2013年10月4日金曜日

東京電力福島原発 汚染水処理施設のタンク不具合について

 今回は、東京電力が福島第1原子力発電所にある放射能汚染水処理装置である多核種除去設備(ALPS)のバッチ処理タンク漏れの原因について7月25日に公式発表された以降の情報について紹介します。今回はバッチ処理タンクだけでなく、ALPS全体の状況について紹介することになります。
 バッチ処理タンクについてはすでに当ブログで3回紹介しています。漏れ状況と原因追求に関する事項は「東京電力福島原子力発電所の汚染水処理施設のタンクから漏れ」(2013年6月)および東京電力福島原子力発電所の汚染水処理施設のタンク漏れの原因(2013年7月)、東京電力福島原子力発電所の汚染水処理施設のタンク漏れの原因(2)(2013年7月)を参照してください。
     2013928日に起こったバッチ処理タンクからの排出不調事例の原因
(写真・図は東京電力の報道配布資料から引用) 
 <バッチ処理タンクの漏れ原因報告> 2013年7月29日 
■  2013年7月29日(月)、東京電力は、原子力規制委員会に対して福島第1原子力発電所にある放射能汚染水処理装置である多核種除去設備(ALPS)のバッチ処理タンクからの漏れ原因についてつぎのような見解を報告した。
 ● バッチ処理タンク2Aからの漏洩の原因はすき間腐食と判断する。腐食を発生させた要因は海水由来の塩化物イオンが存在していることに加え、次亜塩素酸や塩化第二鉄の注入によって腐食が加速される液性であったこと、付着したスケール等がすき間環境を形成していたこと等から推定した。再発防止対策として、欠陥部の補修完了後、ゴムライニング(クロロプレンゴム)を施工する。
 ● すき間環境等に起因する典型的なステンレス鋼の局部腐食による欠陥は、既存のセシウム吸着装置「サリー」において2012年2月に発生した事例があることを報告している。

■ 多核種除去設備A系の配管フランジ部の腐食状況の調査結果をつぎのように報告した。
 ● 下図の赤丸箇所のフランジシート面に腐食を確認した。(下図青丸箇所に腐食は確認されず)
 ● 腐食の確認されたフランジは差し込み溶接(スリップオン)型フランジに限られ,一体型フランジには確認されなかった。スリップオン型フランジは内部にすみ肉溶接箇所があり,配管形状が不連続で、流れが滞留し、シート面にすき間腐食を発生しやすい環境であったと推定している。
 ● スリップオン型フランジの腐食は、バッチ処理タンク周りおよびデカントタンク周りに限られ、共沈タンク以降の下流では確認されなかった。 バッチ処理タンクで酸性となった処理水が中和されていること、
次亜塩素酸が徐々に分解され残留塩素濃度が下がったこと,共沈タンクでアルカリ液性となること等が要因として推定している。
 ● 短期的な再発防止対策としては、犠牲電極によるフランジ面の腐食防止を行う。(腐食が確認されている範囲についてフランジとガスケットの間にガスケット型Zn 板(犠牲陽極)を挟む)

■ 多核種除去設備A系のホット試験期間は79日間だった。(バッチ処理タンク漏洩のため停止) なお、B系は47日間、C系は0日間である。B系の運転続行はリスクがあり、8月初めに停止する。
20122月セシウム吸着装置「サリー」で起こった腐食事例
 (写真は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 
ALPSのその他機器の腐食状況調査結果(729日時点)
 (図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 
フランジ面の腐食状況および再発防止対策
 (写真・図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 

     すき間腐食の推定要因根拠
 (写真は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 

 <バッチ処理タンク以外の吸着塔にも腐食> 201387日 
■  2013年8月7日(水)、東京電力は、福島第1原子力発電所にある放射能汚染水処理装置である多核種除去設備(ALPS)のバッチ処理タンク以外の吸着塔にも腐食が確認されたことを発表した。
 ● A系統の吸着塔6Aの吸着材交換を計画し、吸着材の抜取り作業を実施後、内部点検を行ったところ、点検口のフランジ面のすき間腐食と吸着塔内面に腐食に起因すると推定される変色を確認した。
                   吸着塔6Aの内部状況  (写真・図は東京電力の報道配布資料から引用) 

