2022年2月4日金曜日

米国ルイジアナ州の化学工場で二塩化エチレンタンクが爆発、負傷者6名

 今回は、2022126日(水)、米国のルイジアナ州レイクチャールズにあるウェストレイク・ケミカル社の化学工場で二塩化エチレン用貯蔵タンクが爆発して、負傷者6名を出した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国のルイジアナ州(Louisiana)レイクチャールズ(Lake Charles)にあるウェストレイク・ケミカル社(Westlake Chemical)の化学工場である。

■ 事故があったのは、南工場内の石油化学製品の貯蔵タンクである。貯蔵タンクは二塩化エチレン用で、容量は100万ガロン(3,790KL)である。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2022126日(水)午前1045分頃、化学工場内の石油化学製品の貯蔵タンクで爆発が発生した。爆発現場からは大きなキノコ雲のような黒煙が立ち昇り、煙は空を横切って広がった。

■ 近くの住民は「爆発によって家全体が揺さぶられたように感じた」と話している。

■ 警察によって避難命令が出された。化学工場から立ち昇る黒煙が見られ、住民は窓とドアを閉め、屋外に出ないようにした。ウェストレイク地区とサルファー地区の学校では、封鎖措置がとられた。教育委員会は「すべての学生と教職員は安全です」と声明を出した。

■ 発災に伴い、6名が負傷した。1名は現場で治療を受けたが、ほかの5名は病院へ搬送された。

■ ウェストレイク・ケミカル社は、「メンテナンスのため使用できなくなった貯蔵タンクの近くで産業事故が起こりました。火災はすぐに制御下に入りました。タンク近くで働いていた6人が負傷しました。うち5人は治療のために地元の病院に搬送されました。負傷された方々とそのご家族に心よりお見舞い申し上げます」という声明を出した。

■ 一方、メディアは、プラント関係者が貯蔵タンクはカラだったと言ったが、通常は二塩化エチレンを貯蔵するために使用されていたとレポートした。二塩化エチレンは塩素とエチレンの反応から生成され、塩化ビニルモノマーの生産に用いられ、主に樹脂パイプや窓枠などの製造に使用される。 二塩化エチレンは1,2-ジクロロエタンとしても知られ、毒性があり、可燃性が高く、癌を引き起こす可能性のある化合物である。

■ 爆発直後に出された避難命令は、大気の環境に問題がなかったため、約1時間後に解除された。

被 害

■ 貯蔵タンク1基が爆発で損壊した。

■ 人的被害として6名が負傷した。

■ 避難命令が出て、住民や学校が窓やドアを閉め、屋内に留まった。

■ 黒煙による大気汚染があったが、環境上の問題は出なかった。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は調査中である。

< 対 応 >

■ 126(水)午前1130分には火は消えていた。

■ ウェストレイク・ケミカル社の工場での爆発は5か月足らずで2回目である。20219月に6人が負傷した爆発を起こしている。

補 足

■「ルイジアナ州」(Louisiana)は、米国南部のメキシコ湾岸に位置し、人口約465万人の州である。

「レイクチャールズ」(Lake Charles)は、ルイジアナ州の南西部に位置し、人口約71,000人の市である。

■「ウェストレイク・ケミカル社」(Westlake Chemical)は、1986年に設立され、石油化学製品、プラスチックなどの製造を行っている化学会社である。レイクチャールズにある工場には、 671,000 mt/年の二硫化エチレン製造装置(EDC)を有し、 952,543 mt/年の2つの塩化ビニルモノマー製造装置(VCM)がある。二硫化エチレン製造装置(EDC)と塩化ビニルモノマー製造装置(VCM)のプロセス例は図を参照。


■「二硫化エチレン」(1,2-ジクロロエタン)は、無色の液体で比重(相対密度)1.2、蒸気密度が3.42(空気1.0)、引火点13℃、引火性が高く、典型的な塩素化された炭化水素の臭いがする。極めて燃え易く、熱、火花、火炎で容易に発火し、ベーパーと空気の混合物は爆発性を有する。

