2018年3月14日水曜日

米国ノースダコタ州で石油タンク出口配管系のポンプから出火

 今回は、2018年2月18日(日)、米国ノースダコタ州キャス郡のウェスト・ファーゴにあるマゼラン・パイプライン社のタンク・ターミナルにおいてディーゼル燃料用貯蔵タンク付近で起きた火災事故を紹介します。
(写真はTechlinkcenter.orgから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国ノースダコタ州(North Dakota)キャス郡(Cass County)のウェスト・ファーゴ(West Fargo)にあるマゼラン・パイプライン社(Magellan Pipeline Company)のタンク・ターミナルである。マゼラン・パイプライン社は、石油物流会社であるマゼラン・ミッドストリーム・パートナーズ社(Magellan Midstream Partners)の子会社である。

■ 発災があったのは、ウェスト・ファーゴのEメイン通り沿いにあるタンク・ターミナルの容量43,000バレル(6,800KL)の低硫黄ディーゼル燃料用の貯蔵タンクで、当時30,000バレル(4,770KL)を保有していた。
             ウェスト・ファーゴのタンク・ターミナル付近 (矢印が発災場所)
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年2月18日(日)午前5時15分頃、ディーゼル燃料油タンクの外壁付近から火の手が上がり、真っ黒い煙が空に昇った。
(写真はMyndnow.comから引用)
■ 発災に伴い、消防署が出動し、数十人の消防士が消火活動に従事した。マゼラン・パイプライン社はタンクターミナルの操業を停止し、運転員はタンクにある油の移送作業を行った。

■ 午前中の間、ウェスト・ファーゴのEメイン通りや東9番通りからは施設のタンク群の間から火柱が上がるのが見えた。一方、タンク・ターミナルから立ち昇る大きな黒煙は、町を横切るように流れ、遠くからも見えた。法執行チームが飛ばしたドローンからの映像には、白いタンクの片面が火炎によって黒く焦げている状況を撮していた。

■ 消防活動のため、ウェスト・ファーゴのEメイン通りは9番から17番までの間、道路が閉鎖された。

■ 当局は半径5マイル(8km)以内の住民に室内の安全な場所に待機するよう勧告を出した。近隣の住民には、自動電話で状況を聞くことができるようにした。勧告は午後1時前に解除された。

■ 警察と消防は煙について「危険ではあるが、毒性ではない」と説明していた。ファーゴ・キャス保健所は、煙を過度に吸うと、鼻、喉、肺、気道に炎症を引き起こす恐れがあり、特に幼児、高齢者、呼吸器疾患のある人にとって危険だと勧告した。公衆衛生当局は大気(空気質)をモニタリングしており、午後1時に大気は問題なく「良好」な状態だと発表した。

■ 火災は発災から約7時間後の午後12時45分に鎮火した。

■ 事故によるけが人は無かった。また、避難する住民もいなかった。

■ 火災は、タンクに接続されていた配管系から漏れ出した油に引火して起ったものとみられる。マゼラン・パイプライン社によると、漏れて火災になった油の量は約1,200バレル(190KL)と発表していたが、のちに638バレル(100KL)だったと修正した。

被 害
■ ディーゼル燃料タンクの側板の一部が変形するほど焼けた。移送用ポンプおよび関連配管が焼損した。

■ 負傷者は出なかった。地域住民は室内の安全な場所に待機するよう勧告が出された。
(写真はKfgo.comから引用)
(写真はJamestownsun.comから引用)
< 事故の原因 >
■ 火災の原因は、タンクの出口配管に設置されている移送用ポンプの機械的故障によるものだと発表された。ポンプの機械的故障の部位および引火原因は分かっていない。
            事故前の貯蔵タンク付近 (矢印がポンプとみられる)
(写真はGoogleMapから引用)
< 対 応 >
■ 出動したのは、ウェスト・ファーゴ消防署のほか、ファーゴ消防署とハズマット隊、ヘクター国際空港の消防隊、バーリントン北部サンタフェ鉄道の消防隊、ノースダコタ州兵が支援で駆けつけた。また、グランドフォークス市の法執行チームは4機のドローンを用意し、そのうち3機を飛ばして緊急事態対応の消防隊などに撮影した火災のライブ映像を提供した。残りの1機は予備として待機した。
 なお、ファーゴ市にもドローンのチームが結成され、ドローン機を保有しているという。現在、複数のチームが連邦航空局の免許を取得するためトレーニング中である。

