2018年5月23日水曜日

東ソー南陽事業所の特別高圧変電所で感電事故

 今回は、2018年4月6日(金)、山口県周南市にある東ソー南陽事業所の特別高圧変電所で起こった感電事故を紹介します。
< 発災施設の概要 >
周南市と東ソー南陽事業所の位置
(図はTosoh.co.jpから引用)
■ 発災があったのは、山口県周南市にある周南コンビナートの一社である東ソーの南陽事業所である。

■ 事故があったのは、東ソー南陽事業所の第3特高と呼ばれる特別高圧変電所である。
東ソー南陽事業所
(写真はTosoh.co.jpから引用)
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年4月6日(金)午前10時35分頃、南陽事業所において爆発音のような大きな異音が発生するとともに所内の一部が停電した。 

■ 東ソーによると、自家発電所(動力プラント)から各プラントに電気を送る特別高圧変電所で、電気が地面に流れ出る「地絡」が発生したという。発災当時、作業に当たっていた請負会社の男性(20歳)が感電し、全身やけどの重傷を負った。

■ 当時、変電所では4人が作業に当たっており、火傷を負った男性はボイラーの配電盤に関わる作業を行っていて、何らかの原因で通電していた箇所に接触し、感電したとみられている。男性は病院に搬送されたが、意識はあるということである。

■ 自家発電所は緊急停止に伴う安全装置が作動し、高圧蒸気を外に放出するため、一時的に大きな異音がおよそ1時間半にわたって鳴り響いた。電力供給を受ける関連プラントも安全に停止した。東ソーでは、この事故に伴う有害物質の漏れは無く、周辺住民に避難の必要はないという。

被 害
■ 人的被害として負傷者1名(感電による火傷)が発生した。

■ 物的被害や生産・出荷への影響は調査中(公表されていない)

■ 有害物質の漏洩はなく、環境への影響はない。 

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は、男性の持っていた金属製メジャーが電線にある碍子(がいし)と呼ばれる部品に接触し、電気が地面に流れ出る地絡が発生した。

■ 事故の発生時には作業を監視する担当が不在で、東ソーは作業員への研修を徹底するなど再発防止に努めるとしている。

< 対 応 >
■ 4月10日(火)時点、東ソーは運転を停止していた構内にある15施設の稼働を再開したと発表した。残りの5施設も稼働準備中で、4月19日(木)に全面復旧するという。

■ インタ-ネットでは、東ソーで塩酸タンクが爆発したというフェイクニュースが流れた。

■ 東ソーは、5月14日(月)までに原因をまとめた報告書を経済産業省などに提出した。事故原因は、男性が持っていた金属製メジャーが、電線にある碍子と呼ばれる部品に接触したと推定している。事故の発生時に、作業を監視する担当が不在で、東ソーは作業員への研修を徹底するなど再発防止に努めたいとしている。  

補 足
■ 「周南市」は、山口県の東南部に位置し、人口約144,000人の市である。2003年4月「平成の大合併」で徳山市、新南陽市、熊毛町、鹿野町の2市2町のよる合併でできた新しい市である。1980年代後半から
周南地域における市町の合併機運が高まり、下松市、光市、田布施町、大和町を含めた大合併が模索されたが、結局、 2市2町による合併で終わった。周南市の主要産業は重化学工業であり、旧徳山海軍燃料廠から発展した石油コンビナート(周南コンビナート)が形成されている。
周南コンビナートの基本イメージ
(写真はShunan-marketing.jpから引用)
■ 「周南コンビナート」の先駆けは、戦前に日本曹達工業が進出し、その後、徳山曹達、現在の()トクヤマに名称を変更した。東ソーの前身となる東洋曹達は、日本曹達工業の工場長が退職して旧新南陽市に設立したもので、この2社が現在の中核2社となった。その後、徳山海軍燃料廠の跡地に出光興産が進出し、当時日本最大規模の徳山製油所の建設に着手し、周南石油コンビナート形成の口火を切ることになり、続いて、日本ゼオン徳山工場が操業を始めた。

