2014年3月3日月曜日

東京電力福島原子力発電所の汚染水タンクから過充填漏れ

 今回は、2014年2月19日、東京電力福島第1原子力発電所のタンクエリアにある汚染水貯留用組立式円筒タンクにおいて淡水化装置(RO)処理後に出てくるRO濃縮塩水(高濃度放射能汚染水)が、タンク上部から雨樋を通じてタンク堰の外側へ約100KL漏れ出た過充填事故を紹介します。
   漏れのあった汚染水貯留用組立式円筒タンク (写真・図は東京電力の報道配布資料から引用            

<事故の状況> 
■  2014年2月19日(木)、福島県双葉郡大熊町・双葉町にある東京電力福島第1原子力発電所のタンクエリアにある放射能汚染水タンクにおいて汚染水の漏洩する事故があった。事故があったのは、H6エリアにある汚染水貯留用組立式円筒タンクにおいて、淡水化装置(RO)処理後に出てくるRO濃縮塩水(高濃度放射能汚染水)が、タンク上部から雨樋を通じてタンク堰の外側へ約100KL漏れ出た。
                     漏洩発生場所     (図は東京電力の報道配布資料から引用)
                     漏洩範囲   (写真・図は東京電力の報道配布資料から引用)
■ 漏洩発見時、淡水化装置からタンクへのRO濃縮塩水移送配管に接続されている3つの弁のうち2つは開いていたが、残りの1つが外観上閉まっていたことを確認していた。しかし、その後の調査において「閉まっていた」弁については、特定の時間に「開状態」であった可能性が高いことが判明した。この開状態時に汚染水がタンクへ過充填となって、タンク上部天板部のフランジ部から漏洩したものとみられる。

■  3つの弁のうち2つは、2013年4月17日以降、作業効率の観点から東京電力内部で常時開とするようにしていた。弁は手動式であり、残る1つの弁347は人為的に「開」「閉」されている。また、Eエリア行きの弁346も人為的に「開」「閉」されている。この経緯はわかっていない。
 注記:弁開閉状況が確認できたのは、当日、協力企業による弁の銘板取付作業が行われ、当該タンク(H6N-C1タンク)移送ライン等の弁(V346,V347他)の取付状態が写真撮影されていたためである。
              RO濃縮塩水移送配管概略  (写真・図は東京電力の報道配布資料から引用)
タンクの水位トレンドとポンプの起動状況 (②の期間に漏洩発生)
      弁の開閉状況(銘板取付作業時に撮影) (写真は東京電力の報道配布資料から引用)

 <対応(短期)> 
■  漏洩した汚染水の回収および漏洩箇所の土壌回収
   (漏洩水約100KLのうち42KLを回収済み、汚染土壌130㎥以上を回収中)
■ 類似箇所の弁の確認
   (H、G、J1エリアの弁100箇所を点検し、全て閉じていることを確認済み)
■ 弁の開閉操作に関するヒアリング
   東京電力社員水処理関係者14名、CCR運転関係者19名、パトロール関係者67名、当日周辺作業関係者6名についてヒアリングを実施したが、有益な情報は得られなかった。

<時系列> (推定を含む)
  2014年2月17日(月)
  11:27~ EエリアへのRO濃縮塩水の移送を開始(これ以降Hエリアへは移送していなかった)
 2014年2月19日(木)
  10:32から10:55の間に、当該タンク(H6N-C1タンク)への弁347が「閉」→「開」(推定)
                  Eエリア行きの弁346が「開」→「閉」(推定)
  14:01  当該タンク(H6N-C1タンク)で水位高高警報発生
       水位高:96.3%、水位高高:98.9%(警報設定値)
  14:05  協力企業より、当社担当者に連絡。直ちに、担当者は、タンクパトロール担当者に確認し、
       移送・点検等の実施が無いこと、計器関連の作業も無いことを確認。
       この結果、計装系のトラブルと判断。
  15:00  念のため、当社タンクパトロール担当者が、当該タンク廻りを点検し異常は確認されず。
  16:00  協力企業作業員による夕方のタンクパトロールを実施し、当該エリアの異常は確認されず。
  23:00から翌0:10頃の間に、当該タンク(H6N-C1タンク)への弁347が「開」→「閉」(推定)
                    Eエリア行きの弁346が「閉」→「開」(推定)
  23:25頃 タンクエリアパトロールにおいて、H6タンクエリア当該タンク上部より水が垂れていることを
       協力企業作業員が発見。
 2014年2月20日(金)
   0:30頃 タンク内水面を確認したところ、天板まで水位があることを確認。当該タンク最上面フランジ
       部より水が出ており、フランジ部から漏れた水は雨樋を伝って堰外へ流出していることを確認。
       堰外流出箇所へ土のう設置準備。
   1:30頃 雨樋の先端にビニール養生を実施。なお、当該タンク受け入れ弁(2つ)が開となっていること
       を確認したことから、閉操作を実施。これにより漏洩水が減少したことを確認。
   2:30頃 堰外の漏洩範囲が約3m×30mであることを確認。引き続き漏洩範囲の特定調査を実施。
   3:30頃 H6エリアC群タンク間の連絡弁を開にし、漏洩タンクの水位を下げる操作を実施。
   5:40頃 漏洩が停止したこと、およびH6N-C1タンク水位が上部天板部より47cmの位置まで低下した
       ことを確認。

