2013年4月30日火曜日

中華人民共和国の山東省でアスファルトタンク爆発・火災

 今回は、2013年3月29日、中国山東省にある石油貯蔵所のアスファルトタンクが爆発して、火災となり、1人が重傷を負い、1人が行方不明となっている事故を紹介します。
中国山東省にある石油貯蔵所のタンクが爆発して、火災となり、消火活動を行う消防隊
 (写真および解説はEnglish-Sina.comから引用
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・English-Sina.com, 1 Missing, 1 Injured in E China Oil Tank Explosion, March 30,  2013
      ・News.Xnihuanet.com, , 1 Missing, 1 Injured in E China Oil Tank Explosion, March 29,  2013
  ・NewsHoma.us,  Shandong Qingzhou Tank Fire Has Been Extinguished Caused One Missing and One Dead, March 29,  2013  
  ・FireDirect.net, 1 Missing, 1 Injured in E China Oil Tank Explosion, April 2,  2013
    ・ReadDailyNews.com, Shandong Qingzhou Industrial Park Tank Explosion and One Seriously Injured, March 29,  2013

 <事故の状況> 
■  2013年3月29日(金)午前9時頃、中華人民共和国(中国)の山東省にある石油貯蔵所のタンクが爆発して、火災となる事故があった。事故があったのは、山東省青州市高柳(カオリュウ)の工業地域にある青州李浩恒石油化学社の貯蔵タンクで、爆発によって1人が重傷を負い、1人が行方不明となっている。同社はアスファルト貯蔵を操業している会社で、タンク内にはスラリーオイル(アスファルト)が入っていた。
中国 山東省 
■ 齊魯(クイロ)ネットワークの記者によると、青州李浩恒石油化学社には、8基の貯蔵タンクがあり、そのうちの1基が爆発して火災になったもので、爆発によってタンク上部が剥ぎ取られ、青州地方の3~4mの風に乗って煙が市街地の方へ流れていき、煙は2・3km先まではっきり目に見えた。
■ 発災に伴い、10台を超える消防車が現場へ駆け付け、消火活動を行った。消防隊は、隣接する原油の入った7基のタンクに高圧のジェット水をかけ、延焼して爆発することのないように消防活動を行った。
(写真はEnglish-Sina.comから引用
■ 爆発の原因については調査中であるが、一部のメディアでは、静電気によるものと報じているところもある。
■ 爆発火災のあったタンクは、新しいプラント地区に建設されたものだった。齊魯ネットワークの記者によると、プラント地区では建設が進行中で、事務所も塗装の上塗りが終わっていない状況だった。プラントの近隣会社である山東清沢エナージー社に入構していた作業員によると、9時過ぎに爆発があった後、プラント地区の作業員は避難したという。齊魯ネットワークの記者によると、この地方の警察署と消防署は全員、今回の化学プラントの爆発事故対応に動員されているが、現在のところ、消防隊に負傷者が出たという報告はあがっていないという。
 (写真はReadDailyNews.comから引用) 

補 足
■  「山東省」(さんとう省/シャントン省)は、中華人民共和国の西部にある省で、北に渤海、東に黄海があり、黄河の下流に位置する。人口は約9,500万人、省都は済南で、他に青島、泰安などの主要都市がある。
 「青州」(せいしゅう/ピンイン)は、山東省の地級市レベルの濰坊市(いほう市)にある県級市レベルの市で、海から離れた内陸地に位置し、人口約90万人の街である。

■ 「青州李浩恒石油化学」(Qingzhou Hao Li Heng Petrochemical Co.)社は、記事中でアスファルト貯蔵を操業している会社と報じているが、詳細はわからない。青州市に8基の貯蔵タンクを保有しているので、場所をグーグルマップで調べたが、はっきり判断できなかった。

所 感
■ 以前から言ってきたようにアスファルト自体は火災を起こしにくい液体であるが、世界的にみると、アスファルトタンクの事故は少なくない。最近では、①20065月、日本の東亜石油京浜製油所におけるアスファルトタンクの爆発事故、②20099月、ニュージーランドのフルトンホーガン社のアスファルトタンク爆発による溶接士の死亡事故、③201012月、カナダのポートスタンレーにあるマックアスファルト・インダストリー社のアスファルトタンク破損による漏洩事故、④20115月、米国カリフォルニア州のグラナイトロック社のアスファルトタンク爆発事故、➄20126月、日本のコスモ石油千葉製油所においてアスファルトタンク破損によるアスファルト流出事故があった。前々回の当ブログで紹介した201337日、韓国の慶尚北道にある韓国鉱油の重油貯蔵タンクの爆発事故も同様に重質油である。そして、今回の中国山東省の爆発・火災事故である。
 アスファルトタンクで注意すべきことは、水による突沸、軽質油留分の混入、運転温度の上げすぎ、屋根部裏面の硫化鉄の生成などである。今回の事故は、着火原因が静電気によるという情報もあるが、爆発の要因は上記のいずれかであろう。

