(写真はIbtimes.co.ukから引用)
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< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、中国福建省(ふっけんしょう)漳州市(しょうしゅうし)古雷にある石油化学工場のパラキシレン装置および敷地内にある中間貯蔵用タンクである。石油化学工場はテンロン・アロマティック・ハイドロカーボン社(Tenglong
Aromatic Hydrocarbon Company)が所有するもので、パラキシレン装置は2012年に完成し、年間80万トンの生産能力を有している。2013年、試運転後1か月経った7月30日、配管が爆発する事故を起こしている。
■ 発災した貯蔵タンクはタンクNo.607、No.608、N0.609、No.610で、当時、No.607には重質ナフサ約2,000KL、No.608には重質ナフサ約6,000KL、No.609には改質油約1,500KL、No.610には改質油約4,000KLが入っていた。
■ パラキシレンはポリエステル・フィルムなどの原料として使用されるが、可燃性で発がん性のある液体として健康リスクの問題から、中国では以前からパラキシレン装置に対する抗議行動が起こっていた。漳州市のパラキシレン装置は、元々、福建省廈門市(あもいし)に建設予定だったが、2007年の大抗議運動によって現在の漳州市に変更された経緯がある。
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2015年4月6日(月)午後6時56分、パラキシレン装置でキシレンが漏洩し、火花によって着火して爆発・火災を起こす事故が発生した。その後、装置に隣接する貯蔵用タンクNo.607、No.608、No.610の3基に引火して火災となった。
■ 4月7日(火)午前9時頃にタンクNo.607とNo.608の火災を消すことができた。タンクNo.610も7日午後4時40分までに消火した。しかし、7日午後7時45分にタンクNo.610が再び出火した。同日午後11時40分に消火した。
■ 4月8日(水)午前2時9分に今度はタンクNo.607が再出火した。当時、現場では風速7級(13.9~17.1m/s)の強風が吹いており、消火活動が困難な状況だったが、8日午後8時45分までに消火した。
■ 8日午前11時5分、3基とは別のタンクNo.609から新たな火災が発生した。高温によってタンク壁が損傷し、1,500トンの油が流出して火災になったものとみられる。タンクNo.609の火災は4月10日(木)午前2時57分に鎮火した。
■ 爆発時、プラント従業員のひとりは、「突然、ビックバンがあり、まわりの人たちは爆発で投げ出されました。怖かった」と語っている。近くの村の住民は、「地震が起ったと思った。家の窓ガラスが砕け散ったよ」と話した。
(写真はIbtimes.co.ukから引用)
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事故による被害
■ この爆発・火災によって、当初3名と発表された負傷者数は、その後の確認で14名が負傷し、うち2名は重傷だという。死者は出なかった。(負傷者16名という報道もある)
■ 工場近くの住居の窓ガラスが割れる被害が出ているほか、発災場所から約1km離れたガソリンスタンドの窓が壊れるという被害も出ているという。目撃者の話では、50km離れたところでも爆発の震動を感じたという。テレビやインターネットでは、プラントから立ち昇る火炎の画像や映像が流された。
■ 当局は、事故発生後、古雷の住民に対して半径5km圏外へ避難するよう指示を出したが、タンク3基の約50時間続いた火災が消えた4月8日の報道によると、石油化学工場近くの住民約30,000人が避難していたという。
■ 火災が収束したことを受けて、地元政府が避難住民に対して安全宣言を出し、帰宅を促した。ところが、帰宅した住民からは古雷全域で依然として刺激臭が漂っているとの報告が相次いだ。中には吐き気やめまいなどの症状を訴える人も出ているという。このため、避難場所に引き続きとどまる人や、一旦帰宅したものの再び戻ってくる人が続出したという。
■ 火災から生じる煙は風に乗って運ばれ、古雷から南へ3km先の東山県に黒い雨を降らせた。家の壁には黒い雨の流れた跡が残った。火災の影響によって地元の養殖場のタツノオトシゴなどが大量に死んだという。
(写真はIbtimes.co.ukから引用)
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< 事故の原因 >
