タンク解体後の目視点検結果 (写真は東京電力が報道へ配布した資料から引用)
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本情報はつぎのような情報に基づいてまとめたものである。
・Tepco.co.jp, 東京電力プレスリリース;福島第一原子力発電所構内H4エリアのタンクにおける水漏れについて,
September 20, 2013
・朝日新聞,
原発汚染水漏れ関連記事, September
21, 2013
・Sankei.jp.msn.com, 原発汚染水漏れ関連記事,
September 20, 2013
・Mainihi.jp, 原発汚染水漏れ関連記事,
September 20, 2013
・Nsr.go.jp, 原子力規制委員会の特定原子力施設監視・評価検討会汚染水対策検討ワーキンググループの議事録等,
August 27~ September 12,
2013
<概 要>
■ 2013年8月19日(月)9時50分頃、福島県双葉郡大熊町・双葉町にある東京電力福島第1原子力発電所において放射能汚染水を貯留する組立式円筒型タンク(容量1,000㎥、直径12m×高さ11m)から高濃度汚染水が漏洩していることがわかった。
■ その後、原因追究が行われ、2013年9月20日(金)に調査結果が発表された。ここでは、この間に行われた調査情報についてつぎの項目に基づいて時系列的にまとめた。
●組立式円筒型タンクの構造
●漏洩箇所特定の調査方法
●漏洩箇所の大きさの推測
●調査結果
・カメラによる内部確認結果
・バブリング試験の結果
・タンクの解体後の調査結果
<組立式円筒型タンクの構造>
■ 組立式円筒型タンクの構造は底板部が5枚に分割されており、底板フランジ部は4つある。
■ 東京電力が原子力規制委員会に報告した資料(8月30日付け)によると、底板フランジ部は止水構造のタイプによってType-1~Type-5まで5種類に分かれている。今回、H4エリアにおいて漏れがわかったタンクはType-1である。なお、組立式円筒型タンク総数305基のうち39%に当たる120基がType-1で、いずれもH4エリアに設置されている。
組立式円筒型タンクの底板部の構造
(図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) |
組立式円筒型タンクの底板フランジの止水構造の種類
(図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) |
底板フランジ止水構造のタイプと設置基数
(表は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) |
<漏洩箇所特定の調査方法>
■ 東京電力は、8月27日、原子力規制委員会に対して、タンク内は水抜き後も放射線量が高いため、つぎのようなステップで調査を進めることを報告した。
1.タンク内の除染前
●カメラによる内部確認:上部マンホール,アクセスマンホールよりカメラを挿入し,状況の観察
●バブリング試験:または代案としてトレーサ(蛍光剤+ブラックライト)による漏洩箇所特定
バブリング試験の方法 (図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用)
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2.タンク内の除染後 (除染期間;約1週間)
●目視点検
・胴板(一般部,接合部シーリング材)
・底板(一般部,フランジ,フランジ締結ボルト,接合部シーリング材)
●部材点検(可能であれば)
・フランジ締結ボルトを外し,当該締結部詳細目視およびボルト詳細点検
3.タンクの解体後 (クレーン車の搬入後、解体工事期間1~2週間)
●個別部位の詳細調査
●特定部位で顕著な腐食が確認された場合,水質等を模擬して腐食試験を実施
■ 東京電力は、8月27日、原子力規制委員会に対して、タンクの漏れ要因についてつぎのように報告した。
漏洩原因に対する要因分析 (表は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用)
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<漏洩箇所の大きさの推測>
■ 東京電力は、8月30日、原子力規制委員会に漏洩箇所の大きさの推測(参考値)を報告している。この報告によると、漏洩時間および水位から漏洩面積を推測し、長さ25mm×開口(隙間)1mm程度と見られる。
漏洩箇所の大きさの推測 (図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用)
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<調査結果>
■ 東京電力は、8月27日に原子力規制委員会にタンク内の除染前の調査結果をつぎのように報告している。
●カメラによる内部確認結果(8月22~23日に実施)
・漏洩箇所の特定につながる調査結果は得られなかった。
・胴板一般部について,外見上異常なし。接合部にはシーリング材が残存している。
・底板については,残水のため一般部の観察ができていない。
・底板フランジ部については、接合部のシーリングが残存している。
・ボルト締結部は、シーリングとクラッドにより形状がやや明確でないが,顕著な腐食は無い。
カメラによる内部確認結果
