ドローンによって撮影された発災直後の状況
(写真はTelegraph.co.ukから引用)
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< 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、ウクライナ(Ukraine)の首都キエフ(Kiev)近郊にある石油貯蔵施設である。 石油貯蔵施設は、国営石油とBRSM-NAFTAによって運営されている。BRSM-NAFTAは、1995年に設立されたウクライナにおける石油製品の供給会社である。当該施設は、キエフを中心にウクライナの各地へガソリンとディーゼル燃料を供給している。
■ 施設は、キエフから約30km離れたヴァスィリキーウ(Vasylkiv)の町にあり、施設の近くには、ウクライナ軍の軍用空港および別な石油貯蔵施設があった。
■ 施設には、17基(以上)の円筒タンクが設置されていた。このほか多くの横型容器があった。
施設の貯蔵容量は25,000トンであった。
ヴァスィリキーウの石油貯蔵施設付近
(写真はグーグルマップから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2015年6月8日(月)夕方、貯蔵タンクの1基から火災が発生した。その後、火災は近くにあったタンクや容器類に広がったいった後、
翌朝に爆発を起こした。
■ 大きな爆発が起こったのは、6月9日(火)午前8時過ぎだった。爆発発生時、施設には180人の消防隊員がいた。消防隊によると、火災タンクの裏側にガス・パイプラインが走っていたが、このパイプラインも爆発したという。
■ 6月9日の大爆発によって消火活動中だった消防士4名と石油施設の従業員1名の計5名が死亡し、そのほかに18名の負傷者が出た。救急隊はけが人を運ぶのにてんてこ舞いだった。
■ 爆発発生のため、当局は火災現場から2kmの範囲に住む数百人の人たちの避難を実施した。
■ 石油貯蔵施設のタンク火災によって発生した巨大な黒煙が周辺地区を覆った。200人の消防隊員は、隣接する森林、軍用空港、別な石油貯蔵施設に広がることを回避するため、懸命に火災の制圧に努めた。
■ 6月10日(水)の朝時点で4基のタンクの火災が消え、制圧下に入ったと報じられた。
■ 6月11日(木)も、消防隊は石油貯蔵施設の火災と戦い続けていた。午前8時30分時点で、容量900KLのタンク1基が炎上していた。消防隊は石油タンクの冷却に努めていた。この時点で出動した消防士の総員は303名で、45台の消防機材が使用された。
■ 地元の環境保全部署によると、火災に近い地区の環境汚染度は、一時的にレベルの上がった項目もあったが、最大値を超えることはなかったという。
■ 6月8日(月)から始まり、数度の爆発を生じたタンク火災は、
5日を経た6月12日(金)夕方、制圧され、再び火の手が上がるような火元はないと発表された。
■ しかし、6月13日(土)午前11時30分、再出火した。ひとつは、消えていたタンクの1基が減圧になり、燃料が地上に漏れ出して火災になった。もうひとつは、容量900KLのタンクから出火した。
■ 火災の起ったまわりには容量900KLのタンクが4基あり、延焼する可能性は否定できなかった。最も懸念されるのが爆発であり、火炎状況の監視が行なわれた。
■ 石油貯蔵施設からは再び黒煙が舞い上がった。火災によって石油貯蔵施設の大部分が焼き尽くされることになった。火災によって毒性物質が放出され、再び、大気の環境汚染が悪化した。
■ 消防隊は泡薬剤を使い果たし、燃え尽きるのを待つしかないと報じられている。発災した石油貯蔵施設近くには、別な石油貯蔵施設があり、また森林への延焼が懸念されると言われている。
被 害
■ 爆発によって死者5名、負傷者18名の被災者が出た。
■ 火災現場から2km範囲の住民数百人が避難した。
■ 火災に伴い焼失した石油は14,000トンと推定されている。
■ 17基のタンクが火災で被災した。うち14基は容量900KLといわれている。
また、少なくとも11基の横型容器が火災で被災した。
< 事故の原因 >
■ 最初に発災したのは、容量900KLのタンク1基である。その後、16基のタンクへ延焼した。
火災の原因は分かっていない。
■ 当局は、原因について過失またはテロによる放火の可能性を示唆していたが、のちにテロの可能性は否定した。
施設所有者のBRSM-NAFTAは、当初、テロによる放火説を強く表明していた。
< 対 応 >
■ 6月8日(月)の発災に伴い、消防署が出動して対応に努めた。初期出動した消防隊員の人員数や消防資機材の情報は分からない。
■ 6月9日(火)午前8時過ぎに起った爆発時、施設には180人の消防隊員がいた。
この爆発によって消火活動中だった消防士など5名が死亡し、そのほかに18名の負傷者が出たため、救急隊がけが人を病院へ搬送した。
■ 6月11日(木)午前8時30分時点で、出動した消防隊員の総員は303名で、45台の消防機材が使用されていた。
■ 6月12日(金)に火災は、一旦、制圧されたとみられる。
■ 6月13日(土)午前11時30分、再出火したため、火災現場には24名の消防隊員が出動した。
■ 防衛省は、ミグ29戦闘機を有する空軍基地の近くで起った火災のため、緊急事態対応をとり、倉庫に保管されていた武器などの移動を行なった。
■ キエフ市のヴィタリ・クリチコ市長は、街の大気の有害物質レベルが許容値を超えたことに憂慮した。市は、住民に対して外に長い間いると呼吸器系の問題の発生する恐れがあると警告を出した。
