2013年6月9日日曜日

中国の大連製油所で残渣油タンクが爆発して死傷者4名

 今回は、2013年6月2日、中国遼寧省の大連にあるペトロチャイナ(中国石油天然気)大連石化にある残渣油タンクで、爆発・火災があり、4名の死傷者が出た事故を紹介します。
大連石化の残渣油タンクの爆発・火災事故で消火活動を行う消防隊 (写真はEnglish.Sina.comから引用)
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・English.Sina.com, Two Missing after Blasts at Dailian PetroChina Refinery,  June 2,  2013
      ・Best-News.us, PetroChina Dailian Petrochemical Company, a Joint Workshop No.939 Tank Fire Has Been Extinguished Fire,  June 2,  2013
      ・English.PeapleDaily.com, Oil Tank Blast Causes Casualties in NE China,  June 3,  2013
      ・Cina.org.cn, 2 Missing after Blasts at Refinery,  June 3,  2013
      ・English.CNTV.cn, Probe Underway into Dailian Oil Tank Explosion,  June 4,  2013
      ・FireDirect.net, Two Missing after Blasts at Dailian PetroChina Refinery,  June 4,  2013
      ・Best-News.us, PetroChina Dailian Enterprise 4 Years 5 Fires Casualties 8 Peaple,  June 3,  2013

 <事故の状況> 
■  2013年6月2日(日)、中国遼寧省の大連にある製油所の油タンクが爆発して死傷者を出す事故が起こった。事故があったのは、遼寧省大連甘井子区のペトロチャイナ(中国石油天然気)の大連石化分公司にある残渣油の貯蔵タンクで、爆発によって作業員2名が死亡し、2名が負傷した。 事故直後は2名が行方不明と報じられていたが、死亡が確認された。
■ 爆発があったのは、ペトロチャイナの大連石化プラント地区からすぐ近くにあるタンク地区にある2基の残渣油タンクが午後230分頃に爆発したと、中国中央テレビは海事事務所の劉(リュウ)氏の話を引用して報じた。人民日報によると、爆発は1基の残渣油タンクで起こり、その火炎によって隣接していた別なタンクが爆発したと伝えている。新華社は、火災は午後4時に鎮火したと報じている。
大連石化のタンク爆発・火災現場を見つめる住民   (写真はChina.org.cnから引用

■ 爆発音はかなり遠くまで聞こえた。発災現場周辺は、大きな煙に包まれ、黒い煤が飛散し、地面は油で覆われていた。火災現場から立ち上る黑煙は数キロメートル先からも見えた。劉氏によると、韓国船が近くの水域にいたが、爆発後すぐに沖に出たという。
 タンクは残渣油のタールなどを貯蔵するために使用されており、爆発当日はNo.939ワークショップと呼ばれるメンテナンス中だったと劉氏は語った。加えて爆発の原因はまだわかっていないという。ペトロチャイナの当局者によると、爆発のあったタンクは改修されており、同社が保有し、今年後半に生産を再開する予定だったという。
大連石化のタンク火災の状況   (写真はEnglish.PeapleDaily.com.cnから引用)
■ 発災時に現場には4人の作業員がいた。負傷した2人の作業員はただちに病院へ搬送されたが、医者によると、容体は厳しい状況だという。
■ 劉氏は、「施設は海岸沿いにあり、近くに住民はほとんどいないので、基本的に爆発による市民生活への影響はないでしょう」と話している。常時モニタリングでは大気や水質の汚染は認められていない。しかし、グローバル・タイムズの取材を受けた地域住民の二人は、濃い煙で刺激臭がしたといい、「真っ黒い煙が我々の家の方に流れてきたので、窓をしっかり閉めた」と話している。環境当局は、近くの海域に汚染はないが、近くの共同住宅地区ではヒュームによる影響がみられると言っている。施設近くの海域には予防措置としてオイルフェンスが張られ、地方自治体は近くの住民に窓を閉めるように呼びかけた。
■ 発災後、約100台の消防車と300名以上の消防士が現場へ出動し、消火活動を行った。それとともに大連市の李万才(リ・ウワンカイ)市長も現地を訪れた。市の緊急司令本部の関係者によると、事故の原因はわかっておらず、調査中だという。
大連石化の火災現場に向かう消防車 (写真はEnglish.PeapleDaily.com.cnから引用)

