2015年12月24日木曜日

事故は避けられない?

 今回は、米国のブログ(Kind Hearted Capitalist)で2015年7月18日に取り上げられていたカリフォルニア州ピッツバーグ市の石油ターミナル計画に関する意見「Accidents are Unavoidable」(事故は避けられない)という情報を紹介します。
カリフォルニア州ピッツバーグ市の石油ターミナル計画
■ 事故が起こるのは当然でしょうか? 
 私は完璧ではありませんし、完璧な人なんていません。私は雨の日に車の窓を閉め忘れたことがあります。また、網戸を半開きにしたまま出掛けたので、近所のハエが新しい住処として大勢やってきていました。人間が忘れたり、見落としたり、抜けたりすることは少なくありません。しかし、普通の生活では、大きな問題になることはないでしょう。

■ ピッツバーグ市のウェブサイトに、ウェスト・パック・エナージー社(WesPac Energy LLC)が計画している石油ターミナルのウェスト・パック・エナージー・ピッツバーグ(WesPac Energy–Pittsburg)環境影響報告書が掲載されています。正直なところ、私は楽しく読めませんでしたし、うんざり感とある種の怖さを感じました。このように感じる書類は夜に読むようなものではありません。あなた方が読まなくて済むように、報告書のハイライトを紹介しましょう。つぎの文章は、ウェスト・パック・エナージー・レポートから直接、抜粋したものです。
● 環境影響報告書の第10章から:
  石油貯蔵タンクの事故に関連する火災・爆発の一般的な原因としては、落雷の次が人為ミス(ヒューマン・エラー)である。2006年のチャン氏とリン氏の研究によると、人為ミスによる原因は30%である。タンク過充填および溶接や機械的な摩擦(例えば、グラインダー)を含めたメンテナンス・エラーが、事故の主な原因である。
ボイルオーバーの例 
(写真はKindheartedcapitalist.comの動画から引用)
■ 石油貯蔵タンクの火災や爆発事故が起こったときのことを、どのように見るかです。普通、事故の想定は市の真ん中でなく、石油タンク1基だということです。しかし、ここで、発災タンクの近くに別な貯蔵タンクが15基あった場合のことを想像してみてください。あるいは、発災タンクから200ヤード(180m)しか離れていないところに学校がある場合を考えてみてください。

■ ウェスト・パック・エナージー環境影響報告書には‘放出’(リリース)という言葉がたくさん出てきます。これが意味するところは、まわりの環境へ危険性物質が放出されるということです。
● タンクからの放出の一般的原因: 石油貯蔵タンクからの大量放出の主な原因は、火災、爆発および設備故障である。そして、これは石油貯蔵タンク事故に共通する。

地震およびタンクの割れ
■ 設備故障や自然災害もタンクの‘放出’事故の原因となります。当該プロジェクトの建設地は地震活動の活発な地域です。サンフランシスコ・ベイエリアは、全体として、米国国内で最も地震活動の活発な領域のひとつにあります。

■ 1997年統一建築基準の中で、全ベイエリアは地震リスクゾーン4に入ります。地震リスクゾーン4は最大の地震リスク領域を示します。米国地質調査所(USGS)カリフォルニア州地震発生確率の作業グループが出した2003年のレポートによると、 2032年までにサンフランシスコ湾地域にある主要な断層のひとつがマグニチュード6.7を超える地震を起こす確率は62%だと推測されています。
● 環境影響報告書から:
 疲労、地震動、地盤沈下によってタンクに割れのできる可能性がある。割れは底板あるいは溶接端で発生することが多い。タンク底板、側板、屋根部にも、内外面に腐食の出る可能性がある。
サンフランシスコ・ベイエリアにおける地震発生確率
(図はKindheartedcapitalist.comから引用)
■ 2・3マイル(3~5km)の範囲内に主要な活断層が何本か走っている。サンアンドレアス断層、ヘイワード断層、カラベラス断層、ロジャース・クリーク断層は、この地域に大地震を生み出す最大の脅威となっている。このほか、コンコード-グリーンバレー断層、クレイトン-マーシュ・クリーク-グリーンビル断層、マウント・ディアブロ逆断層を含めて主要なベイエリア断層は、ウェスト・パックのプロジェクト・エリアにおいて大きな地盤震動を生む可能性がある。

