2024年11月10日日曜日

米国テキサス州ノットの塩水処理施設でタンク爆発、死傷者4名

 今回は、2024926日(木)、米国テキサス州ハワード郡ノットにある石油生産関連の塩水処理施設でタンクが爆発・火災を起こし、4名の死傷者を出した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国テキサス州Texasハワード郡Howard CountyノットKnottにあるジャンクション・リソーシズ社Junction Resourcesの石油生産関連の塩水処理施設である。

■ 事故があったのは、FM846号線沿いの塩水処理施設にあるタンク群である。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2024926日(木)午前930分頃、塩水処理施設で爆発が起こった。

■ 目撃者のひとりは、現場から大きな爆発音が4回聞こえたといい、爆発は地震のようだったと語っている。

■ 発災にともない、消防署が通報を受け、消防隊が出動した。出動したのは、アッカーリー・ボランティア型消防隊、レノラ・ボランティア型消防隊、スタントン・ボランティア型消防隊、ハワード郡ボランティア型消防隊、マーティン郡ボランティア型消防隊である。

■ 爆発は、塩水処理施設の塩水、コンデンセート、原油が入ったタンクを空にしているときに発生した。作業の終わりが近づいたとき、タンクが発火して爆発を引き起こした。

■ 事故にともない、4名の死傷者が出た。爆発でひとりが死亡し、負傷した3名のうち1名は救急ヘリコプターで搬送され、ほかの2名は救急車で近くの病院に搬送された。

■ FM846号線は、消防活動のため、通行が閉鎖された。

■ 消防隊は数時間にわたって消火活動に当たった。

■ ユーチューブでは、事故に関するニュースが投稿されている。

 ●Youtube1 dead, 3 injured in ‘Junction Resources’ explosion near Howard County2024/09/27

被 害

■ 塩水処理施設内にある複数基のタンクが損壊した。

■ 4名の死傷者が出た。爆発でひとりが死亡し、3名が負傷した。

■ 近くの道路の通行が閉鎖された。

< 事故の原因 >

■ 塩水タンク内の液を抜出し中に、現場で行われた溶接などの火気作業によって引火し、タンクが爆発したものとみられる。

■ 現場では、複数の請負会社が作業していたが、請負業者間の連携が欠如し、請負業者間のコミュニケーションがとられておらず、安全規則と手順が守られていなかった。 

< 対 応 >

■ 消防隊の消火活動によって火は消し止められた。

■ 火災が制圧された後、発災場所が管理会社のジャンクション・リソーシズ社に返されたのち、FM846号線の閉鎖は解除された。

■ 発災当時、現場のエリアでは、溶接などの火気作業が行われていたことがわかった。爆発は、塩水処理施設で溶接作業を含む火気作業が行われていたときに発生した。これらの作業には、火気作業中にタンク設備を所定の位置に固定するために使用されたクレーン作業も含まれていた。 

■ 当時、現場には複数の請負会社がいたが、その中に運送会社のH&Pロジスティック社(H&P Logistics)の従業員も含まれており、火傷によって死亡した。

■ 犠牲者は、法律事務所を通じて現場での過失と安全上の不備を理由にジャンクション・リソーシズ社を訴えた。この事故を調査した結果、施設では重要な安全規則と手順が守られていなかったという。重要な問題のひとつは、爆発当時、現場で作業していた請負業者間の連携が欠如していたことであるという。請負業者間のコミュニケーションがとられておらず、たとえば請負業者Aは請負業者Bが何をしているか知らず、請負業者Bも請負業者Aが何をしているか知らなかったという。全員が安全に作業を行い、火災の危険や爆発を引き起こすようなことをしていないことを確認するための作業安全の検討も行われておらず、安全監督者との調整も行われていなかった。

■ 法律事務所は、適切な安全対策を講じれば今回のような悲劇は完全に防ぐことができると指摘し、「安全規則があるのはそのためです。 この種の事故が起きないように手順を定め、作業コーディネーター会議を開催するのが通常です。現場に安全監督者がいて、すべての作業を監督していれば、全員が他の人が何をしているのかわかっていたはずで、このようなことは起きなかった」と語っている。

■ 専門家は、石油生産関連の施設において塩水タンクなどで使用する地上式貯蔵タンクの爆発や火災は、メンテナンスの不適切、システムの故障、環境要因、人為的ミスが関連しており、つぎのように指摘する。

 ● ベーパーの蓄積; 地上タンクでは、特に圧力開放システムが故障したり、メンテナンスが適切にされていない場合、ベーパーが蓄積する可能性がある。ガスが安全に排出されないと、臨界圧力レベルに達し、爆発につながる可能性がある。空のタンクに残留しているベーパーでも、引火源と接触すると爆発を引き起こす可能性がある。 

 ● 電気火花または静電気放電; 油井エリア内のタンク設備付近において電気機器や配線の不具合、タンクの充填・排出・洗浄中に発生する静電気などによって、可燃性ベーパーが発火することがある。また、タンク設備周辺の空気中に可燃性ベーパーが滞留すると、小さな火花でも爆発を引き起こす可能性がある。

 ● 機器の故障または腐食; バルブ類、計器類、圧力開放システムなどの機器が老朽化したりメンテナンスが不十分だと、可燃性の高い物質が漏れ出す可能性が高い。また、タンクや接続配管の腐食によって油やガスが漏れ出して爆発性雰囲気が生じる可能性がある。