(写真は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) |
■ 東京電力は、9月12日、原子力規制委員会に対して、タンク内の除染前に行ったバブリング試験の結果を報告した。
●バブリング試験の結果(9月5日実施)
・漏洩箇所を特定できなかった。
●バブリング試験の実施経緯(8月30日~9月5日)
・8月30日、試験を実施したが、タンク底板と基礎コンクリートの間から、エア
リークが生じたため、試験箇所(底板フランジ面)を加圧できなかった。
・このため、加圧ラインの変更(タンク底板と基礎コンクリートの間に直接
エアを注入するラインを設置)や、コーキング箇所にモルタルを追加施工する
等の方法により、エアリーク量の低減対策等の改善を行い、試験箇所を加圧で
きるよう施工し直した。
・9月5日、バブリング試験を実施した。(空気圧0.004MPaで保持)
(実施時間:12:45~14:35)、試験の結果、気泡の発生は確認されなかった。
●バブリング試験の失敗要因(東京電力が原子力規制委員会へ9月12日に報告)
・タンク底部の漏洩パスが確認できない(気泡が発生しない)のは、水頭圧の
有無によりタンクの変形状態が異なることに起因しているものと想定。
バブリング試験の実施 (写真は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用)
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バブリング試験の失敗要因 (図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用)
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■ 東京電力は、9月12日、原子力規制委員会に対して、タンク内の除染後の調査についてつぎのように報告した。
●除染後のタンク入槽内の目視点検、部材点検は実施しない。
●解体工事を優先して進める。
解体は、漏洩の起きたNo.5タンクへの重機アクセスのため、先行してNo.10タンクを解体する。
タンク解体工事
(写真はmainichi.jpから引用)
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■ 東京電力は、9月20日、タンクの解体後の調査結果を報道発表した。
●ボルトの打診点検の結果
・ボルトの打診等による締結状態の確認を行なった結果、5本のボルトに緩みを確認。
●目視点検の結果
・側板最下部と底板とのフランジ部、および底板フランジ部にシーリング材の変形・破損を確認。
解体後の目視点検結果 (図は東京電力が報道へ配布した資料から引用)
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解体後の目視点検結果 (写真は東京電力が報道へ配布した資料から引用)
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解体後のフランジ部の線量測定結果 (図は東京電力が報道へ配布した資料から引用)
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●側板部のバキューム試験結果
・タンク下部側板とフランジ部との溶接部のうち、比較的高線量が確認された箇所(さび部)
について、局所的に吸引を実施した。
・当該部に塗布した発泡剤からの継続的な泡の発生は確認されなかった。
また、タンク内部に塗布した泡も吸い込まれなかった。
タンク側板溶接部のバキューム試験 (写真は東京電力が報道へ配布した資料から引用)
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■ 朝日新聞によると、東京電力は20日、底板をつなぎとめるボルト5本に緩みを確認したと発表し、ボルトが緩むと隙間ができることから、東京電力原子力・立地本部の尾野昌之本部長代理は「ここから漏れた可能性が高いが、さらに調査を進める」という。
産経ニュースによると、5箇所のボルトは手で触れるとぐらつきが分かる緩み具合で、タンク東側に集中していたと報じている。底板は5枚の鋼板が約300本のボルトでつなぎ合わされている。このほか、つなぎ目からの水漏れを防ぐ止水材も8カ所で、剥がれるなどの劣化が見つかったと報じている。
補 足
■ 「止水構造のタイプ」
今回の東京電力が原子力規制委員会に報告した資料によると、底板フランジ部は止水構造のタイプによってType-1~Type-5まで5種類に分かれていることがわかった。この違いについて東京電力やメーカーである東京機材工業による解説はないが、建設当初からフランジ部のシール性に課題を持っていたことがうかがえる。
Type-1~Type-5はつぎのように変遷している。
・Type-1 水膨張性止水材(水膨張性ゴムパッキン) + フランジ上側にシーリング材
(Type-1‘として一時、ポリエチレン樹脂系パッキンを使用)
・Type-2 水膨張性止水材 + フランジ上側にシーリング材 + モルタル充填(アスファルトシート)
・Type-3 同上 + 目地コーキング
・Type-4 同上 + 目地コーキング + 止水シート
・Type-5 水膨張性止水材 + フランジ上側にシーリング材 + ボルト部にシーリング材
(水膨張性止水材はフランジ部に設けた溝に挿入)
さらに、側板の止水構造もType-1~Type-5によって変更している。このように短期間に止水構造の変更を行っていることは、実績に基づいて改良したというよりアイデアのレベルを試したものと思われる。