 <他の吸着塔などにも腐食> 2013813日 
■  2013年8月13日(火)、東京電力は、福島第1原子力発電所にある放射能汚染水処理装置である多核種除去設備(ALPS)の吸着塔を調査した結果を発表した。
 ● A系統の吸着塔6A以外で、前回の水平展開調査で腐食が確認されなかった箇所の近傍等を中心に追加調査を実施した結果、循環タンク戻り配管ノズル、吸着塔8A、吸着塔9A、点検口ノズルにおいて、フランジ面のすき間腐食を確認した。
 ● 停止したB系統吸着塔6Bについても吸着材抜き取り後、点検を実施した結果、6Aと同様、フランジ面のすき間腐食と吸着塔内面の腐食に起因すると推定される変色を確認した。
             A系統の追加調査における腐食状況 (写真は東京電力の報道配布資料から引用) 

         B系統の追加調査における腐食状況 (写真・図は東京電力の報道配布資料から引用) 

 <他の吸着塔などの腐食範囲広がる> 2013年8月22日 
■  2013年8月22日(木)、東京電力は、福島第1原子力発電所にある放射能汚染水処理装置である多核種除去設備(ALPS)の吸着塔の追加調査した結果を発表した。
 ● 追加調査結果は下表のとおりである。
 ● 吸着塔6Aの上流において、腐食性の強い塩酸を注入している箇所の詳細調査を実施したが、有意な腐食は確認されなかった。
 ● 吸着塔6A入口の塩酸注入箇所に腐食が確認されなかったことから、吸着塔6Aに充填された「吸着材4」(Ag添着活性炭)に腐食を発生して促進させる要因があると推測される。吸着塔6Aと同じ「吸着材4」(Ag添着活性炭)を充填している吸着塔2Aを含む吸着塔1A~5Aに腐食が確認されなかったことから、アルカリ環境下ではステンレス鋼の腐食が抑制されていると推測される。
               吸着塔の追加調査における結果 (図は東京電力の報道配布資料から引用) 

         A系統吸着塔の追加調査における結果 (写真は東京電力の報道配布資料から引用) 

A系統吸着塔の追加調査における結果 (吸着塔6A上流の塩酸注入部)
   (写真は東京電力の報道配布資料から引用) 

 <多核種除去設備(ALPS)の腐食および原因> 2013年9月25日 
■  2013年9月25日(水)、東京電力は、福島第1原子力発電所にある放射能汚染水処理装置である多核種除去設備(ALPS)について、これまでの腐食状況と原因について発表した。
 ● バッチ処理タンク2Aで発生したタンク下部からの漏洩原因
    ・生成した鉄沈殿物がタンク内に堆積・付着することによるすき間環境の形成と、薬液注入
     (主に次亜塩素酸)等による腐食環境が促進といった複合的な要因が重畳したことによって、
     想定以上の腐食が発生し、欠陥が貫通、漏えいに至ったもの。
 ● 吸着塔6以降における腐食
    ・吸着塔6に充填された銀添着活性炭に腐食を発生して促進させる要因があると考えられ、
     かつアルカリ環境下ではない吸着塔6下流側に腐食が確認された。
 ●  バッチ処理タンク近傍及び吸着塔6以降フランジ部の腐食
    ・腐食が確認されたフランジ部は、フランジ部の形状により流体がよどみ状態となっており、
     局部腐食が発生しやすい低流速となっていることも腐食を促進させる要因となっていたと
     推測している。

■ 再発防止策はつぎのとおりである。
  ● バッチ処理タンクの再発防止対策
     ・タンク内面にゴムライニング(クロロプレンゴム) を施工する。
  ● 水平展開範囲の対策
     ・すきま腐食発生の可能性があるフランジに対し、ガスケット型犠牲陽極等を施工する。
      また、将来的にはより信頼性を高めるため、ライニング配管への取替を検討する。
■ C系のホット試験を開始する際に行う対応
   ● 次亜塩素酸注入を止める。
   ● 腐食電位を上昇させる中性領域における銀添着活性炭吸着塔をバイパスする。
   ● バイパスする銀添着活性炭の吸着性能を確保するため、吸着塔の構成変更を行う。
■  C系のホット試験は9月27日(金)より開始する。
バッチ処理タンクの腐食再発防止対策  
(写真・図は東京電力の報道配布資料から引用) 
     C系統ホット試験の開始時における塔構成  (図は東京電力の報道配布資料から引用) 

