへ回収した。回収した油はローリー車に移送された。カウチ署長は、「回収できたガソリンの量は4,000ガロン(15KL)以上です」と説明した。
■ 事故発生に伴い、近隣の住民が避難させられることになった。しかし、火災や爆発などの災害は起こらなかった。カウチ署長からの指示で、ニューマーティンズビル警察は、ウエストバージニア・ノーザン・コミュニティ・カレッジを含め、6軒の住宅と5つのビルに居る住民の避難を行った。
 ニューマーティンズビルの電力部の作業員は当該地区への電力を停止し、街路部は周辺の通りの交通遮断を行った。
 ニューマーティンズビル消防署は、ペーデン・シティ、クラリングトン(オハイオ州)、サーディス(オハイオ州)の各消防署からの応援をもらった。カウチ署長は、「近隣の消防署から応援してもらって本当に感謝しています」と述べている。結局、事故発生から収束までに5時間かかった。
■ ウェストバージニア州環境保全局およびアメリカ合衆国環境保護庁の担当官が現場へ立入り、コンプライアンスに関する調査とクリーンアップの状況確認が行われることになっている。トライステート石油はウィーバータウン・エンヴィロンメンタル社と契約を結び、現場の修復作業が81日の朝から始まった。
 ニューマーティンズビル消防署のカウチ署長は、「私は、明日8月1日に、ウェストバージニア州環境保全局とアメリカ合衆国環境保護庁の担当官と会ってフォローアップし、事がすべて順調に進んでいくことを確認する予定です」と語った。

補 足 
■  「ウェストバージニア州」は米国東部にあり、アパラチア山脈中に位置しており、山岳州である。人口約1,850万人で、州都はチャールストンである。アメリカ合衆国統計局はウェストバージニアを南部の州として扱っている。元々、バージニア州の一部だったが、南北戦争でバージニア州が南部連合に属した際、奴隷制度に反対する人々が分離して独立した州となった。 
 「ウェッツル郡」はウェストバージニア州の北部に位置し、人口約16,500人の郡である。
 「ニューマーティンズビル」はウェストバージニア州ウェッツル郡にあり、郡庁所在地の町で、人口約5,900人である。 ニューマーティンズビルはオハイオ川沿いにあり、対岸はオハイオ州になる。
 応援に出動した「ペーデン・シティ」はニューマーティンズビルの南にあり、人口約2,800人の町である。「クラリングトン」はニューマーティンズビルの北にあるオハイオ州の町で、人口約380人である。「サーディス」もオハイオ州の町で、ニューマーティンズビルの南にあり、人口約550人である。

■ 「ニューマーティンズビル消防署」はボランティア型の消防署で、 38名のボランティア消防士がいる。今回の現場に出動したペーデン・シティ、クラリングトン、サーディスの各消防署もボランティア型の消防署である。

■ 「トライ‐ステート石油」(Tri-State Petroleum)は、1974年に設立され、ウェストバージニア州ホイーリングに本社を置く燃料油の流通会社である。ウェストバージニア州、オハイオ州を中心に300以上の顧客にガソリンの卸売を行い、家庭用暖房油の販売を行っているほか、コンビニエンスストアの経営も行っている。
 ニューマーティンズビルには、燃料油の貯油タンクを有し、ローリー出荷場がある。

 トライ-ステート石油のローリー車の例
(同社ウェブサイトから引用)

■ 「ウィーバータウン・エンヴィロンメンタル社」(Weavertown  Environmetal)は、1981年に設立され、主に廃棄物の輸送や処理を行っている環境サービス会社である。本社はペンシルバニア州カーネギーにあり、ペンシルバニア州、ウェストバージニア州、オハイオ州、ケンタッキー州を中心に操業している。



 ウィーバータウン・エンヴィロンメンタル社の所有車両の例
       (同社のウェブサイトから引用)

