2017年3月27日月曜日

茨城県稲敷市の廃溶剤リサイクル処理施設で火災、死傷者3名

 今回は、2017年3月17日、茨城県稲敷市の筑波東部工業団地内にある三和油化工業茨城工場のエマルジョン製造棟で起った火災事故を紹介します。
(写真はMainichi.jpから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、茨城県稲敷市釜井の筑波東部工業団地内にある三和油化工業茨城工場の施設である。

■ 発災があったのは、廃溶剤のリユース・リサイクル処理を行う施設のエマルジョン製造棟である。同棟には、廃シンナーや溶剤系洗浄油など廃溶剤を取り扱う作業場があり、廃溶剤はドラム缶で保管されていた。エマルジョン製造棟は、廃溶剤のアルコールなどの液に水を混合させてエマルジョン燃料(溶剤燃料)を製造する装置である。
           稲敷市の筑波東部工業団地付近    (図はGoogleMapから引用
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年3月17日(金)午前11時50分頃、茨城工場のエマルジョン製造棟の作業場で作業中に火災が発生した。施設には、廃アルコールなど廃溶剤の入ったドラム缶が約200本保管されており、当時、ドラム缶を作業場に運び込む作業をしていたという。

■ 火災発生に伴い、正午頃、三和油化工業から「液体が燃えていて手がつけられない」という119番通報があり、稲敷広域消防本部の消防隊が現場へ出動した。

■ ドラム缶が置かれていた平屋の建物から黒煙が立ち上り、何度も爆発しながら炎上した。

■ 発災場所付近の道路が交通規制されたほか、稲敷市は、午後1時45分、釜井と周辺の計4地区749世帯1,931人に避難指示を出した。

■ 発災から約2時間後の午後2時頃、火災は沈静化し始め、約4時間半後の午後4時36分に鎮火が確認された。

■ 当時、作業場では13人が勤務していた。この事故に伴い、焼け跡から1人の遺体が見つかったほか、2人が軽いケガ(やけど)をした。死亡したのは同社の男性従業員(40歳)で、負傷した人も同社の男性従業員(56歳と35歳)だった。 

■ 火災から一夜明けた現場では、平屋の作業場が全焼し、鉄板製屋根の大半が崩落していた。周囲には焦げたり、爆発でひしゃげたりしたドラム缶100本以上が散乱していた。エマルジョン製造棟では、通常、火気を使った作業をしていないという。燃えたのは、原料に使う廃アルコールなどだったとみられる。 
                  発災直後の火災状況   (写真はYoutube.comから引用)
(写真はNaotan-net.comから引用)
                噴き飛ぶドラム缶   (写真はYoutube.comから引用)
被 害 
■ 事故に伴い、従業員の1名が死亡し、2名の負傷者が出た。

避難する住民 (写真はYoutube.comから引用) 
■ 地元住民1,931人を対象に避難指示が出された。一時、約340人が避難した。

■ 産業廃棄物を取り扱う作業場(563.5㎡)が焼失したほか、ドラム缶に保管されていた廃溶剤の一部が焼失した。焼失したドラム缶は百数十本とみられる。なお、製品を取り扱う製造所と貯蔵所には影響が無かった。

< 事故の原因 >
■ 出火原因は調査中である。

< 対 応 >
■ 稲敷市は、3月17日(金)午後1時45分、周辺の住民1,931人に対して避難指示を出し、一時、最大で約340人が近くの小学校などに避難した。避難指示は午後4時40分に解除された。

■ この火災に伴って消防車両45台と消防関係者170人が出動した。

■ 三和油化工業は、3月17日(金)、同社ウェブサイトに「茨城工場での火災発生について(第一報)」と題して、つぎのような声明を発表した。
 「本日11時50分頃、茨城工場にて火災が発生しました。本事故により、社員1名が死亡しました。ご冥福をお祈り申し上げますとともに、ご遺族に対して心よりお悔やみ申し上げます。また、近隣の皆様ならびに関係者の皆様には大変ご迷惑、ご心配をおかけしておりますことに対して、深くお詫び申し上げます」