(写真はTelegraph.co.ukから引用)
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(写真はBBC.com
から引用)
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(写真はIbtimes.co.ukから引用)
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(写真はIbtimes.co.ukから引用)
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(写真Sputniknews.comから引用)
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(写真Sputniknews.comから引用)
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(写真はIbtimes.co.ukから引用)
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(写真はSovetsky.ne
から引用)
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(写真はRT.com
から引用)
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(写真はRT.com
から引用)
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(写真はUtr.tvから引用)
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(写真はRT.comの動画
から引用)
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(写真はRT.comの動画
から引用)
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(写真Unian.info
から引用)
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(写真はRT.com
から引用)
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補 足
■ 「ウクライナ」(Ukraine)は、東ヨーロッパに位置し、南に黒海と面する人口約4,500万人の国である。天然資源に恵まれ、鉄鉱石や石炭など資源立地指向の鉄鋼業を中心として重工業が発達している。2014年3月に、クリミア半島についてロシアによるクリミア自治共和国の編入問題があり、世界的に注目された。
「キエフ」(Kiev)は、ウクライナの首都で、人口約278万人の都市である。「ヴァスィリキーウ」(Vasylkiv)はウクライナの中央部にあり、首都キエフから南西へ約30kmに位置する人口約37,000人の町である。
(図はグーグルマップから引用)
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■ 発災した石油貯蔵施設はガソリンとディーゼル燃料の供給基地であるが、最近、増設されたと思われる。グーグルマップ(以前の写真)によると、大きいタンクが3基、小さいタンクが5基で、タンク総数は8基だった。しかし、標題の火災写真をみると、大きいタンクが16基、小さいタンクが5基である。ほかの火災写真をみると、さらに数基のタンクがあると思われる。このほかに横型容器が50基ほど(グーグルマップでは35基)あるとみられる。このような多数の横型容器が併設されている理由はわからない。
グーグルマップと火災写真から推定すると、大きいコーンルーフ式固定屋根タンクは、直径約10m×高さ約12mで、容量900KL級である。小さいコーンルーフ式固定屋根タンクは、直径約7.7m×高さ約7mで、容量250KL級である。横型容器は、直径約2.6m×長さ約10mで、容量50KL級である。これらのタンクおよび容器の合計容量は約23,000KLと推測される。
最初に火災を起こしたタンクは、以前から設置されていた容量900KLのコーンルーフ式固定屋根タンクである。また、施設は壊滅的な被害を受けており、被災タンクは26基、横型容器は50基を超えていると思われる。
ヴァスィリキーウの石油貯蔵施設付近
(写真はグーグルマップから引用)
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以前のBRSM-NAFTA の石油貯蔵施設 (現在は黄線枠にタンクが増設)
(写真はグーグルマップから引用)
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所 感
■ 今回の事故に関する消火活動については、つぎのような指摘がいえよう。
● 初期消火に失敗した。最初の火災は容量900KLタンク(おそらくガソリン)で、直径約10m×高さ約12mで、通常の消防資機材で消火できる規模の火災だった。
● 初期消火で制圧できず、火災の規模が次第に大きくなっていったとき、ガソリンタンクの爆発を予想した対応をとっておらず、多くの死傷者を出すことになった。
