今回は、約2年前の2022年6月21日(火)、カナダのオンタリオ州トロントにある建設機械レンタル会社のクーパー・エクイップメント・レンタルズ社でプロパンガスボンベが爆発し、火災が発生した事例を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、カナダ(Canada)オンタリオ州(Ontario)トロント(Toronto)のレックスデール(Rexdale )にある建設機械レンタル会社のクーパー・エクイップメント・レンタルズ社(Cooper
Equipment Rentals)である。
■ 事故があったのは、ラシーン通り(Racine Road)にあるクーパー・エクイップメント・レンタルズ社のプロパンガスボンベ(プロパンガスタンク)である。
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2022年6月21日(火)午後3時頃、クーパー・エクイップメント・レンタルズ社でプロパンガスボンベが爆発し、火災が発生した。
■ 発災に伴い、警察と消防署に通報があり、警官と消防隊が出動した。
■ 到着した消防隊員は、「建物の外に置いてあったたくさんのプロパンガスボンベに激しい炎が燃え広がっている」のに遭遇し、すぐに防御態勢を取った。
■ 事故に伴い、近隣の事業所にいる人たちは建物から避難した。
■ 警察は、住民の避難が続く中、現場近くの立ち入り禁止を呼びかけた。
■ ラシーン通りの道路は封鎖された。
■ 店の外に置いてあった工業用プロパンガスボンベが40~60個あり、消防隊が延焼防止に努めた。プロパンガスボンベの中には、重さが100ポンド(45kg)に及ぶものがあるという。
■ 消防署長は、「LPガスのような可燃性ガスボンベには圧力逃し弁が装備されており、熱によって圧力逃し弁が開放される。圧力逃し弁によってガスが放出され、そのガスに点火するが、ボンベが実際に爆発するのを防ぐような設計になっている。今回のようなプロパンボンベの火災事故が起こっているときに、それが爆発なのか、圧力逃し弁の開放による急激な燃焼なのかを見分けるのは難しい。」と語っている。
■ユーチューブでは、火災状況の動画が投稿されている。
●Youtube、「
Propane tanks explode at Toronto equipment rental facility YT」(2022/06/22)
●Youtube、「Propane fire at Toronto facility sparks explosions, prompts evacuations」 (2022/06/22)
被 害
■ プロパンガスボンベ40~60個が火災で損壊し、内部のプロパンガスが焼失した。
■ 負傷者は出なかった。近くの住民が避難したほか、道路が閉鎖された。
■ プロパンガスが燃焼し、大気が汚染された。
< 事故原因 >
■ 事故要因は屋外に置いてあったプロパンガスボンベが何らかの要因で漏れ、そのガスに引火して爆発が起こったものとみられるが、事故の原因は分からない。
< 対 応 >
■ 火災のピーク時には現場に100名の消防士と約30台の消防車両が出動し、消火活動を実施した。
■ 発災から1時間の午後4時頃には、消防隊は“防御モード”に入っており、火災が制御されていなかった。
■ 午後5時頃、消防署は火災警報レベルを引き下げ、状況は制御下にあると発表した。
■ 午後5時30分までにトロント消防署は火を消し止め、火災によって駐車中の車両数台に燃え広がったが、建物に延焼する前に鎮火できた。
■ 消防署長は、「今回の事故は消防隊員にとって複雑で入り組んだ危険な火災だった。燃えているプロパンガスボンベを冷却するために、消防隊員は火災地点にできるだけ近づき、無人放水銃を設置したり、スクワート車を配置したりしなければならなかった。幸いなことに火災は制御下に入り、けが人の報告もなかった」と語っている。
■ 消防隊は一晩中現場に残る予定だ。
■ 消防署長は、「安全が確認され次第、火災の発生源、原因、状況に関する調査を開始する」と述べた。
■ 6月21日(火)、クーパー・エクイップメント・レンタルズ社の社長は、「被害の規模は不明だが、負傷者が出なかったことに安堵している」と述べ、「明日は、被害や費用などについて心配することになるだろう。今は、全員が無事に脱出し、家族の元へ帰れたことに感謝するだけだ」と語った。 また、社長は「施設で実施されている安全手順はすべて守られていた」と述べ、「クーパー・エクイップメント・レンタルズ社は裏庭に100ポンド(45㎏)のプロパンガスボンベを保管しており、熱で爆発したのではないか」と考えているという。
■ クーパー・エクイップメント・レンタルズ社は、原因調査について「私たちは、警察、消防、当局に協力している」と語っている。
■ 今回の事故は、2008年夏にトロント市内で発生した大規模なプロパンガス爆発事故(サンライズ・プロパン事故;Sunrise Propane Incidentとして知られている)を思い出させる。2008年8月10日(日)午前3時過ぎにサンライズ・プロパン・インダストリアル・ガス社で起こった事故では、一連の爆発・火災によってふたりが死亡し、ダウンズビュー地区の住民が避難を余儀なくされた。 今回の事故では、2008年のトロントを揺るがしたような災害は回避できた。
補 足
■「カナダ」(Canada)は、北アメリカの北部に位置し、10の州と3つの準州からなる連邦立憲君主国家で、英連邦加盟国である。人口は約4,010万人で、首都はオンタリオ州のオタワである。
