2013年8月4日日曜日

米国エクソンモービル社ペガサスパイプラインの油流出事故の原因

 今回は、貯蔵タンクに関連するパイプラインの油流出事故を紹介します。2013年3月29日、米国アーカンソー州フォークナー郡メイフラワーにおいて米国エクソンモービル社が所有するペガサス・パイプラインから重質原油が流出する事故がありました。現場では、原油が住宅街の中の道路や住宅の庭に流れ込み、周辺の22世帯が避難を余儀なくされ、米国では大きなニュースとして報じられました。その後、2013年7月10日、エクソンモービル社は事故原因について発表しましたので、事故状況と合わせて発表された原因について紹介します。
アーカンソー州メイフラワーの油流出事故でパイプライン漏洩部の掘出し作業  
(写真はtreehugger.comから引用)
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Reuters.com, Exxon Cleans up Arkansas Oil Spill; Keystone Plan Assailed,  March 31,  2013
      ・jp.reuters.com, 米エクソンの原油流出事故、原因究明作業開始されず,  April 02,  2013
  ・ArkansasBusiness.com,  Exxon Submits Mayflower Oil Spill Report, But Kept under Seal,  July 10,  2013  
  ・ArkansasMatters.com,  ExxonMobil Releases Cause of Mayflower Oil Spill,  July 10,  2013   
  ・5Newsonline.com, Exxon Blames Mayflower Oil Spill on “Manufacturing Defect”, July 10,  2013
      ・FireDirect.net, ExxonMobil:  Manufacturing Defects on Pegasus Pipeline Caused Oil Spill, July 16,  2013 

 <流出事故の状況> 
■  2013年3月29日(金)、米国アーカンソー州フォークナー郡においてパイプラインから油が流出する事故が起こった。油流出事故があったのは、米国石油大手のエクソンモービル社が所有するペガサス・パイプラインで、フォークナー郡メイフラワーの住宅街に重質原油が漏れ出た。現場では、原油が住宅街の中の道路や住宅の庭に流れ込み、このため、周辺の22世帯が避難を余儀なくされた。エクソン・モービル社は原油の流出量について明確な数値を明らかにしていないが、3月31日(日)時点で、約12,000バレル(1,900KL)の水混じりの油を回収したという。

ペガサス・パイプライン
(写真はbullfax.comから引用) 
■ ペガサス・パイプラインは口径24インチで、イリノイ州パトカからテキサス州ニーダーランドまで約850マイル(1,300km)を90,000バレル/日(14,000KL/日)超の原油を移送する能力をもっている。パイプラインは平均して地下約24インチ(610mm)の深さに敷設されている。流出現場のパイプラインは1940年代に敷設されたものだという。

■ フォークナー郡の最高幹部である郡判事のアレン・ドットソン氏によると、油は道路上に出て、豪雨時用の雨水排水溝を流れていった。この雨水排水溝は、最終的に、鯉やバスなどの釣り場で知られているコンウェイ湖の入江につながっている。ドットソン氏によれば、油が湖へ流れ込まないように、ただちに消防士、市職員、郡の道路職員および警官によって油流出経路に土と石の堤が構築された。ドットソン氏は「危機一髪だったよ」と語った。その後、予防措置としてエクソン・モービル社によって湖近くに3,600フィート(3,200m)のオイルフェンスが張られた。
 ドットソン氏によると、何軒かの住宅地の庭にはクリーンアップに相当な時間がかかりそうなほど原油が入ったと付け加えて言った。

■ 流出事故に伴い、エクソン・モービル社はクリーンアップ作業を開始した。発災翌日の30日(土)に、エクソン・モービル社は、現時点で10,000バレルの油を回収して保管できる体制をとったと発表している。クリーンアップ対象の現場には15台のバキューム車を配置し、油回収用の仮置きタンク33基を配置した。 
(写真はfiredirect.netから引用) 
(写真はgogreennation.orgから引用) 
(写真はbagnewsnotes.comから引用) 
                                      油流出の経路と範囲     (写真はtalkradionews.comから引用) 
        (写真はKRTV.comから引用)                                            (写真はpalicymic.comから引用)
(写真はhuffingtonpost.comから引用)                                          (写真はthv11.comから引用)