■ 「東ソー株式会社」は、1935年に設立した総合化学メーカーで、本店は周南市にあり、苛性ソーダ、塩化ビニルモノマー、ポリウレタン、石油化学事業や機能商品事業などをコアとして事業展開している。南陽事業所は、単一工場としては日本最大規模となる敷地面積(300万㎡)と自家発電設備(825,000kW)を有し、周南コンビナートの中核をなしている。 
 なお、東ソー南陽事業所では、つぎのような事故がある。
東ソー南陽事業所の配置
(図はTosoh.co.jpから引用)
 高圧変電所などの「感電事故」は少なくない。例えば、関東東北産業保安監督部東北支部による平成27年度電気事故事例(感電等死傷事故)によれば、4件が報告されている。いずれも、感電の怖さをよく知る電気工事士による感電事故である。原因は、装着していた安全帯の一部が接触したり、デジタルカメラの先端が接触したり、他の作業に集中して通電中であることが頭から抜けてしまったりというあとから考えれば、単純なミスである。
 厚生労働省では、職場のあんぜんサイトで「労働災害事例」をデータベース化し、感電事故防止のための啓蒙に努めている。例えば、今回と似た事例としては「キュービクル(受電設備)の高圧盤内をのぞき込んだとき、6,600Vの高圧線に触れて感電」がある。この背景にあるのは、電気は見えないものであり、感電を実体験していないことからきていると思う。
 電気工事士の知っている感電の怖さはあくまでも知識上のものである。この点、YouTubeに「感電事故を合成する!」が投稿されている。このような疑似体験を通じて感電を怖さを知るのもひとつであろう。

所 感
■ 今回の事例は、貯蔵タンクの事故情報と関係はないが、久しく聞いていなかった感電事故が地元企業で起こったので、調べてみると、意外に感電事故は少なくないことを知った。
 今回は、男性の持っていた金属製メジャーが電線にある碍子(がいし)に接触したという。おそらく、何かの寸法を計測しようとしたものではないかと思う。感電の怖さを知る事例である。このようなある種善意の行動による事故は何としても回避しなければならないと思う。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Tosoh.co.jp,  南陽事業所における異音発生および感電事故について,  April 06,  2018
    ・Tysnewstime.jimdo.com, 山口県周南市・東ソー感電事故で1人重傷,  April 06,  2018
   ・Anzendaiichi.blog.shinobi.jp, 山口県周南市にある工場の変電所でボイラー配電盤の工事中、作業員が感電・・・,  April 06,  2018
   ・Tosoh.co.jp,  4/6(金)南陽事業所における事故後の生産再開状況について,  April  11,  2018
    ・Pujapan.com,  東ソー 南陽事業所で地絡・感電事故 1名負傷 全面復旧は4月19日,  April  12,  2018
    ・Yab.co.jp,  東ソー作業員の感電大けが事故で報告書提出,  May  16,  2018



後 記: タンク設備ではありませんでしたが、地元テレビで報道された感電事故というので、まとめることにしました。というのも、今回と類似の事例を知っているので、この種の人身事例を無くさなければならないという気がしたからです。当時火傷を負った本人の反省文は、迷惑をかけたこととともに、自分の経験をこれからの後輩に教えていくことを切々と語る心のこもったものでした。随分、昔のことですが、このことを思い出しました。今回の事例でも、被災者はまだ若い20歳の男性ですので、是非立ち直ってくれることを期待しますね。

 話は変わりますが、周南市は合併特例債によって徳山駅ビルに変わって今年(2018年)2月に周南市駅前図書館が完成し、Tsutaya運営の市立図書館や蔦屋書店、スターバックス、フタバフルーツパーラーができました。また、今年度には、市役所の新庁舎が完成します。周南市駅前図書館の評判は良いようですが、駅前のシャッター街になった町が活性化するかどうかは、これからの取組み次第でしょう。  
2018年に完成した周南市駅前図書館
写真は、左; Shunan.ekimae-library.jp 、右;Tabetainjya.com からの引用)
2018年に完成予定の周南市役所
(図はToshoken.comから引用)





2018年5月18日金曜日

米国ウィスコンシン州の製油所で爆発、貯蔵タンクが被災して火災、20名負傷

 今回は、2018年4月26日(木)、米国ウィスコンシン州ダグラス郡スーペリアにあるハスキー・エナージー社の製油所で、流動接触分解装置が爆発し、金属片がアスファルトの貯蔵タンクに当たって穴が開き、火災となった事例を紹介します。
(写真はCbc.caから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国のウィスコンシン州(Wisconsin)ダグラス郡(Douglas)スーペリア(Superior)にあるハスキー・エナージー社(Husky Energy)の製油所である。