後 記; 中国の事故情報はなかなか掴みきれないところがあり、今回の情報でもはっきりしないところがありますが、以前と比べると、随分情報公開されています。特に、写真が公開されており、タンクが新しそうだということ、スクアート車(屈折放水塔車)による泡消火活動などがよくわかります。しかし、山東省だけで9,500万人の人口がいるところだからでしょうか、負傷者・不明者が出た事故の割に人災の状況についてあっさりした記事になっています。
 ところで、今年は暖かさ・寒さの変わりが激しい気候ですが、春は着実に進んでいます。満開の桜
が散った後、木々の新芽が日に日に伸び、新緑の季節になっています。我が家の庭の牡丹も開花し、楽しませてくれています。しかし、牡丹という花はひ弱で、雨や風に弱いところが欠点で、一雨濡れると、哀れな花姿になります。そこで、今年は傘をさすことにしました。風情があるのは和傘ですが、今は雨に濡れても大丈夫な和傘は高いので、安価な洋傘にしました。これが功を奏し、比較的長く鑑賞できました。少し派手目の傘でもよく、まわりが緑ですので、赤い傘は映えますし、牡丹がきれいに見えることがわかりました。

2013年4月20日土曜日

東京電力福島原子力発電所の地下貯水槽から汚染水漏れ

 今回は、2013年4月5日、福島県双葉郡にある東京電力福島第1原子力発電所の敷地内で放射能汚染水を貯めている地下貯水槽から汚染水が漏れた事故を紹介します。一般的な貯蔵タンクとは違いますが、新聞・テレビで大きく報道されている割に、地下貯水槽の構造や漏れ要因がよくわからないので、ここで取り上げることにしました。
プラスチック製貯水材(黑色)とマンホール部(白色)を組立て中の地下貯水槽の建設時写真(写真は東京電力HPから引用
本情報はつぎのような情報に基づいてまとめたものである。
  ・Tepco.co.jp,  東京電力プレスリリース;福島第一原子力発電所地下貯水槽からの水漏れについて, April 5~19,  2013
      ・Asahi.com, 原発汚染水漏れ関連記事, April 5~12,  2013

<事故の状況> 
■  2013年4月5日(金)、福島県双葉郡大熊町・双葉町にある東京電力福島第1原子力発電所の敷地内で放射能汚染水を貯めている地下貯水槽から汚染水が漏れていることがわかった。東京電力によると、4月3日(水)に発電所構内に設置した地下貯水槽No.2において、貯水槽の一番外側のシート(ベントナイトシート)と地盤の間に溜まっていた水を分析した結果、放射能を検出したので、4月5日(金)に一番外側のシート(ベントナイトシート)と内側のシート(2重遮水シート)の間に溜まっている水の分析を行ったところ、同様に放射能濃度を確認したことにより、地下貯水槽から汚染水が漏れていると判断したという。
(写真は朝日新聞から引用) 
■ 福島第1原子力発電所は、2011年3月11日の東日本大震災時に炉心溶融と原子炉建家爆発事故を起こし、事故直後から溶けた燃料を冷やすため、原子炉への注水が続けられている。この結果、原子炉建家には大量の汚染水が溜まった。少しでも減らすため、一部を再び冷却に使う循環注水冷却を2011年6月から始めた。しかし、建家内には約400トン/日の地下水が流れ込んでいるため、汚染水は増え続けている。このため、構内に貯水槽を建設し、汚染水を溜めている。貯水槽には、地上式タンクと地下貯水槽の2種類があり、今回、漏れがわかったのは地下貯水槽である。
■ 東京電力によると、地下貯水槽No.2は地面を掘って作られ、縦60m、横53m、深さ6mで、遮水性のある粘土質のベントナイトを用いたシート(厚さ6.4mm)を敷き、その上にポリエチレンの遮水シート(厚さ1.5mm)を2枚重ねている。この上に保護コンクリートを打設した後、貯水槽の中にプラスチック製貯水材(滞水材)を地上高さまで組立て、槽の法面には砕石を充填し、上部はシートおよび砕石・覆土で覆っている構造になっている。東京電力が報道関係へ配布した資料によれば、地下貯水槽は写真に示すような工程で建設されている。
                         地下貯水槽の構造    (東京電力の配布資料から引用)



地下貯水槽の建設工程 
(東京電力の配布資料から引用)

                      地下貯水槽の構造詳細    (東京電力の配布資料から引用) 

