2016年3月21日月曜日

フィリピンの液化石油ガス貯蔵施設で火災

 今回は、2016年2月20日、フィリピンのバタンガス州カラカの工業団地内にあるサウス・パシフィック社の液化石油ガス貯蔵施設で起ったタンク火災について紹介します。
 写真Scoopnest.com から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、フィリピンのバタンガス州(Batangas)カラカ(Calaca)の工業団地内に4ヘクタール(40,000㎡)の敷地面積を有するサウス・パシフィック社(South Pacific Inc.)の液化石油ガス貯蔵施設である。サウス・パシフィック社は、フィリピン国内で液化石油ガス(LPG)を供給するエネルギー会社として2014年に創業している。

■ 発災のあった場所はフェニックス・ペトロリアム社(Phoenix Petroleum Inc.)が所有するフェニックス・インダストリアル・パーク内で、サウス・パシフィック社はこの工業団地内で液化石油ガス貯蔵施設を操業している。当初、発災事業所はフェニックス・ペトロリアム社と報じられたが、のちに訂正された。サウス・パシフィック社は、フェニックス・ペトロリアム社とは関係のない独立した液化石油ガスの輸入会社である。

■ 発災があったのは、6,000トンの貯蔵能力を有する施設にある液化石油ガス(LPG)タンクである。
フィリピンのバタンガス州カラカにあるフェニックス・インダストリアル・パーク(工業団地)付近
(矢印が建設前のサウス・パシフィック社LPG貯蔵基地の予定地) 
(写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年2月20日(土)午後4時頃、サウス・パシフィック社の液化石油ガスタンクで火災が発生した。

■ 火災発生に伴い、近隣の消防署から消防隊が16台の消防車で現場に出動した

■ 発災に伴って負傷者が2名発生し、治療のためカラカ中央病院へ搬送された。被災者はサウス・パシフィック社の従業員で、火災の初期対応をしていて負傷した。      
 写真Scoopnest.com から引用)
(写真はTempo.com.ph から引用)
被 害
■ 火災によって複数の貯蔵タンクが損傷を受け、内部の液化石油ガスが焼失した。

■ 初期対応時に従業員2名が負傷した。また、地域住民1,126人が避難をした。 

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は分かっていない。バタンガス州とエネルギー省が原因調査中である。

■ サウス・パシフィック社によると、タンクは米国のエンジニアリングおよび安全基準にもとづいて建設され、タンクまわりにはコンクリート製の防液堤が設置されているという。タンクは壊れておらず、タンク本体は燃えていないとみられる。一部の報道では、液化石油ガス施設が貯蔵能力7,000~10,000トンの試運転中だったと報じている。

< 対 応 >
■ 発災から半日が経った2月21日(日)朝時点でタンク火災は続いており、消防当局は発災タンクと周辺設備の冷却のため放水する一方、タンクに残った液化石油ガスは燃え尽きさせる判断を行った。燃え尽きるには2~3日かかるとみられていた。

■ 隣接するフェニックス・ペトロリアム社では、一時操業を停止するとともに、輻射熱の影響を防ぐためフェニックス社の貯蔵設備への放水を行った。

■ カラカ地方政府は非常事態を宣言し、発災場所近くの住民を安全な場所へ避難させた。当初は65家族だったが、最終的には296家族1,126人が4か所の避難所に移動した。

■ 発災から2日後の2月22日(月)、火災はコントロール下に入ったと宣言された。サウス・パシフィック社は、発災タンクから安全設備であるフレアーヘッダーに入ったガスのみが燃えていると発表した。しかし、消防隊は10台の消防車とともに現地におり、住民の避難も続いている。

■ 発災から3日経った2月23日(火)、カラカ地方政府は非常事態を解除した。しかし、2月24日(水)の時点でも、サウス・パシフィック社はタンクに残っている最後のガスが燃え尽きるのを待っていると発表した。