■ 発災があったのは、ハスキー・エナージー社スーペリア製油所である。スーペリア製油所の精製能力は50,000バレル/日である。製油所は、5年ごとの定期検査のため、4月30日(月)から運転停止して5週間の定期検査を準備しており、広範囲の開放工事を予定して多くの作業員が入構していた。
ハスキー・エナージー社スーペリア製油所付近  (矢印が発災タンク)
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年4月26日(木)午前10時頃、ハスキー・エナージー社スーペリア製油所で爆発が起こり、続いて、火災が発生した。現場からは有害な煙が大気中に放出された。

■ 最初の爆発が起きた後、金属片がアスファルトの貯蔵タンクの1基に当たって穴が開き、2度目の火災になった。タンク側板の穴の開いた箇所から真黒い液体が奔流となって落ち、数時間にわたって流れ出した。2回目の爆発が午後12時30分頃に起こった。その後、午後から複数回の爆発が発生した。
(写真はHuffingtonpost.comから引用)
■ 製油所から約1マイル(1.6km)離れたところにある店の主人は、「照明が3回ほど付いたり消えたりし、建物全体が揺れました」と語った。製油所から約2マイル(3.2km)離れたところに住んでいた夫婦は、爆発が起こったとき、家に車か何かがぶつかったと思ったという。犬が吠え始めた。犬と猫を抱きあげ、友人宅に避難し、最新のニュースを見ていたという。

■ この事故に伴い、少なくとも13名が負傷した。うち6名が病院へ搬送され、7名は現場で治療を受けたという。その後、5月1日(火)時点で負傷者は少なくとも20名いたことが分かった。

■ 事故が起こったのが午前中の休憩時間だったことは、不幸中の幸いだったといえよう。現場には、請負会社の多くの作業員が入構していた。

■ 製油所から半径5km圏内の住民に、また、煙が流れる南の方向では16kmの範囲に避難指示が出された。また、近隣の住宅、学校、病院に避難指示が出された。製油所は工業地区にあるが、北東側の2km以内に住宅地がある。このため、千人以上が避難し、3つの学校と1つの病院が予防措置として避難した。風下の南側は人があまり住んでいない地区だった。

■ 発災に伴い、消防署が出動した。消防署によると、火は午前11時頃に消えたと発表したが、現場ではなおも煙が出続け、火災が再び起こった。警察は避難した人のために、再点火したということをツイッターで公表した。警察は近くの道路の交通を遮断した。
(写真はEcowatch.comの動画から引用)
■ 426日(木)の午後になると、火炎の勢いが増し、消火を試みることができなかった。消防隊は近隣のタンクに冷却水を掛け、火災が拡大するのを防ごうと試みた。消防隊員は火炎だけでなく、発火する恐れのある他のケミカル類や石油製品に関する危険性を考慮しなければならない。しかし、午後遅くなって約30名の消防隊員からは、十分な消火水と水圧が得られたと報告があった。その後、泡消火が試みられた。

■ 火災は、4月26日(木)午後6時45分頃、消された。しかし、熱い油が現場に残っており、別な火災の原因になったり、ほかの問題を生じる恐れがあるため、消防隊は27日(金)まで現場に残って監視を続けた。

避難指示解除で帰宅する住民
(写真はStartribune.comから引用)
■ 住民の避難指示は継続され、解除されたのは4月27日(金)午前6時だった。

■ 製油所でフッ化水素を使用しているために、住民を避難させることにつながった。このことはスペリオル市長が明らかにした。市長は以前からフッ化水素の代替物質を検討すべきという意見をもっていた。現場では、フッ化水素が爆発や火災に関係ないということを確認するのに、1時間ほどかかったという。
 米国の製油所では、ガソリンのオクタン価を上げるため、まだフッ化水素を使用しているところがある。フッ化水素は有毒ガスであり、長年警告が発せられてきた。公衆衛生センターの2011年報告書によれば、スーペリア製油所で使用されている量は、最悪の場合、180,000人が死や重大な人身傷害に至る恐れがあるという。