■ No.2地下貯水槽には約13,000トンの汚染水が入れられており、ほぼ満杯の状態だった。漏れた汚染水の量は水位変化(95.0%→94.3%)から約120トン、放射能7,100億ベクレルと推定され、2011年11月政府が事故収束宣言して以来、最大の放射能漏れ事故となった。汚染水は漏れ続けているとみられ、漏れた汚染水が地下水と混じり合っている可能性もある。東京電力は4月6日(土)から別の地下貯水槽No.6に移送を始めた。 
地下貯水槽の漏洩検知システム 
(東京電力の配布資料から引用)
■  4月7日(日)、東京電力は、地下貯水槽No.3について漏洩検知孔の水を分析した結果、放射能(全ベータ核種)が検出されたので、当該貯水槽の水位低下はないものの、一番外側のシート(ベントナイトシート)から外部へわずかな漏洩の可能性があると発表した。
 地下貯水槽No.3は、先に漏洩が確認された地下貯水槽No.2に隣接しており、縦56m、横45m、深さ6mで、11,000トンの汚染水を保管していた。
 東京電力は、地下貯水槽No.3の汚染水は貯水量を減らすために一部抜くほかは、当面、監視を強めるだけとし、「状態の悪い地下貯水槽No.2を優先している。(地下貯水槽No.3を)放置するわけではない」と釈明している。
地下貯水槽No.1No.7の設置場所(①~⑦)  
(写真はkobe-np.co.jp から引用) 
■  4月9日(火)、地下貯水槽No.2の汚染水は本設ポンプで地下貯水槽No.6へ移送していたが、午前10時、仮設ポンプ4台によって地下貯水槽No.1への移送を再開した。東京電力によると、午前10時時点の各地下貯水槽の水位は、No.2が約31%、No.6が約33%、No.1が約55%と発表した。
■ 4月9日(火)、東京電力は、午前中に地下貯水槽No.1の漏洩検知孔の水を分析した結果、放射能(全ベータ核種)が検出されたので、地下貯水槽No.1の水位低下はないこと、また、地下貯水槽No.1ドレン孔水の分析結果は確認できていないものの、内側のシート(2重遮水シート)から一番外側のシート(ベントナイトシート)へわずかな漏洩の恐れがあると判断したことを発表した。このため、仮設ポンプによる地下貯水槽No.2から地下貯水槽No.1への移送は、午後12時47分に停止された。
■ 結局、地下貯水槽はNo.1、No.2、No.3の3基に漏れがあることが判明し、4月10日、東京電力は地下超水槽の使用を断念し、汚染水は地上タンクへ保管することを決めた。

 <事故の原因> 
■  4月6日(土)、東京電力の記者会見が開催され、原子力・立地本部の尾野昌之本部長代理は、「遮水シートの接合面に何らかの損傷という可能性はある。設計で期待した能力はない」と施工などの問題があった可能性も指摘したが、詳しい調査は貯水槽の水を抜いた後になる。東京電力が汚染水を移し始めた先は、近くにある2つの地下貯水槽で、遮水シートなどの構造は同じである。同様の漏れは起きないかの質問に、尾野本部長代理は「漏れが起こる可能性がゼロではないが、これが最善の策」と説明した。
■ 4月7日(日)、地下貯水槽No.2に続き、地下貯水槽No.3でも同様に汚染水漏れがあることがわかり、施設の構造や施工に問題があるおそれが高まった。東京電力の記者会見では、漏水の原因として要因分析表のように、作業員が溶接したシートの継ぎ目からの漏れや突起物によるシートの破損などが挙げられた。このほか、水の重みでシートが引っ張られ、漏洩検知器を差し込んだ地上の貫通部の穴が広がって、そこから漏れ出た可能性もあり、東京電力はこの要因が高いとみている。
            漏れ要因分析表   (東京電力の配布資料から引用)
漏洩検知孔の貫通部近傍が破損するケース 
(東京電力の配布資料から引用)

■ 4月9日(火)、地下貯水槽No.2の汚染水の移送先だった地下貯水槽No.1でも同様に汚染水漏れがあることがわかった。東京電力はこれまで、貯水槽の上部から漏れていると推定し、満水状態にしなければ、汚染水を貯められるとしていた。しかし、今回漏れた地下貯水槽No.1は50%しか溜まっておらず、底に近い方のシートの継ぎ目などから漏れたことが確実になった。9日に会見した東京電力の尾野本部長代理は「原因については調査中」と繰り返し、「貯水量を減らしているのは、(上部からの漏れが)あくまで原因の可能性として実施している」と述べるにとどまった。
■ 4月10日(水)、東京電力の広瀬直己社長は記者会見を開き、地下貯水槽からの水漏れの原因を明らかにできていないことを認めた上で、今後、地下貯水槽を使う可能性はほぼないとの考えを示した。今回の発表では、4月15日の週から5月上旬にかけ汚染水約7,000トンは濾過水タンクなど既設タンクへ移送する。5月後半から6月初旬にかけ新たに鋼鉄製タンクを38基(容量計19,000トン)増設し、残る汚染水は約16,500トンを移す計画だという。
■ 4月12日(金)、東京電力は、地下貯水槽No.2の漏洩検知器貫通部について覆土部を除去して調査した結果、異常が認められなかったと発表した。東京電力が漏れ要因の中で最も可能性の高いとみていた貯水槽の上部からの漏れではないことが明らかになった。
漏洩検知孔の貫通部の調査結果(412日) 
(東京電力の配布資料から引用) 