■ つぎの写真は、大きな地震後に起った日本の製油所で発生したタンク事故の様子である。
大きな地震後に起った日本の製油所でのタンク事故 
(写真はKindheartedcapitalist.comの動画から引用)
補 足
■ 「ピッツバーグ」(Pittsburg)は、米国カリフォルニア州のサンフランシスコの東に位置するコントラコスタ郡にあり、人口約66,000人の市である。
                                       カリフォルニア州ピッツバーグ市の周辺地域   (写真はグーグルマップから引用)
■ 「ウェスト・パック・エナージー社」(WesPac Energy LLC)は、1998年に設立され、石油・天然ガスの物流を担うエネルギー会社である。カリフォルニア州アーバインを本拠地に、北米で石油・ガスの物流施設を所有し、操業している。

■ ウェスト・パック・エナージー・ピッツバーグ(WesPac Energy–Pittsburg LLC)は、ウェスト・パック・エナージー社とオイルタンキング・ホールディング・アメリカ社(Oiltanking Holding Americas, Inc.)の合弁事業で、カリフォリニア州ピッツバーグ市にある既設の石油貯蔵・輸送・桟橋施設の近代化と再操業化を図るために設立された石油ターミナル会社である。
 計画は2015年末までにすべての許可を得て、2016年半ばに着工し、 18か月の建設期間が予定されている。貯蔵タンクは17基の増改造が計画されている。この計画に伴い、2013年に環境影響報告書が作成され、ピッツバーグ市のウェブサイトに公開されている。この評価書は24章に分けられており、第10章がハザード(Hazard)の章で、この章だけで75頁ある。
ウェスト・パック・エナージー・ピッツバーグの石油ターミナル改造プロジェクト
(写真はCi.pittsburg.ca.usから引用)
■ 「チャン氏とリン氏の研究」とは、以前、このブログにも紹介した「貯蔵タンク事故の研究」(A Study of Storage Tanks Accidents)である。

所 感
■ 米国の石油ターミナルの建設(改造)計画について、地震などを憂慮する意見があることに少し驚いた。確かに、カリフォルニア州は北米プレートと太平洋プレートの境界域による地震活動の活発なところであり、2014年8月にカリフォルニア州北部を震源とするマグニチュード6.0の地震が発生し、数十人が負傷し、住宅の火災、停電が起こっている。 古くは、1906年のサンフランシスコ地震では、マグニチュード7.8の大地震によって市街地が壊滅的な被害を受けている。
 しかし、地震を憂慮する理由の大きな要因のひとつは、2011年3月の東日本大震災(東日本太平洋地震)における貯蔵タンクの事故であろう。日本では、当時、津波による被害と福島原子力発電所の事故が大きく報じられ、そちらに注目が集中してしまったが、海外では、日本国内よりも貯蔵タンクの事故に関心を持っていると感じる。(正確に伝えられているかやや疑問もあるが)
(注記) 東日本大震災における貯蔵タンクの事故に関して海外で取り上げられた例を当ブログで紹介したのは、つぎのとおりである。

■ この資料の中で指摘されているハイライト部は、環境影響報告書の中の記載事項であるが、断片的であり、出てきた背景が分かりづらい。日本の環境影響評価書と異なり、この環境影響報告書では、ハザード、すなわち対象物が持っている火災爆発の危険性、人の健康障害の原因となる有害性、環境への影響について分類し、その程度を評価するという「ハザード評価」(ハザード・アセスメント)を行っている。このために、事故の分類や発生確率について言及しており、その一部がハイライト部として取り上げられている。
 欧州ではハザード評価が広く行われているが、米国でも石油ターミナルの建設(改造)計画に対してハザード評価が行われるようになっていることを示している。
(注記):ハザード評価については、当ブログの「大型石油タンクのハザード評価の方法」を参照)

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Kindheartedcapitalist.com,  「 Accidents are Unavoidable 」, Kind  Hearted  CapitalistAuthor: Jennifer,  July  18, 2015
     ・Ci.pittsburg.ca.us,  WesPac Pittsburg Energy Infrastructure Project,  2013 WesPac Recirculated DEIR Chapters [PDFs],  July  15, 2015


後 記: 今回の資料は、これまでと違ってKind Hearted Capitalist(心優しきひとりの資本主義者)というブログの情報からまとめたものです。米国の中でカリフォルニア州は地震に敏感だということが分かり、石油ターミナルの建設計画に関する意見のひとつを知ることができました。ブロガーは、東日本大震災のタンク事故のニュース映像(動画) を引き合いにして、この地域でこのような事故が起こると考えると、恐ろしく、悲しいといい、市議会が計画を許可しないよう望むと締めくくっています。この最後の言葉は本文中には入れませんでした。環境影響報告書で述べられているハザード評価は別な機会に紹介したいと思いつつ、今回のまとめを終わりました。

 

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