■ 三和油化工業は、3月18日(土)、同社ウェブサイトに「茨城工場での火災発生について(第二報)」を出し、発災場所がエマルジョン製造棟だったこと、負傷した従業員2名が軽傷だったことを発表した。

■ 3月18日(土)午前9時半から、警察署、消防本部、労働基準監督署の職員約60人が合同で現場検証を行った。現場検証では、消防のはしご車や県警の小型無人機「ドローン」を使って上空から焼けた状況が確認された。
                制圧されつつある火災    (写真はAsahi.comから引用)
鎮火後、膨れたドラム缶を移動する消防隊員
(写真はYoutube.comから引用)
補 足
■ 「茨城県」は、関東地方に位置し、東は太平洋に面しており、人口約290万人の県である。
 「稲敷市」(いなしき市)は、茨城県南部に位置し、人口約42,000人の市である。消防業務は龍ケ崎市にある稲敷広域消防本部が担っている。
              茨城県稲敷市の位置   (図はGoogleMapから引用)
ドローンによる現場検証
(写真はYoutube.comから引用)
■ 茨城県警の「ドローン」が、現場検証時に上空からの状況を確認するために使用されたが、茨城県警では、2015年から廃棄物の不法投棄の監視にドローンを使用している。

■ 「三和油化工業」は、1970年に設立された環境保全関連会社で、各種溶剤・酸・固形物等のリユース・リサイクル事業、油剤製品・IT産業関連向け高純度製品の製造販売などを手掛けている。本社および工場は愛知県刈谷市にあり、2011年に茨城工場が開設された。茨城工場では、2013年に産業廃棄物・特別管理産業廃棄物の処分業許可を取得し、工場が増強されている。
 発災のあった「エマルジョン製造棟」の詳細な装置仕様は分からないが、同社ウェブサイトにある「有機溶剤のリユース・リサイクル」事業の中の「混合エマルジョン」設備だと思われる。廃溶剤の中で比較的良質な廃アルコール類などを夾雑物除去処理したあと、水を混合したエマルジョン燃料(溶剤燃料)を製造する装置だと思われる。
三和油化工業の廃溶剤リユース・リサイクルの概要
(図はSanwayuka,co.jpから引用)
火災のあったエマルジョン製造棟付近 2014年頃)
 (写真はGoogleMapのストリートビューから引用)
■ 廃油などの再生処理施設の事故としてはつぎのような事例がある。

所 感
■ 当該事故情報に接したとき、ドラム缶を保管する平屋の倉庫で起った火災だと思った。しかし、発災場所がエマルジョン製造棟ということであり、廃溶剤のリサイクル処理装置の一部で起ったものとみられる。
 事故直後の発災写真を見ると、すでに建物内の広いエリアで火の手が上がっており、燃焼物はドラム缶から漏れた廃溶剤というより、装置内の設備から多量の可燃性液体が漏洩したものではないだろうか。この火災によって建物内にあったドラム缶が熱せられて破裂し、内部の廃溶剤が流出して火勢を増し、中には爆発的に燃焼して飛ぶドラム缶が出たものと思われる。
 付記:事故状況や現場検証の状況はつぎのYouTubeの動画を参照。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Sanwayuka.co.jp,  茨城工場での火災発生について(第一報),  March 17, 2017  
    ・Sanwayuka.co.jp,  茨城工場での火災発生について(第二報),  March 18, 2017 
    ・Mainichi.jp, 工場火災 4時間半後に鎮火、1人死亡・・・茨城・稲敷,  March 17, 2017
    ・Asahi.com, 茨城で工場火災、1人の遺体発見 周辺に一時避難指示,  March 17, 2017  
    ・Ibaraginews.jp, 稲敷で工場火災、1人死亡 750世帯に避難指示,  March 17, 2017
    ・Nhk.or.jp,  工場火災 焼け跡から1人の遺体 従業員か 茨城,  March 17, 2017  
    ・Breaking-news.jp,  三和油化工業茨城工場で火事 稲敷市釜井の油処理リサイクル工場が爆発,  March 17, 2017
    ・Nhk.or.jp,   リサイクル工場火災 ドラム缶百数十本が燃えたか 茨城 稲敷,  March 18, 2017
    ・Ibaraginews.jp, 稲敷工場火災、再生油製造中に出荷か,  March 19, 2017