<事故に関する識者の意見> 
  「3.11東日本大震災後の日本」というブログを出しているTSOKDBA氏は公表されている情報から事故の要因や原因について識見をまとめている。ブログの中から特記事項を紹介する。
    =事故が起こる前に指摘していた地下貯水槽への疑問=
■ 地下貯水槽は、 ALPS(Advanced Liquid Processing System)と呼ばれる汚染水の多核種除去設備の処理後の廃液を保管するために建設されたもので、 氏は「このような貯水槽では、ALPS処理後の廃液を入れるのであればまだ大丈夫だと思いますが、万一のことを考えると現在の濃縮塩水を入れておくには不安が残る構造です。(東電は濃縮塩水にも利用できると言っています)」と指摘していた。
注記; 現在の汚染水循環処理システムは主にセシウムしか効率的に除去できず、ストロンチウムなどの多くの核種を除去できないことがわかり、新たに多核種を除去できる設備「ALPS」を開発し、運用することになった。ALPSは、試験段階での性能として62核種についてほぼ検出限界値未満にまで除去できる性能を持った装置である。ただし、トリチウムについてはこの装置でも除去できない。今後、ALPSを運用することができても、その処理水をそのまま海洋に廃棄することは簡単にはできないだろう。現状の汚染水循環処理システムよりもはるかに汚染の少ない廃液として保管することができるため、何かの事故があったとしても、その漏洩による新たな海洋汚染のリスクは遙かに少なくすることができる。
■ 2012年後半に建設される設備の中には、ALPS処理液を入れるつもりで設計した地下貯水槽58,000トンがあり、この貯水槽はストロンチウムなどを含む濃縮塩水を貯蔵しておくには適していないが、汚染水保管タンクの貯蔵スペースの余裕は2012年末現在で約1か月分しかない。このため、ALPSの運用開始が遅れたからと言って、濃縮塩水用のタンクには余裕がないため、ALPS処理液用の地下貯水槽にストロンチウムなどを含む濃縮塩水を入れざるを得ない状況になってしまっているのが実情であると、氏は指摘していた。
    =漏れた汚染水の本当の放射能量=
■ 東京電力は、地下貯水槽No.2の汚染水の漏れた放射能量を推定7,100億ベクレルと発表しているが、これは、漏洩検知孔おけるサンプル濃度を採用している。地下貯水槽No.2 に保管されていた濃縮塩水の放射能濃度を採用すると、東京電力発表の約50倍となり、約35兆ベクレルとなると氏は指摘している。このことは東工大の牧野先生なども指摘しているという。
注;おそらく東京電力はそういうことはわかった上で、あくまで漏えい検知孔ではこの濃度だったという数値を使って説明し、反論するだろう。これは東京電力がよく使うテクニックの一つである。あるデータを公表して、それを元に全体を推論させるような情報の出し方をし、全体像を把握するのに必要な情報を敢えて出さない。今回の漏えい検知孔のデータも正しいだろう。その情報しか出さなければ、多くの人、特に記者会見にいる記者達は納得してしまう。東京電力にしてみれば、記者達が納得して自分たちの説明通りに記事を書いてくれれば、それでいいのである。もし地下貯水槽No.2に入っている13,000トンの濃縮塩水の濃度(例えば2.7×10(8)Bq/L)を同時に発表していたら、120トンという体積から、漏洩した放射能量はもっと多いのではないかという疑問が記者会見でもすぐに指摘されるだろう。それをさせないために、一番重要な情報は敢えて発表しないのであると、氏は指摘している。
     =漏洩事故の責任は、東京電力だけでなく、原子力規制委員会にもある=
■ 氏は、漏洩事故の原因が明らかになっていない段階だが、このような事故を防ぐ手段がなかったのかどうかというと、「東京電力の管理体制や地下貯水槽の設計・監視にも問題があるのは事実だが、今回の事故については東京電力だけを批判するのではなく、旧原子力安全・保安院(2012年9月19日廃止)および新しい原子力規制委員会にも責任がかなりあると考えるべきだ」と指摘している。
■ 地下貯水槽について、産経ニュースの「そもそも、同貯水槽は産業廃棄物の処理に使われる技術といい、汚染水をためる十分な能力を備えていたかについて、疑問が生じ始めている」や朝日新聞デジタルの「福島第一原発で相次いで汚染水漏れを起こした地下貯水槽の基本構造は、遮水シートを使った“管理型”と呼ばれるごみ処分場と同じだったことが、東京電力の説明で分かった。その構造について、専門家からは“ごみ処分場の水準から見てもお粗末だ”と厳しい批判が上がっている」と設計に問題があるという声を紹介している。
■ 一方、この地下貯水槽の仕様は東京電力が勝手に決めたものではなく、旧原子力安全・保安院が昨年8月から9月にかけて行った意見聴取会で確認し、やり取りを経て地下貯水槽に汚染水を入れても問題ないと評価しており、当時の原子力安全・保安院にも責任の一端がある、と氏は指摘する。
■ また、東京電力は2012年9月からALPSを稼働する計画だったが、原子力規制委員会とのやりとりの中で、HICと呼ばれる保管容器の落下試験が満足のいく結果が出なかったため、半年近くもALPSのホット試験が遅れてしまった。このために、本来はALPS処理水を入れるつもりで考え、濃縮塩水(汚染水)を入れるつもりのなかった地下貯水槽に濃縮塩水を入れざるを得ない状況に追い込まれてしまった。これが2013年1月の事で、東京電力は記者会見において、地下貯水槽が濃縮塩水を入れることのできる仕様だとは説明しているが、他に入れるタンクがないための強弁だと、氏は指摘している。
 河北新報(4月11日付け)で、「地下貯水槽から高濃度汚染水が漏れた問題は、汚染水からほとんどの放射性物質を取り除く多核種除去設備(ALPS)の稼働の遅れが背景にある。4月10日の原子力規制委員会で、ALPSの試運転を規制委がなかなか認めず、稼働遅れの一因となった点に反省の声も出た」ことを紹介している。
     =東京電力の公表しているデータだけでは、全体像がつかめない=
■ 氏は、その後の漏洩量について試算している。ポンプやライン中の汚染水はおよそ60トンと推測され、4月6日朝の約13,100トンから4月8日以降の12,600トンの差500トンのうち、60トンを差し引いても最大で440トンは遮水シートの外に出たという。貯水量の分析から言えることは、 4月6日から4月8日までの間に地下貯水槽No.1、No.2、No.6のどこかで最大440トンが遮水シートの外に漏えいが起こっている。(No.1だけとは限らない)、一方、4月8日以降は明らかな貯水量の低下は認められないという。
■ 地下貯水槽No.1で貯水量の低下がないということは、下部に穴が開いたという説明はできない。仮設ポンプ3-4台を用いた移送によって高い水圧に耐え切れなくなって漏れ出したが、その後ポンプを止めて逆流が起こったためにその漏れが止まった、という仮説も浮かぶ。
■ 一方、2層のポリエチレン(HDPE)の遮水シートの間、遮水シートとベントナイト層の間には長繊維不織布という厚さ6.5mmのものが3層に敷き詰められている。このため、遮水シートと遮水シートの間には約2cmの空間があり、そこに不織布が敷き詰められていて、1層目の遮水シートを通り抜けた濃縮塩水はまずこの空間に広がる。No.1の場合、約3000㎡×0.02m=60トンはこの遮水シート1枚目と2枚目の間に広がった可能性がある。
■ 地下貯水槽や漏洩検知孔の水位経緯について公表されているデータを分析すると、辻つまの合わないことが多々ある。いろいろな仮説も浮かぶが、東電が出している資料だけではとても全体像をつかめず、記者達がもっと突っ込んでデータを引き出させる必要がある、と氏は指摘する。

