今回は、2025年2月10日(月)、韓国の蔚山市にあるユナイテッド・ターミナル・コリア社のタンクターミナルにおいて、タンク内液の試料採取中にタンクが爆発して火災となり、死傷者2名を出した事例を紹介します。なお、この火災には大容量泡放射砲が使用され、消火しています。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、韓国南東部の蔚山市(ウルサン・し)蔚州郡(ウルジュ・ぐん)温山(オンサン)にあるユナイテッド・ターミナル・コリア社(United Terminals Korea; UTK)のタンクターミナルである。
■ 事故があったのは、タンクターミナルにある容量2,500KLのオイル貯蔵タンクである。内液はソルベートで塗料やインクなどを生産時に希釈剤として使用されるアルコールとエーテル成分の引火点が低い危険物質である。
< 事故の状況および影響
>
事故の発生
■ 2025年2月10日(月)午前11時過ぎ、オイル貯蔵タンクが爆発し、火災になった。
■ 爆発直後に火災が発生し、黒煙が広がり、蔚山消防本部には通報電話が20件以上寄せられた。発災現場から直線距離で10km以上離れた蔚山の都心でも黒い煙が目撃された。
■ 発災にともない、消防隊が出動した。消防隊員58人と消防車など装備23台を動員して初期対応に乗り出したが、火災の状況が激しく、人員93人、装備40台を動員して制圧を試みた。爆発・火災のあったタンク周辺には潤滑油、バイオディーゼル、トルエンなどが貯蔵されたタンクがあり、消防隊は火災が拡散しないように全力を注いだ。
■ 蔚山海洋警察庁は、火災制圧を支援するために特殊艇、救助艇、消防艇などを動員した。また、近くの船舶が安全場所に移動するように措置し、汚染物質の海上流出に備えてオイルフェンスを設置した。
■ 爆発によってタンクの屋根が外れて噴き飛んだ。事故にともない、貨物検定業者の作業員2名(いずれも30歳代)が負傷し、病院に搬送された。そのうち、ひとりは意識不明の状態で病院で手術を受けたが、午後3時頃に死亡した。もうひとりは、足首骨折などの重傷を負ったが、命には支障がないという。
■ 作業員は、ユナイテッド・ターミナル・コリアからの請負者で、タンク内部の製品残量と品質を確認する作業をしていた。作業員は、高さ14.6mのタンクの上部でサンプリング用ハッチ(蓋)を開けて内部を確認していたところ、異常を感じて逃げようとしていたという。避難の過程で墜落したとみられる。作業員は火災になったタンクのそばの地上部に倒れたまま発見された。当時、意識があった作業員のひとりは「タンクのサンプリング用ハッチを開けた瞬間、火災の兆候が見られ、すぐに逃げた」と当時の状況を説明している。
■ 発災当時、容量2,500KLのタンク内には、引火性の高い石油混合製品を約1,600KL保管中だった。
■ 蔚州郡は事故から25分後の午前11時40分、災害安全メールを送り、「車両は建物周辺の道路を迂回して下さい」と呼びかけた。蔚山警察庁も交通警察官などを現場周辺に配置し、安全管理や交通統制などを行った。
■ ユーチューブでは、タンク火災のニュースや動画が投稿されている。主なものはつぎのとおり。なお、韓国版を日本語字幕への変え方については、当ブログの「米国化学物質安全性委員会(CSB)の新たな安全ビデオの日本語字幕」(2025年2月4日)を参照。
●Youtube、「유류 탱크 폭발로 불기둥 치솟아…2명 사상 / KBS」(2025/02/10)
●Youtube、「울산 온산공단 유류 저장탱크 폭발 후 화재…1명 사망·1명 중상 / 연합뉴스TV」 (2025/02/10)
●Youtube、「온산공단 유류탱크 폭발 화재..2명 사상」(2025/02/10)
被 害
■ タンク1基が損傷し、内部の液が一部焼失した。
■ 死傷者2名が出た。内訳は死亡者1名、重傷者1名である。
■ 近くの道路や海上の交通が制限された。
< 事故の原因 >
■ タンク爆発の原因は、作業員の試料採取中、サンプリング・ロッド(採取棒)がタンクとの接触で生じた火花のために発生したという。詳細な原因は調査中である。
< 対 応 >
■ 人材・資機材を増強した消防隊は、人員237人、ヘリコプターを含む消防車両などの装備機材48台を投入した。火災は、約3時間後の午後2時19分に鎮火した。特に、午後1時過ぎに設置した大容量泡放射砲による消火活動が有効だった。
蔚山に保有する大容量泡放射砲は2基あり、1基は放射能力45,000リットル/分で、もう1基は30,000リットル/分で、放射距離は最大130mだった。2基合計の放射能力は75,000リットル/分である。
■ 大容量泡放射砲は別な場所から約40分で到着し、発災から1時間30分後の午後1時9分に水性膜泡消火剤を放射し、約25分で火災は収まった。
■ 消防当局などが正確な火災原因を調査している。
