2016年5月28日土曜日

米軍・相模補給基地の保管倉庫の爆発・火災(2015年)の原因調査

 今回は、2015年8月に起った在日アメリカ陸軍の相模総合補給廠にある倉庫の爆発・火災事故について、2015年12月に原因調査の情報を日本の防衛省・外務省が発表したと相模原市が公表していますので、その内容について紹介します。(事故の内容については米軍・相模補給基地で保管倉庫が爆発・火災(海外報道)」参照)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、神奈川県相模原市中央区にある在日アメリカ陸軍の相模総合補給廠(U.S. Army Sagami General Depot)である。この施設は太平洋戦争時の相模陸軍造兵廠の敷地と施設を接収して、1945年から米軍が横浜技術廠 (Yokohama Engineering Depot)相模工廠として使用し、現在は兵站業務の補給施設として使用されている。相模総合補給廠は工場用地として補給関連の保管倉庫や修理工場などが設置されている。

■ 発災があったのは、相模総合補給廠内の倉庫で、鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造)平屋建である。 米軍によると、保管物は酸素ボンベ、消火器等であり、管理状況としては換気扇、スプリンクラー設備、自動火災報知設備(煙感知器)が設置されていたという。

< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2015年8月24日(月)午前0時45分頃、米軍相模総合補給廠の平屋の倉庫が突然、爆発を起こした。爆発に伴いファイヤーボールが形成され、立ち昇る炎は遠くからも見えた。爆発が複数回起こり、火災は夜の空を照らした。

■ 発生した火災は、6時間以上くすぶり続けたのち、次第に消えていった。在日米陸軍の消防隊および相模原市の消防隊が消火活動を行い、8月24日午前7時9分に鎮火したと、米軍は発表している。
     相模原市の米軍・相模総合補給廠の発災場所 (写真は防衛省・外務省発表資料から引用)
被 害
■ 事故に伴う人的被害は無かった。

■ 倉庫の天井の一部が崩壊、倉庫の建具(扉や通風口等)や各種設備の大半が破損した。
 米軍は、大気中に危険な物質は放出されていないという。 
      酸素ボンベ撤去前(左)と撤去後(右)  (写真は防衛省南関東防衛局の発表資料から引用)
< 事故の原因 >
■ 米軍によると、調査は在日米陸軍、米海軍犯罪捜査部、太平洋施設管理司令部、相模原市消防局で行われ、、最初の火災調査は8月24日に始まり、太平洋施設管理司令部が火災の技術的な調査から開始し、9月4日に終了したという。相模原市消防局は、8月25日の初期の火災や緊急活動の現地調査および8月27日の共同調査に関与した。

■ 米軍による調査結果はつぎのように発表された。
 ● 現時点において、確実な火災原因を特定するまでには至っていない。
 ● 放火および故意の破壊行為は原因の可能性として考えられない。
 ● 稲妻のような自然現象、電気設備の機能不全および建物構造そのものが原因ではない。
(写真は防衛省・外務省発表資料から引用)
 ● 調査員によると、酸素ボンベの1つに欠陥のあるガスケットまたは機能不全のバルブがあったことが火災の原因として最も可能性が高い。ガスケットまたはバルブの小さな穴から漏れ出す酸素であっても、発火するのに十分な摩擦を生じさせることがあり、これが初期の炎の原因となって、火災および酸素ボンベの爆発に繋がったと見られる。

< 対応 >
■ 米軍によって発表された再発防止策はつぎのとおりである。
 ● 相模総合補給廠内の全ての倉庫の消火設備について点検を実施した。
 ● 相模総合補給廠内に保管している損傷のない全ての酸素ボンベについて点検し、安全であることを確認した。
 ● 相模総合補給廠内への酸素ボンベの輸送を全て保留した。

■ 米軍の今後の対応としては、米側において今後も引き続き事故の調査を実施しつつ、契約した業者が倉庫内のボンベやがれき等について安全に撤去を実施する。今後、原因を特定するような新たな情報が得られた場合には、日本側に速やかに情報を提供するという。