 <原因および対策>
 2月28日(金)、東京電力は、原因と対策についてつぎのように発表した。
=原 因=
■ 今回の漏えいの直接的な原因は以下の通り。
  ● 設備の異常を示す以下の二つの兆候をいずれも見逃してしまい、適切に対応しなかった結果、
    汚染水の漏洩を防ぐことができなかったこと。
  ● 弁の開閉管理ができていなかったこと。
■ 今回の汚染水漏洩においては、設備の状況について異常を示す二つの兆候が現れたが、そのいずれも見逃してしまい、結果として汚染水の漏洩を防ぐことができなかった。
  ● 汚染水をEエリアタンクへ送水しているにも関わらず、当該タンクの水位が上昇していなかったこと
      本来はタンクの送水状態を把握し、水位上昇傾向が見られない場合には、現場確認を行うべき
     であったが、タンクレベルを適切なレンジのトレンドで監視していなかったため、傾向的な動きの
     異常兆候を見逃してしまい、現場確認等の必要な対応をとることができなかった。
  ● H6エリアタンクに汚染水が送水されたことにより、タンク「液位高高」の警報が発生したこと
      本来は供給ポンプを停止し、天板からタンクの実水位を確認すべきであったが、
     タンク「液位高高」の警報が発生した後、水位計指示が乱高下・低下等の挙動を示したこと、
     また、当該タンクまわりを確認しても漏洩等の異常がなかったことなどから、計装系のトラブルと
     誤解した。

=対 策=
■ 感度向上
   ● 監視強化
      ① 汚染水の供給ポンプの起動状態と移送先のタンク水位が連動していることを定期的
        (1時間毎)に適切なレンジのトレンドで監視。異常の兆候があれば所管箇所に連絡
      ② 連動に明らかな異常がある場合には、供給ポンプを停止し、現場にて系統構成
        (弁開閉状 態・移送ラインの構成)を確認。
      ③ タンクの「液位高高」警報が発生した場合、供給ポンプを停止し、現場にて系統構成
        (弁開閉状態・移送ラインの構成)、天板からのタンク水位を確認。
      ④ 水処理制御室の当直以外に、免震重要棟の当直でもタンク水位監視を行い、ダブルチェック
        機能を働かせる。
    ● 教育
      ① 安全の観点から汚染水移送が極めて重要であることについて、汚染水漏洩のトラブル事例
        に基づき、本業務に携わる当社・協力企業社員を継続的に再教育する。
      ② 上記意識付けの上で、操作手順をミス無く確実に行えるよう、手順書の読合せを繰返し行う。
■ 制御系改善
    ● 全ての水位計に対する漏洩警報発報の制御系改善
       ① 現状、受払タンク以外のタンクは、漏洩検知の観点から水位低下率による警報を出す
         設計。一方、受払タンクは溢水防止の観点から高水位に対する警報を出す設計。
       ② 改善として、全タンクに溢水防止・漏洩検知の双方の観点から高水位および水位低下率
         について警報を出すように改造する。
    ● 汚染水をタンクから溢水させないための制御系改善
       ① 現行の供給ポンプ停止インターロックは,送水先となっているタンクグループの受払い
         タンク水位の高信号のみ。
       ② 上記に追加して、送水先となっていないグループの受払いタンクであっても水位の高信号
         が発生したら、供給ポンプを強制停止するインターロックを追加する。