後 記: 当初の報道で廃油リサイクル施設の火災と聞いたとき、2013年11月の「千葉県野田市の廃油処理施設の爆発事故」を思い出しました。また、ときどき爆発的な火災の映像を見ると、2015年8月の「米軍・相模補給基地で保管倉庫が爆発・火災」の映像が蘇りました。事故情報を調べていくうちに、廃溶剤のリサイクル処理施設で、廃油よりも燃焼性のよいアルコール類が燃焼物だと分かりました。不思議なのは、最初に爆発が起こっていないようだということです。火災状況の情報が少ないので、類推しても仕方のないことではありますが、「液体が燃えていて手がつけられない」という通報ですので、爆発でなく、火の手が上がったという感じのようです。貯蔵タンクの事故ではないのですが、気になる事故としてまとめることとしました。そして、情報公開に積極的な会社のようで、事故原因が公表される期待もあり、フォローしようと思います。 

2017年3月22日水曜日

メキシコのペメックス社の石油ターミナルで爆発、死傷者8名

 今回は、2017年3月15日、メキシコのグアナフアト州サラマンカ市にあるペメックス社の石油ターミナルで爆発があった事故を紹介します。
(写真はSuperchannel12.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、メキシコのグアナフアト州(Guanajuato)サラマンカ市(Salamanca)にあるメキシコ国営石油会社のペメックス社(Petroleos Mexicanos: Pemex)の石油ターミナルである。

■ 発災のあった石油ターミナルは、ペメックス社のサラマンカ製油所(Salamanca Refinery)の近くにあり、この地域にガソリンを供給する機能を担っていた。
サラマンカにあるペメックス社の製油所付近
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年3月15日(水)午後3時30分頃、サラマンカにあるペメックス社の石油ターミナルで爆発があった。爆発は石油貯蔵所の一角にあるタンクローリー積み場で起こり、作業員が大勢いた。

■ この事故によって8名の死傷者(3名はペメックス社内の従業員で、5名は社外の従業員)が発生した。うち4名が死亡、ほかの4名は病院に入院している。

■ 爆発後の火災はペメックス社の自衛消防隊によって制圧された。
(写真はElsoldeparral.com.mxから引用)
被 害
■ 事故に伴い、死亡4名、負傷4名の人身被害が出た。

■ 石油ターミナルのタンクローリー積み場付近で爆発が起こったが、ペネックス社は設備に大きな被害が出ていないと発表した。

< 事故の原因 >
■ 爆発の原因は不明である。ペメックス社は事故の原因調査に着手した。

< 対 応 >
■ ペメックス社は、3月15日(水)、サラマンカの石油ターミナルで爆発事故があり、8名の負傷者が出たことをウェブサイトで発表した。

■ ペメックス社は、3月17日(金)、同社CEO(最高経営責任者)が事故で負傷した従業員の家族に会い、快復にできる限りの支援をすると話し、また、亡くなられた方への哀悼の意を評したことを同社ウェブサイトで発表した。そして、事故原因を追及していくと述べている。
(写真はMilenio.comから引用)
補 足
■ 「メキシコ」(Mexico)は、正式にはメキシコ合衆国で、北アメリカ南部に位置する連邦共和制国家で、人口約1億2,800万人の国である。
 「サラマンカ」 (Salamanca)は「グアナフアト州」(Guanajuato)にあり、人口約26万人の都市である。
            メキシコ合衆国とグアナフアトの位置    (図はBorderhopper.main.jp から引用)
■ 「ペメックス社」(Petroleos Mexicanos: Pemex)は1938年に設立された国営石油会社で、原油・天然ガスの掘削・生産、製油所での精製、石油製品の供給・販売を行っている。ペメックス社はメキシコのガソリンスタンドにガソリンを供給している唯一の組織で、メキシコシティに本社ビルがあり、従業員数約138,000人の巨大企業である。
 グアナフアト州のサラマンカには、精製能力192,000バレル/日のサラマンカ製油所(Salamanca Refinery)を有している。発災のあった石油ターミナルの設備仕様は分からない。サラマンカ製油所の近くにあるというので、グーグルマップで探したが、特定できなかった。
 なお、ペメックス社の関連事故については、つぎのような事例がある。

