2020年9月1日火曜日

米国テキサス州のシェブロン社パサデナ製油所でタンク火災

 今回は、2020年8月18日(火)、米国テキサス州ハリス郡パサデナにあるシェブロン社の製油所で、貯蔵タンクが火災を起こした事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国テキサス州(Texas)ハリス郡(Harris)パサデナ(Pasadena)にあるシェブロン社(Chevron)のパサデナ製油所である。同製油所の精製能力は11万バレル/日である。

■ 事故があったのは、製油所の北東側にあるタンク貯蔵地区にあるオイルタンクである。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2020年8月18日(火)午前5時45分頃、タンク貯蔵地区にあるオイルタンクで火災が発生した。タンクからは煙が600フィート(183m)以上の高さに上がった。


■ 発災に伴い、自衛消防隊が出動した。タンク屋根の下から煙が出ていたが、全面火災には至っていないとみられた。


■ 製油所周辺にあるウォッシュバーン・トンネルなどの道路の交通遮断が行われた。また、発災タンクがヒューストン可航水路に近いため、予防措置として可航水路が一時的に閉鎖された。


■ 発災から45分後には、火炎は消えて見えなくなったが、タンクからは水蒸気の白煙が上がっていた。火災は午前6時30分頃に制圧下に入ったが、消防隊はなおもタンク側板に冷却用の噴霧水をかけた。


■ シェブロン社によると、自社の敷地境界での大気モニタリングでは、異常は検出されていないという。

■ 事故に伴う負傷者は出なかった。

被 害

■ 貯蔵タンク地区のオイルタンク1基が火災で損壊した。


■ 事故に伴う負傷者の発生は無かった。


■ 住民の避難は無かったが、周辺の道路やヒューストン可航水路が一時的に閉鎖された。


< 事故の原因 >

■ 事故の原因は調査中である。


< 対 応 >

■ ヒューストン可航水路は、一時的に閉鎖されたが、すぐに解除された。製油所周辺にあるウォッシュバーン・トンネルなどの道路の交通遮断が行われたが、午前9時頃には解除された。


■ 現場には、パサデナ市とハリス郡の緊急対応担当者が立ち入り、シェブロン社の対応チームと協同で対応した。


■ 火災は、 8月18日(火)午前8時45分頃、鎮火した。


■ 8月19日(水)、シェブロン社は、貯蔵タンクの火災に際して消火までの間、大気汚染ガスの放出があったことをテキサス州環境品質委員会へ報告した。火災によって、二酸化硫黄8,000ポンド超(3,630㎏超)と窒素酸化物3,000ポンド超(1,360㎏超)が過剰に放出されたという。


■ ドローンの映像はユーチュ-ブに投稿されていないが、動画はつぎのメディアサイトで見ることができる。(画面の下側に出るが、やや重いので、少し時間がかかるかもしれない) 

  ● Click2houston.com, 「No injuries reported after fire at Pasadena refinery」 





補 足 

■「テキサス州」(Texas)は、米国の南部に位置し、人口約2,900万人の州である。

「ハリス郡」(Harris)は、テキサス州の南東にある人口約470万人の郡である。

「パサデナ」(Pasadena)は、ハリス郡の南東に位置し、ヒューストンに近く、人口約15万人の市である。


■「シェブロン社」(Chevron Corp.)は、米国カリフォルニア州サンラモンに本社を置くエネルギー企業であり、スーパーメジャーと総称される6社のうちの一社である。

 パサデナ製油所は、2019年5月、シェブロン社がペトロブラス社から買収したものである。精製能力は11万バレル/日で、タンク地区は510万バレル(81万KL)の原油と石油製品を貯蔵できる能力を擁している。事故と関連があるかどうかは分からないが、発災タンク近くの2基のタンクが撤去されており、買収後1年余で設備改造が急ピッチに行われているという印象である。


■「発災タンク」は、被災写真が報じられているが、タンク仕様は分からない。グーグルマップで調べてみると、発災タンクの直径は約43mである。被災写真によりタンクの直径:高さの比(2.5:1)から、タンク高さは約17mである。従って、容量は24,600KLとなる。

 内液は、一部メディアで“原油” としているが、大半は単に“オイル” となっている。タンク型式はコーンルーフ式であるが、タンクは保温が施されており、重質系の油だとみられる。被災写真では、タンクの屋根が半分以上崩落し、タンク内に入った水が蒸発して内表面から白い水蒸気が出ているので、原油ではなく、油温の高い重油やアスファルトではないかと思われる。また、火災によって大気汚染ガスの放出があったことが報告されているが、その内訳はオイルの燃焼物による窒素酸化物(1,360㎏超)と二酸化硫黄(3,630㎏超)である。原油であれば、液面からの揮発性ガスが入ると思うが、含まれておらず、二酸化硫黄が入っているので、硫黄分の高い残渣油系のオイルと推測する。


所 感

■ 今回の事故は状況がはっきりしない。発災時刻が午前5時45分頃であり、通常の保全工事が行われる時間帯ではなく、早朝の入出荷に関わる事象の可能性が考えられる。

 火災が消えたあと、タンクから水蒸気が出ているのを見ると、 「東亜石油京浜製油所のアスファルトタンク火災事故(2006年)」が思い出される。今回の事故はタンク内液さえ分かっていないが、2006年の事故は原因調査が行われ、貴重な教訓が報告されている。


■ 被災写真を見ると、タンク屋根が半周以上崩落しており、激しい爆発ではなかったにしろ、単に火災というより小爆発を伴った発災だったと思われる。火災最盛期の消防活動は写真を含めて報じられていないので、詳細は分からないが、積極的消火戦略をとらず、防御的消火戦略として冷却を主としたものではないだろうか。タンク冷却は、口径の大きい吸込みホースや大容量の泡放射砲を装備した消防車で行われている。そのほかの冷却放水銃も可搬式の固定ノズルを使用しており、対応している消防車や消防士が少ないように感じる。激しい火災ではなかったようなので、人員・資機材に不足感はない。



備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    ・Click2houston.com, No injuries reported after fire at Pasadena refinery,  August  18,  2020

      ・Abc13.com,  Fire erupts in oil tank at Chevron Pasadena Refinery,  August  24,  2020

      ・Khou.com, Pasadena residents wake up to smell, smoke after fire at nearby refinery,  August  18,  2020

      ・Tankstoragemag.com,  Fire at Pasadena Refinery tank causes no injuries,  August  19,  2020

      ・Industrialfireworld.com, Storage Tank Blaze Quickly Extinguished in Texas,  August  18,  2020

      ・Khou.com, Raw video: Refinery fire on Red Bluff in Pasadena; firefighters spray down storage tank,  August  18,  2020

      ・Morningstar.com, Chevron Reports Tank Fire, Emissions at Texas Refinery,  August  19,  2020



 後 記: 今回の事故は、最近の事故情報と同様、ドローンによる映像がなければ、内容の薄いものになっていました。しかし、もう一歩進めて、ドローンの映像を見れば、タンクの大きさやタンク内液の種類が気になるはずです。メディアには、ドローンに頼るだけでなく、映像を見て感じる疑問を取材で得て、記事にまとめることを期待します。それにしても、スーパーメジャーと称されるシェブロン社がウェブサイトにひと言も掲載せず、事務的に大気汚染ガスの放出を報告したのみです。スーパーメジャーは以前から情報公開に消極的でしたが、近年、ドローンによる映像が撮られるので、情報公開の考え方を変えていかなければならないのではないでしょうか。







0 件のコメント:

コメントを投稿