2015年9月10日木曜日

米国メリーランド州で納屋の火災中に燃料油タンクが爆発

 今回は、2015年8月18日、米国メリーランド州シャ-ロットホールにある農場の納屋が火災になり、中にあったディーゼル燃料用タンクが爆発した事例を紹介します。
(写真はSTATter911の動画から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国メリーランド州シャ-ロットホールにある農場である。

■ 発災はアーミッシュ・コミュニティの納屋で起こり、内部にディーゼル燃料のタンクがあった。アーミッシュ(Amish)は、米国に居住するドイツ系移民で、キリスト教とコミュニティ(共同体)に忠実で厳格な規則に従って暮らしている宗教コミュニティである。
    シャ-ロットホールのグロックプレイス9035付近  (矢印が火災のあった納屋とみられる)
(写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2015年8月18日(火)午前11時半頃、シャ-ロットホールにある納屋で火災が発生した。ウォルドルフ消防隊は、シャ-ロットホールのグロックプレイス9035にあるアーミッシュの納屋が火災になっているという連絡を受けた。アーミッシュの人たちは携帯電話を使用しないので、現場に居合わせた人が消防署へ通報した。

■ アーミッシュの人たちによると、納屋の中で家具が作られていたという。しかし、火が出るところは誰も見ていないとも語った。チャールズ郡ボランティア消防組合の広報担当であるウィリアム・スミスさんによれば、家具製作に使用する電動工具の異常によって50フィート×200フィート(15m×60m)の木造建家が火災になったとみているという。

■ 午前11時31分に通報を受け、直ちにチャールズ郡とセントメリーズ郡のボランティア型消防署の消防隊が現場に出動した。ウォルドルフ、ヒューズビル、メカニクスビルの各ボランティア型救助隊が救急車を出した。消防車の多くが現地に到着して他の隊を待っているときに、爆発が起った。爆発は容量275ガロン(1,000リットル)のディーゼル燃料タンクで起った。タンクは火災によって熱せられた後に点火した。爆発によって火炎の大きなボールが空に吹き上がった。

■ チャールズ郡消防署のマーク・カウフマン署長によると、消防隊は消火活動を開始するまで納屋の中にタンクがあることを知らなかった。ウォルドルフ消防署のジェフ・デュア副署長は、納屋内にタンクのあることは認識していたが、爆発するまでは、納屋が完全に炎の中に包まれてしまっていることの方が気になっていたという。 この爆発によって、最前線にいた消防士1名が首に軽い火傷を負った。爆発の前に、その消防士は消火ホースでディーゼル燃料タンクを冷却しようとしていた。チャールズ郡消防組合広報担当のスミスさんは、「彼はとっても幸運だった」と語った。ウォルドルフ消防署デュア副署長は、消防士の装着していた個人用保護具が負傷回避に有効だったと語っている。この消防士は現地で業務遂行に支障ないことを確認され、再び消防活動のため持ち場に戻っていった。その後、消火活動におけるケガ人の発生はなかった。

■ 火災の主要部ははしご車を使って消火し、ホットスポット部は消防車でカバーした。その日の午後2時10分頃、消防隊は火災を制圧することができた。納屋のほかに隣の温室と収穫物が損害を受けた。

■ チャールズ郡消防組合広報担当のスミスさんによると、アーミッシュ・コミュニティの人たちは消火後の片付けを手伝っていたという。スミスさんが翌19日(水)の午前11時半に現場へ行ったとき、アーミッシュの人たちはすでに建家エリアの片付けを終え、コンクリートブロックの基礎を作り終えていた。スミスさんによると、アーミッシュの人たちは納屋を再建するために必要な建築資材も準備しており、週末には建て終わるだろうという。スミスさんはその復旧の速さにびっくりしたといい、チャールズ郡の消防隊や救助隊はアーミッシュ・コミュニティの人たちと素晴らしいパートナーシップの関係を持っていると語った。

■ 最前線にいた消防士のアレン・ビザールさん(23歳)は、爆発時のことについて、「私はタンクに水を掛けましたが、実際のところ3秒後には水を掛けるのを止めました。多分10~15フィート(3~4.5m)くらい離れていたと思います。ホースの水を止めるように補助員の方を向きました」 そのとき、爆発が彼を襲った。「私は爆発の瞬間を見ていません。眼の前はすべて赤く輝いていました」と語っている。
 チャールズ郡消防署カウフマン署長は、「人が火炎の中に包まれるのを見るのは、確かに恐ろしい光景です。特にそれが隊員であれば。個人用保護具を装着していたため、幸いにも、彼は大きなケガをしませんでした。しかし、常に想定外のことを予想しておくという大きな教訓をすべての消防士に残しました」と語っている。
 ビザールさんは2008年から消防士として働いている。彼は、また夜間警備員として病院でも働いており、救急救命士になるためという。
(写真はSomdnews.com から引用)
(写真はSomdnews.com から引用)
(写真はSTATter911の動画から引用)
(写真はWUSA.com から引用)
被 害
■ 消火活動中に消防士1名がごく軽い火傷を負った。
■ 爆発・火災によって、ディーゼル燃料タンクのあった納屋のほかに、隣の温室と収穫物が損害を受けた。

< 事故の原因 >
■ 納屋の出火原因について消防当局は正式に発表していないが、家具製作に使用する電動工具の異常による電気系統からの出火とみている。
■ 1,000リットルのディーゼル燃料タンクの爆発過程は分かっていない。