補 足
地下貯留施設の構造例 
(図はTaiseirotec.co.jpから引用) 
■  「地下貯水槽」は、貯蔵設備としての設計・建設規格に適合するものはなく、雨水貯留浸透技術協会の「プラスチック製地下貯留浸透施設技術指針」を準用して作られたものである。 「地下貯留施設」とは、地面を掘削してできる凹地に、「プラスチック製ブロック」などの「積層構造体」を滞水材(貯水材)として雨水を「貯留」または「浸透」させる施設である。このとき、滞水材外周部の遮水材(シート)が「遮水性」のときは 「貯留構造」、「透水性」のときは「浸透構造」となる。この施設は、本来、 河川の治水対策や雨水の有効利用、 雨水の流出抑制対策、区画整理事業などで用いられ、地形にかかわらず地上部の有効活用ができる特徴をもっている。 
                    地下貯留施設の使用例    (写真はTaiseirotec.co.jpから引用)
 もともと、雨水を取り扱うもので、「遮水性」といっても土木分野でいう遮水性能で緊密性を担保するという設計ではない。液体の保管を行うための地上タンクや地下タンクの貯蔵設備とは一線を画す施設である。この点について疑問をもったメディアもあり、4月10日に時事ドットコムや福島民放に「水保管目的で使用(利用)実績なし」という地下貯水槽の製作を請負った建設会社の取材記事が掲載されている。