被 害
■ 流動接触分解装置の一部が損壊し、火災で焼損した。
 アスファルト貯蔵タンク1基が破片で損傷し、内部の流体が流出して火災となった。

■ 事故に伴い、20名以上が負傷した。

■ 住民が、火災の煙とフッ化水素の懸念のため、千人以上が約20時間避難した。実際の避難者数は分かっていない。

< 事故の原因 >
■ 発災の起点は流動接触分解装置の爆発によるものである。爆発の原因は調査中である。
 アスファルト貯蔵タンクの損壊は、装置の爆発のよって飛散した破片が側板に当たって貫通したものである。
(写真はEcowatch.comの動画から引用)
(写真はEcowatch.comの動画から引用)
< 対 応 >
■ 米国環境保護庁は、現場まわりの大気(空気質)の状況の監視を行った。4月27日(金)朝の状況では、安全な状態であることを確認したという。

■ 米国化学物質安全性委員会(The U.S. Chemical Safety Board ; CSB)は事故調査を行うことととした。また、4月27日(金)、米国化学物質安全性・危険性調査委員会(The U.S. Chemical Safety and Hazard Investigation Board)は、調査のため4人のメンバーを派遣することとした。調査メンバーは、つぎのような点を焦点をおいて調査を行い、予備調査結果にもとづき、さらに調査を進める予定である。
 ● 物理的な証拠を収集して文書化。
 ●  製油所内と事故現場の撮影。
 ●  事故に関連する可能性あるのハスキー・エナジー社と請負会社の従業員への事情聴取。
 ●  事故当時に製油所内で実施される作業に関連する文書の入手。この中には、作業計画、安全計画、ハザード分析、安全分析を含む。
 ●  事故に関連していると疑われる機器の建設、保守、検査記録の入手。
 ●  事故時の緊急対応の有効性の検証。この中には、避難対応を含む。

■ 5月1日(日)、米国化学物質安全性・危険性調査委員会は、最初の爆発が流動接触分解装置(13,000バレル/日)で起こったことを明らかにした。今後、なぜ流動接触分解装置が爆発を起こしたかを調べるため、金属分析を行う予定で、金属片について物理的性質と化学的性質が調べられる。

■ ハスキー・エナージー社は、5月4日(金)時点で、1,045通のクレームを受け取ったという。そのほとんどは、避難中に発生した経費や損失に関するものだった。ごくわずかであるが、傷害に関わるクレームもあるという。
(写真はFirehouse.comから引用)
(写真はDenver.cbslocal.comから引用)
                       事故後の状況   (写真はStartribune.com から引用)
飛散した破片
(写真は、左と中: Csb.gov、右: Superiortelegrarmcomから引用)
補 足
■ 「ウィスコンシン州」は、米国の中西部の最北に位置する州で、五大湖地域に含まれる。人口約570万人で、州都はマディソンである。 
 「ダグラス郡」(Douglas County)は、ウィスコンシン州の北西部に位置し、五大湖地域にあり、人口は約44,000人の郡である。
 「スーペリア」(Superior)は、ウィスコンシン州北西端に位置し、ダグラス郡の郡庁所在地で、人口は約27,000人の都市である。スーペリアには、ウィスコンシン州で唯一の製油所であるスーペリア製油所がある。
ウィスコンシン州ダグラス郡スーペリアにあるスーペリア製油所付近
(写真はGoogleMapから引用)
■ 「ハスキー・エナジー社」(Husky Energy Inc.)は、1938年に設立し、カナダのアルバータ州カルガリーを本社とする石油と天然ガスのエネルギー会社である。カナダを始め、世界で原油と天然ガスの探査、開発、生産などの業務に従事している。香港を本社とする多国籍企業のハチソン・ワンポア(Hutchison Whampoa Ltd.)の子会社のひとつである。2008年に中国海洋石油がハスキー・エナジー社の子会社の株式の50%を取得した。2009年、ハスキー・エナジー社は南シナ海で大型ガス田を発見している。

