今回は、2012年7月31日、米国ウェストバージニア州ニューマーティンズビルにあるトライ-ステート石油のローリー出荷場にある貯油タンクからガソリンが漏洩した事故を紹介します。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
・WetzelChronccle.com, Gasoline Leaks from Vertical Tank, August 1, 2012
・TheIntelligencer.net, Storage Tank Leaks 2,000 Gallons of Gas, August 1, 2012
<事故の状況>
■ 2012年7月31日(火)午後12時過ぎ、米国ウェストバージニア州ウェッツル郡にある燃料油ローリー出荷場の貯油タンクからガソリンが漏洩する事故があった。事故のあったのは、ウェッツル郡ニューマーティンズビルのメイン・ストリートにあるトライ‐ステート石油が所有している立型貯油タンクで、ガソリンの漏洩量は約6,000ガロン(22KL)で、うち1,500~2,000ガロン(5~8KL)が防油堤外に出たとみられる。
■ ニューマーティンズビル消防署のラリー・カウチ署長によると、タンクは87オクタンの無鉛ガソリン用で容量18,000ガロン(68KL)だという。事故当時、タンク内にどのくらいガソリンがあったかはわからないが、営業開始時点では11,000ガロン(42KL)入っていたという。
■ 燃料油ローリー出荷場は、通常、無人である。カウチ署長は、「ローリー車の一台が配管の一部にぶつかって事故を起こしたのは明らかです。その後、ローリー車は現場を立ち去っています。タンクの底部につながっているバルブ本体が壊されていました。運転手は呼び径3インチのバルブを車で壊したことに気づかなかったようです」と語った。
■ ニューマーティンズビル消防署に油漏洩の緊急通報が入ったのは午後12時12分だった。通報が入るまでに、どのくらいの時間漏れていたかはわかっていない。
■ 法律によって、出荷場の外に油が流出しないように防油堤が設けられている。 カウチ署長は、堤外へ流出した油の量を1,000~2,000ガロン(4~8KL)とみている。幸いなことに、油は近くの水路系に流入していないとみられる。カウチ署長は、「現時点で、フィッシング・クリークやオハイオ川に油膜は見られません」と語った。
|
事故以前の貯油タンク底部付近 (写真はグーグルマップのストリートビューから引用)
■ 消防隊は、事故のあったタンクから漏れた油を仮設ホースを使って可搬式水タンクへ回収した。回収した油はローリー車に移送された。カウチ署長は、「回収できたガソリンの量は4,000ガロン(15KL)以上です」と説明した。 ■ 事故発生に伴い、近隣の住民が避難させられることになった。しかし、火災や爆発などの災害は起こらなかった。カウチ署長からの指示で、ニューマーティンズビル警察は、ウエストバージニア・ノーザン・コミュニティ・カレッジを含め、6軒の住宅と5つのビルに居る住民の避難を行った。 ニューマーティンズビルの電力部の作業員は当該地区への電力を停止し、街路部は周辺の通りの交通遮断を行った。 ニューマーティンズビル消防署は、ペーデン・シティ、クラリングトン(オハイオ州)、サーディス(オハイオ州)の各消防署からの応援をもらった。カウチ署長は、「近隣の消防署から応援してもらって本当に感謝しています」と述べている。結局、事故発生から収束までに5時間かかった。 ■ ウェストバージニア州環境保全局およびアメリカ合衆国環境保護庁の担当官が現場へ立入り、コンプライアンスに関する調査とクリーンアップの状況確認が行われることになっている。トライ‐ステート石油はウィーバータウン・エンヴィロンメンタル社と契約を結び、現場の修復作業が8月1日の朝から始まった。 ニューマーティンズビル消防署のカウチ署長は、「私は、明日8月1日に、ウェストバージニア州環境保全局とアメリカ合衆国環境保護庁の担当官と会ってフォローアップし、事がすべて順調に進んでいくことを確認する予定です」と語った。