■ 政府の調査では、パラキシレン装置の火災原因について生産プロセスに安全性の問題があったことと、操業管理が不十分だったとしている。詳細な調査が継続されている。
■ 中国工学院メンバーの曹湘洪(Cao
Xianghong)氏は、パラキシレン装置内の物質はほとんどが可燃性で、プロセス内の欠陥によって爆発が起こりうるとし、「事故の起った要因は、運転が手順どおり行われなかったことと、設備的な欠陥があったことによる」と語っている。
■ 北京の清華大学・石油化学研究科のウェイ・フェイ(Wei
Fei)教授は、テンロン・アロマティック・ハイドロカーボン社の施設が適切な緊急事態対応計画をもっておくべきであり、その内容について査察を実施すべきだと語っている。また、業界標準では、主要装置と貯蔵タンク間は一定の距離をとるようになっており、
距離が保たれていれば、火災は簡単に広がることはないと指摘している。
< 対 応 >
■ 事故に伴い、漳州市消防署など各地から829名の消防士と170台の消防車が出動し、4日間の消火活動にあたった。この中には、軍の化学防衛隊も含まれ、火炎との戦いに従事した。
■ 工場内には、砂袋5万個、消火薬剤40トンが運び込まれたほか、工場外にも消火薬剤614トンが準備された。
■ 当局によると、環境保護担当者50名が現場へ派遣され、状況の監視と廃水の収集を行っているという。
4月11日(土)、福建省環境監視センターの技術者であるシュイ・ヤーさんは、「西寮村にある測定装置から15分前に得られたデータによれば、ベンゼン濃度は4μg/㎥ほどであり、非常に少ない量です。中国における室内のベンゼン濃度の標準値より小さいものです」と語った。地方の当局者は爆発事故にかかわらず環境への被害がなかったとして楽観的な見方をしている。
■ 当局は、事故発生後、住民に半径5km圏外への避難命令を出した。事故時に交通遮断していた道路は、火災の鎮火を受け、通行を再開した。避難していた住民へ安全宣言が出され、飲料水、電気、ガスの供給が行われるようになった。
■ 工場の近くに住む40,000人の人たちに対して、工場から15km離れた場所に移住する計画があるといわれている。工場近くの村の住民は、「2013年に起った最初の爆発事故以降、いつかまた起こるだろうと思っていた」と語っている。
(写真はIbtimes.co.ukから引用)
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(写真はLAtimes.com
から引用)
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(写真はEn.apdnews.comから引用)
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(写真はIbtimes.co.ukから引用)
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タンク番号「607」が読める (写真はIbtimes.co.ukから引用)
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1基のタンクは油面が見える (写真はEnglish.caixin.com
から引用)
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(写真はLAtimes.com
から引用)
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消火泡剤用トートの荷下ろし作業
(写真はIbtimes.co.ukから引用)
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避難した住民
(写真はWhatsonxiamen.com
から引用)
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補 足
■ 「福建省」 (フージエン ション/ふっけん
しょう)は、中国南部にあり、人口約3,500万人の省である。海峡をはさんで台湾と向かい合った省で、一部の島は台湾が統治している。沿岸部を中心に台湾からの直接投資が多く、在住する台湾人も多く、経済的には融合が進んでいる。
「漳州市」 (ヂャンヂョウ シー/しょうしゅう
し)は福建省の南部に位置し、人口約約480万人である。「厦門市」 (エメン シー/あもい し)は漳州市の北で隣接する市で、人口約350万人である。
(図はグーグルマップから引用)