所 感
■ 燃料油のローリー出荷場における油漏洩事故は少なくない。燃料配管などへの車両衝突のほか、連結ホースをつないだまま、車両を動かして油を漏洩した事例もある。 今回の事例はガソリン配管のバルブ(呼び径3インチ)を壊したとあり、配管系統の配置が悪いのではないかと思ったが、ローリー出荷場のグーグル・ストリートビューを見ると、必ずしも配管が車両とぶつかりやすい形状には見えない。(事故時の標題写真のタンク塗装状況と比べると、事故時は塗り替えられており、配管形状も改造されている可能性はあるが)
 しかし、原因はローリー車による損壊であり、ローリー車の動きによって損壊しやすい盲点があったに違いない。たとえ車両の操縦ミスがあっても、油の配管が壊されないようなガードなどの対策が必要だったと思われる。
■ 今回の事故対応は、米国らしいボランティア型の消防署が出動して行われた事例である。油漏洩による環境汚染事故は本来、環境保全部署が行うが、本事例では、ガソリンという引火しやすい油が漏れ、民家に近い場所という緊急事態であり、初期対応の5時間を消防署で行っている。しかも、管轄の違う隣の州であるオハイオ州の消防署が応援している。従来から、協力関係が備わっていなければ、このような迅速な対応はできないと思われる。さらに、住民の避難、電力カット、交通遮断を警察などの自治体関係機関と連携をとって適確に行われたという印象をもつ。




後記; 今回、事故現場の状況を理解する上でグーグルマップのストリートビューが極めて役に立ちました。貯油タンクがメイン・ストリートからやや奥に入ったところにあり、人が気づきにくい場所であること、ローリー出荷場の風景、避難のあった町の家並みなど文章で表現できない状況がよくわかります。
 グーグルマップのストリートビューは個人情報のプライバシーを侵害するという意見をいう人もいますが、このような事故情報を調べていると、グーグルマップやストリートビューは現地の雰囲気を理解する上で有用です。
 







2012年8月14日火曜日

米国テキサス州のタンク施設が落雷によって火災

  今回は、2012年7月18日、米国テキサス州アランサス郡ロックポートにあるデリック建設所有のタンク施設に落雷があり、火災となった事例を紹介します。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・KZTV10.com, Rockport  Tank Fire Sparked  by  Lightning, July 18, 2012
      ・KZTV10.com, Lightning Strike Blamed for  Rockport  Oil  Tank, July 18, 2012
  ・KiiiTV.com, Lightning Strike Causes  Oil Tank Battery  Fire in Rockport, July 19, 2012
  ・RockportPilot.com, Lightning Suspected Cause of Tank Fire ,  July 20, 2012 