 <多核種除去設備(ALPS)の試運転再開してすぐに不調で停止> 2013928日 
■  2013年9月28日(土)、東京電力は、福島第1原子力発電所にある放射能汚染水処理装置である多核種除去設備(ALPS)のホット試験の状況について発表した。
 ● 9月27日(金)午前0時04分よりホット試験(水処理設備で処理した廃液を用いた試験運転)を開始したが、同日午後10 37分にバッチ処理タンクからスラリーを排出するラインにおいて流量が十分出ていないため、スラリー移送ポンプを停止し、循環待機運転に移行した。原因は調査中。

■ 毎日新聞は、つぎのように報じた。「東京電力は福島第1原発の放射性汚染水を浄化する多核種除去装置(アルプス)に不具合が見つかり、汚染水の処理を停止したと発表した。同装置は27日未明、約2カ月ぶりに試験運転を再開したばかり。東京電力によると、最初の処理工程で生じる沈殿物を含んだ汚染水を排出する過程で不具合が見つかった。運転再開から停止までに約100トンの汚染水を処理したという。不具合の原因は調査中で、復旧の見通しは不明。アルプスはトリチウム(三重水素)以外の62種類の放射性物質を除去する能力があり、汚染水対策の「切り札」と位置付けられている。今年3月に試験運転を開始したが、タンクの腐食による水漏れが発覚し、8月に運転を停止した。2014年1月の本格稼働を目指し、今月27日に3系統中の1系統で試験運転を再開していた」

 <多核種除去設備(ALPS)の運転不調の原因> 2013年9月29日 
■  2013年9月29日(日)、東京電力は、福島第1原子力発電所にある放射能汚染水処理装置の多核種除去設備(ALPS)の運転不調の原因について発表した。
 ● バッチ処理タンク2C内に、ゴムライニング施工時に設置した梯子によるライニング損傷防止のためのゴムパッド(20cm×20cm程度、厚さ3mm)と思われるものがドレン孔付近に発見された。このゴムパッドがドレン孔を塞ぎ、十分な流量が出なかった。
 
■  2013年9月30日(月)、東京電力は、原子力規制委員会に対して福島第1原子力発電所にある放射能汚染水処理装置の多核種除去設備(ALPS)の運転不調の原因について報告した。バッチ処理タンク1Cについても内部点検した結果、問題ないことを確認したので、9月30日に運転を再開することとした。

■ 毎日新聞は、つぎのように報じている。「東京電力福島第1原発で、放射性汚染水を浄化する多核種除去装置(アルプス)が試運転を再開したばかりで停止した問題で、東京電力は29日、不具合の原因は、タンク内に置き忘れたゴム製シートが排水口をふさいだためと発表した。再開のめどは立っていない。
 アルプスは汚染水対策の「切り札」と位置づけられているが、トラブル続きで、チェック体制が問われそうだ。東京電力によると、ゴム製シートは、タンク内部を上り下りする仮設のはしごを固定するために使ったもので、大きさは縦横20cm、厚さ3mm。2枚がテープで固定されており、試運転前に回収することになっていたが、作業員が回収は不要と勘違いしてそのまま残したという。うち1枚がはがれて排水口をふさぎ、流量が低下したとみられる」

           バッチ処理タンク2Cの内部点検結果 写真・図は東京電力の報道配布資料から引用) 

補 足
■ 「汚染水浄化装置」は、原子炉の循環冷却に使用された放射能汚染水を浄化されるために導入された。当初、フランスのアレバ社の除染装置と米国キュリオン社のセシウム吸着装置が導入されたが、運転や性能に問題が多く、バックアップ用として導入された東芝のセシウム吸着装置の方が相対的に良いということで、現在は東芝のセシウム吸着装置「サリー」が水処理設備のメイン装置として稼働している。「サリー」はゼオライトに放射能物質セシウムを吸着させる方式の装置である。

 その後、原子炉建家に流入する地下水により、多量の放射能汚染水が発生するため、新たな汚染水浄化装置が導入されることになった。この汚染水浄化装置が、「多核種除去設備(ALPS;アルプス)」である。ALPSは、米国放射性廃棄物処理事業会社のエナジー・ソリューション社が開発した設計技術をもとに、東芝がシステムや機器類の詳細設計を行なったもので、汚染水から重金属やカルシウムなどを除去する前処理設備と、活性炭や樹脂などの特殊な吸着材で放射性物質を取り除く吸着塔で構成される。「サリー」で除去できないストロンチウムやヨウ素などの放射性物質を除去し、法定濃度以下に下げることができるといわれてきた。 しかし、ALPSの試運転開始は、高放射能廃棄物容器の安全性の問題に引きずられて大幅に遅れ、やっと試運転を始めたところでバッチ処理タンクの漏れによって補修のために停止することになった。