■ この情報提供を受け、相模原市は国に対し、次の趣旨について、米軍に申入れを行うよう要請した。
 ● 引き続き原因究明に努め、その結果を報告すること。
 ● 基地内の安全対策について万全な措置を講じるとともに、今回の再発防止策について、米軍の立会いのもと、消火設備等の安全点検の状況を市(消防局)に確認させること。

補 足
■ 米軍による調査について、日本当局から将来に事故の起こる機会を最小にするよう要請を受けて行われていると報じたメデイアがあった。米軍の計画では、最終調査報告書を日本政府と共有するとされているが、提示時期について設定されていなかった。「調査の期間は様々であり、爆発の原因の可能性を調査しようとすると、多くの時間を必要とするだろう」と、8月25日、米軍は話していた。
 通常は調査ステップが設定され、プレ、中間、最終案、最終報告書の順番で行われるが、日本政府はこの点について指摘していなかった。今回の2015年12月4日付けの発表は、防衛省と外務省によって行われているが、「情報提供」の位置付けであり、どのステップの報告書か不明である。米軍による調査レポートの原文は公表されていない。

■ 消火活動について、相模原市消防局は“危険物質”を保管しているといわれている米軍の基地で夜中に爆発があったという通報を受け、消防隊を出動させたという。米軍と相模原市の消防隊は、倉庫内にある内容物がはっきり分かっていなかったので、水で消火活動を行うのではなく、炎が燃え尽きるのを待ったという。

■ 神奈川県警は、基地構内で起こった火災であるから、事故原因は米軍によって調べられることになると語っている。神奈川県警によると、日本の当局は日米地位協定(Japan- U.S. Status of Forces Agreement)により米軍の基地や施設における事故の調査に関する管轄権をもっていない。ただし、施設構外へ損害があった場合のみ、日本の捜査当局が参加できるという。
 「日米地位協定」の内容は外務省ウェブサイト「日米地位協定及び日米地位協定の環境補足協定」 に掲載されている。この協定の中で第三条が「施設および区域内外の管理」の項で、「合衆国は、施設及び区域内において、それらの設定、運営、警護及び管理のため必要なすべての措置を執ることができる」と規定されている。

■ 8月27日、相模原市消防局の職員5人が火元の倉庫に立入った。米軍敷地内の立入り調査は日米地位協定で米国側の同意が必要で、市の調査は1964年に「消防相互援助協約」を結んでから初めてである。市によると、米軍側は26日に消防局長に手渡した文書で「調査対象は火元や発火物質、火災原因の特定」としているが、具体的な作業の内容は示していない。在日米陸軍は「調査は米軍が主導し、市消防局に捜査権を付与するのではない」としている。27日の立入りは、分析などの本格的な調査ではなく、3時間ほどの現場確認レベルだった。

■ 12月4日付けの発表(防衛省・外務省)を受け、相模原市消防局は「一般的には考えにくい火災原因」とし、市は米側が引き続き原因究明に努めることや、再発防止のためには市が米軍施設の消火設備などを確かめることが必要だとして、政府が米側に申し入れるよう要請したと報じている。

■ 「酸素ボンベ」の取扱い方の注意事項は、過去の知見をもとにまとめられている。例えば、酸素ボンベの製造者の「酸素ボンベの正しい取扱い方法」や高圧ガス保安協会の「酸素の取り扱いについて」がある。後者の資料の中で、「貯蔵上の注意点」としてはつぎのように述べられている。
 ● 容器置場の周囲2m以内においては、火気の使用を禁止し、引火性、発火性のものは置かない。
 ● 容器は、温度40℃以下に保つ。(直射日光を避ける)
 ● 容器は、地震などに備え、チェーン等で転倒防止の措置を行う。
 ● 充てん容器等には、湿気、水滴等のよる腐食を防止する措置を講じる。
 ● 車両等に固定(または積載)した容器により酸素を貯蔵しない。
 これらは一般的な高圧ボンベの注意事項と変わらない。