■ 消防隊は発災タンクの防油堤を補強し、消火活動で使用する泡と水が確実に保持されるように図った。消防隊は、正午前に泡による消火活動を開始した。ウェスト・ファーゴ消防署が保有していた泡薬剤の量は200ガロン(750L)ほどだったので、近隣の消防隊から泡薬剤の提供を受けた。使用した泡薬剤は約500ガロン(1,890L)、水は約400,000ガロン(1,500KL)だった。泡消火を始めると、すぐに変化が起った。黒かった煙は白色に変わり、火炎の勢いが弱まった。火災は2月18日(日)午後12時45分に鎮火した。消火活動中、ドローンの映像は有用で3時間ほど使用されたという。

■ 2月19日(月)、マゼラン・ミッドストリーム・パートナーズ社は、事故によって近隣住民や市民にご迷惑をかけたことに陳謝する声明を発表した。

■ 2月19日(月)、タンク・ターミナルの現場では、マゼラン・パイプライン社の従業員や請負会社の作業員など40人が油で汚れた堤内の清掃と土壌浄化を始めた。清掃が終われば、貯蔵タンクの補修にとりかかる予定である。タンクは側板がひどく焼け焦げており、部分的には熱によって変形している箇所がある。火災にあったタンク、ポンプ、配管類は系統から縁切りし、安全な状態になっているという。

■ 2月19日(月)の午後3時から、マゼラン・パイプライン社はタンク・ターミナルの操業を再開し、タンクローリーの荷役作業を始めた。

■ 2月23日(金)、マゼラン・ミッドストリーム・パートナーズ社は、火災の原因はタンクの出口配管に設置されている移送用ポンプの機械的故障によるものだと発表した。

■ ウェスト・ファーゴ消防署によると、火災原因の予備調査はマゼラン・ミッドストリーム・パートナーズ社が進め、その後、パイプライン・危険物安全局(PHMSA)と共同で進められるという。
(写真はValleynewslive.comから引用)
(写真はFiredirect.netから引用)
(写真はWestfargopioneer.comから引用)
補 足
■ 「ノースダコタ州」(North Dakota)は、米国の北部に位置し、カナダに接する州で、人口約75万人である。州都はビスマルク市である。ノースダコタ州はシェールオイルの生産による石油ブームが続いており、石油生産量はテキサス州につぐ全米第2位になっている。
 「キャス郡」(Cass County)は、ノースダコタ州の南東部に位置し、人口約17万人の郡である。
 「ウェスト・ファーゴ」(West Fargo)は、キャス郡の東部にある郡庁所在地であるファーゴ(人口約9万人)に隣接する郊外市で、人口約35,000人の町である。全米の中でも急成長している町のひとつである。ウェスト・ファーゴの寒い季節は、11月下旬から3月上旬までの3か月で、1日当たりの平均最高気温は -0℃未満である。1年で最も寒い日は1月中旬で、平均最低気温は-16℃、最高気温は -7℃である。

■ 「マゼラン・パイプライン社」 (Magellan Pipeline Company)は、ガソリン、ディーゼル燃料、液化石油ガス、航空燃料などの石油製品をパイプラインによって輸送を行う物流会社である。以前はウィリアムズ・パイプライン社と称していたが、2002年に設立され、オクラホマ州タルサに拠点を置いて展開しており、マゼラン・ミッドストリーム・パートナーズ社(Magellan Midstream Partners)傘下の会社である。

■ 発災(被災)タンクは、容量43,000バレル(6,800KL)の固定屋根式タンクである。グーグルマップによると、発災タンクの直径は約35mである。従って、タンク高さは約7.0mであり、発災時のタンク貯油量(4,770KL)の液面高さは約4.9mとなる。タンク出口配管系からの油流出量は約100KLである。この量はタンク液面の約10cmに相当する。
 タンクまわりの防油堤は、盛土式で表面に何らかの被膜が施されているとみられるが、その被膜に多数のひび割れが見られる。消防隊が泡消火の放射前に防油堤を補強したと報じられているが、この被膜のひび割れの補修を指すものだと思われる。
 