■ 「スーペリア製油所」(Superior Refinery)は、ハスキー・エナジー社が2017年にカルメット・スペシャリティ・プロダクト・パートナーズ(Calumet Specialty Products Partners. LP)から買収して得た。精製能力は50,000バレル/日で、アスファルト、ガソリン、ディーゼル燃料、重油を製造する。当時の従業員数は180名である。製油所は、アルバータのオイルサンドと軽質のノースダコタのバッケン原油の両方を処理する。また、製油所には、2つのアスファルト・ターミナルと360万バレル(57万KL)の原油と石油製品の貯蔵タンクがある。
 なお、スーペリア製油所では、カルメット・スペシャリティ・プロダクト・パートナーズ時代につぎのような事故を起こしている。

■ 「発災タンク」はアスファルト用で保温付き固定屋根式タンクであるが、仕様は分からない。グーグルマップによると、直径約28mであり、高さを10mと仮定すれば、容量は約5,800KLとなる。
               事故前の発災タンク(矢印)   (写真はGoogleMapから引用)
所 感 
■ この事故は流動接触分解装置の爆発に伴って、破片が隣接するアスファルトタンクの側板を貫通して火災になるという極めて珍しい事例である。プロセス装置が爆発して、貯蔵タンクが被災するという事例は、架空で想像したような筋書きであり、実際に起こりうるといことに驚く。少しでも破片の衝突がズレておれば、キズがつくにしても開口することはなかっただろう。

■ 流動接触分解装置のプロセスは、温度は高い(約430~540℃)が、圧力は低い(0.1~0.2MPa)装置であり、本体系装置の爆発ではないだろう。破片がタンク側板を貫通させるくらいの強烈な爆発力であり、2次装置の液化石油ガス(LPG)系などの異常によるものではないかだろうか。それにしても、破片の写真を見ると、配管ではなく、何かの機器で結構な大きさのものであり、脆性的な割れの様相が見られる。あるいは、製油所は定期検査のためのシャットダウンに入っており、非定常運転による要因が関係しているのかもしれない。事故調査には公的機関が入っており、明らかにされるだろう。

■ 事故対応の消防活動についてはあまり言及されていない。2015年のカルメット社時代の「米国ウィスコンシン州の製油所でアスファルト・タンク火災」では、公的消防と製油所消防の連携が良かったことが伝えられているが、今回は流動接触分解装置の爆発、アスファルトタンクの火災、フッ化水素の問題など考慮すべきことの多い事故だったので、現場では大変だったように思う。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Cbc.ca,  Fire Reignites at Husky Energy Oil Refinery in Wisconsin after Being Put Out,  April 27  2018
    ・Afpbb.com ,  米中西部の精油所で爆発・火災、6人負傷 住民に避難命令,  April  27,  2018
    ・Cbc.ca,  Officials Say 13 People Injured in Husky Refinery Fire in Wisconsin,  April 27  2018
    ・Reuters.com , Wisconsin Oil Refinery Fire Out, at Least 15 Hurt: Officials,  April 27,  2018
    ・Wdio.com,  Husky Receives 1,000 Claims After Refinery Fire,  May 04,  2018
    ・Mprnews.org,  Husky Energy Refinery Blast in Wisconsin: What We Know,  April 26  2018
    ・Theglobeandmail.com, Husky’s Wisconsin Refinery Fire Started in Gasoline Unit,  May 01,  2018
    ・Wpr.org,  Safety Board: Superior Refinery Explosion Happened In Fluid Catalytic Cracking Unit,  May 01,  2018
    ・Wbay.com ,  Fire is out at Superior oil refinery; evacuation order lifted ,  April 26,  2018
    ・Jsonline.com,  Fire Extinguished at Superior Oil Refinery after at Least 20 Were Injured in Explosions,  April  26, 2018
    ・Csb.gov,  Husky Energy Oil Refinery Investigation Update ,  May 02,  2018
    ・Csb.gov,  Husky Energy Oil Refinery Investigation Update ,  May 11,  2018
    ・Npr.org,  Emergency Evacuation Finally Lifted After Huge Oil Refinery Fire In Superior, Wis.,  April 27,  2018
    ・Superiortelegram.com,  CSB Issues update on Husky Energy Refinery Fire in Superior ,  May 15,  2018
    ・Denver.cbslocal.com , Explosion Rocks Wisconsin Oil Refinery; Entire City Could Be Evacuated,   April 26  2018
    ・Startribune.com, Wisconsin Gov. Scott Walker Inspects Damage at Refinery Blast Site,  April 30,  2018


