2017年6月15日木曜日

中国山東省の石油化学工場の貯蔵タンク地区で爆発、死者12名

 今回は、2017年6月5日、中国山東省臨沂市の臨港経済開発区にある臨沂金誉石化の貯蔵タンク地区で爆発・火災が発生し、12名の死者を出した事例を紹介します。
写真Baike.baidu.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、中国山東省(さんとう/シャンドン省)臨沂市(りんぎ/リンイー市)の臨港経済開発区の団林鎮(だんりんちん/ツァンリンチェン)にある臨沂金誉石化(临沂金誉石化有限公司)の石油化学工場である。臨沂金誉石化は、2010年6月に設立された会社で、工場には約200人が働いている。

■ 発災があったのは、石油化学工場にある貯蔵タンク地区である。
                         山東省臨沂市の臨沂金誉石化の工場付近   (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年6月5日(月)午前1時頃、工場の貯蔵タンク地区で液化石油ガスタンクローリーの荷役作業中に爆発が発生した。この爆発をきっかけに被災範囲が拡大し、正午頃には、工場内にある複数の貯蔵タンクが火災になった。火災になったのは、液化石油ガス貯蔵タンク6基、イソ-オクタン貯蔵タンク4基と報じられている。

■ 市民のひとりは、空が真っ赤に変わったといい、「地震が起ったかと思いました」と語っている。工場の近くの家屋は窓ガラスが壊れ、住んでいる人が、自分たちはいつ安全に家に帰れるだろうかと、中国のマイクロブログ・サイトで語っている。
 
■ 発災に伴って地元の消防隊が出動し、貯蔵タンクを冷却するため、タンク周辺に水による噴霧を行った。

■ 事故後の第一報では、死者1名、負傷者9名、行方不明者7名と報じられた。負傷者は地元の病院へ搬送された。その後、6月6日(火)、被災者は死者10名、負傷者9名になった。6月10日(土)の報道では、死者12名に増えている。

■ 発災場所に近い住民や工場の従業員は避難した。

■ 火災は、6月5日(月)午後4時には、イソ-オクタン貯蔵タンク4基の消火活動が行われている。その後、火災は制圧されたが、鎮火時間ははっきりしない。

被 害
■ 事故に伴い、19名の死傷者が発生した。うち12名が死亡した。

■ 周辺に住む人たちが避難したが、人数や避難時間などは不詳である。

■ 液化石油ガス貯蔵タンクやイソ-オクタン貯蔵タンクが複数基、損傷したとみられる。このほか、液化石油ガスタンクローリーや配管パイプラックなどが被災しているが、被害の詳細は不詳である。  
                               北側から撮られた発災写真  (写真はWeibo.comから引用)
                                西側から撮られた発災写真  (写真はEnergy.cngold.org から引用) 
                                 北側から撮られた発災写真(合成)     (写真はV.qq.com から引用)
                           通用門付近から撮られた発災写真     (写真はNews.uc.cn から引用)
(写真はEnergy.cngold.org から引用)
< 事故の原因 >
■ 事故の原因は調査中である。
 一部のメディアでは、事故原因について他の省の液化石油ガスタンクローリー3台が入構し、うち1台の運転手が規則違反の操作を行い、火災を誘発したと報じている。工場内にあった容量1,000㎥の液化石油ガス貯蔵タンク6基のうち4基のタンクで火災が発生し、2基のタンクは緊急遮断弁を操作して、火災を免れたという。

< 対 応 >
■ 臨沂市の党書記と市長が現場に到着し、緊急事態対応本部を設置したという声明を発表した。

■ 臨沂臨港経済開発区は、6月5日(月)、臨港区の進出企業である臨沂金誉石化で爆発・火災事故があったことをウェブサイトで発表した。さらに、死傷者の状況について続報を発表した。 