■ 2月26日(金)朝の時点でも、まだ完全に火は消えていないが、地方政府は避難していた人たちの帰宅を認めた。
                        ドローンによる事故現場の空撮   (写真はScoopnest.com から引用)
(写真はYoutube.com - AKSYONから引用)
(写真はYoutube.com - GMANewsから引用)
(写真はYoutube.com - GMANewsから引用)
(写真はNorthboundasia.com から引用)
補 足
■ 「フィリピン」(Philippines)は、正式にはフィリピン共和国で、東南アジアに位置する共和制国家である。東にフィリピン海、西に南シナ海、南にはセレベス海に囲まれた島国で、人口約9,400万人、首都はルソン島にあるマニラである。
 「バタンガス州」(Batangas)は、フィリピン北方に位置するルソン島の南部にあり、人口約1,905万人の州で、州都はバタンガスシティである。
 「カラカ」(Calaca)は、バタンガス州の中央部でバラヤン湾に面しており、人口約7万人の町である。
                    フィリピンとバタンガス州の位置    (写真はグーグルマップから引用)  
■ 「サウス・パシフィック社」(South Pacific Inc.)は2014年創業の新しい会社で、フェニックス・インダストリアル・パーク内でも後発の事業所である。カラカにある施設の詳細は分からない。写真によると、横型円筒式タンクのほかに、台形状の築山があり、この施設がなにか分からないが、最初に火が出たものと思われる。
     建設前のサウス・パシフィック社の貯蔵施設予定地付近   (写真はグーグルマップから引用)
         建設時のサウス・パシフィック社の貯蔵施設付近   (写真はFacebook.com から引用)
所 感
■ 今回の液化石油ガス貯蔵施設の火災事故は状況がよくわからない。台形状の築山の施設から最初に火が出たものとみられ、その後、火災が拡大し、横型円筒式タンクにも延焼したと思われる。試運転中という情報もあり、新規設備に問題があった可能性がある。
■ 液化石油ガスの火災は消火することが危険であり、燃え尽きさせる消火戦略をとったことは妥当である。発災写真によると、火災はタンクの上部や配管から炎が出ており、タンクが下からあぶられる状況では無かったようであるが、消防活動(冷却が主)としては必ずしも基本に沿ったものではなかったようにみえる。圧力式液化石油ガスタンクの消火戦略は「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」に記載されており、圧力タンク火災に対処するための戦略的思考はつぎのとおりである。
 ● 冷却を基本とし、両サイドから冷却する。
 ● 冷却作業の位置として円筒端の方からは避ける。
 ● 液レベルより上部を冷却する。
 ● ウォータカーテンを実施し、火炎衝突からの影響を軽減する。
 ● BLEVE(沸騰液膨張蒸気爆発)の発生に留意する。

■ 今回の火災は7日間を超え、火勢が収まってからも長く燃え続けている。タンク内の液の気化が徐々に遅くなっていったためであろう。2011年3月11日の東日本大震災時のコスモ石油千葉製油所の球形タンク火災事故では、燃え尽きさせる戦略の中で、つぎのような対応をとっている。
 ● タンクの残液の気化速度をさらに上げ、すべて燃焼させるため、海水散水から温水散水に切り替え。
 ● タンクの残液が少量となったため、燃焼を管理することが難しくなり、消火してのガス拡散へ戦術の変更を決断。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・GMAnetwork.com, Fire Strikes Phoenix Petroleum Plant in Calaca, Batangas,  February  20,  2016 
  ・MB.com,  SPI’s LPG Storage Facility Hits Fire, not Phoenix’s Depot,  February  22,  2016
  ・Interaskyon.com, LPG Storage Plant in Batangas on Fire for more than 18 Hours, General Alarm Declared,  February  22,  2016  
  ・GMAnetwork.com,  Fire at Calaca LPG Plant under Control; Residents Still at Evacuation Centers,  February  22,  2016
    ・Tenmpo.com,  Fire Hits Batangas LPG Storage Facility,  February  22,  2016
    ・GMAnetwork.com,  Operator of Burning Calaca LPG Plant Apologizes to Residents,  February  22,  2016
    ・Pageone.ph,  LPG Facility Fire in Calaca, Batangas under Investigation - DOE,  February  22,  2016
    ・TheStandard.com.ph,  ‘Fire out’ at Calaca LPG Plant,  February  23,  2016
    ・GMAnetwork.com,  State of Emergency Lifted after Containment of Calaca LPG Fire,  February  25,  2016
    ・CNNphilippines.com,  Calaca Fire Continues, State of Emergency Lifted,  February  26,  2016



後 記: 今回のタンク事故情報はすっきりしないものでした。住民が避難するという事態になり、その数もどんどん増えていったので、報道は避難に関することが多く、事故自体の情報はわからないことの多いままでした。グーグルマップでも液化石油ガス設備が写っていないほど新しい施設で、設備仕様がまったくつかめず、発災個所がどこかもはっきりしませんでした。ただ、現代の事故らしく、動画を含めて発災写真は多くありましたし、ドローンによる空撮の動画(残念ながらやや遠い)もありました。情報は多いのですが、事故原因や消防活動を推測できるようなものが少なく、すっきりしないまま、まとめました。

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