=弁の開閉操作対策=
 今回の事態を招いた背後要因として、容易に弁の開閉操作が可能な環境であったことが挙げられる。今後このような汚染水漏洩を再発させないため、容易に弁の開閉操作ができないよう、以下の対策を実施する。
■ 誤操作防止
   ● 弁の施錠管理を実施
      ① 容易に開操作ができないよう弁に施錠
      ② 施錠した弁の鍵の扱いは操作に関わる者に限定して管理

■ 監視強化
   ● タンクエリア全域に対し、通常のタンクパトロールに加え、以下の現場パトロールを強化
      ① 当直(当社社員)によるパトロール(頻度:2回/日)
            ② 復旧班(当社社員)によるパトロール(頻度:2回/日)
      ③ 防護管理(当社社員・委託員)パトロール(巡回頻度を増加)
   ● 水処理設備廻り監視カメラへの録画機能追加
      ① 現行タンクエリアに設置されている監視カメラに録画機能追加
      ② 新規に設置予定の監視カメラは当初より録画機能付加(新規エリア運用開始毎)
      ③ タンクエリアへの更なる監視カメラ追加(5月完了目途)
      ④ 夜間の監視における照明の増強を検討中
   ● 隔離弁の全閉管理
      ① 移送が終了したエリア(タンク群)の隔離弁について全閉管理
      ② 隔離弁の状態について、毎日パトロールで確認

 <メディアによる報道>
 国内メディアは、2月20日から連日、多くの情報を報じており、その一部を紹介する。
■ 産経新聞は、2月20日、「汚染水漏れ 故障と人為ミス競合か 後手に回る東電」と題して、つぎのように報じた。
 今回の汚染水漏れは、弁の開閉により管理している移水作業の根幹を揺るがすトラブルだ。本来は閉じられているはずだった3か所の弁のうち2か所は、原因は不明だが「開」となっていた。残り1か所は「閉」であったにもかかわらず、約100トンもの水を通した。東電は「故障していた」とみている。
 弁の開閉は手作業で行われており、確認不足など人為ミスの疑いがある。仮に1か所でも正常な状態ならば、多量の漏洩を防ぐことができたとみられる。
 さらに、東電は「漏洩のあったタンクの水位計が故障していた」と説明する。漏洩発覚前の19日午後2時過ぎにタンクの水位が急激に減少し、再び上昇するといった異常な振れ幅を計器が示した。水位計が正常に機能していれば、漏洩を防げないまでも早期に発見できた可能性が高い。
 今回は、堰内に雨水がたまり汚染水となることを防ぐため新設された天板部の雨どいをつたい流出した。「雨どいがなければ、汚染水が堰内にとどまったかもしれない」と東電。対策が裏目に出た可能性もある。

■ 福島民報は、2月21日、「水位直接確認せず 第一原発高濃度汚染水漏れ」と題して、つぎのように報じている。
 東京電力は、タンクの水位が異常に高いことを示す警報が鳴り、その後も水位計の数値が上昇していたにもかかわらず、「機器のトラブル」と判断し、現場で水位を確認しなかった。東電によると、警報が鳴ったのは19日午後2時頃。このタンクでは、汚染水移送など水位が変化する作業が予定されていなかったため、東電は「機器のトラブル」と判断。午後3時ごろ、タンク周辺の見回りをしたが、水位を直接確認せず、異常はないとしていた。 タンクの天板はボルトで固定されているが、内部を確認するための開閉可能な窓が設けられているという。午後11時25分頃の見回りでようやく漏出が発覚した。
 タンクの水位計は97.9%を示していたが、午後3時頃に99%まで上昇し、その後半分以下に急落した。東電は「水位計が水に漬かり故障した可能性が高い」との見方を示している。 
 漏出は、満水状態だったこのタンクに誤って汚染水が流れ込んで発生した。タンクを囲むせきの外側にたまっていた水を採取したところ、ストロンチウム90などベータ線を出す放射性物質は最も高いところで1リットル当たり2億4,000万ベクレル検出された。 

■ NHKは、2月21日、「閉まっているはずの弁開いていた経緯調査」と題して、つぎのように報じている。
  東京電力は原因として指摘されているタンクに汚染水を送る配管で、本来閉まっているはずの弁が開いていた経緯などを詳しく調べ、再発を防ぐ対策を検討することにしている。
 原因について東京電力は、汚染水を処理設備からタンクに移送する配管の途中にある、本来閉まっているはずの3つの弁のうち、1つは故障していた疑いがあり、別の2つの弁も開いていたため、予定していなかったタンクに汚染水が入りすぎ、あふれたと説明している。東京電力は、故障の疑いがある弁の状態やほかの弁がなぜ開いた状態になっていたのかを詳しく調べることにしている。