● このような大規模のタンク火災では、火が消えた後も、タンクの残熱は高く、残っていた油によって再出火する可能性は高いが、このことについて配慮されていない。
■ 設備的な面では、つぎのような指摘がいえよう。
● 火災を想定したタンクの配置になっていない。 すなわち、消防車の配置が考慮されていない。特に、増設分はタンクアクセスが悪い。
● 防油堤が機能する配置になっていない。タンク地区を大きく囲む防油堤はあるのかもしれないが、個々のタンクを対象にした仕切り堤がなく、1基のタンクの流出によって多くのタンクが堤内火災の中に入ってしまったと思われる。
● 横型容器が円筒タンクのそばに併設されており、タンク火災の拡大要因になる可能性が高い。実際、今回の事故が拡大した要因のひとつではないかと思う。
■ 今回の火災事故は、積極的(オフェンシブ)戦略、防御的(ディフェンシブ)戦略、不介入戦略という消火戦略の選択判断について考えさせられる事例である。この観点から、つぎの資料を読み直してみると、参考になる。
● 「タンク火災への備え」(2012年9月)
● 「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」(2014年10月)
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・NHK.or.jp,
ウクライナ 首都近郊の石油施設で大規模火災, June 09, 2015
・AAB-TV.co.jp, 石油貯蔵施設が爆発炎上 4人死亡 ウクライナ, June 10, 2015
・RT.com, Firefighters Die Combating Massive
Blaze at Fuel Storage Facility near Kiev,
June 09, 2015
・BBC.com, Ukraine
Battles Deadly Blaze after Huge Fuel Depot Blast near Kiev, June 09, 2015
・Telegraph.co.uk,
Drone Footage of Ukraine Fire, June 09, 2015
・ABC.net.au, Massive Fire and Blast Hits Fuel Depot near
Kiev, Ukraine Leaving Five Dead, June
10, 2015
・News-xinhuanet.com,
Ukraine’s Fuel Depot Fire under Control, Kiev Says, June 10, 2015
・Novorossia.today,
Fire Still Burning in Three Fuel Tanks at Oil Depot Outside Kiev, June 10, 2015
・Wusa9.com, Massive
Fire Claims Lives in Ukraine, June 11,
2015
・Uatoday.tv,
Firefighters Still Battling Fuel Storage Tanks Fire near Kyiv, June 11, 2015
・UTR.tv, 14 Fuel
Tanks Still Burning at Oil Depot near Kyiv,
June 11, 2015
・RT.com, Oil Depot
near Kiev on Fire again after Massive 5-day Blaze, June 13, 2015
・Sputniknews.com,
Fire at Oil Depot near Kiev Renews on Sixth Day, June 13, 2015
・News.rin.ru, Gschs of Ukraine Cools
The Tank Farm near Kiev after The Fire,
June 13, 2015
・Unian.info, Last Tank on Fire at Oil Depot near Kyiv
Ceases Burning, June 14, 2015
・En.censor.net.ua, Four Containers Burned down at The Oil Depot
near Kyiv by Morning, June 15, 2015
・KyivPost.com, No
One Injured in New Fire Outbreak near Kyiv,
June 15, 2015
後 記: 今回の事故は日本のメディアでも報じられましたが、発災初期だけの単発でした。しかし、海外の記事を追っかけても、事故状況の内容が深まりませんでした。
ひとつは、ウクライナ政府の関係当局の話では「制圧した」、「問題ない」という一方、毎日、消防隊が火災と戦っていると報じられていました。いつ本当に鎮火したのか情報の出るのを待ちましたが、現れません。待ちくたびれました。
もうひとつは、多くの火災写真や動画が発信されており、おおいに参考になりましたが、いつの時点の火災状況かがわからず、事故の経緯や対応の内容が深まりませんでした。
結局、いろいろな記事や映像の断片的な情報を整理して、もっとも妥当だと思われるものでまとめました。所感では敢えて厳しい意見を述べました。現在、ウクライナ(国民)は疲弊しているという話を聞きます。適切な判断のできる本部指揮者がいなかった(と思う)現場第一線において、活動していた消防隊員は大変だっただろうなと思う事故でもありました。