2013年4月11日木曜日

韓国の全羅南道でポリエチレン貯蔵タンクが爆発して死傷者

 今回は、前回に引き続き韓国における事故情報です。2013年3月14日、韓国の全羅南道(チョルラナムド)麗水市(ヨス市)にある大林産業(ダイリン・インダストリー)社の高密度ポリエチレン製造設備のポリエチレン貯蔵タンクが爆発し、近くで作業中だった作業員に死傷者が出たという事故情報を紹介します。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Chosum.com,  Chemical Plant Explosion Kills 7 in Yeosu, March 15,  2013
      ・Best-News.us,  Korea Yeosu Chemical Plant Explosion Caused  6 Dead and 11 Injured, March 15,  2013
  ・MDMPublishing.com,  Chemical Plant Explosion in Korea Kills Seven, March 18,  2013  
  ・FireDirect.net, Yeosu Chemical Plant Blast  Leaves  6 Dead, 11 Injured, March 18,  2013
    ・Japanese.joins.com,  韓国南部で爆発事故・・・19名死傷(中央日報日本語版), March 15,  2013
      ・韓国経済.com, 化学工場で爆発事故、17人が死傷/麗水, March 15,  2013 

 <事故の状況> 
 (写真はEconomicdays.blogから引用) 
■  2013年3月14日(木)午後8時50分頃、韓国の全羅南道(チョルラナムド)麗水市(ヨス市)にあるポリエチレン貯蔵タンクが爆発する事故があった。事故があったのは、麗水市ファチドンの麗水工業団地にある大林産業(ダイリン・インダストリー)社の高密度ポリエチレン製造設備のポリエチレン貯蔵タンクである。タンクは円筒型式で500トン級で、爆発によって近くで作業中だった作業員に死傷者が出た。3月17日(日)午後5時時点では、死者6名、負傷者11名と報告されている。
 爆発後、消防隊が出動し、消火活動を行なった結果、10分後には鎮火した。
■ 当時、大林産業のプラントはメンテナンス作業中だった。目撃者によると、突然、大きな爆発が起こり、タンク上部で溶接のための作業を行っていた作業員たちは不意をつかれ、幾人かがタンクから30m下の地面に墜落したという。負傷者は麗水麗川全南病院や光州全南病院などに搬送され、治療を受けている。病院の関係者によると、負傷した11名のうち5名は激しい火傷を負って意識のない状況で、死亡者がさらに増えるおそれがあるという。
 (写真はYonhapNewsから引用) 
■ 会社側によると、作業員たちはタンク内で検査を行うインスペクターための入槽用マンホールを溶接していたという。
 全国プラント労働組合の麗水支部は、3月17日、大林産業から請け負っていた柳韓テック(ユンハン・テック)社の作業員に対してタンク内の可燃性ガスをパージせずに溶接作業を開始させたとしてプラント管理者を告発した。労働組合は、「いつもだと少なくとも4~7日かけてタンク内の残留ガスを抜いていたのに、今回は、メンテナンスのためプラントを停止してからたった3日で、作業員に溶接工事を始めさせている」と語った。
 これに対して大林産業は否定した。大林産業の広報チームは匿名を条件としてつぎのように語っていた。「私どもは、作業者が作業を始めるごとにタンク内の残留ガスの有無をチェックしています。ですから、一日に何回もチェックします。常に残留ガスはゼロです。タンク内に残留ガスはなく、残留ガスが爆発の原因ではありません」
■ しかし、 3月17日になって大林産業は、タンク内に高密度ポリエチレンの粒子が粉状の形で残っており、溶接作業を始めたときに着火したかもしれないと語った。
■ 発災当時、爆発後の初期対応のまずさから、化学工場内ではまだ火災が続いていた。伝えられるところによると、消防署が現場に到着するまでの間、現場ではまだ再爆発する可能性があったにもかかわらず、現場にいた作業員に対して焼けた作業員の遺体を運び出すよう指示されたという。聯合ニュース(ヨナムニュース)の取材に応じたひとりの作業員は、「おれは、爆発によって腕と脚を吹き飛ばされた仲間の一人を運び出したよ」と言っていたという。この話に対して大林産業の関係者は、「まったく事実と違います」と反論している。大林産業の関係者によると、負傷した作業員11名のうち、2名は大林産業の従業員だという。
(写真はFireDirect.netから引用) 
■ 3月17日、環境省は、プラントからの化学物質の漏れによる混合汚染を起因として爆発が起こったかどうかの調査を実施した。火災を10分間という短時間で鎮火できているため、現場で有害物質の痕跡を発見できなかったと言われている。
 警察では、夜間に無理に作業を行い、事故が発生したとみて、人災の可能性を念頭に捜査を進めている。警察は、さらに調査を行って事故原因を特定し、爆発に至った責任を追究して法的な措置をとると述べている。光州(クワンジュ)地方検察署順天(スンチョン)支部の検察官も、法廷へ持ち出す事案として特別捜査チームを結成したという。
■ 事故が起きた工場は1989年に完工し、フィルムなどに使われる高密度ポリエチレンを年産27万トン生産している。同工場では、2012年6月にもプラスチック原料工場で爆発事故が起こったが、その後にきちんと事故防止策をとってこなかった可能性が高い。事故発生の11時間前には、全羅南道地方警察庁長官と麗水市副市長、麗水工業団地の工場長協議会長ら各機関・団体のトップ20人余りが「有害化学物質漏出事故対応懇談会および講演会」を開き、工場の事故防止について協議が行われていたという。