福島原発の敷地に並んだ組立式円筒型タンクと枕型タンク 
(写真はTheWorldStreetJounal.comから引用)
■ 東京電力福島原発で使用されている 「地上タンク」には、 以前から既設設備として供用されている一般的な溶接構造式円筒型タンクのほか、事故後に導入された組立式円筒型タンクおよび枕型タンクがある。組立て式円筒型タンクは汚染水や真水の保管用として、枕型タンクは容量100㎥で高レベル廃棄物用として製作されたものである。福島原発に組立式円筒型タンクを納入した東京機材工業のホームページによると、同社は組立式円筒型タンクのほか角型タンクも納入しているという。事故後に製作された地上タンクは、現在、900基を超えているが、そのうち組立式円筒型タンクは280基以上という。組立式円筒型タンクは、もともと、土木工事用の仮設の水タンクに用いる目的で製作されたもので、接続部にパッキン(ガスケット)を使用しており、水密性能に限界があり、パッキン寿命は5年といわれる。

組立式円筒型タンクの淡水化装置濃縮水貯槽からの漏れ 
(東京電力の配布資料から引用) 
(写真は福島民報の記事) 
 実際、東京電力によると、2012年2月3日、組立式円筒型タンクを採用した淡水化装置濃縮水貯槽の側板接続部から漏れがあったことが公表されている。また、この組立式円筒型タンクについては、地下貯水槽漏れ事故前の2013年3月12日に東京新聞の記事(耐久性より増設優先、福島第一、急増タンク群 3年後破綻」を引用する形で、「汚染水タンクの手抜きが判明! 溶接をしなかったため、耐久性が減少! 3年後には大改修必至」という問題提起のブログが出されている。

所 感
■ 事故が起こった「地下貯水槽」は、本来、このブログで取り上げてきた「貯蔵タンク」とはまったく異質のもので、事故原因(漏れ原因)はわかっていないが、漏れが当然起こりうるといえる施設である。事故情報の中で紹介したように事故が起こる前から、この地下貯水槽が汚染水を保管するためには適していないと指摘されていた。プロセスプラントに比べ、貯蔵タンクの施設を軽視する人は少なくないが、今回は、原子力施設に比べ、汚染水の貯蔵施設を軽く見た結果だと感じる事例である。水密性を必要とする貯蔵設備に対して、地下貯留浸透施設を準用し、さらに内側法面に砕石充填を行うなど構造的に信じられない設計を行っている。施工写真の中でもシート敷設完了時のシートのゆがみ状況を見ると、貯蔵施設を専門とする建設会社の手によるものでないことがよくわかる。結論的には、このような漏れのあり得る地下貯水槽について漏れ原因を追究することは無意味だということである。


後 記; 今回の事故ほど多くの報道があった事例はありません。しかし、新聞やテレビの情報は誌面の都合のためか大差なく、また取材の掘り下げも不足しており、報道機関の限界を感じました。結局、最も利用したのは、東京電力が公表しているプレスリーリースと報道向け配布資料でした。そして、今回の事故では移送途中に配管フランジの漏れがあったり、インターネット情報では多くの話題があり、取り上げると、内容が散慢になるので、地下貯水槽の漏れと原因追究に絞りました。ということで、上記の所感以外に感じたことを付記しておきます。
 原子力(発電)分野の人には、核エネルギーを利用するために放射性物質を少々大気へ放出しても許され、少々海へ放流してもよいという考え方を今も持っています。しかし、2011年3月11日の原発事故で考え方を改めるべきです。原発事故直後に汚染水を放流した際、東京電力(および政府)は海で拡散し、薄まると言っていたにもかかわらず、漁場は今も影響が残っています。汚染水の海洋放出時は海外から猛批判を浴びたし、 ALPS処理後の低濃度の廃液を海へ放出することに地元の漁協は反対しています。放射能は消えることはなく、人間が制御できないのです。低濃度であっても放射性廃液を海に放流することはできません。このように考えると、ALPSを稼動させて、高濃度の放射性廃液と低濃度の放射性廃液を分離する意義があるか疑問です。基本的に放射性廃棄物はすべて地下深くに埋設処分を行うしかないと考えるべきです。今回の事故によって、地下貯水槽が汚染され、使用されたプラスチック製貯水材や砕石が新たに放射性廃棄物として発生してしまいました。
 2013年2月15日、長崎原爆製造時の放射性廃液を貯蔵している米国ワシントン州ハンフォード・サイトの放射性廃液タンクから漏洩事故がありました。60年以上経過しても放射性廃液は問題を内包したまま残っているのです。(本事故は当ブログ「長崎原爆製造後の放射性廃液が貯蔵タンクから漏洩」を参照してください)    