「オンタリオ州」(Ontario)は、カナダ中東部に位置し、カナダの州の中では最も人口が多く、約1,420万人で国全体の約39%が集まっており、カナダの政治・経済の中心となっている。
「トロント」(Toronto)は、オンタリオ湖岸の北西に位置し、人口約273万人でオンタリオ州の州都であり、カナダ最大の都市である。
■「クーパー・エクイップメント・レンタルズ社」(Cooper Equipment Rentals)は、カナダ全土の請負会社を対象とした建設機器レンタルサービスを手掛けている会社で、本社はオンタリオ州ミシサガにある。クーパー・エクイップメント・レンタルズ社は高所作業、重機建設、ポンプ設備などを専門としているほか、暖房、トレンチボックスなどの機材も提供している。
■「発災タンク」はレンタル用のプロパンガスボンベ(タンク)である。店の外に工業用プロパンガスボンベ(タンク)を40~60個置いており、中には重さが100ポンド(45kg)に及ぶものがあると報じられている。
クーパー・エクイップメント・レンタルズ社のプロパンガスタンクやボンベの種類は図に示すとおりで、重さが45㎏といえば、日本の家庭用に使用されている一番大きいガスボンベ(50㎏)相当とみられる。従って、発災したタンク群は図の左端のボンベと思われる。通常、レンタル時に充填すると思われるので、ボンベ内は充填したものだけでなく、空に近いものもあったのではないだろうか。
所 感
■ タンク爆発の原因は分からないが、屋外に置いていたプロパンガスボンベが何らかの要因で漏れ、そのガスに引火して爆発が起こったものだろう。冷却散水など安全対策の整ったLPガス充填所ではないようなので、プロパンガスボンベの保管状態に疑問のある事故である。
■ トロントの消防署長が語っている話、「LPガスのような可燃性ガスボンベには圧力逃し弁が装備されており、熱によって圧力逃し弁が開放される。圧力逃し弁によってガスが放出され、そのガスに点火するが、ボンベが実際に爆発するのを防ぐような設計になっている。今回のようなプロパンタンクの火災事故が起こっているときに、それが爆発なのか、圧力逃し弁の開放による急激な燃焼なのかを見分けるのは難しい」というのは経験に基づいた示唆に富む話である。
■ 「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」(2014年10月)では、圧力タンクを対象にした“圧力タンク火災への対応”が記載されているが、ここでいう圧力タンクとは球形タンクや横型圧力容器を念頭にしたものである。しかし、今回のような数多くのプロパンガスボンベの火災への対応に関しても有用である。
「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」では、圧力タンク火災への対処の戦略的思考についてつぎのように指摘している。解釈としては、LPガス充填所のように、プロパンガスボンベだけでなく、横型タンクが混在していると思えばよい。
● 冷却を基本とし、両サイドから冷却する。
● 冷却作業の位置として円筒端の方からは避ける。
● 液レベルより上部を冷却する。
● ウォータカーテンを実施し、火炎衝突からの影響を軽減する。
● BLEVE(沸騰液膨張蒸気爆発)の発生に留意する。
プロパンガスボンベの火災は厄介である。ボンベを冷却しなければならないが、プロパンガスは空気中に漏れ出たときには気体状で爆発性があり、消防士の命を守るため、3つの消火戦略(積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略)を状況に応じて適確な判断を要する。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Globalnews.ca, Propane tanks explode amid large fire in
Etobicoke, June 21, 2022
・Toronto.citynews.ca, Fire at equipment facility prompt evacuations
after propane tanks explode in Rexdale,
June 21, 2022
・Cp24.com, Businesses evacuated as fire outside Etobicoke equipment
rental business engulfs propane tanks,
June 21, 2022
・Blogto.com, Toronto neighbourhood rocked with propane
explosion, June 21, 2022
・Dailyhive.com, Exploding propane tanks likely to blame for fire in
Etobicoke (VIDEO), June 22, 2022
後 記: 今回の事故は、プロパンガスボンベが発災タンクという事例で、ボンベが40~60個と多数になれば、大きな火災となります。ユーチューブの動画を見ても消火の対応も難しくなるというのが理解できます。消防署長がインタビューに応じていますが、なかなかいい話をしています。このようにして事例が広く活かされていくのだと思います。これがカナダの民主的な国情なのでしょう。日本で起これば、消防署長や消防隊長は思っていても、しゃべらないのではないでしょうか。“沈黙は金、雄弁は銀”といいますが、今の時代は、金・銀が逆(雄弁は金、沈黙は銀)なように思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