 <追加の情報>
 本事故に関して韓国の情報をもとにまとめているブログから特記事項を紹介する。 
 ・Economicdays.blog, 韓国でまたもや化学工場爆発 今度は7人死亡重軽傷11人, 2013-3-15   
 ・Economicdays.blog, 恐怖の現場 17人死傷者の麗水産業団地・大林産業爆発事故には無知の作業員ら, 2013-3-16  
 ・Economicdays.blog, 韓国麗水産業団地 大林産業 タンク爆発事故が混沌化してきた, 2013-3-18
 (写真はEconomicdays.blogから引用) 
■ 定期点検の期間は2013年3月12日~4月5日まで実施される予定だった。対照となるのは8基の貯蔵タンクで、その全ての点検・保守作業を大林産業協力会社1社が請け負っていた。そのため、41人の作業員が現場投入されていた。 事故当時、作業員は貯蔵タンクの最上階のほか、高さが地上から7.9mの2階部分で7人が作業をしていた。この7人が貯蔵タンクにバーナーや溶接装置などを使用して本体に直径が70cm程度の穴を開けていた最中に爆発が発生した。
■ 爆発によって、貯蔵タンクは最上階の天井が吹き飛ばされてしまう程の猛烈な衝撃波が発生した。
この天井部分はアルミ製でできており、その周囲の鉄骨まで一緒に吹き飛ばされてしまった。
この爆発の衝撃によって、貯蔵タンクの2階部分や天井近くで溶接作業をしていた作業員が、吹き飛ばされ、地上へ墜落した。
■ 爆発事故後、現場では別な作業員が被災した作業員らの救助活動を行ったが、その現場に救急車が到着したのは、事故発生時刻から40分後だったという。その間、重症を負った作業員らの失血が続いた。死亡した作業員は、ソジェドゥクさん(53歳)、イスンピルさん(40歳)、ギムギョンヒョンさん(39歳)、ジョギェホさん(37歳)、ギムジョンテさん(32歳)の6人という。
(写真はEconomicdays.blog貼付けの動画から引用) 
■ 彼らは朝8時から夕方5時までの勤務時間を指定されていた。当日の作業予定は夜10時終了だと言われていた。つまり5時間の残業ということになる。これについては、現場作業員らは調査関係者につぎのような証言をしている。「これは無理な作業でした。大林産業側が工期を短縮するように指示をしてきたのです。我々作業員らに無理な作業を強いてきたのです」 また、別の作業員らは、「今回のHDPE貯蔵タンクの保守・点検作業ですが、手抜き作業でした。なぜなら、貯蔵タンク内部の残留した可燃性ガスの除去作業が手抜きだったのです」
■ 日本のTVや新聞では今回の爆発事故は取り扱っていないが、現地の韓国では大きく取り扱われている。

補 足 
■  「全羅南道」(チョルラナムド、ぜんらなんどう)は、韓国(大韓民国)の南西部に位置する行政区で、人口約202万人である。
 「麗水市」(ヨスし、れいすいし)は、全羅南道東南部の沿海部に位置し、本土から大きく突き出した麗水半島にあり、市域には300余りの島が点在する。人口約30万人の都市である。