所 感
■ 石油ターミナルの爆発は貯蔵タンクではなく、タンクローリー積み場での事故だったとみられる。ペメックス社の設備に大きな被害が無かったようなので、タンクローリーへの積込み時の問題であろう。どのようなローディング設備で荷役作業が行われたか分からないが、死傷者を出すほどの爆発だったので、設備的な問題、安全装置の問題、操作の問題など複合した要因で起ったのではないだろうか。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Reuters.com,  Mexico’s Pemex Says Explosion at Fuel Storage Facility Injures 8,  March 16,  2017  
    ・Nzherald.co.nz,  Pemex: 4 Dead in Explosion at Mexico Fuel Depot,  March 15,  2017 
  ・Pemex.com,  Controlado incendio en la TAD Salamanca, March 15, 2017  
    ・Pemex.com,  Lamentablemente fallece una trabajadora de Pemex por el accidente en la Terminal de Almacenamiento y Despacho de Salamanca, March 15, 2017  
    ・Pemex.com,  Director de Pemex visita a los familiares de los trabajadores lesionados por el accidente en la Terminal de Salamanca,  March 15,  2017
    ・Diario.mx, Explosión en planta de Pemex deja ocho heridos,  March 15,  2017


後 記: 石油ターミナルで死傷者が出るほどの爆発事故という情報を入手したので、まとめてみようと思いました。割合、早い段階だったので、事故情報はこれから出てくると思っていました。あにはからんや、思うような事故情報は出てきませんでした。事故状況を示すような写真も出てきません。英語でなく、スペイン語で検索してみましたが、事故を状況を深めるようなものは報じられていないようでした。(今は、インターネットで日本語や英語をスペイン語に翻訳できますし、スペイン語の文章を英語に翻訳すると概要は分ります。便利になったものです) 結局、分かったのは、国営企業のペメックス社が出す声明を上回るような情報が出てこない、すなわち、現地での取材が行われていないと感じました。かろうじて、発災ターミナルのゲート付近における慌ただしさを伝える写真だけは出てきました。

2017年3月18日土曜日

東燃ゼネラル和歌山工場の潤滑油製造プラントの火災原因(中間報告)

 今回は、2017年1月22日に起きた東燃ゼネラル石油和歌山工場の潤滑油製造プラントの火災事故について2月28日に発表された原因調査の中間報告の内容を紹介します。
東燃ゼネラル石油和歌山工場潤滑油製造プラントの火災
(写真Sankei.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、和歌山県有田市にある東燃ゼネラル石油の和歌山工場である。和歌山工場は敷地面積約248万平方メートルで、製油所精製能力は132,000バレル/日である。

■ 発災があったのは、和歌山工場の潤滑油製造プラントの第2プロパン脱ろう装置の前処理装置である第2潤滑油抽出水添精製装置である。第2潤滑油抽出水添精製装置は、第2溶剤抽出装置と水素化精製装置の2つから構成され、脱歴油から抽出油を抜き出し、水添精製を行った後、第2プロパン脱ろう装置へ原料を供給する。
東燃ゼネラル石油和歌山工場の潤滑油製造プラント付近(火災前)
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年1月22日(日)午後3時40分頃、潤滑油製造プラントの第2潤滑油抽出水添精製装置で火災が起った。プラントからは激しく炎が上がり、周囲に黒煙が立ち込めた。火災の勢いが収まらず、爆発の可能性があるとして、1月22日(日)午後5時20分、火災現場に近い初島地区の住民に対して避難指示が出された。