ラインポンプの例
(写真はJp.nsslurrypumps.comから引用)
■ 発災ポンプの型式は発表されていない。日本では、一般に防油堤外に設置されるが、今回の事故では、タンク出口直近の配管に設置されているラインポンプだとみられる。立型でポンプ上部に電動機が取り付けられ、バルブと同様に配管の一部品のように設置できる。当該タンク・ターミナルでは、他のタンクにも設置されており、標準のポンプ配置方法になっていると思われる。


              発災タンクの隣接タンクの例 (矢印がラインポンプ)
(写真はGoogleMapから引用)
所 感 
■ 火災の原因は、タンク出口配管系統に設置された移送ポンプの機械的故障だという。しかし、まだつぎのような疑問点がある。
 ● 機械的故障がポンプのどの部位か分からない。火災に至るような機械的故障といえば、第一にポンプのメカニカル・シールの破損が考えられる。一方、メカニカル・シール以外では、軸受の破損またはポンプ自体の破損が考えられる。ポンプ型式はラインポンプと見られるが、この型式による特殊性が関係している可能性もある。 
 ● 発災が午前5時過ぎという早い時間帯であるが、ポンプが運転されていたか分からない。メカニカル・シールや軸受の破損であれば、静止中に破損することは考えにくく、運転中だと思われる。早朝出荷の運転に関連しているのかも知れない。
 ● タンク周辺には雪が積もっており、発災場所の気候からすれば、気温はマイナスであろう。ディーゼル燃料の引火点は45~70℃ほどであり、容易に火がつく環境ではない。引火へのプロセスは単純でなく、複数の要因が重なったものではないかと思われる。

■ 消防隊の消火戦略・戦術は冷静にとられた印象をもつ。
 ● 燃料(燃焼源)の供給状況を確認したとみられる。事故後であるが、漏れた油の量は7時間で約100KLと確認されており、これはタンク液位約10cm相当で、どんどん大量に流出しているという状況ではなかった。
 ● 消火戦略は積極的戦略をとることで進められた。しかし、泡薬剤保有量および防油堤(ひび割れ)に課題があると判断し、まずその準備作業を行った。この間は防御的戦略(冷却)をとったと思われる。
 ● 準備作業として防油堤を補強し、消火活動で使用する泡と水が確実に保持されるように図った。
 ● それとともに、近隣の消防隊に泡薬剤の提供を要請した。
 ● この準備作業が終った後、泡放射による消火活動を開始した。
 使用した泡薬剤は約1,890Lで、水は約1,500KLだったと報じられているが、このデータのままだと泡の混合比率は0.1%泡とかなり低すぎる値であるので、水量は冷却に使用されたものを含むと思われる。
 ● 消火活動中、ドローンによる映像を有効に活用している。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Magellanlp.com, Media Advisory,  February  18-19,  2018
    ・Firedirect.net,   USA – Large Fuel Storage Tank Fire,  February  19,  2018
    ・Westfargopioneer.com,  Investigators Zero in on What Caused West Fargo Fuel Tank Fire,  February  18,  2018
    ・Kvrr.com,  West Fargo FD Says Fire is Out, Will Monitor For Hot Spots,  February  18,  2018
    ・Kvrr.com, West Fargo Tank Fire Still Under Investigation, Magellan Begins Cleanup,  February  19,  2018
    ・Valleynewslive.com,  Fire Officials Say Investigators Looking into Possible Mechanical Failure Related to West Fargo Tank Fire,  February  20,  2018
    ・Westfargopioneer.com, Investigators Pinpoint Cause of Fuel Tank Fire in West Fargo, Company Says,  February  23,  2018
   


 後 記: 今回の事故では、冷静な消火活動を感じます。目の前に火を見れば、全体を考えず、すぐに泡放射をしそうなところです。もしかしたら火が消えたかもしれませんが、そうでなければ、泡薬剤が途切れ、長時間の火災になり、さらにタンクへの延焼という状況もあったでしょう。
 一方、もっとも興味をひかれたのは、ドローンの活用です。以前、「中国河北省の原油備蓄タンク基地で防災訓練」(2016年3月)でドローンが活用された例を紹介した際、「補足」に日本の消防機関におけるドローン採用例を記載しました。今回、実際の火災時にドローンが活用されたという情報は初めてです。しかも、3機のドローンを飛ばし、上空からのライブ映像が有効だったといいます。平昌オリンピックの開会式で1,218機のドローンの群体飛行によるライトショーには驚きましたが、いよいよドローンの時代が来たと感じます。ドローンは普通のこととして消防に携わる部署に配置される時代になったと思います。



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