2019年9月30日月曜日

バハマでハリケーンによって石油貯蔵タンクの屋根が吹き飛び、油漏洩

 今回は、2019年9月2日(月)、ハリケーン「ドリアン」がバハマに襲来し、グランド・バハマ島にあるエクイノール社の石油貯蔵ターミナルのタンクのアルミニウム製ドームの屋根を吹き飛ばして、油が流出した事故を紹介します。
油漏洩のあったバハマの石油貯蔵ターミナル
(写真はMypanhandle.com から引用)

< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、バハマ(Bahama)のグランド・バハマ島(Grand Bahama)にあるエクイノール社(Equinor ASA)の石油貯蔵ターミナルである。石油貯蔵ターミナルは原油およびコンデンセート用で、貯蔵能力は675万バレル(107KL)である。

■ 発災があったのは、グランド・バハマ島のサウス・ライディング・ポイント(South Riding Point)にある海底油田の陸上側にある石油貯蔵ターミナルの貯蔵タンクである。貯蔵タンクは10基あり、うち9基にはアルミニウム製ドームが設置されていた。
             バハマと周辺国 (図はEquinor.comから引用)
グランド・バハマ島のエクイノール社の石油貯蔵ターミナル付近(事故前)
(写真はGoogleMapから引用)

      エクイノール社の石油貯蔵ターミナル(事故前) (写真はEquinor.comから引用)


< 事故の状況および影響 >
事故の発生
ハリケーン「ドリアン」の眼
(写真はRigzone.comから引用)
■ 201991日(日)、 ハリケーン「ドリアン」(Hurricane Dorian)がバハマ諸島を襲来した。ハリケーン「ドリアン」は、バハマ北西部のアバコ諸島に上陸した時点の中心気圧は910hPa最大風速は82m/sのカテゴリー5の勢力で、バハマの観測史上最も強い勢力での上陸だった。 「ドリアン」 は92日(月)にグランド・バハマ島を襲い、その後、米国フロリダ州の東の海上を通過していった。

■ 201995日(木)、エクイノール社による初動の空中監視によって、サウス・ライディング・ポイントにある石油貯蔵ターミナルで損傷があり、地上式タンクまわりに油が漏洩していることが分かった。油は陸地に限定しており、海上への流出は認められなかった。

■ ハリケーンが来襲したとき、ターミナルには108万バレル(17KL) の石油が3基に貯蔵されており、ほかのタンクには残留した油しか入っていなかった。ハリケーンによって5基の石油貯蔵タンクの屋根が無くなっていた。屋根が吹き飛ばされたのか、タンク内部に落ちたのかは分からないという。

■ ハリケーンに伴う高潮は高さ30フィート(9m)に達したとみられ、エクイノール社の建物が油で汚れていた。

■ エクイノール社は、95日(木)にバハマの地方自治体へ漏洩の情報を伝えた。 

■ エクイノール社の職員は54名は、ハリケーン「ドリアン」 がグランド・バハマに来るまでの間、予防措置として運転を停止する作業を831日(土)の正午までに行った。ハリケーンが襲来した時には、石油貯蔵ターミナルには職員はいなかった。

■ エクイノール社は油流出の人員・資機材を手配しており、できるだけ早くサウス・ライディング・ポイントの石油貯蔵ターミナルに向かわせるという。

■ バハマは、救援や対応の取組みをしているが、基本的なインフラが混乱しているので、状況は思うように進まず苦労しているのが実情である。エクイノール社は、バハマへのハリケーン被害の対応にあたっている救援組織に100万ドル(11,000万円)を寄付した。

被 害
■ 貯蔵タンク5基がハリケーンの強風でアルミニウム製ドーム屋根が吹き飛ばされた。残ったタンクのアルミニウム製ドーム屋根も一部が損傷している。

■ 貯蔵タンクから地上に油が流出した。漏洩量は不詳である。

< 事故の原因 >
■ カテゴリー5のハリケーンの強風による「自然災害」である。
 当該地方の石油貯蔵ターミナルのおける風速値は分からないが、バハマ北西部のアバコ諸島に上陸した時点の中心気圧は910hPa、最大風速は82m/sだった。 
石油貯蔵ターミナルと流出部(右斜めの黒い跡)(写真はWprl.orgから引用)
(写真はNewshub.gyから引用)
(写真はLloydslist.maritimeintelligence.informa.comから引用)
(写真はNytimes.comから引用)
< 対 応 >
■ 96日(木)、エクイノール社は、損傷を受けたタンクからさらに油が漏洩するリスクを減らすため、損傷を受けたタンクからターミナルにある別なタンクへ移している。