後 記: 事故情報は多いのですが、はっきりしないことの多い事例です。米国では負傷者に敏感なはずですが、負傷者数は記事や日にちによって変わっています。20名としましたが、入構していた作業員のほかに住民がいるのかどうかがはっきりしません。また、事故の経過がはっきりしません。初めは原油またはアスファルトタンクが火災になったという情報でしたが、あとになって流動接触分解装置の爆発・火災が引き金になったことが報じられました。午前中に消火したという話や爆発が午後まで続いたという情報があり、事故の経過や消防活動がどうだったのかはっきりしません。
 ところで、ハスキー・エナジー社の経歴をみると、カナダの会社ですが、香港の多国籍企業ハチソン・ワンポアの子会社であり、米国のウィスコンシン州の製油所を買収したり、中国海洋石油がハスキー・エナジー社の子会社の株式の50%を取得し、ハスキー・エナジー社が南シナ海で大型ガス田を発見しているという話を聞くと、石油メジャーの姿が変わってきたなと感じますね。

2018年5月7日月曜日

タンク施設におけるサイバーセキュリティの危険性

 今回は、2018年2月、ハドソン・サイバーテック社のマルセル・ユッテ氏が解説した「タンク・ターミナルのサイバーセキュリティのリスク」(Tank Terminal Cyber Security Risks)について紹介します。
(写真はLinkedin.com,から引用)
< 概 要 >
 サイバーセキュリティの最適システム構築会社(ソリューション・プロバイダー)であるハドソン・サイバーテック社(Hudson Cybertec)のマネージメント・ディレクターであるマルセル・ユッテ氏は、各事業者が直面するサイバーセキュリティのリスクについて述べ、なぜ事業の運転技術の中のサイバーセキュリティが安全性と同じくらい重要であるかについて解説している。

< 基本認識 >
■ タンク・ターミナルでは、施設の管理、制御、維持のため、運転技術の領域を一体化したシステムを導入している。

■ 従来から使用されてきたシステムの基盤を新しいシステムの基盤と統合すると、運転技術の領域は複雑になっていく。効率化をねらって、オペレータがさまざまな(遠隔な)場所から作業できるようにしている。オンロード型にせよ、オフロード型にせよ、中継機能をもった物理的な要素をもはや必要としなくなった。運転技術の基盤設備やネットワークがどんどん複雑化していく中で、タンク・ターミナルの操業は、安全にターミナルの運転を支援するシステムにますます依存している。

■ プラント運転が運転技術の領域において統合システムや集中制御への依存度を高める中で、タンク・ターミナルへのサイバーセキュリティのリスクは大きくなっている。情報通信技術の領域と運転技術の領域には違いがあり、情報通信技術の領域において開発されたシステムの規格や最適な取扱い方法が、運転技術の領域におけるシステムに直接的に適用できないということである。というのは、これらの規格は特別仕様で作られた運転技術の領域の環境を考慮していないからである。ハドソン・サイバーテック社マネージメント・ディレクターのマーセル・ユッタ氏は、「情報通信技術のサイバーセキュリティの規格が運転技術の領域に適用されることが多々あり、その結果、セキュリティが不適切で、リスクが増えてしまうことがある」と述べている。

< サイバーセキュリティのリスク >
■ タンク・ターミナルにおけるサイバーセキュリティへのリスクはあらゆる形態で存在している。その脅威は組織の内でも外でも発生し、絶え間なく進化している。このため、企業の運転技術の領域におけるサイバーセキュリティも同様に進化することが求められている。

■ 企業などの組織は、サイバーセキュリティへのリスクに対して手抜かりなく準備を行い、もっとも新しい脅威の情報を得るとともに、サイバーセキュリティについて定期的にチェックすべきである。

■ 外部から侵入して操作しようとする者には、危険人物、対立相手、組織的犯罪グループ、その他ある目的をもった行為者などがあり、操業への混乱(荷役の積み降し)、金銭的誘導(株価操作)、産業スパイ活動(機密データへのアクセス)を行う。内部から操作しようとする者は、不満をもった従業員やサードパーティなどであり、故意にあるいは故意でないにしろ、サイバーセキュリティの事件を引き起こしてしまう。これは、サイバーセキュリティの管理が不適切であったり、トレーニングが不十分で認識が無いために起こる。