底板フランジの止水構造Type-1
(図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) |
底板フランジの止水構造Type-2
(図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) |
底板フランジの止水構造Type-3
(図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) |
底板フランジの止水構造Type-4
(図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) |
底板フランジの止水構造Type-5
(図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) |
側板の止水構造のタイプ
(表は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) |
所 感
■ 東京電力はまだ断定していないが、調査の結果は予想されたとおりの漏れ原因(底板の締結部からの漏れ)である。しかし、ここに至るまでに時間がかかり過ぎるというのが率直な感想である。漏れが確認されたのは8月19日で、今回の調査結果の発表が9月20日と1カ月を要している。タンク内の放射性物質除染や解体工事に時間を要する要因はあるにしても、長すぎる。
■ 東京電力は民間会社の一社であるが、通常の民間会社であれば、もっと早く進めただろう。何が違うかというと、調査方法に関する学術研究でもやるようなステップだったことである。2日間を要したカメラによる内部確認および7日間以上を要したバブリング試験などは漏れ原因にまったく結びつかなかった。東京電力の考察でバブリング試験の失敗要因(水頭圧の有無によりタンクの変形状態が異なることに起因)は、貯蔵タンクの分野に携わっている人なら常識的なことであり、バブリング試験と聞いただけで、何も得られないことは予想できる。
東京電力がまとめた「漏洩原因に対する要因分析」をみれば、解体後検査(一般でいう開放検査)を真っ先に行うという結論になるはずである。要因分析の「材料品質不良、施工不良、腐食・劣化」は解体しなければ、わからない項目である。
■ 今回の解体後検査において、底板フランジ部に施したシーリング材が膨らんでおり、機能していないことがわかった。締結の密封機能は、本来のパッキンに委ねるしかないのである。フランジ部の漏れ防止性能に疑問を持ち、補助の止水構造を追加したと思われるが、結局は気休めのアイデアに過ぎなかった。また、肝心のパッキンにも飛び出しが見られ、「水膨張性止水材」の放射能汚染水に対する適性にも疑問が出てきた。しかし、本来、底板に締結部のある組立式円筒型タンクは、土木用の水貯留に限定すべきで、漏れの許されない放射能汚染水の貯留用としては不適なのである。
<追 記> (9月26日)
■ 東京電力は、9月25日、タンク解体後の底板バキューム試験の調査結果を報道発表した。
●底板バキューム試験の調査結果
・底板フランジ部の隣り合うボルト2箇所から泡の吸い込みを確認。リング材の
変形・破損を確認。
●バキューム試験の実施経緯
・9月20日、底板バキューム試験を実施したが、底板周辺に設置している試験用
シール部からの漏れがあり、泡の吸い込みが確認できなかった。
・試験用シールをやり直し、9月25日に再度試験を実施した。
(写真は東京電力が報道へ配布した資料から引用)
(写真は朝日新聞から引用) |
■ 読売新聞によると、東京電力は、漏水箇所を探すため、解体したタンク内で底部のつなぎ目に泡をかけ、外側(底板の下)からポンプで吸引。約300本のボルトのうち、隣り合う2本のネジ穴付近へ泡が吸い込まれ、タンク外へ通じる隙間があることが分かった。ボルトは2本とも緩んでいなかった。20日に緩みが判明したボルト5本には隙間が確認されなかったと報じている。
時事通信社によると、東京電力は、漏出したタンクの底板南側で2カ所の小さな隙間が見つかり、そこから汚染水が漏れた可能性が高いと発表したと報じた。これまでに底板の東端で5本のボルトに緩みが見つかっていたが、別の場所だった。さらに、東電福島復興本社(福島県楢葉町)で記者会見した相沢善吾副社長は「1,000トンの水が上に乗れば、底板は下に膨らむ。分解点検の結果、ボルトが緩んでいた箇所からも漏れていたという結論もあり得る」と説明したと報じている。
後記; 組立式円筒形タンクの漏れの問題については前回の報告で終わる予定でしたが、世の中の関心が高いので、調査結果の出た現段階でまとめることにしました。(9月26日に追記しました)
ところで、東京電力福島原発の問題というのは、皮肉なことが多いですね。9月2日、原子力学会が「トリチウムは薄めて海に流すべきだ」という見解を出しました。トリチウム(三重水素)はALPS(汚染水処理施設)で除去できないためです。ところが、この見解が出た9日後の9月11日、福島原発の汚染水漏れのあったタンク近くの観測井戸でトリチウムが6.4万ベクレル/リットル検出されたと東京電力は発表しました。その後も9月14日、トリチウムは15万ベクレル/リットルまで上昇したと発表し、さらに9月16日、トリチウムは17万ベクレル/リットルまで上昇したと発表しました。この情報は逐次メディアで報道されました。原子力学会は真面目(?)に反論するでしょうが、皮肉というより、
“汚染水” は学会を関西でいう“おちょくる”という感じですね。