<事故の状況> 
■  2012年7月18日(水)午前11時過ぎ、米国テキサス州アランサス郡ロックポートにあるタンク施設に落雷があり、大きな火災となる事故があった。事故のあったのは、アランサス郡空港の近くで、ロックポート北約1マイル半(2.4km)の農道FM1781号線沿いにあるタンク施設で、海洋工事会社のデリック建設が所有している。
■ 雷は油が少し入ったタンクに落ちて爆発を誘発し、それからファイバーグラス製の塩水を含んだ油タンクに延焼した。火勢が強い時には、真っ黒な煙が立ち上り、数マイル先(6~7km)からも見えたという。
 フルトン消防署のリッキー・マクレスター署長は、事故に伴って近くのコパノ湾への油流出はなかったと語った。
■ 緊急連絡があったのは18日午前1114分で、ただちにロックポート消防署とフルトン消防署が出動した。この消防隊が現地に到着する前に、緊急連絡の内容と立ち上る煙の状態から応援要請が行われ、イングルサイド、アランサス・パス、ラマーの各消防署が出動した。計35名以上の消防士が出動し、難燃性泡消火剤を使用して消火活動を行い、約2時間後に制圧した。結局、2基のタンクが損壊したが、消防隊の迅速な対応によって広範囲な延焼は食い止めることができた。
 消防士2名が火災の熱による疲労のため手当てを受けたが、症状は軽く、大丈夫だった。
■ 事故が起こった時、近くのキャンプ・アランザズーでボランティアに従事しているタミー・シェルトンさんは、「稲妻が光ったあと、ドカーンという音が聞こえたわ。と同時に、火の手が上がるのが見えたわ」と語った。 近くを通っていた人も落雷後に火災が起こったと話している。
 シェルトンさんは、「火災が起こったとき、キャンプ内には大人や子供が80名ほどいたわ。アランザス郡保安官事務所とハズマット隊の人がみえられ、キャンプ内に留まっていた方がいいと言われたので、別な場所へ避難はしませんでした」と語った。
                                                    (写真はKiiiTV.comから引用)
■ 当時、施設内には誰もおらず、怪我人も出なかった。また、近くの家にも被害はなかった。しかし、警察は予防措置として農道FM1781号線を一時、交通遮断した。
■ ロックポート消防署のジリアン・コックス広報官によると、消防隊は現地に到着したあと、ゲートに掛けられていた鎖を切断して構内に入った。発災現場では、1基のタンクが、まわりの34基のタンクを巻き込むような状況で激しく火災を起こし、周辺のタンク設備全体が延焼し、場合によっては爆発を起こす可能性もある状況だった。消防当局によると、事故の状況としてはよくなく、悪かった部類に属するという。
■ 消火活動に入ったとき、消防隊が最初に把握すべきことは、タンク内で燃えているのが何かであった。フルトン消防署のリッキー・マクレスター署長によると、落雷があったタンクには、塩水が多量に入っていたが、一部原油を含んでいた液体だったという。落雷によってタンクが壊れ、そのために火災が周辺に広がってしまった。
 炎との戦いの中、消防士は激しい暑さを相手にしなければならなかった。幸いなことに、消防隊は十分な水とシェードを確保でき、活動することができた。
■ コックス広報官によると、消防隊は火炎の熱を防護しながら、他のタンクへの延焼防止に努めた。それから、漏れた油は防油堤内に封じ込め、火災はエアフォーム・システムによって消火するように努めた。火災は出動してから約2時間以内で制圧することができた。しかし、消防隊は現場に3時間以上留まった。この火災事故で使用した消火用水は約100,000ガロン(378KL)とみられる。
 コックス広報官は、「消防士は火炎と日射による厳しい熱に悩まされました。火災現場では、熱による怪我や症状が出ないように何人かの消防士がモニタリングしていました。幸い、病院へ搬送されるような住民や消防士は出ませんでした。そして、人員・資機材に問題なく、消防隊はそれぞれの署へ帰還することができました」と語った。 
■ 事故発生に伴う要請として、アランサス郡消防署、アランサス郡EMSアランサス郡保安官事務所、州消防局、アランサス郡緊急事態管理コーディネータ、リファイナリー・ターミナル消防会社、テキサス州環境品質委員会、総合国土事務所の緊急時対応部署も現地へ入った。 
                                                    (写真はKZTV10.comから引用)
                                                    (写真はKiiiTV.comから引用)
                                               (写真はKiiiTV.comから引用
                                               (写真はKiiiTV.comから引用
                                               (写真はKiiiTV.comから引用
                                             (写真はKiiiTV.comから引用
                                            (写真はKiiiTV.comから引用

補 足                                                         
■  「テキサス州」は米国南部に位置し、人口約2,500万人で、州都はオースティンである。 テキサス州はメキシコ湾岸沿いで、落雷の多い州の一つである。 
 「アランサス郡」はテキサス州の南東部に位置し、人口約23,000人の郡である。
 「ロックポート」はテキサス州アランサス郡にあり、郡庁所在地の町で、人口約8,700人である。 「フルトン」はロックポートに隣接し、人口約1,500人の漁港の町である。

■ 「デリック建設」(Derrick Construction)は、1980年に設立され、テキサス州ロックポートに本拠を置く海洋工事の建設会社である。従業員は50名ほどで、主にメキシコ湾岸の海洋構築物の建設や保全工事を行っている。
 今回の事故のあったロックポートのタンク施設は、海洋工事に伴って出た含油系の排水を貯蔵・処理する設備だと思われる。


■ 「ロックポート消防署」および「フルトン消防署」はボランティア型の消防署である。今回の火災現場に出動した近くの町であるイングルサイドは人口約9,300人、アランサス・パスは8,100人、ラマーは1,600人で、各消防署ともボランティア型の消防署である。
 なお、イングルサイドにはフリント・ヒルズ社の石油貯蔵タンク基地があり、2009年4月に野火による構内火災があった。この火災の消火活動には、今回の火災事故で追加出動要請のあったリファイナリー・ターミナル消防会社が参加している。