■ 警察は負傷者への聴き取り調査よって、タンク爆発の原因について、作業員の試料採取中、真鍮製のサンプリング・ロッド(採取棒)がタンクとの接触で生じた火花のために発生したことがわかった。また、作業員は静電気の発生を防止する除電服を着用していたという。
■ 2025年2月17日(月)、 蔚山海洋警察署は、国立科学捜査研究院、雇用労働部、産業安全保健公団、国立災害事故調査室などとともに、午前11時から午後1時までの2時間、タンク爆発現場での合同調査を行った。事故タンクと爆発で外れたタンク屋根部などを集中的に調べた。また、現場の捜索を通じて作業者が事故時に使用していたサンプリング・ロッド(試料採取棒)を回収した。
補 足
■「韓国」は、正式には大韓民国で、 東アジアに位置し、人口約5,170万人の共和制国家である。首都はソウル特別市である。
「蔚山市」(グァンヨク・シ、うるさん・し)は、韓国南西部にあり、人口約110万人の広域都市である。
「蔚州郡」(ウルチュ・グン、ウルジュ・ぐん)は、蔚山市にあり、人口約21万人の郡である。
■「ユナイテッド・ターミナル・コリア社」 (United Terminals Korea; UTK)は、1998年に設立した韓国系の物流会社で、ガソリン・灯油・軽油など石油製品や化学製品などの液体貨物の荷役、入荷、保管、出荷など業務を行っている。ユナイテッド・ターミナル・コリア社は、タンク64基、総容量468,450KLを保有する。
■「発災タンク」は、容量2,500KLのオイル貯蔵タンクで、高さ14.6mと報じられている。内液はソルベートで塗料やインクなどを生産時に希釈剤として使用されるアルコールとエーテル成分の引火点が低い危険物質だという。グーグルマップで調べると、発災タンクは固定屋根式で直径約14.5mである。高さを14.6mとすれば、容量は2,575KLとなり、報じられている容量に近い。
発災タンクの屋根は爆発によって外れて飛んだが、被災写真を見ると、爆発後には隣接するタンクの階段部に引っかかって宙に浮く形になっている。事故後の写真では地面に移動している。火災の熱によりタンク側板の上部が座屈して、タンク屋根は落下したものと思われる。
■「大容量泡放射砲」は、ほとんどが放射能力75,000リットル/分と報じている。しかし、1社だけ大容量泡放射砲は2基あり、1基は放射能力45,000リットル/分で、もう1基は30,000リットル/分で、放射距離は最大130mだと修正した。
2基合計の放射能力が75,000リットル/分となるが、日本の法令であれば直径100m級のタンクに必要な放射能力である。発災タンクの直径は約14.5mであり、大容量泡放射砲は必要なく、三点セット(放水能力3,000リットル/分)でよいことになっている。今回の火災では、 1基のみの対応であったが、放射能力45,000リットル/分と30,000リットル/分のいずれを使用したかわからない。いずれもタンクに対して過剰な能力であり、仮に放射能力30,000リットル/分の大容量泡放射砲を使用した場合、20分間で600KLの泡消火水がタンクに投入されることになる。これは発災タンクの液位を3.5m上昇させることになる。
■ 一方、発災タンクの被災写真を見ると、タンク付きの「泡消火設備」とタンク側板への「散水設備」が設置されている。これらの設備は他のタンクにも見られる。しかし、これらの設備が発災時に使用された形跡が無い。日本では、泡発砲器や泡薬剤槽がタンクに近いところに恒設されているが、海外ではタンク付きの配管は設置されているが、消防車の泡を導入する半消火設備の形式が多い。
■ 事故時に使用して事故後に回収された「サンプリング・ロッド」(試料採取棒)の形状は明確でないが、一般的なサンプリング・ロッドは写真のような器具である。
所 感
■ 詳細な原因は調査中であるが、タンク爆発の原因は、作業員の試料採取中、サンプリング・ロッド(採取棒)がタンクとの接触で生じた火花のために発生したと報じられている。しかし、事故状況の報道では、作業員は静電気の発生を防止する除電服を着用し、火花の出ない真鍮製のサンプリング・ロッド(採取棒)を使用しており、作業上の静電気対策や打撃による火花発生防止対策はできている。しかし、爆発が起こっており、タンクの試料採取方法や採取前のタンクの運転管理について精査が必要な事例である。
■ 消火活動は約3時間かかっているが、大容量放射砲の到着に約40分かかり、大容量放射砲の配置やホース接続などで時間を費やし、発災から1時間30分後の午後1時9分に大容量放射砲で消火剤を放射し、約25分で火災を制圧している。この時間消費は遅くはないと思う。
■ しかし、消防活動にはつぎのような疑問が残る。
● タンクには恒設の泡消火設備や散水設備が付いているが、なぜ使用しなかったのか。
● スクワート車やはしご車で放水したものとみられるが、消火戦略がはっきりしない。