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■ 「パラキシレン」(p-キシレン)はキシレンの一種で、系統名は1,4-ジメチルベンゼンといい、無色で密度0.86
g/cm3の可燃性液体である。ナフサの改質油あるいはナフサ分解によるエチレンと併産される分解油から抽出または分留されて得られるキシレン、すなわち混合キシレンに10~20%含まれる。パラキシレンは混合キシレンを抽出して得る方法と、混合キシレンに含まれるo-キシレン、m-キシレンの異性化によって得る方法がある。パラキシレンを酸化して得られるテレフタル酸がポリエステルの原料となる。
「キシレン」は、無色で密度0.87
g/cm3の可燃性液体で、引火点は約30℃で、火災によって刺激性または毒性のガスを発生するおそれがある。
■ 「テンロン・アロマティック・ハイドロカーボン社(Tenglong
Aromatic Hydrocarbon Company)は、ドラゴン・アロマティック社(Dragon
Aromatics Company)傘下の石油化学会社で、福建省漳州市に建設した芳香族化合物工場を有する。フランスのアクセン社(Axens)と技術供与契約を結んでいる。ドラゴン・アロマティック社は台湾のシャンルー・ドラゴン・グループ(Xianglu
Dragon Group)の子会社で、台湾資本といわれているが、実態はよくわかっていない。
漳州市古雷のテンロン・アロマティック・ハイドロカーボン社の工場付近
(写真はグーグルマップから引用)
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テンロン・アロマティック・ハイドロカーボン社の発災場所付近(事故前)
(写真はグーグルマップから引用)
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■ 発災タンクは、グーグルマップによれば、4基とも直径約30mである。これから推定10,000~15,000KL級のドーム型固定屋根式タンクとみられる。発災時の油量から油面高さを推測し、全面火災の燃焼速度(30~60cm/hと仮定)から燃え尽きる時間(推定)と実際の燃焼時間(火災時間)を比べてみたのが次表である。(発災タンクの番号を発災状況から推定してみたのが下の写真である)
■ 各タンクの火災について考えてみると、つぎのとおりである。
● タンクNo.607は一旦消えた後に再出火し、火災時間が長い。タンクNo.607は火災写真に写っており、側板の焼け具合からみると、油面高さは2.8mより高く、油量は2,000KLより多いと思われる。再出火したのは、消えた油面を覆っていた消火泡の供給不足だと思われる。当時、強風が吹いており、泡が片寄りやすい条件にあった。
● タンクNo.607の火災写真を見ると、No.607より座屈の激しいタンクがあり、これがタンクNo.608と思われる。報じられている油量(6,000KL)が正しければ、燃焼速度60cm/hで燃え尽きたと思われる。
● タンクNo.610は、No.608ほど激しく燃焼しておらず、火災時間がやや長い。No.607とNo.608は屋根が壊れ、全面火災になったものと思われるが、No.610は屋根が全部外れず、火災が制限されたものと思われる。
● タンクNo.609は、3基のタンクが発災してから約51時間後に火災になっている。記事によると、「高温によってタンク壁が損傷し、1,500トンの油が流出して火災になった」とあり、おそらくプール火災だったと思われる。隣接するタンク火災の熱によって内圧が上昇し、ドーム型タンク屋根のため、屋根が壊れずに側板と底板の接続部に亀裂が入ったものと思われる。
■ 発災タンクは固定屋根式で浮き屋根式ではなかったが、屋根が外れ、全面火災の様相を呈したタンクがあった。直径30m級のタンク全面火災では、日本の法律でも大容量泡放射砲システムを必要としない。必要泡放射量を10L/min/㎡とおけば、泡モニターの必要放射能力は約7,000L/minとなる。これは大型化学消防車(3,000L/min)の3台分に相当する。
■ タンク間距離は、グーグルマップによると、約14mである。タンク直径(約30m)の0.47倍である。現在の消防法では、タンク間距離を長くとるよう改正されたが、過去にはタンク直径の1/3(0.33倍)でよい時期があった。
所 感
■ 最近、貯蔵タンクの事故が無いと思っていたら、4基のタンク火災という大きな事故が発生した。発災源のパラキシレン装置はいろいろ問題点があるが、貯蔵タンク火災として見ても、参考になる点がある。
■ ドーム型固定屋根式タンクの構造上の問題点が出たという印象である。
