2024年6月21日金曜日

イラクのクルド人自治区の石油施設でタンクが爆発、消防士14名が負傷

 今回は、2024612日(水)、イラク北部のクルド人自治区であるアルビルにある石油施設でタンクが爆発して火災になり、消火活動が行われたが、消防士14名が負傷し、消防車3台が火災に巻き込まれた事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、イラク(Iraq)北部のクルド人自治区であるクルディスタン地域のアルビル(Arbil)にある石油施設である。

■ 事故があったのは、アルビル・グウェル道路沿いにある石油施設内にある原油タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2024612日(水)午後830分頃、石油施設内にある原油タンクの1基が突然爆発し、火災が発生した。

■ 施設内にいた輸送トラックの運転手は、火災によって再びタンクが爆発するのを恐れて施設から逃げ出した。

■ 濃い煙は数百m上空まで上がり、黒煙と明るいオレンジ色の炎が施設の上に立ち昇り、すでに深刻だったアルビルの大気汚染をさらに悪化させた。

■ 火災現場から約5km離れたジャムカ村の住民は、石油施設の火災によって発生するガスの排出の影響が怖いと語った。

■ 発災に伴い、アルビルの民間防衛局の消防隊が出動した。火災の規模が大きかったため、12の消防隊が消防車36台をともない消火活動を行った。

■ 民間防衛隊は火災の拡大を防ぐため現場付近を封鎖した。

■ 火災はひとつの施設で始まり、その後別の施設に燃え広がった。火災の第一段階では、燃えているタンクがほかのタンクから1015m離れていたため火災の拡大防止に努めたが、火災の規模が大きくなり、第二タンクまで拡大した。最初の情報は「製油所内のアスファルト倉庫が火災になった」というものだった。

■ アルビル南部の地域には、原油の抽出と精製を行う石油施設や貯蔵所が多くあり、迅速に火災を消すのは難しいという。民間防衛局の消防隊は、36台以上の消防車が消火と延焼の防止に努めているとし、住民に燃えている施設に近づかず、遠くへ離れるよう指示している。

■ 火災は、今のところ原因が不明だが、前日の611日(火)夜に主要原油貯留層から発生し、アルビルの南西の道路に隣接する施設に到達したという。

■ 消火活動は16時間以上続き、30隊以上の消防隊が派遣されたにもかかわらず、13日(木)も火災は依然として猛威を振るっていた。

■ アルビル環境局の発表によると、燃えている施設は同様の施設が並ぶ道路沿いにあり、認可を受けていないという。施設の所有者が民間防衛局の指示に従わず、適切な安全対策を講じていなかったと非難している。

■ アルビルの知事は、消防車が火災に巻き込まれ、火災の発生した施設が被った損失は推定800万ドル(約126千万円)に上ると語った。知事は「今のところ原因は分からない」といい、引火源は電気的短絡の可能性があると述べた。知事によると、火災が起きたタンクには5,000KL以上の油が入っていたという。

■ 匿名を条件に話した地方政府当局者は、火災は電気系統の故障が原因と思われると語った。また、引火源は石油施設のひとつに接続されていた発電機の漏電だったと報じているメディアもある。

■ 事故に伴い、消防士14名が負傷、うち4名が火傷、もうひとりが煙を吸って負傷した。火傷を負った消防士のうち2名は重傷である。

■ アルビルの民間防衛当局は、この施設が認可されておらず、40以上の消防隊が消火活動に参加したが、3つの石油施設とアスファルトや燃料の倉庫を破壊したことを明らかにした。

■ 火災はアルビル市とグウェル町の間の施設で発生した。市長は、火災は以前に報じられた製油所ではなく、石油倉庫で発生したと説明した。

■ ユーチューブなどでは、火災の状況などの映像が投稿されている。主なものはつぎのとおり。

 Youtubeاندلاع حريق ضخم في مصفاة نفطية جنوب أربيل عاصمة إقليم كردستان العراق2024/06/13

 ●Euronewsادلع حريق هائل في منشأة تخزين الأسفلت لمصفاة نفط تقع على طريق أربيل-كوير في وقت متأخر من يوم الأربعاء. 2024/06/13

 ●TikTokصور مباشرة.. اندلاع حريق ضخم في مصفاة نفطية بـ #أربيل عاصمة #كردستان2024/06/13

 ●TikTokاندلاع حريق هائل داخل مصفاة نفط في #أربيل بكردستان #العراق.. التفاصيل مع مراسل العربي غسان خضر 」2024/06/13