 <油流出事故の原因> 
■  2013年7月10日(水)、エクソンモービル社の子会社であるエクソンモービル・パイプライン社は、アーカンサス州メイフラワーで150,000ガロン(560KL)の原油を流出させたペガサス・パイプラインの事故原因について金属研究所であるハースト・メタラジカル・リサーチ社が行なった調査結果を発表した。ハースト・メタラジカル・リサーチ社による報告では、パイプラインの配管に製造上の欠陥があったとしている。報告書では、パイプラインの溶接継ぎ目近くに割れが確認され、ここを起点に配管が破裂し、開口したものという。報告書は、エクソンモービルと連邦政府のパイプライン・危険物質安全局に提出されているが、両者とも一般公開を拒否している。
 パイプライン・危険物質安全局の広報担当者が7月10日(水)に語ったところによると、エクソンモービルから報告書が提出され、パイプライン安全当局によって審査されるという。 

■ 報告書の中で明らかにされた欠陥が“破損に至る根本原因”だったと、エクソンモービルは述べている。現在、別な試験が実施されており、流出に至る他の要因について評価中だという。エクソンモービルは、クリーンアップは現在も継続中であり、パイプラインも停止中だと語っている。エクソンモービル社のウェブサイトでは、「クリーンアップ作業は順調に進んでおり、影響のあったエリアの多くは完全に修復されています。避難されたお宅の半数以上はご帰宅できる状況になっており、残りのお宅も順次作業を実施中です」と発表している。

■ エクソンモービルは、破裂に至るような内面あるいは外面から腐食は見られないことから、腐食が油流出の寄与要因ではなく、「冶金学的な調査に基づいて行われた試験結果では、破損の根本原因は製造時の欠陥、すなわち電縫鋼管の溶接部のフッククラックによるものだということです」と補足説明している。さらに「破損に至った要因には、異常な配管材料特性、たとえば継ぎ目付近の衝撃靭性や伸び特性が極めて低かったことが考えられます」と述べている。
 エクソンモービルは、「私どもは追加の試験を実施中で、配管破裂に関するすべての要因を洗い出し、ペガサス・パイプラインの健全性に役立てるつもりです。これらの調査によって同様の事故が起こらないようにしたいと思っています」と付け加えた。

■ 州および連邦政府の当局は、油流出事故についてエクソンモービルに対して罰金刑を課する訴訟を共同で起こしており、係争中である。このため、エクソンモービル社は電話やメールでの問い合わせに一切応じないとしている。パイプラインは停止されたままで、クリーンアップ作業は今も継続されている。

■ 流出の原因は「製造時の欠陥」だとしているが、パイプラインは最初に設置されてから60年以上経過している。鋼管の製造者であるヤングスタウン・スティール&チューブ社はオハイオ州にあったが、現在、会社はすでに無い。
掘り出されたパイプライン漏洩箇所     矢印部が電縫鋼管の割れ 
(写真はarkansasbusiness.comから引用) 
エクソンモービル社によるクリーンアップ作業 (左は舗装道路の改修、右は野生動物の介護) 
(写真はExxonMobil.comのウェブサイから引用) 
エクソンモービル社によるクリーンアップ作業 (クリーンアップ前後の比較) 
(写真はExxonMobil.comのウェブサイトから引用) 

補 足 
■ 「アーカンソー州」は米国南部にあり、人口は約290万人である。州都および最大都市はリトルロック市である。
 「フォークナー郡」は、アーカンソー州中央部に位置し、人口は約11万人である。
 「メイフラワー」はフォークナー郡の南部にあり、人口は約1,600人の町である。