■ 事故直後には、第2プロパン脱ろう装置で発災し、第2潤滑油抽出水添精製装置付近へ延焼したと報じられた。しかし、2月28日(火)、東燃ゼネラル石油は、第2溶剤抽出装置と水素化精製装置の2つから構成される第2潤滑油抽出水添精製装置においてガスが漏洩して着火したと発表した。

■ 火災は発災から約40時間余を経過した1月24日(火)午前8時27分に鎮火した。事故の状況については「東燃ゼネラル和歌山工場の潤滑油製造プラントの火災」を参照。
東燃ゼネラル石油和歌山工場の潤滑油製造工程と着火エリア
(図はTonengeneral.co.jpから引用)
被 害
■ 第2潤滑油抽出水添精製装置(第2溶剤抽出装置と水素化精製装置)の内液が焼失し、関連設備が焼損した。被災面積は850平方メートルを超えた。

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。地元住民約2,986人を対象に避難指示が出された。(報道によると、避難所に避難した人数は約570人だったという)

< 事故の原因 >
■ 東燃ゼネラル石油は、2月28日(火)、プラント火災の原因について中間報告を発表した。
 それによると、第2潤滑油抽出水添精製装置の高圧パージガス系配管からガスが漏洩して着火したとみられる。事故の調査では、配管に12箇所の開口部とフランジ不具合1箇所があり、これらのいずれかの箇所からガスが漏洩したとみられる。

■ 中間報告では、直接原因・間接要因についてつぎのように述べられている。
直接原因
 ● 現場検証や運転記録 (運転データ、アラーム履歴、関係者証言等) を調査した結果、第2潤滑油抽出水添精製装置の高圧パージガス系から最初にガスが漏洩して着火した可能性がある。
 ● 放射線透過検査による肉厚確認、配管の切り出しによる切断面検査、配管内堆積物の成分分析等から判明した事実から、見つかった12 箇所の開口部と1箇所のフランジ不具合部が、最初のガス漏洩箇所の可能性がある。
間接要因
 ● 発災の起点となったガス漏洩箇所を特定した上で、運転管理、設備管理、設計管理の観点から間接要因を絞り込む。
 ● 発災エリア内で想定される設備不具合要因を網羅的に洗い出し、事故への寄与の有無の検証を行う。

< 対 応 >
■ 東燃ゼネラル石油は、2月28日の中間報告で今後の対応(予定)について、つぎのように述べている。
 ● 今後、発災の起点となったガス漏洩箇所の特定のアプローチとして、冶金学的、化学的な痕跡調査を実施し、最初の発災箇所と二次的な被災箇所の区別を行い、開口に至った原因と着火メカニズムを特定する。
 ● 発災の起点となったガス漏洩箇所を特定した上で、運転管理、設備管理、設計管理の観点から間接要因を絞り込み、再発防止対策を立案するとともに安全管理体制について確認し、最終報告書でまとめる。
 ● 情報公開体制および住民避難のあり方についての再点検を行う。

■ 毎日新聞(地方版)では、3月1日付け「配管に穴や接続不良 東燃、中間報告」という見出しで、つぎのように報じている。
 「火元とみられる潤滑油を精製する装置で、鉄製配管に穴12箇所と継ぎ目の接続不良1箇所が見つかり、このどれかから高圧ガスが漏れて発火した可能性があるという。穴や接続不良が見つかったのは、当初火元とみられていたガスから水分を分離する部分ではなく、重油から潤滑油を抽出したり、硫黄を分離したりする部分の配管(直径約10cm)だった。老朽化の可能性が考えられるが、2014年秋の定期点検時には異常はなかったという。発火当時、周囲には従業員はいなかった」