■ 朝日新聞は、2月22日、「タンク汚染水漏れ、人為的操作が原因」と題して、つぎのように報じている。
 東京電力は、弁を開けた状態にしていたことによる作業員の操作によるものと断定した。東電は当初、弁の故障の可能性もあるとしていたが、工事による写真と水位計のデータから、だれかが弁を開けたことが原因とみている。
 漏れたタンクに汚染水を送る配管には、三つの弁がついている。漏れが発覚した19日午後11時半頃には、二つの弁が開き、一つが閉まっていた。弁がすべて開いていないと汚染水がタンクに流れ込まないはずが、実際は流れ込んでいた。このことから、東電は当初、弁の故障を疑った。しかし、19日午前11時頃に工事のために撮影された写真には、閉まっていた弁が開いていた状態で写っていた。さらに、同日昼頃に漏れたタンクの水位計が上昇。このことから、東電は午前11時頃に何者かが弁を開ける操作をしたとみている。東電は作業員らに聞き取りをしているが、弁の操作をした人を特定できていないという。 

■ 日経新聞は、2月22日、 「甘すぎる東電の汚染水対策」と題して、つぎのように報じている。
 東京電力・福島第1原子力発電所の敷地内のタンクから高濃度の汚染水がまた漏れた。タンクを囲む堰の外に100トンが漏れ、敷地が放射性物質で汚染された。昨年8月にも300トンが漏れ、それに次ぐ大量漏出だ。
 今回は配管の弁が開きっぱなしになり、タンクが満杯になってあふれた。水位が高いことを示す警報が出ていたが、計器の異常と判断し、適切に対応しなかった。
 昨年の大量漏れは、溶接していないタンクに隙間ができたことが原因だった。東電は前回の事故を踏まえ、タンクの巡回点検を増やすなど再発防止策を打ったはずだ。しかし、異なる事態や漏れ方も想定して多面的に対策を検討したのか、疑わざるを得ない。
 徹底した原因究明と対策の見直しは不可欠だ。東電は4月に汚染水対策や廃炉を担う部門を社内分社する。それを待たずに再発防止策を練り直し、新組織の陣容を強化してすみやかに実施すべきだ。
 汚染水は高濃度の放射性ストロンチウムなどを含んでいる。タンクは山側にあり、海には流れ出なかったという。だが海への流出を防げばすむ問題ではない。今回の漏れで870㎡の水たまりができ、土壌も汚染された。東電は土を取り除くというが、汚染水漏れがたび重なれば作業環境が悪化し、廃炉にとって重大な支障になる。
 東電はこうした事態をもっと深刻に受け止めるべきだ。同型タンクは約350基あり、頑丈なタンクへの移し替えはこれからだ。これを急ぐべきだ。汚染水浄化設備の着実な稼働も欠かせない。
 政府は昨年、汚染水対策で470億円以上の国費投入を決め、専門家組織を設けて技術的な助言にも乗り出した。だが、国が机上で対策を練っても、有効な手立てになるとは限らない。
 現場の実態をよく踏まえ、政府も責任をもって実効性の高い支援策を考えてほしい。汚染水漏れがなお続くようなら、国が側面支援するだけではすまなくなる。

■ NHKは、2月24日、「汚染水流出で規制委“対策機能せず” 」 と題して、つぎのように報じている。
 原子力規制委員会の委員からは「汚染水漏れを防ぐための対策が機能していない」などと管理の徹底を求める指摘が出された。
 24日、開かれた原子力規制委員会の専門家会合で、東京電力は、弁が操作されたとみられる19日に、汚染水を移送する予定だったタンクの水位を十分、監視していなかったと報告した。これについて更田豊志委員は、「水位計や警報器など仮に誤って水が移送されても水漏れを防ぐ対策を取っていたはずなのに機能しなかった」と指摘し、これまでに幾重にも取ってきた対策が十分に生かされるよう管理の徹底を求めた。また、別の委員は、弁が操作されたとみられる時間帯に、弁の識別番号を記したプレートを取り付ける作業が行われていたことから、弁を誤って操作するなどのミスがなかったか、十分な検証が必要だと述べた。会合で、東京電力は、24日午前までに行った作業員98人への聞き取り調査の結果も報告したが、問題の弁が操作された理由など詳しい経緯は明らかになっていないとしている。