補 足 ■ 「ウェストバージニア州」は米国東部にあり、アパラチア山脈中に位置しており、山岳州である。人口約1,850万人で、州都はチャールストンである。アメリカ合衆国統計局はウェストバージニアを南部の州として扱っている。元々、バージニア州の一部だったが、南北戦争でバージニア州が南部連合に属した際、奴隷制度に反対する人々が分離して独立した州となった。 「ウェッツル郡」はウェストバージニア州の北部に位置し、人口約16,500人の郡である。 「ニューマーティンズビル」はウェストバージニア州ウェッツル郡にあり、郡庁所在地の町で、人口約5,900人である。 ニューマーティンズビルはオハイオ川沿いにあり、対岸はオハイオ州になる。 応援に出動した「ペーデン・シティ」はニューマーティンズビルの南にあり、人口約2,800人の町である。「クラリングトン」はニューマーティンズビルの北にあるオハイオ州の町で、人口約380人である。「サーディス」もオハイオ州の町で、ニューマーティンズビルの南にあり、人口約550人である。
■ 「ニューマーティンズビル消防署」はボランティア型の消防署で、 38名のボランティア消防士がいる。今回の現場に出動したペーデン・シティ、クラリングトン、サーディスの各消防署もボランティア型の消防署である。
■ 「トライ‐ステート石油」(Tri-State Petroleum)は、1974年に設立され、ウェストバージニア州ホイーリングに本社を置く燃料油の流通会社である。ウェストバージニア州、オハイオ州を中心に300以上の顧客にガソリンの卸売を行い、家庭用暖房油の販売を行っているほか、コンビニエンスストアの経営も行っている。 ニューマーティンズビルには、燃料油の貯油タンクを有し、ローリー出荷場がある。
トライ-ステート石油のローリー車の例 (同社ウェブサイトから引用)
■ 「ウィーバータウン・エンヴィロンメンタル社」(Weavertown Environmetal)は、1981年に設立され、主に廃棄物の輸送や処理を行っている環境サービス会社である。本社はペンシルバニア州カーネギーにあり、ペンシルバニア州、ウェストバージニア州、オハイオ州、ケンタッキー州を中心に操業している。
ウィーバータウン・エンヴィロンメンタル社の所有車両の例 (同社のウェブサイトから引用)
所 感 ■ 燃料油のローリー出荷場における油漏洩事故は少なくない。燃料配管などへの車両衝突のほか、連結ホースをつないだまま、車両を動かして油を漏洩した事例もある。 今回の事例はガソリン配管のバルブ(呼び径3インチ)を壊したとあり、配管系統の配置が悪いのではないかと思ったが、ローリー出荷場のグーグル・ストリートビューを見ると、必ずしも配管が車両とぶつかりやすい形状には見えない。(事故時の標題写真のタンク塗装状況と比べると、事故時は塗り替えられており、配管形状も改造されている可能性はあるが) しかし、原因はローリー車による損壊であり、ローリー車の動きによって損壊しやすい盲点があったに違いない。たとえ車両の操縦ミスがあっても、油の配管が壊されないようなガードなどの対策が必要だったと思われる。 ■ 今回の事故対応は、米国らしいボランティア型の消防署が出動して行われた事例である。油漏洩による環境汚染事故は本来、環境保全部署が行うが、本事例では、ガソリンという引火しやすい油が漏れ、民家に近い場所という緊急事態であり、初期対応の5時間を消防署で行っている。しかも、管轄の違う隣の州であるオハイオ州の消防署が応援している。従来から、協力関係が備わっていなければ、このような迅速な対応はできないと思われる。さらに、住民の避難、電力カット、交通遮断を警察などの自治体関係機関と連携をとって適確に行われたという印象をもつ。
後記; 今回、事故現場の状況を理解する上でグーグルマップのストリートビューが極めて役に立ちました。貯油タンクがメイン・ストリートからやや奥に入ったところにあり、人が気づきにくい場所であること、ローリー出荷場の風景、避難のあった町の家並みなど文章で表現できない状況がよくわかります。 グーグルマップのストリートビューは個人情報のプライバシーを侵害するという意見をいう人もいますが、このような事故情報を調べていると、グーグルマップやストリートビューは現地の雰囲気を理解する上で有用です。 |
0 件のコメント:
コメントを投稿