2019年2月11日月曜日

山形県のバイオマスガス化発電所で水素タンクが爆発、市民1人負傷

 今回は、2019年2月6日(水)、山形県上山市にある山形バイオマスエネルギー社のバイオマスガス化発電所で、燃料用の水素ガスタンクが爆発して、周辺に被害を与え、市民1名が負傷した事故を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、山形県上山市(かみのやま市)金谷の工業団地にある山形バイオマスエネルギー社のバイオマス発電所である。この発電所は木のチップを使う木質バイオマスガス化発電で、2018年12月に完成し、今年3月末に発電事業を始める予定だった

■ 事故があったのは、バイオマスガス化発電所にある燃料用の水素タンクである。水素タンクは燃料となるガスを貯めるために設置されており、水素や一酸化炭素が貯蔵されていた。
                   上山市の工業団地周辺 (矢印は事故のあった建設前の場所)
図はGoogleMapから引用)
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年2月6日(水)午後4時10分頃、バイオマスガス化発電所で爆発が起こった。

■ 近所の住民から「爆発音がした」との110番の通報を受け、消防署が出動した。

■ バイオマス発電所の設備の試運転を始めて10分ほどして、水素タンクが爆発した。水素タンクの屋根部(直径約3m、厚さ約1cmの円形の金属板)が飛び、南西に100mほど離れた民家の2階部分を突き破った。家の中にいた30代の女性が、衝撃で落ちてきたものに頭をぶつけて首にけがをした。
被害を受けた住宅と飛んできたタンク屋根
(写真は左;Kahoku.co.jp、右; Sakuranbo.co.jpから引用)
■ 現場近くで働く女性は、「屋根に大きな物が落ちたような衝撃音があり、直下型地震のように地面も揺れた」と話した。爆風によって付近の住宅や事業所で、窓ガラスが割れたりする被害が出た。

■ 試運転を担っていたのは木質バイオマス発電施設などの設計・施工を請負った「テスナエナジー」で、事故当日は午後4時ごろから、試運転に向けた作業を進めていた。

■ 事故を起こしたバイオマス発電施設は「ガス化式」と呼ばれるもので、チップにした木材を熱して水素などのガスを抽出し、それを燃料にエンジンを回して発電する。爆発したタンクは燃料を貯めるためのもので、当時は水素のほか一酸化炭素やメタンなどのガスも充満していたとみられている。山形バイオマスエネルギーによると、当時、タンクには、燃料に使う水素などのガスが入っていて、試運転のため発電施設のエンジンの電源を入れたところ、突然、タンクの屋根が吹き飛んだという。

■ 2月8日(金)、上山市消防本部によると、爆発事故で、壁の一部や窓ガラスが破損するなどの建物被害が、発電施設内の建屋などを含め、14棟に上ることが分かった。被害は、施設を中心に半径約250mの範囲に及んでいた。女性がケガをした住宅を含め、民家や小屋で被害を受けたのは5棟で、工場などの事業所は9棟だった。金属製の屋根が直撃した住宅までの距離は約130mだった。最も施設から離れていたのは、南西約250m地点にある住宅脇の小屋で、窓ガラスが割れていたという。工場などではドアやシャッターのゆがみも確認された。

被 害
■ 人的被害として、市民1名が負傷した。

■ 発電所の燃料用水素タンクが損壊した。生産設備への影響はわかっていない。

■ 施設を中心に半径約250mの範囲にある建屋で、14棟に被害が出た。有害物質の漏洩は無かったと思われ、環境への影響はない。 
(写真はYomiuri.co.jpから引用)
< 事故の原因 >
■ 事故原因は調査中である。タンク内の水素ガスに引火したことやタンクの圧力が急激に上昇したことなどが挙げられている。

■ 発電装置の稼働スイッチを入れて数秒で、水素タンク内の爆発が起きていたことが分かった。スイッチを入れた際、何らかの原因でタンク内の水素ガスに引火し、爆発が起きたとみられている。

< 対 応 >
■ 山形バイオマスエネルギーは、「ケガをされた方や周囲の皆様にご迷惑をおかけし、おわび申し上げたい。原因を調べるとともに、誠意をもって対応していきたい」とコメントしている。

■ 2月7日(木)、警察と消防署が朝から現場検証をして、詳しい状況を調べている。
 現場検証の状況はインターネットのユーチューブで流されている。(YouTube「稼働後数秒で爆発・上山」

■ 2月7日(木)、発電施設を担当する経済産業省関東東北産業保安監督部東北支部の職員が立入り、現場の状況を確認した。

■ 2月8日(金)、警察は午前9時半から事故の原因を調べるための実況見分を再開し、当時作業をしていた東京都の施工業者などから話を聞いた。警察は施設の構造や運用方法に問題があったと見て、業務上過失致傷の疑いで捜査を続けている。
(写真はKahoku.co.jpから引用)
(写真はFnn.jp から引用)
補 足
■ 「上山市」(かみのやま市)は、山形県の南東部にあり、人口約3万人の市である。上山市は、江戸時代には上山藩の城下町や羽州街道の宿場町として栄え、現在は上山温泉で知られる。

