今回は、2012年7月16日、米国オハイオ州タスカラワス郡ボリバー付近を通っているルート212号線沿いのウィルシャー・ヒルにあるMKEプロデューシング社の油井用タンクが爆発して塗装の補修作業中だった19歳の若者が亡くなった事故を紹介します。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
・TimesReporter.com, Canton-Area Man Died in Bolivar Blast, July 17, 2012
・13ABC.com, Firefighters: Blast at Ohio Oil Well Site Kills 1, July 17, 2012
・WKSU.org, Storage Tank at Oil Gas Well Explodes, July 17, 2012
・TheIntelligencer.net, Worker Dead In Tank Blast, July 17, 2012
<事故の状況>
■ 2012年7月16日(月)、米国オハイオ州カントンの近くにある油井用のタンクが爆発し、死者1名を出す事故が起こった。事故のあったタンク施設は、タスカラワス郡ボリバー付近を通っているルート212号線沿いのウィルシャー・ヒルにあるMKEプロデューシング社の原油と天然ガス用の井戸に付設されていたものである。
■ 亡くなったのは、 カントンのジャクソン・タウンシップに済むMKEプロデューシング社の社長マイケル・シャーマン氏の子息ポール・シャーマンさん(19歳)である。シャーマン社長によると、ポールさんは大学生で、カントンに本社のある同社の下請けの仕事もしていたという。
事故調査を始めた当局によると、被害者が、7月16日月曜、油井現場で塗装の補修作業を行っていたところ、午前9時50分少し前に爆発に遭ったという。
タスカラワス郡検屍官のジェームス・ヒューバート博士は、火曜の夕方になっても被害者の名前を公表しなかった。博士によると、水曜の午後、歯型の記録と照合して100%確認するまで公表を控えているという。
■ 水曜日に出された死亡記事によると、ポール・シャーマンさんは2011年にカントン・セントラル高校を卒業しており、演説・ディベート部に所属し、演劇やトラック競技をやっていた青年だという。シャーマン社長によると、昨年、ボールドウィン‐ウォーレス大学に通っていたが、今秋、ケント州立大学のスターク・キャンパスに代わる計画だったという。
■ 現場近くにあるグループホームに勤めている人の話によれば、爆発があった時、地面が揺れたように感じ、油井の方角を見たという。そうすると、貯蔵タンクの上部が100フィート(30m)ほど上空へ噴き飛び、その後、油が道路や草原に降ってきたという。その時すぐには、何が起こったのか、なぜ爆発したのかわからなかったという。
■ 爆発によってタンクは設置されていた場所から約50ヤード(45m)飛んでおり、現場近くの人たちを驚かせた。
塗装作業を行うために現場にいた若者が亡くなり、近くの住民を驚愕させた油井用貯蔵タンクの爆発した原因については調査官が分析しているところである。
ボリバー消防署のマーティ・ハス署長の話では、2人の人間が塗装作業を行うため油井の現場へ行ったが、そのうち1人は爆発の起こる少し前に呼び戻されたという。このあと、何が起こったのか調査官は調べている。
■ 現場近くの人の幾人かは地震だと思ったという。ジャック・ジョンソンさんは、最初、小型飛行機が墜落したかと思ったといい、つぎのように語った。
「9時半ちょっと過ぎだったけど、一瞬立ちすくんだね。家がガタガタと揺れ、家の裏口から出ていくと、野原の上を越えていくものが見えた。よく見ると、これがタンクなんだ。あとで、油井用のタンクが爆発したものだとわかったよ。おとなりの人も、空中を飛んでいくのがはっきりと見えたって言ってたよ」
■ 現場近くに住むジャクソンさんによれば、油の井戸は3~4年前にできたもので、現在は井戸のメンテナンス中のようだったという。
住民のひとりであるブランドル・デロングさんは、消防隊が到着する前に現場を知っている人だが、つぎのように語った。
「現場は現実の世界ではないと思ったわ。事故が起こったとき、とても大きな音がして、裏口のドアがぱっと開き、衝撃で地下室のドアが開いたわ。座っていても、窓の方へ行き、外を見たら、何かが飛んでいるのよ。でも、次の瞬間、真っ黒い煙と火災になってたわ。そして、太陽がオレンジ色になった。黒い煙の後ろに太陽が隠れ、オレンジ色に輝いていたわ」
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噴き飛んだタンク上部 (写真はTimesReporter.comから引用)