■ 山東省消防局などから出動した消防士は約900名以上、消防車両は170台以上である。

■ 会社の操業責任者は警察に拘束されているという。

■ 海外メディアでは、中国は中央政府から工場、発電所、鉱山の安全性を向上させるよう改善指示が出されているにも関わらず、頻繁に労働災害が起こっていると報じている。その最悪の事故のひとつが、2015年8月天津市のケミカル倉庫で起きた大爆発事故で、多くの消防士と警察官を含む173名の死者を出した。
(写真はEnergy.cngold.org から引用)
(写真はEnergy.cngold.org から引用)
(写真はV.qq.comから引用)
(写真はV.qq.comから引用)
                            構内の東側から撮られた発災写真     (写真はV.qq.com から引用)
                                    西側から撮られた発災写真      (写真はEnergy.cngold.org から引用)
(写真は、左:Energy.cngold.org、右: V.qq.comから引用)
                                  構内で撮られた事故後の写真      (写真はV.qq.com から引用)
(写真はV.qq.com から引用)
 (写真はV.qq.com から引用)
                        構内の西側から撮られた事故後の写真    (写真はEnergy.cngold.orgから引用)
                       球形タンク地区付近で撮られた事故後の写真  (写真はV.qq.com から引用)
補 足
■ 「山東省」(さんとう/シャントン省)は、中国(中華人民共和国)の西部にある省で、北に渤海、東に黄海があり、黄河の下流に位置する。人口は約9,500万人、省都は済南で、他に青島、泰安などの主要都市がある。 
  「臨沂市」(りんぎ/リンイー市)は、山東省東南部に位置し、人口約1,010万人の地級市である。臨沂市と隣接する日照市では、2015年7月に「中国山東省の液化石油ガスタンク群で爆発・火災」が起こっている。
 「団林鎮」(だんりんちん/ツァンリンチェン)は、臨沂臨港経済開発区にある地区で、人口は約42,000人である。東方の嵐山港に約10km、北方の日照港に約40km、南方の連云港に約80kmという距離にある。 
                           中国各省と山東省の位置   (図はCafefabulous2.blog.so-net.ne.jpから引用)
■ 「臨沂金誉石化」(临沂金誉石化有限公司: Linyi Jinyu Petrochemical Co.)は、2010年6月に設立され、臨沂市に工場を持つ石油化学の会社である。液化石油ガスの生産能力30万トン/年、貯蔵能力55,000㎥、主な製品はプロパン、n-ブタン、イソ-ブタン、イソ-オクタン、ペンタン、塩化物などである。
 被災した貯蔵タンクの内液であるイソ-オクタンは、飽和炭化水素の一つ(C=8)で、無色澄明の液体、比重0.7、引火点-8℃とガソリンと同等の危険性物質で、用途は溶剤、塗料、接着剤である。本来は内部浮き屋根式タンクでの貯蔵が望ましいが、ドームルーフの固定屋根式タンクに貯蔵されていたとみられる。

■ 「被災タンク」を発災写真とグーグルマップで推定すると、下記の写真のようになる。球形タンクの直径は約12.8mで、容量は約1,000㎥となり、報じられているデータに合っている。固定屋根型タンクは、直径約16mであり、高さを約18mと仮定すると、容量は約3,600KLとなる。このタンクが全面火災になった場合、燃焼速度を30cm/hと仮定し、液高さを18mとすれば、燃焼時間は60時間(2日半)となる。
 なお、液化石油ガス荷役場から球形タンクまでの距離は約110mである。同じく固定屋根型タンクまでの距離は約300mである。
発災場所周辺 
(黄矢印:被災の球形タンク、黒矢印:被災の固定屋根型タンク、白矢印:液化石油ガス荷役場)  
 (写真はGoogleMapから引用)
所 感
■ かなり大きな事故であるが、発災写真によって被災状況を補足してみる。
 ● 球形タンクは、噴破したものは見当たらないし、火炎に全体が包まれて焼けたような跡のものは1基程度である。1基の球形タンクが支持脚から脱落しているが、全般に煤で汚れた程度の被災である。
 ● 固定屋根型タンクは、側板が座屈するほどの燃焼したタンクが複数基ある。
 ● 横型円筒タンクは、大きな被災は免れたようにみえる。
 ● 液化石油ガスタンクローリーは構内に多数居たものと思われ、真っ黒に焼けたものやタンクが噴破したものがある。
 ● 配管およびパイプラックは、激しく火炎に包まれたと思われる損壊が見られる。

  これらことから、発災は液化石油ガスタンクローリーの荷役場で起こり、液化石油ガスの配管が破損し、大量の液化石油ガスが流出して爆発を起こしたのではないだろうか。爆発によって、さらに液化石油ガスや軽質油の配管が破損し、火災が複数箇所に拡大していったものと思われる。液化石油ガス荷役場から固定屋根型タンクまでの距離(約300m)を考えると、いかに初期の爆発が激しかったかわかる。
 球形タンクの火災はタンク本体の火災ではなく、配管から流出する油またはガスによる周辺の地上火災だったのではないだろうか。固定屋根型タンクは固定屋根が噴き飛び、障害物あり全面火災の様相を呈したのではないかと思う。