■ 和歌山放送ニュースでは、2月28日付け「東燃ゼネラル火災、配管に亀裂みつかる」という見出しで、つぎのように報じている。
 「不具合が見つかったのは、火災が起きたプラント内にあり、潤滑油を精製する際に生じるガスを通すための配管である。亀裂などが12箇所あったほか、配管の接続部分1箇所にも不具合があったという。事故当日の巡回では確認できなかったという」

■ 和歌山県は、3月7日(火)、東燃ゼネラル石油和歌山工場に立ち入り調査を行った。火災現場の調査はこれまで警察や消防などが行っていた。今回、和歌山県は、火災が発生した潤滑油製造装置とそれ以外のすべての高圧ガス施設について、保安検査記録や運転記録などの管理状況を書面で調べるほか、残った施設でガス漏れが発生していないかなどを確認する予定で、1週間程度かけて行うという。

補 足
■ 「和歌山県」は、近畿地方にあり、紀伊半島の西側に位置し、人口約95万人の県である。「有田市」(ありだ市)は、和歌山県中部に位置し、人口約30,000人の市である。

■ 「東燃ゼネラル石油」は、2000年に東燃とゼネラル石油が合併してできた石油精製・石油化学の会社である。川崎、和歌山、堺、千葉(市原)に工場がある。
 「和歌山工場」は、軍用航空揮発油・潤滑油を製造する国策会社(東亜燃料)として1941年に操業を開始した歴史のある製油所である。1945年の空襲で壊滅したが、1950年に操業を再開した。精製能力は170,000バレル/日だったが、現在は132,000バレル/日である。

■ 東燃ゼネラル石油のウェブサイトによると、和歌山工場の潤滑油製造プラントは「潤滑油接触脱ろう装置」(1,500バーレル/日)×1基、「潤滑油水添改質装置」(2,200バーレル/日)×1基となっている。
 一方、2月28日に東燃ゼネラル石油から発表された潤滑油製造プラントの製造工程図をみると、実際にはもっと複雑な装置構成になっている。一般に、潤滑油(ベースオイル)は、減圧蒸留装置の減圧軽油を原料として脱ろう装置にかけて製造される。さらに、東燃ゼネラル石油和歌山工場では、減圧残渣も潤滑油の原料としている。減圧残渣を「プロパン脱歴装置」にかけて出てきた脱歴油を原料にしている。「プロパン脱歴装置」は、減圧残油を加圧下で溶剤として液体プロパンを用いて処理し,残油中のアスファルト質や樹脂状物質を除去して、潤滑油原料を生産する装置である。
 今回、発災したのは、この脱歴油を「第2プロパン脱ろう装置」にかける前に、前処理を行う「第2潤滑油抽出水添精製装置」(第2溶剤抽出装置と水素化精製装置)で起こっている。漏洩のあった呼び径4インチとみられる「高圧パージガス系配管」の流体名や役割は分からない。

■ 減圧残渣の「溶剤脱歴装置」は、元来、重油を削減する目的が主で、脱歴油は潤滑油製造に活用されており、国内の製油所には6箇所ある。潤滑油を製造している各製油所の溶剤脱歴装置、溶剤脱ろう装置、溶剤抽出装置、水素化精製装置、接触脱ろう装置の能力は「製油所装置能力・装置別潤滑油精製設備一覧」を参照。東燃ゼネラル石油和歌山工場の潤滑油製造プラントは国内で最も充実した製造装置群を有している。
東燃ゼネラル石油和歌山工場の潤滑油製造プラントの能力
(図はTonengeneral.co.jpから引用し、能力を付記)
所 感
■ 火災の原因は配管からのガス漏洩が最初のきっかけとみられ、配管管理の問題だと思われる。この種の事故では、つぎのような事項が焦点になるだろう。
 ● 配管の肉厚測定の定点が妥当だったか。
 (例えば、異種流体の合流箇所付近や配管分岐の偏流などによる特異な腐食・侵食の状況を的確に定点として定めていたか)
 ● 当初の運転条件と異なる厳しい運転条件に変更した際の変更管理は妥当だったか。
 (例えば、油(脱歴油)の収率を上げるため、条件を変更し、腐食・侵食の環境条件が厳しくなることへの対応策がとられたか)
 ● 配管管理の組織体制は、熟練した経験者が引退していく中で、うまく引き継ぎが行われたか。
 火災の直接原因・間接要因には、配管管理に関する普遍的な「失敗」あるいは「盲点」があるように思う。原因調査結果が公表されることを期待したい。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Tonengeneral.co.jp,  和歌山工場での火災に関する事故調査委員会の中間報告について,  February 28, 2017
    ・Mainichi.jp, 配管に穴や接続不良 東燃、中間報告,  March 01,  2017
    ・Wbs.co.jp,  東燃ゼネラル火災、配管に亀裂みつかる,  February 28, 2017,
    ・Wbs.co.jp,  東燃ゼネラル和歌山工場火災で和県が立ち入り調査,  March 07,  2017   