■ 「木質バイオマス発電」は、燃料となる木材を燃やしたり、熱することでタービンやエンジンを動かして発電している。大きく分けて2つの方式がある。
 ● 「直接燃焼方式」 ;木材を燃やして水を温め、発生した蒸気でタービンを回し、発電する。
 ● 「ガス化方式」;木材から発生する可燃性ガスを利用し、ガスエンジンを動かし、発電する
 近年、バイオマス発電が注目を浴びているが、発電方式の選択を先行しているドイツと比較すると、図のようになる。 日本では、ORC(蒸気タービンと同じくランキンサイクルによる発電方式の一種で、蒸気タービンとは異なり、熱媒として水ではなく、シリコンオイルなどの有機媒体を利用して発電を行う)の技術がなく、1,000kW前後の中小規模帯での選択肢が無かった。今回、事故があった施設の最大出力は約2,000kW弱で、ガス化方式を広げたものである。ガス化方式は直接燃焼方式と比べ、熱排水の処理の必要がなく、小規模施設でも発電効率が高いなどの利点がある。
 山形県で稼働中の木質バイオマス発電施設は7か所で、うちガス化方式が3か所、直接燃焼方式が4か所となっており、現在、稼働中の施設は約1,000~50,000kWの範囲にある。
          バイオマス発電技術の選択の幅   (図はNpobin.netから引用)

■ 「山形バイオマスエネルギー」は、間伐材や果樹の剪定枝をチップ化し、燃焼させる木質バイオマス発電事業をしている。 同社は、2015年に山形県の建設業・産業廃棄物処理業の㈱荒正と不動産業の㈱ヤマコーなどがバイオマス発電の新会社として設立された。事故のあった発電設備は2018年12月に完成したもので、ガス化方式を採用している。投資総額は約13億円で、年4億円程度の売電収入を見込んでいる。

■  「テスナエナジー」は、2014年に木質バイオマスのガス化プラント事業を専業として設立された会社である。テスナプロセスバイオマス発電システムと特徴である炭化炉・ガス改質炉は図のとおりである。

テスナプロセスバイオマス発電システム
(図はTesnaenergy.co.jpから引用)
テスナプロセスバイオマス発電システムの炭化炉とガス改質炉
(図はTesnaenergy.co.jpから引用)
所 感
■ 今回の事故は、水素タンク(生成ガスホルダー)に爆発混合気が形成されたものだと思う。試運転時に生じる要因としては、つぎのようなケースがあるだろう。
 ● 試運転前に系内の空気を不活性ガス(窒素など)で置換していなかった。このため、空気の残った水素タンクに生成ガスが入り、爆発混合気が形成した。
 ● 試運転時に生成ガスライン系(ガス改質炉以降)に空気が入り、生成ガスとともに空気が水素タンクに入った。このとき、爆発範囲が4~75%と広い水素がタンク内で爆発混合気を形成した。
 引火源は、流動による静電気またはガスエンジンの逆火ではないだろうか。事故の背景として、試運転を行ったメンバーが、このような非定常運転について十分な知識と経験がなかったのではないかと感じる。   

■ 事故を防ぐためには、つぎの3つの要素が重要である。この3つがいずれも行われなかった場合、事故が起こる。
 ① ルールを正しく守る
 ② 危険予知活動を活発に行う
 ③ 報連相(報告・連絡・相談)を行い、情報を共有化する
 木質バイオマス発電といっても、新規のプロセス装置と同様の設備である。定常運転時のマニュアルはあっただろうが、今回のような運転始めの際のマニュアルに問題があったのではないだろうか。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Asahi.com,  試運転バイオマス発電設備が爆発 「地面揺れた」 山形,  February  06,  2019
    ・Sakuranbo.co.jp, “ふた”はなぜ吹き飛んだ?バイオマス発電施設爆発事故 山形・上山市,  February  07,  2019
    ・Yomiuri.co.jp,  上山の発電所で爆発 破片で民家損傷 1人けが,  February  07,  2019
    ・Sakuranbo.co.jp,  “初めての試運転”で爆発・バイオマス発電施設事故 東京の施工業者などから聴取 ,  February  08,  2019
    ・Nhk.or.jp,  水素ガスなどに引火して爆発か,  February  07,  2019
    ・Kahoku.co.jp, 上山の工場で爆発 民家に金属片直撃、女性けが,  February  07,  2019
    ・Kahoku.co.jp, 上山プラント爆発>タンク内の水素ガス 引火した可能性,  February  07,  2019
    ・Jp.reuters.com,  バイオマスの施設で爆発、山形,  February  06,  2019
    ・Yamagata-np.jp, 上山のバイオマス施設で爆発 民家に被害、女性軽傷,  February  07,  2019
    ・Yamagata-np.jp, 稼働後数秒で爆発・上山 発電施設、県警は過失傷害容疑も視野,  February  07,  2019
    ・Yamagata-np.jp, 木質バイオマス発電、県内に7カ所 上山の施設はガス化方式,  February  08,  2019
    Yamagata-np.jp, 半径250メートル、14棟が被害 上山・発電施設爆発事故,  February  09,  2019


後 記: 石油貯蔵タンクとはちょっと違ったタンクですが、大きく報道された事故でしたので、ブログを投稿することとしました。今回、情報を調べていて感じたことは、バイオマス技術が随分進展しているということです。特に、山形県では熱心であるように感じます。山形県酒田市に最大発電能力50,000kWのバイオマス発電所(サミット酒田パワー)が20188月に完成し、商業運転をしているほか、木質バイオマス発電施設は7か所あります。今回、事故のあったバイオマス発電施設も従来だと選択肢のなかった2,000kWクラスのガス化発電です。しかし、ドイツのようにOCR方式を導入すべきだという意見があります。また、経済産業省の補助事業の場合、2月中に試運転を終えて完了届を出さなければ補助金が貰えないので、締切が最優先になり、安全性がおろそかになる懸念があるという意見もあります。今回の施設が補助事業かどうかわかりませんが、県や企業の頑張りは見える反面、発電に関する国や経済産業省の基本思想が見えないということがわかりました。



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