一方、酸素ボンベの「使用上の注意」として特記すべき事項はつぎのとおりである。
 ● 容器バルブは、十分注意しながら静かに開閉する。
 これは、酸素ボンベの充填圧力約14.7MPaのガスが調整器内に一気に進入すると、調整器内でガスが圧縮され、断熱圧縮熱によって20℃だっ た調整器内部が約900℃以上に上昇する。この時、調整器内部に塵、アルミニウム粉、油分などが存在すると、発火源・可燃物となり、調整器の爆発・発火につながる恐れがあるためである。実際に、急速にバルブを開けて発火した事例がある。
 この酸素ボンベのバルブ急速開による発火事故は米国でも同様にあり、ASTMなどが注意喚起している。酸素高濃度雰囲気での固体の摩擦による発火実験例はあるようであるが、酸素ボンベのガスケットやバルブに開いた孔からの発火(実験)例は見い出せなかった。

所 感
■ この調査結果では、酸素ボンベを倉庫に保管していると、火災・爆発の可能性があるといっていることになる。確かに酸素ボンベを急速に開けると、圧縮熱によって調整器内が高温になり、発火する可能性があるが、倉庫に保管していた酸素ボンベのガスケットまたはバルブの小さな穴から漏れ出す酸素が発火し、さらに爆発に至るという理屈はあまりにも合理性に欠ける。このような調査結果を日本で反映するとすれば、火災・爆発の可能性があるので、酸素ボンベを倉庫に保管してはならないということになりかねない。

■ 前回のブログ「米軍・相模補給基地で保管倉庫が爆発・火災(海外報道)」の所感で、火災や被災状況から感じた疑問点を述べたが、今回の情報でひとつも疑問を払拭した事項はない。米国らしい合理的な調査レポートが感じられない。今回の情報は防衛省と外務省がまとめたものであり、米軍内部の調査レポート原文(事実)を知りたいと感じる内容である。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・City.sagamihara.kanagawa.jp, 相模総合補給廠における火災に係る米軍の調査状況及び本市の対応について, December 04, 2015  
    ・City.sagamihara.kanagawa.jp,   相模総合補給廠の火災現場における酸素ボンベ等の撤去について,   2016
    ・Asahi.com,  爆発原因「ボンベ酸素漏れ」 相模原の米軍火災,   December 05, 2015  
    ・KHK.or.jp,   酸素の取り扱いについて   
    ・Koike-medical.co.jp,  酸素ボンベの正しい取扱い方法,  December 18, 2012
    ・ASTM.org,  Fire Hazards In Oxygen Systems
    ・Hq.NASA.gov,   Safety Standard for Oxygen and Oxygen Systems,  January,  1996
    ・Labour.gov.on.ca,  Alert: Fire and Explosion Hazard – Opening Oxygen Cylinder Valves,  February 13, 2015
    ・Mofa.go.jp,  日米地位協定及び日米地位協定の環境補足協定


後 記: 今回、貯蔵タンクでない米軍・相模補給基地の事故続報を取り上げたのは、沖縄で地位協定の見直し要求のニュースが出たので、その後、相模原の話がどうなったかと気になったからです。新しい情報が出てから約半年経ってしまっていました。しかし、今回の対応も最初のボタンの掛け違い、すなわち日米地位協定による米軍の管轄案件として幕引きするというミス(米軍からすれば正しい判断)から不信感が生じているように思います。軍事基地があるわけですから、危険物のないはずがなく、事実から認識を共有していくべきでしょうが・・・。今回程度の調査結果(情報提供)が米軍から日本政府に出されているとすれば、やはり、幕末時の未開の国という意識が続いているのでしょうね。
 一方、「今後、原因を特定するような新たな情報が得られた場合には、日本側に速やかに情報を提供する」という文章は、問題先送りが常套のどこかの省が付け加えたものでしょう。調査が終わっており、「新たな情報」が生まれる素地がないのに、このような情緒的な文章は合理的ではありません。米軍から事実の調査レポートが政府に出されているとすれば、「特定秘密保護法」扱いになっているでしょうね。何か閉塞感が残ったままの情報でした。




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