■「発災タンク」の仕様は、容量が100万ガロン(3,790KL)であることしか分かっていない。この容量は直径20m×高さ12m程度の大きさになる。グーグルマップで、パイプラックそばの倉庫2棟や球形タンクの映った発災写真をもとにタンク場所を調べてみたが、特定には至らなかった。

所 感

■ 爆発は一度だけで火災は起きておらず、一過性の現象と思われる。発災タンクはメンテナンスのため使用できなくなっていたのに、爆発が発生しているので、内部の二塩化エチレンのパージ不足などにより、ベーパーと空気の混合ガスが形成され、何らかの引火要因で爆発したものとみられる。

■ 事故状況の情報が乏しいので、事故対応の広報について述べる。ウェストレイク・ケミカル社の声明では「メンテナンスのため使用できなくなった貯蔵タンクの近くで産業事故が起こりました」と“産業事故” という言葉を使っている。産業事故とは、定義では「労働者が、物体、物質、または他人と接触したこととか、種々の物体や作業条件の影響により、または労働者の動作によって、健康障害を生じた事件」とされ、労働災害と同義である。声明文は今ひとつしっくりこない言葉づかいだと感じた。メディアの中にも、産業事故と表現しているといい、違和感をもったようだ。しかも「貯蔵タンクの近くで産業事故」と言っており、自然災害などによる事故のように聞こえる。発災事業者が出す声明としては最も好ましくない文章の例であろう。 


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Spglobal.com, Westlake reports explosion near Lake Charles storage tank; fire under control, January 26,  2022

      Abcnews.go.com, 6 injured in explosion at Louisiana chemical plant, January 27,  2022

      Apnews.com, 6 injured in explosion at Louisiana chemical plant, January 27,  2022

      Kplctv.com, Six injured in explosion at Westlake Chemical, January 27,  2022

      Wkrg.com,  Explosion confirmed at Westlake, La. chemical plant, 6 injuries reported, January 26,  2022

      Kplctv.com, Westlake Chemical officials and State Police address tank explosion, January 27,  2022

      12newsnow.com, 6 minor injuries reported after explosion at Southwest Louisiana chemical plant Wednesday, January 26,  2022

      The-sun.com,  Westlake Chemical plant explosion near Lake Charles ‘that leaves 6 injured’ seen in shocking ‘mushroom cloud’ photos, January 26,  2022

      Xinhuanet.com, 6 injured following chemical plant explosion in U.S. Louisiana, January 27,  2022

      Tankstoragemag.com, Six injured in Westlake tank explosion, January 27,  2022

      Nola.com, Chemical plant explosion near Lake Charles injures six workers, January 26,  2022

      Wbrz.com, Explosion reported at chemical plant near Lake Charles, January 26,  2022

      Hazardexonthenet.net, Louisiana chemical plant blast injures six,  January 28,  2022


後 記: 今回の事故は、米国(特にメキシコ湾岸沿いの州)らしい情報の出し方だと思います。米国ではテロ攻撃を懸念して工場のプラント内の情報を出さなくてもよいことになっています。しかし、この趣旨と工場内で起きた事故情報は異なります。まして6名の負傷者が発生し、構外では避難命令が出されている訳ですから丁寧な説明が必要でしょう。

 一方、今回の事故で感心したのは爆発時の写真です。キノコ雲のような黒煙はすぐに流れて変化するので、爆発から極めて短い時間内に撮影する必要がありますが、場所の違う写真がいくつも撮られています。ブログの最初の写真はさらに爆発瞬間のまだ炎が見える映像です。最近は車載カメラを設置した車も多いのですが、こんなにある瞬間の写真がインターネットに投稿される世の中なんですね。もしこのような写真がなければ、事故情報の記事は味気ないものになっています。

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