2013年4月11日木曜日

韓国の全羅南道でポリエチレン貯蔵タンクが爆発して死傷者

 今回は、前回に引き続き韓国における事故情報です。2013年3月14日、韓国の全羅南道(チョルラナムド)麗水市(ヨス市)にある大林産業(ダイリン・インダストリー)社の高密度ポリエチレン製造設備のポリエチレン貯蔵タンクが爆発し、近くで作業中だった作業員に死傷者が出たという事故情報を紹介します。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Chosum.com,  Chemical Plant Explosion Kills 7 in Yeosu, March 15,  2013
      ・Best-News.us,  Korea Yeosu Chemical Plant Explosion Caused  6 Dead and 11 Injured, March 15,  2013
  ・MDMPublishing.com,  Chemical Plant Explosion in Korea Kills Seven, March 18,  2013  
  ・FireDirect.net, Yeosu Chemical Plant Blast  Leaves  6 Dead, 11 Injured, March 18,  2013
    ・Japanese.joins.com,  韓国南部で爆発事故・・・19名死傷(中央日報日本語版), March 15,  2013
      ・韓国経済.com, 化学工場で爆発事故、17人が死傷/麗水, March 15,  2013 

 <事故の状況> 
 (写真はEconomicdays.blogから引用) 
■  2013年3月14日(木)午後8時50分頃、韓国の全羅南道(チョルラナムド)麗水市(ヨス市)にあるポリエチレン貯蔵タンクが爆発する事故があった。事故があったのは、麗水市ファチドンの麗水工業団地にある大林産業(ダイリン・インダストリー)社の高密度ポリエチレン製造設備のポリエチレン貯蔵タンクである。タンクは円筒型式で500トン級で、爆発によって近くで作業中だった作業員に死傷者が出た。3月17日(日)午後5時時点では、死者6名、負傷者11名と報告されている。
 爆発後、消防隊が出動し、消火活動を行なった結果、10分後には鎮火した。
■ 当時、大林産業のプラントはメンテナンス作業中だった。目撃者によると、突然、大きな爆発が起こり、タンク上部で溶接のための作業を行っていた作業員たちは不意をつかれ、幾人かがタンクから30m下の地面に墜落したという。負傷者は麗水麗川全南病院や光州全南病院などに搬送され、治療を受けている。病院の関係者によると、負傷した11名のうち5名は激しい火傷を負って意識のない状況で、死亡者がさらに増えるおそれがあるという。
 (写真はYonhapNewsから引用) 
■ 会社側によると、作業員たちはタンク内で検査を行うインスペクターための入槽用マンホールを溶接していたという。
 全国プラント労働組合の麗水支部は、3月17日、大林産業から請け負っていた柳韓テック(ユンハン・テック)社の作業員に対してタンク内の可燃性ガスをパージせずに溶接作業を開始させたとしてプラント管理者を告発した。労働組合は、「いつもだと少なくとも4~7日かけてタンク内の残留ガスを抜いていたのに、今回は、メンテナンスのためプラントを停止してからたった3日で、作業員に溶接工事を始めさせている」と語った。
 これに対して大林産業は否定した。大林産業の広報チームは匿名を条件としてつぎのように語っていた。「私どもは、作業者が作業を始めるごとにタンク内の残留ガスの有無をチェックしています。ですから、一日に何回もチェックします。常に残留ガスはゼロです。タンク内に残留ガスはなく、残留ガスが爆発の原因ではありません」
■ しかし、 3月17日になって大林産業は、タンク内に高密度ポリエチレンの粒子が粉状の形で残っており、溶接作業を始めたときに着火したかもしれないと語った。
■ 発災当時、爆発後の初期対応のまずさから、化学工場内ではまだ火災が続いていた。伝えられるところによると、消防署が現場に到着するまでの間、現場ではまだ再爆発する可能性があったにもかかわらず、現場にいた作業員に対して焼けた作業員の遺体を運び出すよう指示されたという。聯合ニュース(ヨナムニュース)の取材に応じたひとりの作業員は、「おれは、爆発によって腕と脚を吹き飛ばされた仲間の一人を運び出したよ」と言っていたという。この話に対して大林産業の関係者は、「まったく事実と違います」と反論している。大林産業の関係者によると、負傷した作業員11名のうち、2名は大林産業の従業員だという。
(写真はFireDirect.netから引用) 
■ 3月17日、環境省は、プラントからの化学物質の漏れによる混合汚染を起因として爆発が起こったかどうかの調査を実施した。火災を10分間という短時間で鎮火できているため、現場で有害物質の痕跡を発見できなかったと言われている。
 警察では、夜間に無理に作業を行い、事故が発生したとみて、人災の可能性を念頭に捜査を進めている。警察は、さらに調査を行って事故原因を特定し、爆発に至った責任を追究して法的な措置をとると述べている。光州(クワンジュ)地方検察署順天(スンチョン)支部の検察官も、法廷へ持ち出す事案として特別捜査チームを結成したという。
■ 事故が起きた工場は1989年に完工し、フィルムなどに使われる高密度ポリエチレンを年産27万トン生産している。同工場では、2012年6月にもプラスチック原料工場で爆発事故が起こったが、その後にきちんと事故防止策をとってこなかった可能性が高い。事故発生の11時間前には、全羅南道地方警察庁長官と麗水市副市長、麗水工業団地の工場長協議会長ら各機関・団体のトップ20人余りが「有害化学物質漏出事故対応懇談会および講演会」を開き、工場の事故防止について協議が行われていたという。