■ 「麗水工業団地」は1967年に造成され、工場誘致が行われ、現在、GSカルテックス、LG化学、麗川NCCなどの石油化学会社60社を含む220社が進出している。
 韓国メディア中央日報によると、工場の大半が有害物質を扱っているうえ、40年年以上経った施設が多く、「不安な火薬庫」と言われているという。麗水工業団地では、人命被害事故が相次いでいる。 1989年10月のラッキー化学工場の爆発で16人の死亡者を出した事故以降、主な重大事故はつぎのとおりである。
 ・1989年10月; ラッキー化学爆発、16人死亡、17人負傷
 ・1995年  2月; 有毒ガス漏出、15人負傷、80人避難
 ・2000年  8月; ホソンケメックス爆発、7人死亡、18人負傷
 ・2001年10月; 湖南石化ナフタタンク火災、3人死亡、1人負傷
 ・2003年10月; 湖南石化爆発、1人死亡、6人負傷
 ・2004年  8月; LG化学爆発、1人死亡、1人負傷
 ・2012年  6月; 韓国シリコンガス漏出、49人中毒
 ・2013年  1月; 麗水工業団地車両整備所爆発、2人負傷
 ・2013年3月14日; 大林産業爆発、6人死亡、11人負傷
  このほか200余件の大小の爆発、火災、ガス漏出事故で1,000人を超す死傷者が発生している。事故が発生する度に韓国ガス安全公社など関係機関が安全点検を施行してきたが、安全と直結した不良事例は絶えない。麗水地域の環境団体も「麗水工業団地は石油化学工場が密集しているため、事故が発生すれば大事故となる可能性が高いが、職員の安全意識や根本的な対策が十分でない」とし、対策の準備を促してきた。

■ 「ポリエチレン」は、エチレン(H2C=CH2)を原料として生成される結晶性で無味無臭の熱可塑性合成樹脂である。性質は、化学的に安定していて水や薬品に耐性があり、電気絶縁性や防湿性に優れている。
 基本構造は、-CH2-という単位がどこまでも一直線につながった単純なものである。ポリエチレンは、1933年、化学メーカーICI社の研究員が、ベンズアルデヒドとエチレンを高圧下で反応させる実験を行っていた際、容器に白いワックス状の固体がこびりついていたのを分析したところ、エチレンがたくさんつながって(重合)できていることはわかったことから発見された。
 一般的に密度が0.94未満のものを低密度ポリエチレン、0.94以上のものを「高密度ポリエチレン」(High Density Polyethylene:HDPE)と呼び、低密度ポリエチレンは、フィルム、ラミネート、電線被覆などに使用され、高密度ポリエチレンは、洗剤容器、工業薬品缶、ガソリンタンクなどの中空容器、パイプ、フィルム、コンテナーに使用されている。

大林産業のポリエチレン製造設備 (写真はDaelim HPから引用) 
■ 「大林産業」(Daelim Industrial)は、1939年に設立され、主にE&C(エンジニアリング·建設)部門と石油化学部門を持ち、韓国最大の財閥の一つである大林グループを牽引している。石油化学部門は、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)、ポリプロピレン(PP)およびプラスチック製品の製造を行っている。麗水市の工業団地に高密度ポリエチレン製造設備などの石油化学工場を有している。 E&C部門は国内で着実な実績を重ねているほか、1966年にベトナムでの進出以降、海外へ積極的に展開している。

所 感
■ 今回の設備は貯蔵タンクではあるが、ポリエチレンであり、報道によっては「サイロ」と表現している設備でもある。事故の原因は、タンク内の残留ガスが溶接(溶断)作業によって着火・爆発したもので、プラント施設者の運転管理(タンクのパージ不足)および火気工事着工許可に関するミスによると思われる。 「事故は隠れたがる」というが、大林産業には明らかに隠蔽体質や下請けへの発注者特権意識があり、いろいろな問題が内在しているように感じる。
■ 前回、韓国の亀尾市の国家工業団地における頻発する事故を紹介したが、麗水市の工業団地においても、韓国産業の急発展という「陽」の部分に対する「陰」の部分が事故として顕在化した。特に、今回は6名の死亡を含め、17名の死傷者を出したため、一気に不満や問題が吹き出しているという印象を持つ事例である。

後 記; 韓国の情報はなかなか入手しずらいことがよくわかりました。海外から見て日本の情報
が入手しずらいことと同じで、韓国語がわからないと、知りたい情報を得ることができません。たとえば、麗水工業団地の地図情報や企業情報はいろいろ調べましたが、はっきり確認できるものがなく途中で諦めました。今回の事故情報について韓国語のわかる方がブログに掲載しており、参考になりましたが、原文が確認できないため、「追加情報」として分けました。一方、信ぴょう性についても疑問に思う情報もありました。爆発時の写真を掲載している情報源が3つありました。右写真がその一つです。どこかで見たような写真と思ったら、昨年、姫路市の日本触媒における爆発事故時の写真でした。考えれば、韓国の事故は夜間であり、昼間の爆発写真はありえませんから、違うということはわかりますが、このような情報源は内容が正しくても疑いの目で見てしまいますね。結局、引用から外しています。 



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