 このような状況の中で、東京電力は、2013年9月20日、汚染水の処理を加速させるため、新たな汚染水浄化装置の導入意向を発表した。政府も高機能の処理装置の導入を決め、開発業者を公募するという。

所 感
■ バッチ処理タンク漏洩原因の背景が垣間見えてきた。今回の情報の中で、「ALPS」より先行して設置されたセシウム吸着装置「サリー」において、すき間環境に起因する典型的なステンレス鋼の局部腐食の事例が2012年2月に発生していたことがわかった。これで、バッチ処理タンクの漏洩原因について東京電力が当初からステンレス鋼のすき間腐食にこだわっていたことが理解できた。セシウム吸着装置「サリー」の運転情報(腐食事例)は多核種除去設備「ALPS」の設計・建設部門に活かされることなく進められたが、ALPSの試運転が始まった時点では、ALPS関係者の中には腐食が起こりうると予見していた人がいたと思う。しかし、予想を上回る早い腐食開口だったに違いない。

■ 一般に失敗事例のうち、報告・連絡・相談による情報の共有化が不足した失敗は全割合の5~10%あるが、今回のバッチ処理タンクのゴムパッド取り忘れ事例は、情報共有化の不足による失敗事例である。

■ 今回、ALPSのプロセスに関わる情報を見て感じたのは、オリジナル設計からつぎのような大きな変更を行っていることである。
   ● バッチ処理タンクの材質をステンレス鋼ではなく、ゴムライニングとする。
   ● バッチ処理タンクへの次亜塩素酸注入を止める。
   ● 銀添着活性炭吸着塔を使用しない。
   ●  銀添着活性炭の吸着性能は吸着塔の構成変更で処理する。
 完成したプロセスであれば、このような変更はない。ALPSは完成したプロセスでなく、ラボの実験レベルを一気に商業化プロセスレベルで試運転していることがわかった。本来のベンチ・プラントやパイロット・プラントで実績を確認しながら改良していくステップを省いている。(我々が勝手にそう思っているだけで、ALPS関係者はパイロット・プラントと思っているのかもしれない) 
 運転時間79日間(約1,900時間)で腐食開口事例によって試運転を中断し、改修を行ったように完成度としてはまだまだの感である。運転も強アルカリ性と中和を繰り返すなど調整の難しいかなり厳しい運転条件があり、今後の試運転にもいろいろな課題が出てくると思われる。

 <備 考>
本情報はつぎのような情報に基づいてまとめたものである。
  ・Tepco.co.jp,  東京電力報道配布資料;バッチ処理タンク関係,  August  07 ~ September  29,  2013
    ・Nsr.go.jp, 原子力規制委員会の特定原子力施設監視・評価検討会の議事録等,  July  29~ September  30,  2013
   ・Mainichi.jp,  東京電力:汚染水浄化装置「アルプス」に不具合、運転停止,  September  28,  2013
    ・Mainichi.jp,  福島第1原発:汚染水処理、アルプス停止 シート置き忘れが原因 排水口ふさぐ,  September  30,  2013
  ・Yomiuri.co.jp,  東電、福島第一原発の汚染水処理で新装置導入へ,  September  20,  2013




後 記: バッチ処理タンクの情報紹介は成り行きで今回で4回目になります。東京電力福島第1原発の設備では「地下貯水槽」、 「バッチ処理タンク」 、「組立式円筒タンク」と連続して取り上げてきましたが、多分、今回で終わりになると思います。10月に入って組立式円筒タンクから溢流させたという情報が入りましたが、 いわゆる“貯蔵タンク”ではなく、本来の適正な設備ではない特異なケースであり、控えることとします。
 ところで、 前回の組立式円筒タンクの漏れ原因発表の記者会見において東電副社長が「これで先が見えてきた」と発言していました。すでに底板部からの漏れということはわかっていましたから、何を言っているのか理解できませんでしたが、発注者と受注者の瑕疵担保の観点の意味合いだったのでしょう。ビジネスの社会ですので、当然ではありますが、本来、福島第1原発の事故処理や東日本大震災の復興事業で“儲ける” ことは考えるべきでないでしょう。赤字でとはいいませんが、日本の復興に貢献しているという精神的な“黒字” をもって収支トントンでやっていけばよいのではないでしょうか。一方、発注者は本社でコスト最優先の設備選択を行い、あとの処置を現場に委ねると、これまで紹介してきたような一連の不都合な事例に遭遇することになるでしょう。

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