■ 「リファイナリー・ターミナル消防会社」(Refinery Terminal Fire Company;RTFC)は、1948年テキサス州テキサスシティの災害をきっかけに設立され、現在、米国最大の非営利団体の産業消防グループである。
 フリント・ヒルズ社など近隣の会社がメンバー会社となり、石油、石油化学、パイプライン、港設備で起こる火災、危険物質の除去、レスキュー、医療救急などの緊急時に対応している。専門の消防士100人超のメンバーを確保し、7つの消防署で24時間体制の業務を行っている。保有資機材が充実しているほか、訓練設備を保有しており、月々の教育スケジュールを作成し、必要な教育と訓練を行っている。

■ 発災事故のあったタンク施設の近くにある「キャンプ・アランザズー」は、慢性疾患や障害を持つ人々のニーズに応えるために設立された非営利のキャンプ施設で、ボランティア活動で運営されている。キャンプ施設やウォータースポーツ活動だけでなく、日常の治療法や薬を必要とするキャンパーのための医療施設を有している。

所 感
■ 落雷によるタンク火災事故の紹介は今年4件目で、テキサス州では2件目である。発災のあったタンク施設は、海洋工事の建設会社が所有し、タンク内には主に塩水が入っているので、海洋工事に伴う油を含んだ排水を貯蔵・処理するものだと思われる。
■ 今回の消火活動はボランティア型の消防署が複数出動して対応するという米国らしい消火活動の事例である。また、メディアの記事も消火活動に関する内容が多い。消火活動中、熱対策に留意し、モニタリングしながら対処していたなどの情報は興味深いし、使用した消火水量を明らかにするのは米国では一般的である。今回の事例の写真はロックポート消防署から提供されており、情報公開がオープンだと感じる。
■ 一方、最悪の状況を想定して判断されたものと思うが、 石油施設の火災対応の専門会社であるリファイナリー・ターミナル消防会社に出動要請している。ここには、事故の拡大防止と早期収拾を念頭にした事故対応の戦略思考がある。
 この戦略的思考は日本に欠けている思考性のひとつだと思う。例えば、今回のような一般のタンク施設でタンクが壊れ、堤内火災になった場合、近くに大容量泡放射砲システムの設備を保有しているところがあっても、管轄が違う、法や規則が整備されていないなどを理由に出動要請を行うということはないだろう。火災という戦争に面したとき、もし戦略的思考があれば、火災を制するあらゆる物量を調達し、現地へ供給するという考えになる。

後記; ひとつの海外の火災事故情報を調べていくと、その国の国情が垣間見えます。今回の事例の場合、今も、米国の地方ではボランティア型の消防署が活躍し、日本の大容量泡放射砲システムクラスの設備を保有している民間の消防会社があり、開拓精神が続いています。今回の場合、発災場所に近いところにキャンプ・アランザズーという施設があり、「補足」で記載したように、これもボランティアで運営されています。このキャンプ・アランザズーはウェブサイトを開設し、ビデオで施設を紹介しており、りっぱな施設ということがわかりますが、何よりも人の博愛精神が素晴らしいと感じました。
























2012年8月7日火曜日

米国オハイオ州でタンクが爆発して死者1名

  今回は、2012年7月16日、米国オハイオ州タスカラワス郡ボリバー付近を通っているルート212号線沿いのウィルシャー・ヒルにあるMKEプロデューシング社の油井用タンクが爆発して塗装の補修作業中だった19歳の若者が亡くなった事故を紹介します。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・TimesReporter.com, Canton-Area Man Died in Bolivar Blast, July 17, 2012
  ・13ABC.com, Firefighters: Blast at  Ohio Oil Well Site Kills 1,  July 17, 2012
  ・WKSU.org, Storage Tank at Oil Gas Well Explodes, July 17, 2012
      ・TheIntelligencer.net,  Worker Dead In Tank Blast,  July  17,  2012

