2016年10月4日火曜日

サウジアラビアの石油ターミナルで火災、8名負傷

 今回は、2016年9月20日(火)、サウジアラビアのラスタヌラにあるサウジ・アラムコ社の石油ターミナル施設で発生した火災事故を紹介します。
ラスタヌラのサウジ・アラムコ石油ターミナル   (写真はGoogle Mapから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、サウジアラビア(Saudi Arabia)のラスタヌラ(Ras Tanura)にあるサウジ・アラムコ社(Saudi Aramco)の石油ターミナル施設である。

■ サウジ・アラムコ社はサウジアラビアの国営石油会社で、ペルシャ湾沿いのラスタヌラには国内最大の精製能力55万バレル/日の製油所とともに輸出用の石油ターミナルを保有し、国内外へ原油および石油製品の供給を行っている。製油所は輸出用のナフサ、燃料油、中間製品を生産しており、今年12月に定期修理に入る予定である。
          ラスタヌラのサウジ・アラムコ石油ターミナル   (写真はGoogle Mapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年9月20日(火)午前9時頃、石油ターミナル施設の北桟橋で火災が発生した。

■ 発災に伴い、自衛消防隊が出動して対応した。火災の規模は比較的小さく、消防隊によって完全に制圧された。

■ 火災発生で施設にいた作業員は避難した。しかし、火災によって8名の負傷者が出た。6名は請負会社の作業員で、2名はサウジ・アラムコ社の従業員だった。負傷者は医師による治療を受けたとしているが、サウジ・アラムコ社は負傷の程度や状況について詳細を明らかにしていない。

■ 貿易関係者によると、発災のあった桟橋は、今年5月から6ヵ月の予定でメンテナンスのために停止中だったという。

被 害
■ 火災によって8名の作業員が負傷した。負傷の程度や状況は不詳である。

■ 桟橋設備が火災によって損傷を受けていると思われるが、状況は不詳である。

< 事故の原因 >
■ 原因は分かっておらず、調査中である。

< 対 応 >
■ サウジ・アラムコ社は、事故による石油および天然ガス施設の操業に影響はないと発表した。 
              ラスタヌラ石油ターミナルの北桟橋付近   (写真はGoogle Mapから引用)
                サウジ・アラムコの貯蔵タンクの例  (写真はEnglish.alarabiya.net,から引用)
補 足
■ 「サウジアラビア」(Saudi Arabia)は、正式にはサウジアラビア王国で、中東・西アジアに位置し、サウード家を国王にした絶対君主制国家で、人口約3,000万人の国である。世界一の原油埋蔵量をもち、世界中に輸出している。
 「ラスタヌラ」(Ras Tanura)は、サウジアラビア東部州のペルシャ湾に面しており、人口約74,000人の港湾都市である。
             サウジアラビアの原油・天然ガス施設の位置   (図はPecj.or.j pから引用)
■ 「サウジ・アラムコ」(Saudi Aramco)は、サウジアラビアの国営石油会社で、保有原油埋蔵量、原油生産量、原油輸出量は世界最大である。設立は1933年といわれるが、これは1933年に米国スタンダード・オイル・オブ・カリフォルニア(現在のシェブロン)の子会社であるカリフォルニア・アラビアン・スタンダード・オイル・カンパニー(CASOC=カソック)が同国の石油利権を獲得した時に始まる。その後、1944年にCASOCはアラビアン・アメリカン・オイル・カンパニー(Aramco)、すなわちアラムコに変更した。さらに、1988年に完全国有化が進められ、国営石油会社「サウジ・アラムコ」となった。サウジアラビアの原油・天然ガス事業はサウジ・アラムコが独占して運営している。
 ラスタヌラには、輸出用の石油ターミナルを保有しており、一日当たり340万バレルの取扱い能力があり、サウジアラビアの石油輸出のほとんどを取り扱っている。陸上側には2つのT桟橋があるほか、沖合に複数の大型タンカーを着桟できるシーアイランド桟橋があり、合計20の積込み埠頭を保有している。港は1年中休みなく、毎日24時間運営している。
 サウジ・アラムコはテロを憂慮しており、この対策のひとつとして5,000名のガードマンを直接雇用している。さらに、サウジ政府は国家警備隊と軍の治安部隊合わせて約20,000名を配備しているという。
                                ラスタヌラのシーアイランド桟橋        (写真はOocities.org から引用)
所 感
■ 今回の事故は、①桟橋で起こっている、②桟橋はメンテナンス中だった、③請負会社の人とサウジ・アラムコの人が8名負傷している、④火災が発生しているという状況から推測すると、
  ● 発災は配管と思われる。
  ● サウジ・アラムコ立会のもとに行う工事時に起こった。
  ● 配管内部には油が入っていた。
  ● 溶接・溶接などの火気工事だった。
  ● 火災は退避する時間がないほど急に起こった。
 このような要因の中で、運転または工事上の①ルールを正しく守る、②危険予知(KY)を活発にする、③報連相により情報を共有化する、の基本がどこかで抜けたものと思われる。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
    ・Saudiaraco.com,  Saudi Aramco Contains Minor Fire at Ras Tanura,  September 20,  2016 
  ・Gulfbusiness.com,  Fire at Saudi Aramco’s Ras Tanura Terminal Injures Eight,  September 20,  2016
  ・English.alarabiya.net, Saudi Aramco Fire Injures 8 Workers; Operations Not Impacted,  September 20,  2016  
  ・Arabianbusiness.com,  Saudi Aramco Says Eight Injured in Oil Terminal Blaze,  September 20,  2016
    ・Bloomberg.com, Saudi Aramco Fire Injures 8 Workers, Operations Not Impacted,  September 20,  2016
    ・Arabianindustry.com,  Aramco Contains Fire at Ras Tanura Oil Terminal,  September 21,  2016
    ・English.aawsat.com,  Aramco: Ras Tanura Fire Did Not Affect Export Operations,  September 21,  2016



後 記: 今回の事例は過去に紹介したことのないサウジアラビアの事故だったので、調べ始めました。発災は貯蔵タンクではないようでしたが、世界最大の原油輸出国であるサウジアラビアの石油ターミナルに興味がありましたので、まとめることにしました。サウジ・アラムコのウェブサイトのニュース欄に事故のことが掲載されており、もう少し詳しい状況がわかるかと思いましたが、結局はブログでまとめた程度のことしかわかりませんでした。
 ところで、サウジアラビア軍が守るべきものの優先順位は第一に「イスラム教義」、第二に「主要なモスク」、第三が「社会と祖国」であり、「国民」の防衛は含まれていないということです。石油施設の警備に軍が配備されており、今回の事故のように負傷者が出ても、操業に影響は無いというクールというか冷たい声明が出される背景がわかります。
 蛇足ついでに、先日の国会所信表明での「海上保安庁」、「警察」、「自衛隊」をたたえる演説が波紋を呼んでいますが、地震などの緊急事態時の隊員の苦労を思い浮かべれば、「消防隊および消防団員」が抜けていますよね。明らかに武器を携えた軍や準軍事組織しか頭にないということでしょう。このブログでは、当然ですが、火災と戦う消防隊(FireFighter)の人たちを常に念頭にまとめています。

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