■ タンクには、原油に付随して出てきた天然ガスが貯蔵されていたという。そして、火炎が少なくとも50フィート(15m)の高さに上がり、タンクは噴き飛び、約50ヤード(45m)離れた丘の中腹面に落下した。 ジャック・ジョンソンさんは恐怖映画の場面みたいだったといい、つぎのように話している。 「かなり悪い状況で、野原が全部火で燃えてしまうのではないかと思ったよ。でも、消防隊がいち早く到着し、消火してくれたよ」 ■ ボリバー消防署と近隣の消防隊が制圧に当たり、約2時間かけて安全な状況を確保した。ハズマット隊および関連の安全担当者は一日をかけて事故の原因について現場調査を行った。 ■ 爆発のあった地区は地方の住宅地だった。爆発して破片が飛んでおり、この地区が危険にさらされていたとタスカラワス郡検屍官は語っている。 火災の起こっている発災場所 (写真はTimesReporter.com から引用)
補 足 ■ 「オハイオ州」は、米国中西部に位置し、人口約1,100万人で、州都はコロンバスである。 「カントン」はオハイオ州東北部のスターク郡にあり、人口約73,000人の都市である。 「タスカラワス郡」はスターク郡の南に位置し、人口約92,000人である。 「ボリバー」はタスカラワス郡にあり、カントンの南に位置し、人口は約900人の町である。
■ 「MKEプロデューシング社」はオハイオ州カントンに本拠を置く石油会社で、従業員2名で地方の小規模の原油掘削・生産を行っている。 今回の発災場所である油井はタスカラワス郡ボリバーにある。油井用のタンクが爆発して飛んでいるが、飛距離について報道によって50ヤード、200ヤード、1/4マイルなど差異がある。記事や写真を総合すると、それほど離れていないように思われ、50ヤード(45m)の値を採用した。 噴き飛んだタンクの向う側に白煙が上がっているのが、発災場所と思われる (写真はTimesReporter.com から引用)
■ 「ボリバー消防署」は、タスカラワス郡ボリバー町のボランティア型消防署である。今回の火災現場にボリバー消防署とともに出動したのは、タスカラワス郡の消防署と思われ、ハズマット隊を有している。 ハズマット(HAZ MAT )とは、Hazardous Materials(危険性物質)の略称で、危険性物質に対応できる資機材と人材を有する消防組織内の特殊部隊である。日本でもサリン事件以降、大都市圏の消防に組織されているが、今回の事例で見るように米国ではかなり広く組織されていることがわかる。 火災現場に出動したタスカラワス郡消防署のハズマット隊 (写真はWKSUNewsから引用)
所 感 ■ 今回の事故原因は調査中であるが、塗装の補修作業中だったとあり、 米国、CSB(U.S. Chemical Safety Board;化学物質安全性委員会)が過去の事故事例を分析してまとめた「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」(①代替方法の採用、②危険度の分析、③作業環境のモニタリング、④作業エリアのテスト、⑤着工許可の発行、⑥徹底した訓練、⑦請負者への監督)のいずれかが欠けていたものと思われる。 (「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」は当ブログの2011年7月に紹介) 特に今回の事例は、小規模なタンク施設で、且つオーナーの親族が下請け工事を行うという形態であり、7つの教訓が活かされにくい状況だったと思われる。「7つの教訓」の中にも油井用タンクでの事故が2件紹介されており、米国では憂慮すべき事例だといえよう。 ■ その点、日本では、事例のような油井用のタンク施設はほとんど無いと言ってよく、今回のような事故が起こるケースはないと思われるが、タンク設備では、甘い火気工事管理を行うと、死に至る事故につながることだけは再認識しておく必要がある。
後記; 今回、情報を整理する中で一番惑わされたのが、発災場所と噴き飛んだタンク部品の落下位置です。住民の目撃情報、現場写真、グーグルマップを付き合わせながら考えました。グーグルマップも航空写真の平面地図は比較的最新のものですが、ストリートビューは3年ほど前の写真ですので、今回のような新しい住宅地区では少し風景が違っているようです。 情報が一つだと、疑いようがありませんが、複数の情報があると、内容に差異があるところが出てきます。このときはできるだけ整合のある内容に努めますが、現地で取材をしているわけではないので、最後に決めるのは経験と勘ですね。 ところで、ロンドンオリンピックが始まりましたが、予想以上のメダルラッシュで、日本人が活躍していますので、再放送を見る時間が多くなり(さすがに真夜中のライブは見ていませんが)、このブログために調べる時間が少なくなっていますね。
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