■ テレビ朝日は、2月24日、「汚染水漏れで規制委が指示 すべてのタンクに鍵」と題して、次のように報じている。
 原子力規制委員会の対策会議は、すべてのタンクの弁に鍵をかけることなどの指示をした。
 東京電力では、24日までに関係する作業員約100人に事情を聴いたが、原因究明につながる情報は得られなかったという。規制委の対策会議は、タンクの弁を勝手に開け閉めされないよう鍵をつけることを指示した。これに対して東京電力は、弁に鍵をつけると緊急時の対応が遅れるとしながらも検討をするとしている。

■ 東京新聞は、2月25日、「汚染水100トン漏れ 新たに不備判明」と題して、次のように報じた。
  東京電力は、処理水を送る配管の弁を開けたまま1年近くも放置したほか、弁が誤操作で開かないよう鍵をかける穴を活用しないなど、新たに4点の東電のずさんな危機管理が浮かび上がった。 
 ● 問題のタンクには、三つの弁がある。昨年4月、地下貯水池からの処理水漏れ事故で、地上タンクに緊急移送することになり、東電は二つの弁を開け、残る一つの弁を開ければすぐ処理水を入れられるようにした。ところが東電は、タンクがほぼ満水になったのに、二つの弁を閉じずに放置していた。
 ● 次の問題は、せっかく弁のメーカーが弁の操作部に南京錠などを取り付けて誤操作を防ぐ穴を開けていたのに東電は活用しようとしなかった。24日の原子力規制委員会の作業部会では「重要な弁はロックするのがプラント管理の常識だ」との批判が出た。
 ● さらに問題なのが、水位管理のあり方。漏れたタンクには水位計は付いていたものの、水位の変化で水漏れを検知し警報を発する機能はなかった。千基を超すタンクの水位を人力で監視するのは不可能なのに、満水かほとんど空にならないと警報が出ない仕組みのままタンクを使っていた。
 ● もう一つ、別のタンク群に処理水を移送していたのに、そのタンクの水位が上がってこないことを確認していなかったことも明確になった。記録では、移送ポンプは動いているのに、水位計の値は横ばい。まともに監視していれば、すぐ異常に気づけた。
 作業部会で、東電の担当者は「水位が上がらないことに疑念は持ったが、具体的な行動は取らなかった」と話した。 

■ 朝日新聞は、3月2日、社説で「原発の汚染水 危機管理をもう一度」と題して、次のように論じている。
  東京電力のふがいなさは相変わらずだが、汚染水対策について安倍首相は1月の施政方針演説で「国も前面に立って、予防的・重層的な対策を進める」と約束したのではなかったか。政府の危機意識と対処への覚悟を改めて問いたい。
 漏水は2月19日から20日にかけて起きた。配管を通じて汚染水をタンクに入れる作業をしていたところ、同じ配管につながっていた別なタンクに流れ込み、上からあふれ出た。本来なら閉まっているはずの別系統への弁が開いていたためだが、事実から1週間以上たっても誰がいつ開けたか、故意なのか単純ミスなのか、わかっていない。問題は深刻だ。あふれたタンクで水位高の警報が鳴ったり、本来の行き先のタンクで水位上昇が止まったりと、異常が検知されていたのに大量漏出を防げなかったからだ。
 国と東電は直接的な原因究明にとどまらず、事故を招いた背景もきちんと洗い出すべきだ。一線の作業員の問題なのか、管理をしている東電に落ち度があるのか、双方の認識共有や意思疎通が悪いのか、マンパワーや費用は十分なのか・・・・・。チェックすべきポイントはいくつもありそうだ。
 大規模で複雑な作業を管理するため、東電は海外でプラント建設などを手がけた人材を外部から招く方針だ。新鮮な視点を早く採り入れたい。経済産業省資源エネルギー庁と規制委は責任を押しつけあうのでなく、東電と分担して前面に立ち、実効ある汚染水対策を講じなければならない。