● フレームアレスター付きのブリーザーベントが付いていたと思うが、4基中3基まで引火しており、規模の大きい火炎に対しては機能しないことが再確認された。
● 引火・爆発した場合、ブリーザーベントではガスを放出できず、ドーム屋根が噴き飛ぶことがある。
● 高温の輻射熱に曝されると、ブリーザーベントではガスを放出できず、内圧が上昇し、側板と底板の接続部(溶接)に亀裂が生じる可能性がある。
● 重質ナフサを灯油に近いと考え、ドーム型固定屋根式タンクを選んだものとみられるが、やはり浮き屋根式タンクを選定すべきだった。標題の写真を見ると、火災タンクに隣接する浮き屋根式タンクは発災していない。(浮き屋根式タンクの側板には爆風による影響跡が見られ、エアフォーム・チャンバーから泡が放出されているので、リムシール火災が起った可能性はあるが、大きな火災には至らなかった)
■ 消火活動についてはつぎのとおりである。
● 直径30m級のタンクで全面火災になれば、大型の消防車による泡放射で消火は可能だと思われる。(消火活動の写真を見る限り、大容量泡放射砲は使用されていない)
● しかし、タンク側板が大きく座屈し、ほとんど燃え尽きたタンクもあり、消火はかなり難航した。大容量泡放射砲システムがあれば、もっと早く消火できたであろう。
● 一旦、消火しても再出火しており、泡張り込みの継続が必要だった。
■ 主要装置とタンクまでの保安距離やタンク間距離は、各国とも大きな災害を経験して、長くとるようになった。今回の事例を受けて、中国でも保安距離やタンク間距離に関する議論が出ると思う。当該石油化学工場は最新の施設であるが、他の国の失敗事例がなかなか活かされないことを痛感する。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・English.sina.com,
3 Injured in Chemical Plant Blast in E China,
April 06, 2015
・Latimes.com, Massive Fire Puts Spotlight back on
Chinese Chemical Plants, April 08, 2015
・News.iafrica.com, China Evacs
30000 after Chemical Fire, April 09,
2015
・CNCnews.com, Chemical
Plants Fire Put out, April 09, 2015
・Firenews.com, Zhangzhou
Gulei Fourth Tank Fire, April 09, 2015
・Wantchinatimes.com,
Explosion in Fujian Paraxylene
Plant Displaces 30000, April 11, 2015
・Ecns.cn, Pollutants
Monitoring Continues Days after Chemical Plant Blast, April 12, 2015
・Whatsonxiamen.com, 40,000
People Relocated after Zhangzhou PX Plant Blast, April 13, 2015
・English.caixin.com, Latest
Blast at PX Plant in Fujian Rekindles Public’s Worries, April 15
・Asahi.com, 中国・福建省の化学工場で爆発 6人けがの報道, April 07, 2015
・J.people.com, 福建省漳州古雷でパラキシレンの漏洩・火災事故, April 07, 2015
・Jp.Reuters.com, 福建省の化学工場爆発事故、収束宣言も住民から不安の声, April 13, 2015
後 記: 大きな事故だったので、海外だけでなく、日本でも(?)結構、報道されています。今回は情報過多という感じでした。 しかし、パラキシレン装置の建設について抗議活動や論争を生んでいるところに、事故が起ったこともあり、パラキシレン装置や台湾資本に関する話題の記事が大半でした。また、発災翌日くらいまでの報道が多く、4日間のタンク火災の状況を報道した記事は少なかったですね。
一方、中国の報道の中で感心するのは、写真が多いことです。地方政府や事業者から発信される情報が少ないためでしょう、写真でカバーしようという意欲を感じます。今回も発災写真が大いに参考になりました。ただ、時間がわからず系統だっていないため、写真をよく吟味する必要があります。ながめていると、ふっと見えてくることがあります。