 ● 人為的ミス; 日常的なメンテナンス、充填、移送、清掃作業中に作業員による人為的ミスは、大惨事につながる可能性がある。たとえば、バルブを間違って閉じたり、不適切な機器を使用したり、圧力上昇の警報を無視したりすると、爆発につながる可能性がある。このような人為的ミスは、油田会社が作業員に安全に仕事を遂行するために必要な訓練を行わなかったために起こることが多い。

 ● 不十分な換気システム; 貯蔵タンクでは、ベーパーを安全に放出するために適切な通気が必要である。通気システムが小さすぎたり、詰まったり、故障したりすると、タンク内の圧力が上昇し、爆発の危険が生じる。

 ● 近辺での裸火や熱源; 裸火、火気作業(溶接や切断など)による火花、タンク設備の近くにある高温の機器が揮発性ガスと接触すると爆発を引き起こす可能性がある。 

 ● 気象条件; 極端な気象条件により気温が変動し、タンクの材質が膨張したり収縮したりすることがある。これによって、タンクの構造的な完全性が損なわれ、漏れや破裂につながる可能性がある。また、温度が上昇するとタンク内の蒸気圧も上昇し、爆発の危険性が高まる。また、適切な接地や避雷システムがなければ、直撃雷によりタンク設備内や周囲に蓄積されたベーパーが発火する可能性がある。

● 適切に密閉されていないタンク; 貯蔵タンクが適切に密閉されていない場合、接続部、バルブ、継手部から揮発性物質が漏れる可能性がある。漏れによりタンクの周囲に蒸気雲が形成され、爆発や火災の可能性が高まる。

 ●化学反応; タンク設備が適切に監視または清掃されていない場合、化学物質の中で特定の化学反応が発生し、自然発火につながる可能性がある。

補 足

■「米国テキサス州」(Texas)は、米国南部にあってメキシコ湾岸に面し、メキシコと国境を接する人口約3,050万人の州である。

「ハワード郡」(Howard County)はテキサス州の中部に位置し、人口は34,800人の郡である。

「ノット」(Knott)は、ハワード郡北西部にあり、非法人の地域である。

■「ジャンクション・リソーシズ社」(Junction Resources)は、2019年に設立し、テキサス州を中心に塩水処理などの水を管理する会社である。

H&Pロジスティック社」(H&P Logistics) は、トラックなどによる貨物輸送などを行っている運送会社である。

■「発災タンク」は塩水処理施設内の円筒タンクである。一般的に塩水タンクはグラスファイバー製が使用されるが、被災写真を見ると、火災にもかかわらず、損傷しながらも自立しており、全基が鋼製とみられる。事故のあった施設には、固定式屋根タンクが13基あり、直径は約4.5mで、高さは大中小の3種類がある。高さをそれぞれ9.0m7.8m4.5mと仮定すれば、容量は143KL124KL71KLとなる。被災写真を見ると、 13基のタンク群の中で完全に防油堤外に噴き飛んだタンクがあり、最初に発災し、爆発したタンクと思われる。大きさは中規模のタンクとみられるので、直径約4.5m×高さ約7.8m×容量約124KLのタンクとみられる。今回、事故のあった塩水処理施設のプロセスの詳細はわからないが、塩水処理施設の一般的なプロセスフローの例は図のとおりである。


所 感

■ 事故原因の詳細については言及されていないが、塩水処理施設内で実施されていた複数の保全工事や塩水抜出しなど輻輳した作業の安全管理が行われていなかったと思われる。被災写真を見ても、タンクローリーによる作業や重機を使った工事が行われていたのがうかがえる。このようにまったく安全意識のない現場はこれまで見たことがないという印象である。爆発は、塩水タンク内の液抜出しによって、タンク内に空気が流入して爆発混合気が形成し、溶接などの火気作業によって引火して起こったものではないだろうか。

■ 消火戦略には、積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略の3つがあるが、発災写真(数が少ないが)を見ると、防御的戦略または不介入戦略をとったものとみられる。発災場所が塩水処理施設で大量の油はないこと、また、堤内火災も起こっており、防油堤が低く、滞油能力も無いことから、中途半端な消火活動では防油堤内に水が溢れて、防油堤外に火災が拡大することを避けたものではないだろうか。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Newswest9.com, 1 dead, 3 injured in 'Junction Resources' explosion near Howard County, September 26, 2024

    Zehllaw.com, Investigation Into Deadly Junction Resources Explosion Underway, September 27, 2024

    Yourbasin.com, Tank battery explosion reported in Howard Co, September 26, 2024

    Firstalert7.com, Lawsuit filed after deadly saltwater disposal facility explosion, October  03, 2024


後 記: 以前、テキサス州の陸上原油生産施設のタンク事故の米国らしさについて、“ひとつやふたつが火災になったところで取るに足らず、むきになって原因がどうの、未然防止がどうのと言っているのは、遠く離れた油田のない日本(の私)だけのように感じ、バカみたいですね”と後記で書いたことがあります。

 これがさらに本格的に始まりそうです。米国大統領選挙でトランプ氏が勝利しましたが、キャッチフレーズのひとつに“掘って、掘って、掘りまくれ”(Drill, Baby, Drill)というのがあり、米国の原油・石油天然ガス生産が増えることになるでしょう。今回、テキサス州ノット近くの地図を見て石油生産施設の多さに驚きますが、これがテキサス州だけでなく、石油の出るルイジアナ州などで増えていきます。しかし、今回の事故のように安全管理がまったくできておらずに死傷者が増えるのはいかがなものでしょうかね。

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