<海外メディアによる報道>
 海外メディアが今回の事故についてどのように報じているか、一部を紹介する。
■ ニューヨーク・タイムズは、2月20日、「この6か月で最悪の漏洩」と題して、つぎのように報じた。
 1月19日(木)、大規模に破壊された福島原子力発電所において、数百基ある貯蔵タンクの1基から高濃度の放射能汚染水が約100トン漏洩し、過去6か月で最悪の漏れ事故となったと東京電力は発表した。漏洩した汚染水は海岸から遠い位置にあったため、過去の漏洩事故と同様、太平洋に流出することはないと東京電力は語った。東京電力は、今回の漏洩が2対のバルブを誤って開のままにしていたことから、その経緯を調査すると語った。
 福島原子力発電所は2011年3月の地震と津波によって被害を受け、3基の原子炉がメルトダウンに至ったが、今回、漏洩した水はこの災害の余波で出てきた最悪の放射能汚染水である。東京電力によると、汚染水のベータ線を出す放射性物質は、平均、1リットル当たり2億4,000万ベクレルだという。放射性物質の約半分がストロンチウム90で、これはカルシウムと同様、人体に容易に取り込まれ、骨ガンや白血病を引き起こす可能性がある。これは、日本の飲料水の安全基準の最大許容値の380万倍に相当する。
 事故以来、東京電力は、損傷したプラントで起きた問題を認めることが遅く、内部状況についてわずかな情報しか開示しないと批判されてきた。それでも、政府は東京電力にクリーンアップ作業を任せたままである。  

■ 米国CNNは、2月20日、「福島で新たな放射能汚染水の漏れ」と題して、つぎのように報じている。
 日本の大きな問題となっている福島第1原子力発電所で、貯蔵タンクから大量の放射能汚染水が漏洩したと、東京電力は発表した。東京電力によると、高濃度汚染水の漏洩量は100トンとみられている。漏洩した水はタンク堰の外に出て、土壌に吸収されていると、東京電力は語った。会社は放射能汚染水が太平洋へ出たとは考えていないと言っている。
 2011年3月東北地方を襲った大地震と津波によって原子力発電所の3基の原子炉がメルトダウンに至って以降、東京電力は冷却維持のため膨大な量の汚染水を保有している。東京電力は、膨大な放射能汚染水の管理とともに、昨年来起こっている多くの漏洩事故に苦闘している。
 東京電力が直面している問題の規模が国内外から憂慮されており、安倍首相の政府は有毒な汚染水問題について着実に対応することを約束した。今回の漏洩は、昨年の夏、タンクから約300トンの放射能汚染水を漏洩させて以来、最も大きい事故のひとつである。

■ 英国BBCは、2月20日、「福島原発で放射能汚染水が漏洩」と題して、つぎのように報じている。
 東京電力は、福島原子力発電所の貯蔵タンクから約100トンの高濃度放射能汚染水が漏洩したと発表した。東京電力によると、有毒な汚染水が漏れたのは、誤ってバルブを開のままにしたためにタンクから溢流したと思われるという。しかし、汚染水が海に到達した可能性は低いと、東京電力は語っている。
  2011年の地震と津波によって損傷を受けた原子力発電所のプラントは、震災事故以降、漏洩や停電など多くの問題に直面している。
 今回の漏洩は、昨年8月、原子力規制員会がインシデント・アラーム・レベルを上げた300トンの汚染水漏洩事故以降、最も深刻な事故である。
 東京電力は、放射能汚染水が貯蔵タンクから溢流したのは19日と発表しているが、東京電力の資料によると、漏洩の発見は数時間見逃されている。東京電力はタンクへポンプ移送しているときに偶発的に漏洩したと言っているが、貯蔵タンクはすでに満杯だったことを記者は付け加える。
 2011年3月11日、地震と津波によってプラントはマヒしてしまった。津波によって原子炉の冷却水システムが機能を失い、3基の原子炉がメルトダウンに至ってしまった。原子炉を冷却するためポンプで注水されているが、このため大量の汚染水が発生し、この水を確実かつ安全に保管しなければならない。福島原子力発電所では、昨年来、多くの不始末を起こしており、作業員のミスや一連の有毒な水の漏洩によって、海に放出している地下水との混合汚染水の形成が懸念される。 

補 足                 
■ バルブ(弁)の種類や要否はプラントの設計思想から決められる。また、プラントの配管におけるバルブの設置台数は、建設費において大きな比率を占め、安易に個数を増やすことはしない。さらに、オペラビリティという安全性の検討を行い、誤作動や誤操作の観点からチェックされ、最終的にバルブの設置が決まる。従って、バルブは一個一個に設計思想に基づく設置理由がある