後 記: 前回の後記でも述べましたが、潤滑油製造プラントのドラムが発災元という情報があり、広義にいえばタンクの範ちゅうなので、事故情報を集めて紹介しました。発災事業所は原因を公開すると語っていましたが、少し不安もありました。しかし、早くも中間報告が公表されました。結局、発災元は配管のようですが、続報としてまとめました。ただ、消防活動状況も知りたいと思っていましたが、この点の情報公開は期待できそうにないようですね。

2017年3月15日水曜日

東燃ゼネラル和歌山工場の清掃中原油タンクの火災原因(中間報告)

 今回は、2017年1月18日に起きた東燃ゼネラル石油和歌山工場の清掃中の原油タンクの火災について、2月28日、原因調査の中間報告が発表されたので、この内容を紹介します。
(写真はMatomame.jpから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、和歌山県有田市にある東燃ゼネラル石油の和歌山工場である。和歌山工場の製油所精製能力は132,000バレル/日である。

■ 発災があったのは、和歌山工場のタンク地区にある原油貯蔵タンクである。タンクは直径約75.5m、高さ21.3mで、当時、清掃作業のため内部に油は無く、空だった。
有田市の東燃ゼネラル石油和歌山工場付近
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年1月18日(水)午前6時45分頃、東燃ゼネラル石油和歌山工場の原油貯蔵タンクから火災が起った。出火したのは、大小17基のタンクが並ぶエリアにあるタンクの1基で、清掃作業の時間外だった。発災のあったタンクは昨年11月から内部の原油を抜いて清掃中で、内部に油は無かったが、原油のスラッジが残っていた。

■ 東燃ゼネラル石油和歌山工場の発表では、火災は1月18日の午後15時半頃おさまったという。(鎮火時間は分かっていない)事故の状況については「東燃ゼネラル和歌山工場で清掃中の原油タンクの火災」を参照。

■ 2月28日(火)、火災前のタンク内の残存スラッジの状況は幅約6m×長さ約20m、高さ0.6~1.6mでタンクのマンホール付近に集積されていたと東燃ゼネラル石油は発表した。(図を参照)
タンク内の残存スラッジの状況(火災前)
(図はTonengeneral.co.jp から引用)
被 害
■ 原油タンク内部が焼けた。被災の状況は確認中だという。

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。

< 事故の原因 >
■ 東燃ゼネラル石油は、2017年2月28日、タンク火災の原因について中間報告を発表した。
それによると、原油のスラッジ中に生成した硫化鉄の自然発火による可能性が高いとみられる。

■ 中間報告では、直接原因・間接要因についてつぎのように述べられている。
直接原因
 ● スラッジ清掃作業を中断していた早朝の作業員のいない、火の気のない時に発生したタンク内部火災であるため、容器内に残存する可燃性物質 (スラッジ、溶解用軽油、資機材等)、着火源 (硫化鉄等の自己発火性物質、静電気、落雷、ウエスにしみ込んだ油の酸化による発熱、電動工具、放火等) を調査した。
 ● 当該タンクから排出されたスラッジの分析結果から、乾燥すると自己発火性のある硫化鉄が相当量含まれていることがわかった。
 ● 当該スラッジについて発火試験を実施し、自然発火し得ることを確認した。 
 ● 硫化鉄以外の発火要因については、作業記録、使用した機材リストから可能性は低いと考えられるが、タンク内の現場検証時に最終確認する予定。