被 害

■ 石油タンク4基が火災で損壊した。内液の油が焼失した。推定被害額は800万ドル(約126千万円)といわれている。

■ 消火活動中の消防士14名が負傷した。火傷を負った消防士2名は重傷である。

■ 消火活動に出動していた消防車3台が、火災に巻き込まれて焼損した。

■ 火災によって環境が汚染され、アルビルの大気汚染をさらに悪化させた。

■ 火災の拡大を防ぐため現場が封鎖された。

< 事故の原因 >

■ 発災前日の夜に主要原油貯留層から移送された原油がアルビルの石油施設に到達し、施設内の引火源(発電機や電気的故障など)によって火災が発生したとみられる。  

< 対 応 >

■ 火は約20時間にわたり燃え続けたが、翌613日(木)に消し止められた。消防隊は、施設にある大量の燃料が入ったタンク火災の制圧に成功した。火災は100%鎮火し、周囲の施設にもはや危険はないと民間防衛局の報道官が発表し、出動した消防士は150名だと付け加えた。

■ 民間防衛局の報道官は事故のあった石油施設の法的地位について適切な許可を得ているかどうかは明言しなかったが、民間防衛局によって課せられたいかなる安全基準も満たしていないと認めた。

■ 民間防衛局によると、火災は2つの施設の計4基の燃料タンクと消防車3台が焼失した。消火活動に参加していたアルビル空港所属の消防車が炎上したという。

■ クルド人の自治区はクルディスタン地域と呼ばれるが、イラクのクルディスタン地域には無認可の製油所や燃料貯蔵施設が約200箇所あるという。

■ イラクでは、ここ数週間で複数の火災が発生し、ショッピングセンターや倉庫、さらには病院にまで被害が出ている。5月にはアルビルのバザールで火災が発生し、少なくとも200軒の店舗と4つの倉庫が焼失し、100人が負傷した。気温上昇に伴い、焼けつくような外気温、不安定な電力、施設における安全基準の緩みなどによって火災が引き起こされることが多いという。

 特に建設部門や輸送部門における安全基準の不遵守が原因である。膨大な炭化水素資源にもかかわらず、イラクは何十年にもわたる紛争と汚職を伴うずさんな行政管理によって荒廃したインフラの老朽化に苦しんでいるという。

補 足

■「イラク」(Iraq)は、正式にはイラク共和国で、中東に位置する人口約4,022万人の連邦共和制国家である。首都はバグダードで、古代メソポタミア文明を擁した土地にあり、世界第5位の原油埋蔵国である。石油輸出国機構(OPEC)で第二位の輸出国で、日量平均400万バレルの原油を生産している。 民族はアラブ人(シーア派約6割、スンニ派約2割)、クルド人(約2割、多くはスンニ派)などから構成される。言語はアラビア語とクルド語が公用語である。

 イラクのクルディスタン地域では毎日数十万バレルの石油が生産されている。しかし、クルディスタン地域からの輸出は、法的および技術的紛争のため1年以上停止している。同地域で生産される石油のほとんどは、トラックでトルコとイラク国内に密輸されている。中央政府は、イラク国営石油会社を経由せずにアルビルから石油を輸出することは違法であると考えており、そのような取引に対する仲裁訴訟で勝訴している。しかし、クルディスタン地域には無認可の製油所や燃料貯蔵施設が約200箇所あり、これらの製油所は規制されていない方法で自動車燃料を生産している。この施設のほとんどは、与党とつながりのある複合企業や役人が所有していると報じられている。

「アルビル」(Arbil)は、アルビールとも表記され、人口約161万人で、イラク北部の都市であり、アルビル県の県庁所在地でもある。2003年のイラク戦争でフセイン政権が崩壊し、2005年に連邦制を規定した新憲法が制定され、2006年にクルド人の自治政府が正式に発足して、アルビルがクルディスタン自治区の首都となる。アルビルの旧市街の中心にはカラアトと呼ばれる古い城塞(アルビルの城塞)がある。そこから放射線状に街が伸び、同心円上にバイパス道路が通じている。旧市街地とは独立するかたちで、中心からやや離れた幹線道路沿いに新市街地が発展しており、高層ビルの建設ラッシュが続いている。