■ プラントの近くの住む漢林(ハン・リン)さんは、次から次に事故が起こっているので、プラントの安全性について心配しているといい、「できれば、プラントから遠く離れたところに引っ越したい」と話している。この3年間、ペトロチャイナの当支部では6回の火災を起こしている。当支部の前の総経理であった蒋凡(ジェン・ファン)氏は10年近く務めていたが、2011年8月に同ポストを解任された。また、4件の火災事故はヒューマンエラーだったとし、事故に関する責任者として34人の当局者が、行政上または党規律上、処罰された。
記者会見する大連市
 (写真はCCTVの動画からから引用)
■ 63日(月)、市当局は記者会見を行い、事故時の情報を提供し始めた。爆発は、4人の作業者が現場のタンクで何らかの作業を行っていたときに起こったという。大連市安全生産監督管理局の李浩(リ・ハオ)副局長は、「62日(日)の午後、ペトロチャイナ出口において残渣油の入ったタンク1基が爆発したため、近くにあった別なタンク3基が爆発・炎上するに至った。火災は2時間後に鎮火した」と発表した。爆発したタンクは、事故当日、検査とメンテナンスが行われていたという。
 事故による経済的な損失は大きい。李副局長は、「直接的な経済損失は580,000元(9,200千円)である。事故による環境汚染はなく、海への油流出もない」と語った。
■ 消防隊が撮影した現場の映像を見ればわかるように、突然の爆発はすさまじかった。大連石化で働く王光郁(ワン・カンユー)さんは、「爆発音は3回聞きました。2回目のときは背中に熱い空気の流れを感じました。そのとき、誰かが走り出しました。爆発の前には、私たちは近くの別なタンクで塗装作業をやっていました」と話している。
大連石化のタンク火災の消火活動状況 (写真はjp.xinhuanet.comから引用)
大連石化のタンク火災現場と消火活動   (写真はCCTVの動画からから引用
タンクへ接近する消防隊   (写真はCCTVの動画からから引用)

現場でクリーンアップ作業を行う作業員
 (写真はCCTVの動画からから引用)
現場では、クリーンアップ作業が行われている。これまで、会社側は爆発の原因について何も語ろうとしていない。過去の事故記録が示すように、今回の事故が最後になるかどうか住民は懸念をもってながめている。


<過去の主な事故記録> (2010年~2013年)
① 2010年7月16日 「大連パイプラインの爆発事故」
■  2010年7月16日午後6時50分頃、大連新港にあるペトロチャイナ系の大連保税区インターナショナル・ロジスティック社の原油パイプラインが爆発して火災となり、大量の原油が漏れ出した。このため、パイプラインや周辺の施設が延焼したほか、漏れた油の一部が近くの海に流出し、海が油によって汚染された。労働者の被害はなかったが、消防活動中に1名が行方不明、献身的な活動を行った消防士1名が重傷を負った。事故による資産の直接損失は223,301,900元(3,530百万円)であった。
 注記;事故原因は原油から不純物の硫黄や硫黄化合物を除去する脱硫剤をパイプラインに注入する作業を請負った業者が、タンカーからの荷卸を終了した後も、強い酸化剤を含む脱硫剤を流し続けたことが爆発を誘引したとされた。タンカーの荷卸し終了の連絡が、ペトロチャイナから脱硫剤の注入現場まで伝わらなかったうえ、脱硫剤自体の安全性も確認せず、安全作業規定もなかったという。流出した原油量は1,500トンを越え、大連新港は一時閉鎖され、油回収作業が行われた。
2010年7月16日、大連パイプラインの爆発事故   (写真はFireDirect.netから引用)

② 2010年10月24日 「撤去作業中に大連のタンクが爆発・火災事故」
■  2010年10月24日午後、大連新港にあるペトロチャイナ大連インターナショナル・ロジスティック社において同年7月16日に火災となったタンクの撤去作業中、タンク内にあった残油が着火し、火災となった。2度目となる火災だったが、負傷者は出なかった。
2010年10月24日、撤去作業中に大連のタンクが再び炎上(写真はEpochTimes.jpから引用) 

③ 2011年7月16日 「大連石化の減圧蒸留装置で油漏洩して火災事故」
■  2011年7月16日午後14時25分頃、ペトロチャイナの大連石化にある減圧蒸留装置の熱交換器から油が漏れて火災となった。ただちに消防隊が出動し、制圧した。この事故による負傷者はいなかった。
2011年7月16日、大連石化の減圧蒸留装置で油漏洩による火災事故
  (写真はJapanese.China.org.cnから引用)
大連石化の減圧蒸留装置の火災事故   (写真はJapanese.China.org.cnから引用) 
減圧蒸留装置の火災に対応する消防隊   (写真はJapanese.China.org.cnから引用) 
④ 2011年8月29日 「大連石化のタンクで火災事故」 
■  2011年8月29日午前10時6分頃、ペトロチャイナの大連石化にあるディーゼル燃料油用のNo.875タンクが火災を起こした。原因はわかっていない。火災は制圧され、事故による負傷者はいなかった。
2011年8月29日、大連石化のタンク火災事故  (写真はEpocTimes.jpから引用)
⑤ 2011年11月22日 「大連新港で落雷によるタンク火災」 
■  2011年11月22日、大連新港にあるタンク施設で落雷があり、タンク2基が火災となる事故があった。
2011年11月22日、大連新港で落雷によるタンク火災  (写真はEpocTimes,jpから引用)