<事故の状況> 
■  2012年7月16日(月)、米国オハイオ州カントンの近くにある油井用のタンクが爆発し、死者1名を出す事故が起こった。事故のあったタンク施設は、タスカラワス郡ボリバー付近を通っているルート212号線沿いのウィルシャー・ヒルにあるMKEプロデューシング社の原油と天然ガス用の井戸に付設されていたものである。
■ 亡くなったのは、 カントンのジャクソン・タウンシップに済むMKEプロデューシング社の社長マイケル・シャーマン氏の子息ポール・シャーマンさん(19歳)である。シャーマン社長によると、ポールさんは大学生で、カントンに本社のある同社の下請けの仕事もしていたという。
 事故調査を始めた当局によると、被害者が、7月16日月曜、油井現場で塗装の補修作業を行っていたところ、午前9時50分少し前に爆発に遭ったという。
 タスカラワス郡検屍官のジェームス・ヒューバート博士は、火曜の夕方になっても被害者の名前を公表しなかった。博士によると、水曜の午後、歯型の記録と照合して100%確認するまで公表を控えているという。
■ 水曜日に出された死亡記事によると、ポール・シャーマンさんは2011年にカントン・セントラル高校を卒業しており、演説・ディベート部に所属し、演劇やトラック競技をやっていた青年だという。シャーマン社長によると、昨年、ボールドウィン‐ウォーレス大学に通っていたが、今秋、ケント州立大学のスターク・キャンパスに代わる計画だったという。
■ 現場近くにあるグループホームに勤めている人の話によれば、爆発があった時、地面が揺れたように感じ、油井の方角を見たという。そうすると、貯蔵タンクの上部が100フィート(30m)ほど上空へ噴き飛び、その後、油が道路や草原に降ってきたという。その時すぐには、何が起こったのか、なぜ爆発したのかわからなかったという。 
■ 爆発によってタンクは設置されていた場所から約50ヤード(45m)飛んでおり、現場近くの人たちを驚かせた。
 塗装作業を行うために現場にいた若者が亡くなり、近くの住民を驚愕させた油井用貯蔵タンクの爆発した原因については調査官が分析しているところである。
 ボリバー消防署のマーティ・ハス署長の話では、2人の人間が塗装作業を行うため油井の現場へ行ったが、そのうち1人は爆発の起こる少し前に呼び戻されたという。このあと、何が起こったのか調査官は調べている。
■ 現場近くの人の幾人かは地震だと思ったという。ジャック・ジョンソンさんは、最初、小型飛行機が墜落したかと思ったといい、つぎのように語った。
 「9時半ちょっと過ぎだったけど、一瞬立ちすくんだね。家がガタガタと揺れ、家の裏口から出ていくと、野原の上を越えていくものが見えた。よく見ると、これがタンクなんだ。あとで、油井用のタンクが爆発したものだとわかったよ。おとなりの人も、空中を飛んでいくのがはっきりと見えたって言ってたよ」
■ 現場近くに住むジャクソンさんによれば、油の井戸は3~4年前にできたもので、現在は井戸のメンテナンス中のようだったという。
 住民のひとりであるブランドル・デロングさんは、消防隊が到着する前に現場を知っている人だが、つぎのように語った。
 「現場は現実の世界ではないと思ったわ。事故が起こったとき、とても大きな音がして、裏口のドアがぱっと開き、衝撃で地下室のドアが開いたわ。座っていても、窓の方へ行き、外を見たら、何かが飛んでいるのよ。でも、次の瞬間、真っ黒い煙と火災になってたわ。そして、太陽がオレンジ色になった。黒い煙の後ろに太陽が隠れ、オレンジ色に輝いていたわ」 
                  噴き飛んだタンク上部  (写真はTimesReporter.comから引用