     バルブ施錠の例
 バルブの施錠管理は、誤操作の観点から、バルブを容易に操作しないための方法である。石油・石油化学プラントでは、 “カー・シール・オープン/クローズ”(Car Seal Open/Close)あるいは“ロックド・オープン/クローズ”(Locked Open/Close)と呼んでいる。 米国の鉄道貨物で石油類を輸送するタンク車は、封印がされていないものは貨物列車につないで運んでもらえなかったことから、これが転じてパイプラインで、バルブが誤って開閉することのないように封印することをCar Seal Open/Closeという。この鍵を付ける対象のバルブは安全上重要なものに限定される。例えば、安全弁の入口配管に設置されているバルブや暴走反応につながるバルブなどである。(今回、原子力規制委員会の施錠管理の意見は、的外れとは言わないが、的確なアドバイスではない)

開閉標示札の例 
 一方、日常運転で操作されるバルブの管理について重要なものは、「開」「閉」の標示札(表示札)を掛ける方法がとられる。バルブ操作を行なう場合、計器室のオペレーターと現場のオペレータはこの標示札の認識共有をもとに、連絡を取り合いながら実施する。そして、運転中にあるプラントのバルブ操作は、責任を明確にするため、設備のオーナーである会社従業員が行い、協力会社の作業員は行わないのが基本である。さらに、操作ミスを防ぐため、指差呼称などが行われている。

 バルブは各々設計思想があるので、作業効率化のために、設計思想を無視して安易な運用を行なうことは危険である。 今回、RO濃縮塩水移送配管の中で、常時開にしたV401Cは明らかに設計思想を無視した運用である。このバルブは汚染水がH6エリアのタンクへ入れないようにするもので、V347の閉止と二重バルブ(ダブル・バルブ)によって閉止機能が保証される。(バルブ一個では微小な漏れがあった場合にタンクへ漏れ込む可能性がある) V399の設計思想は読みきれないが、H6エリア内のタンク間操作時の漏れ防止に関連する理由があるものと思われる。

 ■ 「タンクへの過充填」によって大きな事故が起きた事例は少なくない。近年では、2005年12月11日、イングランドのバンスフィールド石油貯蔵所で起きたタンク爆発・火災事故が有名である。この事故は、タンクにガソリンを受入れていた際に過充填となり、ガソリンがタンク上部から漏れ出し、引火・爆発したものである。発災タンクはパイプラインからガソリンの受入れを行っていたが、ある時点からタンク液面計の読取値が変化のない状態となっていた。 しかし、実際は受入れが続いており、タンクは満杯になり、オーバーフローし始めた。本来は、タンクの過充填を防止するためタンクへの入荷を閉止する保護システムがあったが、機能しなかった。 こうしてガソリンがタンクの上から流出し、空気を巻き込みながら、防油堤内の中で急速に濃度の高い可燃性混合気を形成していき、大爆発に至った。この事故では、当初の爆発で隣接する建物が損壊して負傷者が40名を超え、石油貯蔵所の22基のタンクに延焼して鎮火までに4日間を要した。
               バンスフィールド火災-2005年 (写真はバンスフィールド事故調査報告書から引用)
 発災タンクT912には、図のように自動タンクゲージシステムと液面上限警報システムが付いていた。油監視システムは液面と温度の両方を計測するシステムである。また、タンクの過充填を防止するシステムとして“液面上限安全スイッチ”がついており、異常時に、警報が鳴り、タンクへの油の受入れを緊急停止することになっている。しかし、液面計が故障した上、液面上限安全スイッチはテスト時のチェックミスで機能しない状態になっていた。
                     発災タンクT-912)構造 (インナーフロート付きコーンルーフタンク)
 この事故を契機に、API(米国石油協会)では、タンクの過充填を防止するための推奨基準API RP 2350(Overfill Protection for Storage Tanks in Petroleum Facilities)が見直されている。 
APIの過充填防止のための外部式チャンバー型検出器の設置例
(図はAPI RP 2350から引用)
所 感
■ 今回の事故はハード面(設備)よりソフト面(人)の問題が大きい。事故や失敗を防止するには、「ルールを正しく守る」、「危険予知(KY)を活発に行なう」、「“報連相”(報告・連絡・相談)を行ない、認識を共有化する」の3つを実践することである。階層ごと(マネージャー、計器室のオペレーター、現場巡回のオペレーター)に、この3つに関する失敗の要因を考え、対策を行なうことが重要である。
 この点、東京電力の原因と対策はハード面にすり替え過ぎである。それよりもっと重要なことは、バルブの開閉操作を誰が行なったかということが未だに判明していないという職場(組織)の問題である。計器室の人間がバルブ操作状況を把握していない、あるいは現場のオペレーターがバルブを操作するとき計器室へ連絡をしないということは普通の会社では信じられない。この問題を改善しない限り、事故は再発する。