補 足
■ 「中国」は、正式には中華人民共和国で、1949年に中国共産党によって建国された社会主義国家である。人口約134千万人で、首都は北京である。
 「遼寧省」は、中国東北部に位置する省で、人口約4,370万人、省都は瀋陽である。
 「大連」は遼寧省の南部に位置する地級市(地区クラスの市)であるが、経済的重要性から省クラスの自主権をもつ副省級市に指定されている。市区人口は210万人であるが、大連市域の総人口は約600万人を越えているといわれる。
 
■ 「ペトロチャイナ(中国石油天然気)」は、中国の国有石油企業である中国石油天然気集団公司( China National Petroleum Corporation:CNPC)の主要な子会社で、事業再構築の過程で、中国国内の資産や事業のほとんどを移譲され、民営化された石油会社である。ペトロチャイナは、2000年に香港証券市場およびニューヨーク証券市場に上場しているが、CNPCが株式の90%を保有している。
 「大連石化分公司」は「ペトロチャイナ」の大連における製油所・石油化学工場を操業する会社である。製油所の精製能力は10年前に22万バレル/日であったが、現在は40万バレル/日の規模に増強されており、製油所増強に伴い、製油所構内や大連新港地区にタンクが増設された。2010年のパイプラインおよびタンク火災事故は、この増強工事で建設されたものだった。

所 感
■ 重質油貯蔵タンクでの事故がまた起こった。今年になって、①2013年3月7日(木)、韓国の慶尚北道亀尾市にある韓国鉱油の重油貯蔵タンクの爆発事故、②2013年3月29日、中国山東省にある青州李浩恒石油化学社のスラリー(アスファルト)貯蔵タンクの爆発事故、③2013年5月21日、フィリピンのパンパンガ州アパリットにあるアスファルト・プラントのバンカーオイルタンクの爆発事故に続くものである。
 今回の事故原因は調査中であるが、人為ミスが関連していたことは明らかである。過去の事故からいえることは、重質油やアスファルトは引火しにくいという予断があり、ミスが重なったものであろう。

■ 今回感じることは、中国の情報公開がかなりオープンになったということである。2010年7月のパイプラン爆発事故時には報道管制が敷かれた。今回の事故情報の内容(質)は濃いとはいえないが、写真や映像が多く流れており、記事を補っている。これは、2010年以降の一連の事故によるペトロチャイナと当局の責任者処分によるものが背景にあると思われる。
 特に印象深いのは、発災タンクまわりにおける消防士の行動である。消防隊は、状況によっては危険な対応を最少人数で行うことがあるが、今回のように防油堤内に入って多くの消防士がタンクへ接近するということはない。これは消火戦略や消火戦術の考え方の違いがありそうである。消防士は兵士と同じで、敵となる火災に対してとる攻撃的な消火戦術だと思われる。消防士の献身的な行動であるが、2次災害を考えると、参考にすべき点ではない。


後 記; 情報公開について考えさせられた事例でした。中国の報道関係はかなりオープンに情報を流していますし、自治体の当局が記者会見し、テレビで放映されています。一方、当事者である民間会社がまったく沈黙しています。 このあたりに社会主義国家であることを感じますね。
 ところで、この事故をまとめているときに、東京電力福島第1原子力発電所で汚染水の地上タンクから漏水があったというニュースがありました。テレビや新聞が一斉に報じましたが、これは東京電力のまとめた報道陣向けの配布資料がもとになっています。当ブログの東京電力福島原子力発電所の地下貯水槽から汚染水漏れ」(2013年4月)で紹介したように、地下貯水槽はもちろん、地上タンクも、もともと土木工事の水の仮設保管用として設計されたものですから、漏れるのが当たり前という設備です。情報公開という観点では、テレビや新聞より東京電力が作成した資料の方がわかりやすいといえますので、報道陣向けの配布資料の1ページ目を紹介しておきます。



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