■ 「エクソンモービル社」(ExxonMobile Corp)はテキサス州に本拠地をもつ総合エネルギー会社で、スーパーメジャーの一つである。世界200ヵ国以上で展開し、21ヵ国に37の製油所を持ち、生産能力540万バレル/日、販売量640万バレル/日の巨大企業である。1999年、エクソン社とモービル社の合併で生まれた会社であるが、元々二社ともロックフェラーが1870年に設立したスタンダードオイルの流れをくむ企業である。
 「エクソンモービル・パイプライン社」(ExxonMobil Pipeline)はエクソンモービルの物流を担う会社で、8,000マイル(12,800km)のパイプラインを通じて原油、天然ガス、石油製品などの配給を行なっている。 輸送量は一日当たり270万バレル(43万KL)の能力を有している。 パイプラインに加えて、ガソリン、燃料などの石油製品のオイルターミナルを運営しているほか、3つの岩塩ドームによる原油備蓄施設を運営している。
 エクソンモービルの最近の油流出事故としては、2011年7月1日、米国モンタナ州ビリングス近くで川床の下に敷設されていたエクソンモービル・パイプライン社の配管が破損してイエローストーン川へ油が流出し、40km下流まで流れ、付近の住民が一時的に避難するという事故がある。
2011年モンタナ州イエローストーン川の油流出事故
     (写真ABCNewsから引用) 
■ ヤングスタウン・スティール&チューブ社(Youngstown Iron Sheet and Tube Co.)は、1900年、オハイオ州ヤングスタウンに設立され、一時は世界最大の鉄鋼会社の一つとして1950年頃には27,000人の従業員を擁していた。しかし、1977年に突如、工場が閉鎖され、現在、会社は存在しない。

■ 「電縫鋼管」は、通常、ERWと呼ばれているが、正式には電気抵抗溶接鋼管(Electric Resistance Welded Pipe)で、縦方向に溶接の継ぎ目がある。製造方法は、通常、常温の鋼帯を引き出しながら、幅方向を円形に変形させ、接合直前に局部的に大電流を流すことで瞬間的に接合部を高温状態にして、そのまま押しつけることで両端を溶接(抵抗溶接)させて鋼管に仕上げる。比較的小径からある程度大きな径(最大650A)までの鋼管の製造が可能で、生産性は比較的高い。

(図はeng.nssmc.comから引用)


典型的なフッククラックの例
(写真はnjsnri.istt.irから引用) 
 組織が溶融してから接合しているため、比較的シームの強度は高いが、シーム周辺部は熱による変性があり、溶接部に偏析があれば溶接点でメタルフローの上下方向流れに剪断が生じ、その融点の低い偏析部で高温割れを起こし、フッククラック発生の原因となる。



所 感
■ 原因は、60年以上前に敷設された鋼管の製作時の欠陥(フッククラック)という調査結果だけが発表された。パイプラインはフッククラックが進展して破裂に至ったものと思われる。破裂の直接要因としては間違いないだろう。すでに本事故は裁判所で係争中であり、責任をできるだけ回避する目的で、意図的に早く出したものと思われる。しかし、このあと、このような破裂に至るような欠陥を放置していたという保全の責任有無が問われることになろう。

■ エクソンモービルでは、2011年7月の米国モンタナ州イエローストーン川への油流出事故から2年足らずで、再び、厄介な油流出事故を起こしてしまった。歴史のある巨大な石油企業であるための事故といえる。 60年前というと、エクソンモービル社内でも当時のことを知る人はいないだろう。しかし、企業としては責任が継続しているのである。今回の事故でも、クリーンアップのプロジェクトを結成して対応し、現在も継続して作業が行われ、その状況はホームページに掲載されている。事故が起こったあとの危機管理対応としては適正に行われていると思われる。まず、漏洩量を仮定し、それを回収するための人員・資機材を投入している。この戦略的な対応は、さすがに世界最大の石油企業と思わせる。




後 記; 年忌法要を兼ねて墓参りに行ってきました。といってもお墓が静岡県の富士山の裾野にあるので、山口県からだと新幹線と車を乗り継いで行く一大旅行(?)です。残念ながら世界遺産に登録された富士山は雲に隠れて見えませんでした。今回のブログは旅行の前後でまとめたものです。日の入りは少し早くなりましたが、毎日の暑さは変わらない中、油流出のクリーンアップで油防護服を着て作業している写真を見て、さらに暑さを感じながらまとめました。

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