■ 消火活動について発災写真で考えてみる。
 ● 球形タンクには散水設備が設置されている。球形タンクの状況をみると、概ね有効に機能したと思われる。
 ● 固定屋根型タンクでは、全面火災になって座屈に至るまでのものがあり、これらのタンクの消火はできなかった。
 ● 液化石油ガスタンクローリーへの消火活動を示す写真などの情報はない。また、実際に冷却散水しかとれなかっただろう。
 ● 液化石油ガスが放出して火災になっている配管の消火を行うことは、再爆発の危険性がある。激しく損壊しており、消火活動は行われなかったものと思われる。
 ● 高所放水車と移動式放水銃による消火活動(冷却散水)が行われており、必要な消火水は大容量送水ホースを展張し、対応している。また、目的ははっきりしないが、多くの土のう構築が行われている。

  これらのことから、冷却散水を基本とした防御的消火戦略がとられ、さらなる被害拡大は防ぐことができたと思われる。緊急遮断弁が閉止できなかったといわれる4基の球形タンクについても、冷却噴霧水などの防護策を行い、バルブを閉止できたのではないだろうか。一方、固定屋根型タンクの全面火災を消火できなかったのは、意図的に燃え尽きさせる防御的消火戦略をとったか、あるいは障害物あり全面火災で消火戦術が難しかったためであろう。なお、固定屋根型タンクの直径は約16mであり、大容量泡放射砲システムを使わなくても、通常の大型化学消防車や高所放水車による泡消火で消すことのできるタンク規模である。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・News.xinhuanet.com,  Explosion Rocks Petrochemical Plant in East China, Casualties Unknown,  June  05,  2017 
  ・Abcnews.go.com,  8 Killed in East China Chemical Plant Explosion, Fire,  June  05,  2017
  ・Firstpost.com,  China Chemical Plant Explosion:  Eight Killed, Five Injured in Shandong Province,  June  05,  2017
  ・Whataonweibo.com,  Shandong Petrochemical Plant Explosion:  8 Dead, 9 Injured,  June  05,  2017
    ・Thestandard.com,  Shandong Petrochemical Plant Explosion Death Toll Rise to Ten,  June  08,  2017
    ・News.rthk.hk,  Eight Killed in Shandong Chemical Blast,  June  10,  2017  
    ・Baike.baidu.com,   6·5临沂石化公司爆炸事故,   June  05,  2017
    ・News.163.com ,  山东石化公司爆炸致1死7失联 企业负责人被控制,   June  05,  2017
    ・Xhpfm.mobile.zhongguowangshi.com,  山东临沂“6·5”爆炸事故遇难人数达到10人,   June  06,  2017
    ・Ntdtv.com ,  山东临沂石化公司大爆炸 20里外有震感,   June  05,  2017
    ・Energy.cngold.org ,  山东临沂石化爆炸最新消息,   June  05,  2017
    ・Soundofhope.org ,  山东临沂一石化公司爆炸 伤亡人数官方造假,   June  10,  2017
    ・Paigu.com, 山东临沂石化爆炸最新消息,   June  06,  2017
    ・Ygyey.com, 临沂保险业紧急启动液化气罐车爆炸事故理赔,   June  07,  2017
    ・Lylgcyq.gov.cn, 临港区一化工企业发生安全生产事故,   June  05,  2017
    ・Lylgcyq.gov.cn, 临港区金誉石化“6.5” 爆炸火灾事故情况续报(一)~(四),   June  05~06,  2017



後 記: 今回の事例でも、情報公開がオープンとはいえません。関係組織が多層で複雑です。緊急事態対応本部を設置したという臨沂市の党書記と市長、事故状況を公表する臨沂臨港経済開発区、警察に拘束された発災事業所の責任者、と誰が事態の状況を把握して対応するのかよく分かりません。公表できる立場の人が正しい事実を把握していないためか、あるいは失敗を小さく見せようという保身のため、情報が出てこないのだと感じます。投稿写真以外にメディアからの発災写真はかなり出ていますが、施設内あるいは近くから撮られた火災の写真はありません。出てくるのは、消防隊の献身的な活動を示すものや事故後の写真です。火災時の写真はあるはずで、報道規制があっているように思います。しかし、限られた発災写真であっても、現場を知ることのできる貴重な写真です。
 このようなときに気をつけなければならないのは、別な事例の発災写真です。今回も、最初に報じたビデオが2015年の天津ケミカル倉庫爆発事故時のものだったと訂正しているメディアがありましたし、爆発時の写真の中には、2015年7月の日照市で起った「中国山東省の液化石油ガスタンク群で爆発・火災」のものも散見されました。  


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