< 対 応 >
■ 火災発生の通報を午前11時31分に受け、チャールズ郡とセントメリーズ郡のボランティア型消防署の消防隊が出動した。 消火活動が約2時間半続けられ、火災は午後2時10分頃に制圧された。出動した消防隊員は58名だった。

■ 消防当局は、8月19日(水)、火災中に突然、爆発を起こした劇的なビデオ映像「Explosionduring Southern Maryland barn fire」をYouTubeに公表した。

補 足
■  「メリーランド州」(Maryland)は米国東部の大西洋側にあり、人口約577万人で、州都はボルティモアである。
 「チャールズ郡」(Charles County)は、メリーランド州の西部中央に位置し、人口約15万人の郡である。「セントメリーズ郡」(Saint Mary‘s County)は、メリーランド州チャールズ郡の東側と接しており、人口約11万人の郡である。
 「シャ-ロットホール」(Charlotte Hall)は、チャールズ郡とセントメリーズ郡の境界にある国勢調査指定地域(Census-designated place; CDP)で、人口約1,200人である。 CDPは個別の行政法人(市役所や役場、市町村議会など)を持たないが、それ以外は普通の市町村(City, Village, Townshipなど)と同じような地域である。
(写真はグーグルマップから引用)
■ アーミッシュ(Amish)は、米国東部の州に居住するドイツ系移民で、キリスト教とコミュニティ(共同体)に忠実で厳格な規則に従って暮らしている宗教コミュニティである。人口は20万人以上いるといわれており、メリーランド州シャーロットホールには、 1940年以降、多くのアーミッシュ・コミュニティがある。
 アーミッシュはあまり生活について語らないため、謎に包まれている部分もあるが、移民当時の生活様式を保持し、農耕や牧畜によって自給自足の生活をしていることで知られる。服装は質素で、基本的に大家族主義であり、ひとつのコミュニティは深く互助的な関係で結ばれている。新しい家を建てるときには、親戚・隣人が集まって取り組む。現代文明を完全に否定しているわけではなく、自らのアイデンティティを喪失しないことを判断し、必要なものだけを導入しているといわれている。
アーミッシュの人たちの暮らしの例
(写真は左:usatoday.com,右:Fp.reverso.netから引用)
所 感
■ 爆発時の映像を見ると、最初に白い煙が出たあと、ボール状の火炎が噴き上がっており、ボイルオーバーの様相を呈している。ディーゼル燃料がボイルオーバーを起こした例はあるが、室内にある1,000リットルのディーゼル燃料タンクでボイルオーバーが起こるかどうかは疑問も残る。
 この事例はYouTubeで爆発映像(やや鮮明さに欠けるが)が流されたため、火災事故が広く知られるようになった。わずか1KLに満たない燃料油でも、見ている人が後ずさりするような爆発に至ることを示す貴重な事例である。

■ 「常に想定外のことを予想しておくという大きな教訓をすべての消防士に残した」という話を最初は理解できなかった。これは、火炎に包まれた消防士が防火服(または耐火服)などの保護具を装着していたため、命が助かったことを指している。ボランティア型消防署では、建家火災において必ずしも重装備の保護具を付けないことがあると思われる。日本でいえば、消防団の団員が消火活動に参加しているのと同じだと思う。
 この 「常に想定外のことを予想しておく」という危険予知は大切である。このことで思い出すのは、2012年9月29日、兵庫県姫路市で起った「日本触媒でアクリル酸タンクが爆発・火災、死傷者37人」の事故で、残念ながら危険予知が不十分で多くの死傷者を出す事故になった。米国の教訓は、日本でも教訓として認識すべきである。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・STATter911,  Explosion during Southern Maryland Barn Fire,  August 18, 2015  
    ・WUSA9.com,  Firefighter Survives Blast and Goes Back to Fight Flames,  August 19, 2015
    ・INBCwashington.com,  Violent Explosion at Amish Barn Fire in Maryland,  August 19, 2015   
    ・WashingtonPost.com, Amish Barn Explodes in Dramatic Video,  August 19,  2015
    ・WJLA.com,  Huge Explosion at Amish Barn un Md. Catch on Camera,  August 20, 2015
    ・Somdnews.com,  Explosion Destroys Charlotte Hall Barn, August 21, 2015



後 記: 今回の事例は事故そのものも興味深いものでしたが、米国における田舎の生活を垣間見るような物語がありました。メリーランド州シャ-ロットホールはワシントンDCに比較的近いところにあります。世界の警察を標榜する米国政府の官庁街の遠くないところに、役所や議会がなく、政治とはまったく無縁の生活をしている町(CDP)があることを知りました。キリスト教とコミュニティに忠実で厳格な規則に従って暮らしているアーミッシュという人たちがいることも初めて知りましたし、その暮らしぶりの一端に驚きました。東日本大震災のとき、被災者の行動が世界で驚きの眼で見られましたが、納屋が焼けてもすぐに再建に取りかかるアーミッシュの人たちには驚きとともに感心しました。また、火炎に包まれた23歳の消防士がボランティア型消防署に勤めるかたわら病院の夜間警備をしながら、救急救命士を目指しているという逸話もいい話です。いつもとはちょっと変わった事例紹介になったと思います。

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