■ このほかにサイバーセキュリティへのリスクとしては、従来から使用してきた設備とネットワークの基盤が運転技術の基盤と統合されているという複雑な基盤に関係していることがある。このような設備とネットワークは、その当時の規格や知識あるいは最適な取扱い方法によって設計されている。オリジナルの設計にサイバーセキュリティが考慮されていないというところから、サイバーセキュリティへのリスクが生じることになる。ハドソン・サイバーテック社のユッタ氏によれば、従来から使用してきた基盤のサイバーセキュリティのリスクを明らかにするには、運転技術の領域単独のサイバーセキュリティに関して精査する必要がある。

< 人の重要性 >
■ サイバーセキュリティの柱は、人、プロセス、技術の3つである。セキュリティを確保するためには、この3つの柱をバランスよく保つ必要がある。理想的なサイバーセキュリティは、組織内における日々のオペレーションを一体化するとともに、システム、ポリシー、操作方法をうまくサポートすることである。

■ サイバーセキュリティに関連する技術は、情報通信技術の領域としてもっとも一般的であり、組織内ですでに使用されている。一方、運転技術の領域では、それほど一般的でない。大抵の場合、二つの領域におけるサイバーセキュリティの差は5年以上である。

■ サイバーセキュリティの人的要因はよく見落とされる。一般に安全・安心のために管理すると言われているが、サイバーセキュリティ分野ではこのことが欠けており、このためサイバーセキュリティに脅威をもたらしている。管理者を含めたコンピュータのユーザは、意図せずに、ウェブサイトやEメールをクリックすることによって産業スパイ活動のマルウェアを作動させたり、感染した装置に接続することによって暗号化したランサムウェアを持ち込んでしまう。

■ このような攻撃を受けたあとから修復するには、困難さを伴ったり、時間がかかったり、多大な費用がかかったりすることが多々ある。サードパーティによる作業は、特定のサポート・システムやメンテナンスを行うために、自身の設備やツールあるいはコンピュータを使用する。時として、これらの業務が管理されない状態にある。導入したシステムのサイバーセキュリティについて責任の所在がはっきりしないため、脅威として認識ぜす、高いリスクをもたらしてしまう。こうして、コンピュータの脅威がコントロール下にあるとはいえない状態にある。ほかの脅威としてはポリシーと操作手順に不備があることである。本来は、高機能を有したシステムへのアクセスが確実に行えるようなポリシーと操作手順とすべきである。そして、機能は、許可すべき外部の人をサポートするため、サードパーティの人間が直接アクセスできるようにする。

■ 例えば、運転技術の領域においてセキュリティ対策が不十分なままのワークステーションやインターネットからセキュリティを継ぎ当て修復することである。ユッテ氏は、「人々はサイバーセキュリティについて安全性と同じように重視すべきである」と付け加えている。

< 運転技術のサイバーセキュリティの改善 >
■ 使う人の行動とセキュリティ対策の基本認識がサイバーセキュリティのポリシーとなる。このため、セキュリティの操作手順は、使う人が早く且つ正しく対応し、セキュリティの過程段階をスキップしないようにしている。これらのポリシーと操作手順で強調すべきことは、運転技術の領域とその組織において指定するニーズである。

■  「使う人のサイバーセキュリティ意識を高め、人為的ミスによるサイバーセキュリティ事件を起こさないようにすることがサイバーセキュリティのトレーニング計画の目的のひとつである。サイバーセキュリティの脅威は絶えず進化しており、従って、このようなトレーニングは既存のトレーニング計画と一体化したものとすべきである」とユッタ氏は語っている。

■ 運転技術の領域の性質上、情報通信技術の領域のために開発されたISO 27001(情報セキュリティマネジメントシステム)やISO 27002(情報セキュリティマネジメントの実践のための規範)のようなセキュリティの規格は、直接、運転技術の領域に適用することができない。産業用制御システムの分野では、特別にIEC 62443(制御システムのセキュリティ)という国際規格が開発された。この規格は、運転技術の領域における特性をすべて考慮している。

 < サイバーセキュリティの定期的な見直し >
■ どの対策が実際に役立つか企業が把握していれば、正しいセキュリティ対策をとることができる。そして、現在のタンク・ターミナルのサイバーセキュリティのレベルを把握していれば、おのずと導入の要否は決まってくる。