間接要因 
 ● スラッジの安全管理 (硫化鉄の発火対策) に関する工場規程類での記述、施工者側手順書での記述、工場側、施工者側の硫化鉄自己発火のリスク認識、硫化鉄発火対策の具体的な手順に関する理解度を確認し、再発防止のために改善すべき課題が明確となった。 

< 対 応 >
■ 東燃ゼネラル石油は、2月28日の中間報告で、今後の対応(予定)について、つぎのように述べている。
 ● 現場検証による硫化鉄以外の発火要因の最終確認は未了であるが、タンク清掃における硫化鉄の発火対策に関する工場規程類に硫化鉄発火対策の具体的な手順を記載する。
 ● タンク清掃に関係する従業員および施工者の社員に対して、硫化鉄自己発火のリスク認識を高め、硫化鉄の発火対策に関する具体的な手順を遵守するように教育を行う。

補 足
■ 「和歌山県」は、近畿地方にあり、紀伊半島の西側に位置し、人口約95万人の県である。「有田市」(ありだ市)は、和歌山県中部に位置し、人口約30,000人の市である。

■ 「東燃ゼネラル石油」は、2000年に東燃とゼネラル石油が合併してできた石油精製・石油化学の会社である。川崎、和歌山、堺、千葉(市原)に工場がある。
 「和歌山工場」は、軍用航空揮発油・潤滑油を製造する国策会社(東亜燃料)として1941年に操業を開始した歴史のある製油所である。1945年の空襲で壊滅したが、1950年に操業を再開した。精製能力は170,000バレル/日であったが、現在は132,000バレル/日である。原油タンク23基、製品・半製品タンク364基を保有している。

■ 発災のあった原油タンクは直径約75.5m、高さ21.3mと報じられており、容量90,000KL級の浮き屋根式タンクと思われる。しかし、中間報告ではタンク仕様について言及されていない。

所 感
■ 発火の原因は、予想どおり、タンク内で生成した硫化鉄が着火源になった可能性が高いとみられた。硫化鉄は湿潤状態にあれば、発火することはない。湿潤状態に保つことは経験で受け継がれてきたと思われ、ここに盲点があったと思われる。

■ 今回、最も感心したのは、東燃ゼネラル石油が当該タンク火災事故について本格的な原因調査に着手して、中間報告を公表したことである。
 2016年6月に起きた「JXエネルギー根岸製油所で浮き屋根式タンクから出火」では、事故発生の発表は行われているが、その後の状況(原因調査)についての発表は行われていない。この事故も当該事故と同じような事故要因があるのではないかと思われ、原因調査結果と対応策が公表されていれば、タンク清掃中の火災事故は起こっていなかったのではないかと思ってしまう。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Tonengeneral.co.jp,  和歌山工場での火災に関する事故調査委員会の中間報告について,  February 28, 2017
    ・Juntsu.co.jp, 東燃ゼネラル石油、和歌山工場での火災に関する事故調査の中間報告を公表, March 07,  2017
  ・Mainichi.jp , 有田の工場火災 配管に穴や接続不良 東燃、中間報告,  March  01, 2017  


後 記: 東燃ゼネラル石油和歌山工場では、1月22日に起きた潤滑油製造装置の火災がテレビや新聞の全国版で報じられ、この4日前に起きた原油タンクの清掃中の火災についての原因調査情報は開示されることはないだろうと思っていました。しかし、予想(?)に反して中間報告が出されたことに驚くとともに、最終報告が公表されることに期待しています。横浜、和歌山とタンクの開放中の火災事故が続いており、事故の再発防止には、事業者や公設消防からの情報公開が必要であることははっきりしています。