■ 火災が起きたタンクには5,000KL以上の油が入っていたというが、これが発災タンク1基の容量を言っているのか、火災のあった複数のタンクに入っていた総量を示すのかはっきりしない。グーグルマップ(グーグルアース)で調べると、< 発災施設の概要 >の地図でわかるように、アルビル南部付近の該当するような施設は灰色で塗りつぶされており、発災タンクはもちろん場所さえも特定できない。発災写真を見ると、精製装置があるような施設ではないし、容量5,000KLのタンクが炎上しているものには見えない。

所 感

■ 事故原因は、報道記事から「発災前日の夜に主要原油貯留層から移送された原油がアルビルの石油施設に到達し、施設内の引火源(発電機や電気的故障など)によって火災が発生したとみられる」としたが、軽質分が原油移送ラインを通じて多量にタンクへ入り、ベーパーがタンクからあふれて何らかの引火源によって火災を起こしたものではないだろうか。状況ははっきりしないが、「英国バンスフィールド油槽所タンク火災における消火活動(2005年)」20166月)「最近の貯蔵タンク過充填事故からの教訓」20158月)のタンク過充填による火災事故と類似性があるように思う。

■ 消防活動では「消防士14名が負傷、うち4名が火傷、もうひとりが煙を吸って負傷し、火傷を負った消防士2名は重傷」と報じられているが、実際の消火活動の詳細は分からない。しかし、タンク火災における基本である「発災状況を確認し、ハザード・エリアを決める。そして、消防隊の安全性を確保する」がまったくできていないという印象である。さらに、消火戦略が考えられていないと感じる。今回のような変化するタンク火災では、火災状況に応じて「積極的戦略」、「防御的戦略」、「不介入戦略」を選択しなければ、消防士の安全が確保できない。事故が起こる前に、民間防衛隊(公的消防隊)と石油施設の事業所(長)は消防計画や消火訓練の認識合わせをしておくべきだっただろう。消火戦略については「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」201410月)を参照。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Afpbb.com,   石油精製施設で大規模火災、14人負傷 イラク,  June  14,  2024

     Tala-com.com, KURDISTAN D‘IRAK: 14 POMPIERS BLESSÉS DANS UN INCENDIE DE RÉSERVOIRS DE CARBURANT,  June  13,  2024

     Apnews.com, Firefighters battle massive fire at northern Iraq oil refinery,  June  13,  2024

     Newarab.com,  Major fire at unauthorised oil refinery in Iraqi Kurdistan leaves 14 injured, furthers air pollution crisis,  June  13,  2024

     Aljazeera.com, Battle to contain oil refinery fire in Iraq,  June  13,  2024

     Jordantimes.com, Fire at Iraqi oil refinery injures 13 — official,  June  14,  2024

     Wam.ae, Massive fire breaks out at oil refinery in Iraq's Erbil,  June  13,  2024

     Energy.economictimes.indiatimes.com, Huge fire at Iraq oil refinery injures 14,  June  14,  2024

     Arabic.euronews.com, شاهد: لا يزال مستمراً.. اندلاع حريق هائل في أحد مصافي أربيل  شمال العراق,  June  13,  2024

     Ajlounnews.net, العراق: حريق كبير يلتهم مصفاة للنفط في أربيل,  June  13,  2024

     Arabic.rt.com, مصادر تكشف تفاصيل جديدة عن مصفى النفط الذيتعرض لحريق هائل في أربيل,  June  13,  2024

     Arabic.cnn.com, العراق.. حريق هائل يندلع بمستودع للنفط في أربيل,  June  13,  2024


後 記: 今回も、前回のブログと同様、地図の検索に泣かされました。アルビルという町は広いところではないので、グーグルマップで貯蔵タンクのある場所を丹念に探していけば、発災場所は見つかるだろうと思っていました。ところが、マップを何度見てもアルビルにはタンクらしいものがありません。おかしいなと思ってグーグルマップをよく見ると、灰色で塗りつぶされているところがたくさんあります。初めは気が付かないほどカムフラージュがじょうずに作ってあります。(グーグルであれば、もっと分からなくすることもできるでしょうが、それだと“フェーク” になります) イラクの意向だと思いますが、こんなことをしてなんになるという気がします。マップの信頼性が薄らいでしまいます。それにしても火災の写真でもタンクの形状が分からない画像を提供していますので、さすがに「報道の自由度ランキング」で169位の国だと関心(?)します。

 ところで、イラクのタンク火災事故はこれまで何件かブログで紹介していますが、今回はイラクの中のクルド人の自治区という初めて聞く話だったので、「補足」の項でイラクやクルディスタン地域を紹介しました。

0 件のコメント:

コメントを投稿