■ 運転技術の領域に関してIEC 62443規格(制御システムのセキュリティ)によって個々に審査を行えば、タンク・ターミナルの運転技術の領域におけるサイバーセキュリティの状態を知ることができる。

■ これによって、運転技術に関する組織内で、サイバーセキュリティの開発や強化に用いることができ、リスクを識別したり、リスクを軽減できる。ユッテ氏は、「経験からいえることは、あなたが現在の状態を知っていれば、サイバーセキュリティの事件が生じた場合にも適切な措置を講じることができる」と説明している。

■ 運転技術の領域におけるサイバーセキュリティは一度導入しておけば良いというものでなく、脅威が進化するため、サイバーセキュリティも常に進化させておかなければならない。運転技術の領域についてIEC 62443規格(制御システムのセキュリティ)と定期的なチェックや監査を行うことは、タンク・ターミナルの常用運転が、現在、安全な状態にあるのかを把握できるようになる。

■ 「タンク・ターミナルでは、安全に管理するのと同様、運転技術に関するサイバーセキュリティを管理する必要がある。遅くならない前に、いますぐスタートさせるべきある」とユッタ氏は付け加えた。

■ ユッテ氏は、2018年3月20日~22日にStocExpo Europa Conferenceの2日目にタンク・ターミナルにおけるサイバーセキュリティとサイバー攻撃の防止方法について講演する。

所 感
■ タンク・ターミナルを念頭にしたサイバー・セキュリティを論じており、興味深い話である。
化学プラントやタンク施設に関連するサイバー攻撃の疑いのある話題としては、つぎのような事例がある。
 これらの事故では、当時、「サイバー攻撃は、石油化学会社の工場の制御システムに侵入したものではなく、攻撃を受けたのは事務管理システムではないだろうか。これが両国のサイバー攻撃に関するハッキング技術のレベルなのか、もっと重大な被害を与えるまでの前哨戦(偵察活動)なのか分からない。しかし、目で見えないサイバー空間で戦いが行われていることを認識しておかなければならないだろう」と所感で述べたが、サイバーセキュリティの専門家の話だけに、サイバー攻撃の進化は早いということがわかる。

■ サイバーセキュリティに関して「運転技術のサイバーセキュリティの改善」、「サイバーセキュリティの定期的な見直し」が提言されており、特に「運転技術の領域に関してIEC 62443規格(制御システムのセキュリティ)によって個々に審査を行えば、タンク・ターミナルの運転技術の領域についてサイバーセキュリティの状態を知ることができる」という具体的な話は参考になるとのではないか。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Linkedin.com, Tank Terminal Cyber Security Risks, February  20, 2018
 このほかに参考にしたのはつぎのとおりである。
  ・Arcweb.com. IT とOT の融合が必要となる場とその理由について,  January  26,  2018
      ・Nisc.go.jp,  サイバーセキュリティ戦略本部,   April  04,  2018
      ・Kantei.go.jp,  サイバーセキュリティ対策の強化に向けた対応について,   November 09,  2016
      ・Ipa.go.jp ,  制御システムにおける セキュリティマネジメントシステムの 構築に向けて ~ IEC62443-2-1 の活用のアプローチ ~,  2013 


後 記: 今回の情報は、タンク・ターミナルに関するサイバーセキュリティに関する話なので、できるだけ分かりやすくなるように努めました。例えば、「Operating Technology Domain」、「IT-Domain」を「OT-ドメイン」、「IT-ドメイン」と書けば、なじみのない人からすれば、拒絶反応があるでしょう。そこで、「運転技術の領域」、「情報通信技術の領域」としました。「IT」は、通常、「情報技術」でしょうが、あえて狭義の「情報通信技術」としました。また、「OT」は「運用技術」で通っていますが、ここでは「運転技術」としました。タンク・ターミナルを前提にすると、その方がよいと考えたからです。今や、サイバーセキュリティは、タンク・ターミナル施設の安全性と同等に扱う必要性があると言われる時代にあって、IT用語を理解しておかなければならないという考えもあるでしょう。しかし、意味をよく理解できない言葉の続く、分かりづらい文章では、まずいように感じます。