■ 98日(日)、エクイノール社はクリーンアップの準備状況を発表した。
 ● 現場にセキュリティ担当者が調査しており、ターミナルにおける保全状況を確認し、潜在的なハザードを明確にする作業を行っている。
 ● ルイジアナ州ポート・フォーションとフロリダ南東部の各港で油流出対応のための船舶や機器を確保した。現在は輸送中のものもあれば、税関で保留されているものもある。
 ● 到着すれば、クリーンアップ作業とレメディエーション(修復)はすぐに開始できる。
 ● 調達している機器は、スキマー、オイルフェンス、吸着マット、ポンプ、高圧洗浄機、ボートなどである。

■ 石油貯蔵タンクが損傷を受けたとみられる92日から1週間半が経った911日(水)から、エクイノール社の流出対応チームは作業を開始した。この時点で流出対応チームは76人だった。バハマの司法長官は、報道陣に対し、会社は対応に時間がかかりすぎているといい、「問題に関する迅速な対応と解決策を見出すことを望む」と語っている。

■ 911日(水)エクイノール社は、バハマ、米国、ノルウェーで合計200人以上の職員が対応に取組んでおり、サウス・ライディング・ポイントの石油貯蔵ターミナルの現地では、油流出の技術専門家を含む陸上対応チームが活動することとなっていると発表した。42人の人間と油流出回収設備を積んだ2隻の船がルイジアナ州から移動中で、最初の船は910日(火)に到着した。 912日(木)に着く予定の船には、オイルフェンス、油吸着マット、油流出回収スキマー、洗浄ポンプ、廃棄物収集用のボックス、ボートなどが積まれている。

■ 9月12日(木)、エクイノール社の流出対応チームは地上に漏れた油を回収し、貯蔵タンクへ移していおり、今後数日で回収作業を強化すると発表した。 13日(金)に石油貯蔵所のあるグランド・バハマ島へ米国から重機を持ち込むとともに、多くの人員を送り込むと計画だという。


■ 専門家によると、損傷したタンクはカテゴリー5のハリケーンに耐えるよう設計されていたとみている。一方、屋根が風に耐えられないような強いハリケーンが来た場合、アルムニウム製ドームは外れるように作られている。というのは、タンク内に落ち込むより、地面に吹き飛ばされた方がよいからだという。

■ 流出した油のほとんどは、タンク屋根が喪失した後、貯蔵タンクから吹きとばされたものと思われる。
(写真はEquinor.comから引用)
             油回収作業 (写真はequinor.comから引用)
補 足
■ 「バハマ」(Bahama)は、正式にはバハマ国で、西インド諸島のバハマ諸島を有し、人口約35万人の立憲君主制国家である。英語圏に属し、イギリス連邦の加盟国である。海を隔てて米国のフロリダ半島があり、南西にキューバがある。首都はニュー・プロビデンス島のナッソーである。
 「グランド・バハマ島」(Grand Bahama)は、バハマ北西部の島で、最も米国のフロリダ州の近くに位置し、人口51,000人の島である。

■ ハリケーン「ドリアン」(Hurricane Dorian)はグランド・バハマ島を襲ったが、同島のフリーポートには貯蔵能力2,600万バレル(413KL)のバックアイ・パートナーズ社の石油貯蔵ターミナルがある。同社の初期評価では、暴風雨による軽微な損傷がみられたが、油流出に至る兆候は無かったという。
  バックアイ・パートナーズ社の石油貯蔵ターミナル (写真はTanknewsinternational.comから引用)
 「エクイノール」(Equinor ASA)は、ノルウェーのスタヴァンゲルに本拠を置く北欧最大のエネルギー企業である。2018年にスタトイルからエクイノールに改称した。
 スタトイル社は、20131月にアルジェリアの天然ガスプラントでテロリストによる人質拘束事件の被害を受けた。スタトイル社の関連のブログはつぎのとおりである。