■ タンクには、原油に付随して出てきた天然ガスが貯蔵されていたという。そして、火炎が少なくとも50フィート(15m)の高さに上がり、タンクは噴き飛び、約50ヤード(45m)離れた丘の中腹面に落下した。
 ジャック・ジョンソンさんは恐怖映画の場面みたいだったといい、つぎのように話している。
 「かなり悪い状況で、野原が全部火で燃えてしまうのではないかと思ったよ。でも、消防隊がいち早く到着し、消火してくれたよ」
■ ボリバー消防署と近隣の消防隊が制圧に当たり、約2時間かけて安全な状況を確保した。ハズマット隊および関連の安全担当者は一日をかけて事故の原因について現場調査を行った。
■ 爆発のあった地区は地方の住宅地だった。爆発して破片が飛んでおり、この地区が危険にさらされていたとタスカラワス郡検屍官は語っている。
                    火災の起こっている発災場所  (写真はTimesReporter.com から引用)


補 足
■  「オハイオ州」は、米国中西部に位置し、人口約1,100万人で、州都はコロンバスである。
 「カントン」はオハイオ州東北部のスターク郡にあり、人口約73,000人の都市である。
 「タスカラワス郡」はスターク郡の南に位置し、人口約92,000人である。
 「ボリバー」はタスカラワス郡にあり、カントンの南に位置し、人口は約900人の町である。

■ 「MKEプロデューシング社」はオハイオ州カントンに本拠を置く石油会社で、従業員2名で地方の小規模の原油掘削・生産を行っている。
 今回の発災場所である油井はタスカラワス郡ボリバーにある。油井用のタンクが爆発して飛んでいるが、飛距離について報道によって50ヤード、200ヤード、1/4マイルなど差異がある。記事や写真を総合すると、それほど離れていないように思われ、50ヤード(45m)の値を採用した。
          噴き飛んだタンクの向う側に白煙が上がっているのが、発災場所と思われる
                    (写真はTimesReporter.com から引用)

■ 「ボリバー消防署」は、タスカラワス郡ボリバー町のボランティア型消防署である。今回の火災現場にボリバー消防署とともに出動したのは、タスカラワス郡の消防署と思われ、ハズマット隊を有している。
  ハズマット(HAZ MAT )とは、Hazardous Materials(危険性物質)の略称で、危険性物質に対応できる資機材と人材を有する消防組織内の特殊部隊である。日本でもサリン事件以降、大都市圏の消防に組織されているが、今回の事例で見るように米国ではかなり広く組織されていることがわかる。
           火災現場に出動したタスカラワス郡消防署のハズマット隊   (写真はWKSUNewsから引用

所 感
■ 今回の事故原因は調査中であるが、塗装の補修作業中だったとあり、
米国、CSBU.S. Chemical Safety Board;化学物質安全性委員会)が過去の事故事例を分析してまとめた「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」(①代替方法の採用、②危険度の分析、③作業環境のモニタリング、④作業エリアのテスト、⑤着工許可の発行、⑥徹底した訓練、⑦請負者への監督)のいずれかが欠けていたものと思われる。 (「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」は当ブログの20117月に紹介)
 特に今回の事例は、小規模なタンク施設で、且つオーナーの親族が下請け工事を行うという形態であり、7つの教訓が活かされにくい状況だったと思われる。「7つの教訓」の中にも油井用タンクでの事故が2件紹介されており、米国では憂慮すべき事例だといえよう。
■ その点、日本では、事例のような油井用のタンク施設はほとんど無いと言ってよく、今回のような事故が起こるケースはないと思われるが、タンク設備では、甘い火気工事管理を行うと、死に至る事故につながることだけは再認識しておく必要がある。

後記; 今回、情報を整理する中で一番惑わされたのが、発災場所と噴き飛んだタンク部品の落下位置です。住民の目撃情報、現場写真、グーグルマップを付き合わせながら考えました。グーグルマップも航空写真の平面地図は比較的最新のものですが、ストリートビューは3年ほど前の写真ですので、今回のような新しい住宅地区では少し風景が違っているようです。
 情報が一つだと、疑いようがありませんが、複数の情報があると、内容に差異があるところが出てきます。このときはできるだけ整合のある内容に努めますが、現地で取材をしているわけではないので、最後に決めるのは経験と勘ですね。
 ところで、ロンドンオリンピックが始まりましたが、予想以上のメダルラッシュで、日本人が活躍していますので、再放送を見る時間が多くなり(さすがに真夜中のライブは見ていませんが)、このブログために調べる時間が少なくなっていますね。