● 消火ヘリコプターが使用されているが、タンク火災には効果的でないのはわかっていたはずで、消火戦術がはっきりしない。
● 泡薬剤として水性膜泡消火剤を使用しているが、PFOS(通称ピーホス)と呼ばれる有機フッ素化合物の環境問題がある。泡消火水は構内から出さないようにしたか、また泡消火水は回収して処分する必要があり、この配慮は成されたのか。注;PFOSや泡薬剤については、ブログ「沖縄の米軍普天間飛行場の泡消火剤流出事故(原因)」(
2020年9月)を参照。
● 使用された大容量泡放射砲(放射能力45,000リットル/分または30,000リットル/分)は直径14.5m級(容量2,500KL)のタンクには過剰能力であるが、放射流量を調整したのか。
● 大容量泡放射砲が使われている際、まだタンク火災が収まっていないのに、まわりに関係者でない人(興味や関心ある人と思われるが)が大勢集まり過ぎている。ボイルオーバーやスロップオーバーなどのリスクはどう判断したのか。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・News.yahoo.co.jp, 韓国・蔚山でオイル貯蔵タンクが爆発 作業員1人死亡, February 10,
2025
・Mk.co.kr, 蔚山の温山工業団地で発生した油類貯蔵タンクの爆発·火災事故,
February 10, 2025
・Hani.co.kr, 울산 UTK 유류 탱크 화재…노동자 1명 사망, February 10,
2025
・Yna.co.kr, 울산 온산공단 유류탱크 폭발·화재…2명 사상(종합3보), February
10, 2025
・Haesanews.com,
UTK탱크터미널
폭발사고/ 울산 유류탱크 폭발, 1명 사망·1명 중상…해경, 화재 원인 조사(종합3보) , February 11,
2025
・Khan.co.kr, 울산 온산공단서 유류 저장탱크 폭발로 화재…1명 사망·1명 중상, February
10, 2025
・Ksilbo.co.kr, [현장 사진]17일 발생한 유나이티드터미널코리아(UTK) 유류 저장탱크 폭발·화재 현장, February 17,
2025
・Donga.com, 울산 온산공단 유류탱크 폭발 화재… “옆 탱크 번질 뻔” 아찔,
February 11, 2025
・S-journal.co.kr,
'펑' 소리와 함께 불기둥… 울산 유나이티드터미널코리아
유류 저장탱크 폭발, February 10,
2025
・News.sbs.co.kr,
"탱크
뚜껑 열릴 정도" 굉음 나더니 폭발…긴박했던 순간 , February 11
2025
・Seoul.co.kr, “시료 채취 중 스파크 발생”… 울산 유류탱크 폭발사고 부상자 진술, February
17, 2025
・Chosun.com, 울산 온산공단 내 유류탱크 폭발...부상자 2명 중 1명 숨져, February 10,
2025
・Joiff.com, Tank explosion at Ulsan's United Terminal
Korea kills one worker, injures another,
February 10, 2025
・Joiff.com, 韓国で石油貯蔵タンク爆発、1人死亡、1人負傷,
February 12, 2025
・Business-humanrights.org, S. Korea: Two casualties in Ulsan factory
blaze, February 17,
2025
・World.kbs.co.kr,
2 Injured in Oil Tank Explosion in Ulsan,
February 10, 2025
・Hazardexonthenet.net, Oil storage tank explosion kills one person,
injures another, February 10, 2025
後 記;大容量泡放射砲の放射能力が75,000リットル/分について疑問がありましたが、メディア1社が2基分という修正記事を出したので、解消しました。ところで、「目は口ほどに物を言う」ということわざがありますが、今回の事例では「写真は口ほどに物をいう」と感じました。韓国の記事情報は状況を伝えていますが、被災写真をていねいに見ていくと、記事に無い情報がわかります。人の目線の写真は脅威を感じるほどの威圧感のある写真もありますが、鳥の目の写真は冷静に見ることができます。ドローンによる映像が事故現場に現れるのはさすがに技術の韓国です。消防活動ではドローンによる映像が有効だと言ってきましたが、今回の事例でよく理解できました。
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