■ 流出のあった真ん中の列の北から2基のタンクは、グーグルマップによると、直径が約85mである。高さを20mとすれば、容量は11KL級のタンクである。石油貯蔵ターミナルの貯蔵能力が10基で107KLであり、タンク容量は1011KL級であり、符合する。
         エクイノール石油貯蔵ターミナル (写真GoogleMapから引用)
所 感
■ 事故の原因はハリケーンの強風による自然災害である。
 ハリケーンの多いところであるため、タンク本体の耐風力はかなり頑丈だと思われる。一方、浮き屋根式タンクの貯蔵油に雨が浸入してこないようにアルミニウム製ドームを施したものと思われるが、80m/sを超す風速にドーム部が吹き飛んだものと思われる。真ん中の列の北から2基のタンクは油が一杯のように見え、南西からの強風に乗って、この2基から油が飛んだものとみられる。このような油流出の事象は初めて見た。海からの風だったため、油は陸地側に飛んでおり、この回収作業は大変だが、海側に流出していれば、さらに広域に拡散していただろう。

■ 9月2日(月)にハリケーン来襲によって油が流出し、9月5日(木)に空中監視で状況が分かった。この後、油回収作業が始まったのは9月12日(木)になってからである。ハリケーン被害対応に社会が混乱しており、油回収の人員・資機材の動員・輸送が思うに任せなかったようだ。
 最近、日本の台風や豪雨による被害が多発しており、石油貯蔵タンクに関連している部署では、対岸の火事ではなく、被害があった場合、対応の人員・資機材の動員・輸送に問題がないか考えてみる必要のある事例だと思う。 

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   Rigzone.com, Dorian Damages Equinor's Oil Storage Terminal,  September 05,  2019
    Offshoreenergytoday.com, Equinor’s Bahamas oil terminal damaged by hurricane Dorian ,  September 05,  2019
    Reuters.com , Oil spill clean-up at Equinor's Bahamas terminal underway after Dorian damage,  September 12,  2019
    Tankstoragemag.com, Storage terminals damaged following Hurricane Dorian,  September  06,  2019
    Nytimes.com, Oil Befouls Bahamas Coastline After Hurricane Dorian,  September  11,  2019
    Bloomberg.com, Hurricane Dorian Rips Roofs Off Bahamas Oil Storage,  September  07,  2019
    Equinor.com, Update on the Bahamas after Hurricane Dorian,  September  05,  2019
    Equinor.com, Equinor: We will clean up the Bahamas oil spill,  September  09,  2019
    Equinor.com, Update on status in the Bahamas 11 September,  September  11,  2019
    Equinor.com, Oil spill recovery in progress in the Bahamas,  September  12,  2019
    Ogj.com, Equinor addresses hurricane-damaged terminal in Bahamas,  September  09,  2019
    Weather.com, Major Oil Spill on Grand Bahama Reaches the Ocean, Damages Coastline,  September  11,  2019
    Sun-sentinel.com, Tropical storm hampers cleanup of Bahamas oil spill caused by Dorian,  September  14,  2019


後 記: 猛烈なハリケーンっていうのは、バハマや米国フロリダ半島周辺の話と思っていましたが、日本でも台風15号によって電柱が折れ、送電線の鉄塔が倒れるなどして千葉県で長期停電による被害が出ました。電柱や鉄塔などの設備は経年劣化していますが、地球温暖化のためハリケーンや台風は年々強くなっているようです。右肩下がりと右肩上がりなのですから、毎年、今まで無かったような被害が出てくるのでしょうか。

 ところで、今回の事故の情報はいろいろな報道機関が出していますが、結局はエクイノール社のウェブサイトに掲載されたNews & mediaの発表記事がベースになっています。エクイノール社はスタトイルから改称したようですが、情報公開についてはスタトイル時代と変わらずオープンだと感じました。さすがに世界情報自由度ランキング2019年の第1位の国だと感じます。ちなみに日本は67位です。

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