■ バルブの管理方法について、石油・石油化学工業ではいろいろな経験を経て整備してきた。今回の事故のように、作業の効率化からバルブを開のままにしたり、不必要な箇所に施錠管理の処置をとったりすることはない。異業種であっても、適切なアドバイスを受け、良いことを取り入れるべきである。
 バンスフィールド石油貯蔵所の発災タンクには、過充填防止のため、自動タンクゲージシステムと液面上限警報システムが付いており、さらに液面上限安全スイッチがついていた。今回、東京電力が取ろうとしている小手先の対応でなく、本格的な過充填防止のシステムが設置されていたのも関わらず、事故が起きたのである。多くの同種企業はショックを受けた。このため、設備的に過充填防止の信頼性を上げるには、さらに設備の冗長化を強化するしかない。

■ 一方、今回の漏洩事故と同様、バンスフィールド火災でも液面計の誤指示状態を人が見逃しており、もし、このとき人が適切な対応をとっていれば、事故を防ぐことができたのである。ここに人の存在価値がある。究極、異常の兆候を感じとり、的確な判断で異常を回避できるのは人である。事故や失敗を防止できる人や職場を作らなければならない。

備 考
 本情報はつぎのような情報基づいてまとめたものである。
  Tepco.co.jp, 東京電力報道配布資料H6エリアタンク上部天板部のフランジ部からの水の漏えいについて,February 20, 2014
  ・Tepco.co.jp,  東京電力報道配布資料H6エリアタンク上部天板部のフランジ部からの水の漏えいについて<追加資料> ,February 20, 2014
     ・Tepco.co.jp,  東京電力報道配布資料H6エリアタンク上部天板部のフランジ部からの水の漏えいの調査状況について,February 21, 2014
     ・Tepco.co.jp, 東京電力報道配布資料H6エリアタンク上部天板部からの漏えいについて(特定原子力施設監視・評価検討会汚染水対策検討ワーキンググループ第11回 資料1), February 24, 2014
     ・Tepco.co.jp, 福島第一原子力発電所の現状について, February 25, 2014
     Tepco.co.jp,H6エリアタンク上部天板部からの漏えいとその対策について, February 28, 2014
     Sunkei.jp, 福島第1原発汚染水漏れ 故障と人為ミス競合か 後手に回る東電, February 20, 2014
     Minpo.jp, 水位直接確認せず 第一原発高濃度汚染水漏れ, February 21, 2014
     NHK.or.jp, 閉まっているはずの弁開いていた経緯調査, February 21, 2014
     Asahi.com, タンク汚染水漏れ、人為的操作が原因 福島第一, February 22, 2014
     Nikkei.com, 甘すぎる東電の汚染水対策 , February 22, 2014
     NHK.or.jp, 汚染水流出で規制委「対策機能せず」 ,F ebruary 24, 2014
     News.tv-asahi.co.jp, 汚染水漏れで規制委が指示 すべてのタンクに鍵 , February 24, 2014
     Tokyo-np.co.jp,  汚染水100トン漏れ 新たに不備判明 福島第一, February 25, 2014
   ・朝日新聞社説 原発の汚染水 危機管理をもう一度, March 2, 2014
   ・Nytimes.com,  Worst Spill in 6 Months Is Reported at Fukushima,  February  20, 2014 
     Edition.cnn.com, New radioactive water leak at Japan's Fukushima Daiichi plant,  February  20, 2014
     ・BBC.com, Japan‘s Fukushima nuclear plant leaks radioactive water,  February  20, 2014 


後 記: 過去に何度か東京電力福島原子力発電所の事故を取り上げてきましたが、昨年10月のバッチ処理タンクの情報紹介の後記で、「多分、今回で終わりになると思います」と書きました。あまりにプアーで本来の適正な設備ではない特異な事例を紹介しても意義がないからです。しかし、今回、再び取り上げたのは、従来のハード面(設備)ではなく、ソフト面(人)の事例のようだったからです。状況を追って調べていくと、疲弊した職場や組織が垣間見え、愕然(がくぜん)としました。当初は事故原因の背後要因を考えてみようと思っていましたが、やる気持ちが萎えました。ハード面だけでなく、ソフト面も普通の会社と違う特異な事例でした。こんどこそ今回で終わりになるでしょう。

   

0 件のコメント:

コメントを投稿