 <追加の情報>
 本事故に関して韓国の情報をもとにまとめているブログから特記事項を紹介する。 
 ・Economicdays.blog, 韓国でまたもや化学工場爆発 今度は7人死亡重軽傷11人, 2013-3-15   
 ・Economicdays.blog, 恐怖の現場 17人死傷者の麗水産業団地・大林産業爆発事故には無知の作業員ら, 2013-3-16  
 ・Economicdays.blog, 韓国麗水産業団地 大林産業 タンク爆発事故が混沌化してきた, 2013-3-18
 (写真はEconomicdays.blogから引用) 
■ 定期点検の期間は2013年3月12日~4月5日まで実施される予定だった。対照となるのは8基の貯蔵タンクで、その全ての点検・保守作業を大林産業協力会社1社が請け負っていた。そのため、41人の作業員が現場投入されていた。 事故当時、作業員は貯蔵タンクの最上階のほか、高さが地上から7.9mの2階部分で7人が作業をしていた。この7人が貯蔵タンクにバーナーや溶接装置などを使用して本体に直径が70cm程度の穴を開けていた最中に爆発が発生した。
■ 爆発によって、貯蔵タンクは最上階の天井が吹き飛ばされてしまう程の猛烈な衝撃波が発生した。
この天井部分はアルミ製でできており、その周囲の鉄骨まで一緒に吹き飛ばされてしまった。
この爆発の衝撃によって、貯蔵タンクの2階部分や天井近くで溶接作業をしていた作業員が、吹き飛ばされ、地上へ墜落した。
■ 爆発事故後、現場では別な作業員が被災した作業員らの救助活動を行ったが、その現場に救急車が到着したのは、事故発生時刻から40分後だったという。その間、重症を負った作業員らの失血が続いた。死亡した作業員は、ソジェドゥクさん(53歳)、イスンピルさん(40歳)、ギムギョンヒョンさん(39歳)、ジョギェホさん(37歳)、ギムジョンテさん(32歳)の6人という。
(写真はEconomicdays.blog貼付けの動画から引用) 
■ 彼らは朝8時から夕方5時までの勤務時間を指定されていた。当日の作業予定は夜10時終了だと言われていた。つまり5時間の残業ということになる。これについては、現場作業員らは調査関係者につぎのような証言をしている。「これは無理な作業でした。大林産業側が工期を短縮するように指示をしてきたのです。我々作業員らに無理な作業を強いてきたのです」 また、別の作業員らは、「今回のHDPE貯蔵タンクの保守・点検作業ですが、手抜き作業でした。なぜなら、貯蔵タンク内部の残留した可燃性ガスの除去作業が手抜きだったのです」
■ 日本のTVや新聞では今回の爆発事故は取り扱っていないが、現地の韓国では大きく取り扱われている。

補 足 
■  「全羅南道」(チョルラナムド、ぜんらなんどう)は、韓国(大韓民国)の南西部に位置する行政区で、人口約202万人である。
 「麗水市」(ヨスし、れいすいし)は、全羅南道東南部の沿海部に位置し、本土から大きく突き出した麗水半島にあり、市域には300余りの島が点在する。人口約30万人の都市である。

■ 「麗水工業団地」は1967年に造成され、工場誘致が行われ、現在、GSカルテックス、LG化学、麗川NCCなどの石油化学会社60社を含む220社が進出している。
 韓国メディア中央日報によると、工場の大半が有害物質を扱っているうえ、40年年以上経った施設が多く、「不安な火薬庫」と言われているという。麗水工業団地では、人命被害事故が相次いでいる。 1989年10月のラッキー化学工場の爆発で16人の死亡者を出した事故以降、主な重大事故はつぎのとおりである。
 ・1989年10月; ラッキー化学爆発、16人死亡、17人負傷
 ・1995年  2月; 有毒ガス漏出、15人負傷、80人避難
 ・2000年  8月; ホソンケメックス爆発、7人死亡、18人負傷
 ・2001年10月; 湖南石化ナフタタンク火災、3人死亡、1人負傷
 ・2003年10月; 湖南石化爆発、1人死亡、6人負傷
 ・2004年  8月; LG化学爆発、1人死亡、1人負傷
 ・2012年  6月; 韓国シリコンガス漏出、49人中毒
 ・2013年  1月; 麗水工業団地車両整備所爆発、2人負傷
 ・2013年3月14日; 大林産業爆発、6人死亡、11人負傷
  このほか200余件の大小の爆発、火災、ガス漏出事故で1,000人を超す死傷者が発生している。事故が発生する度に韓国ガス安全公社など関係機関が安全点検を施行してきたが、安全と直結した不良事例は絶えない。麗水地域の環境団体も「麗水工業団地は石油化学工場が密集しているため、事故が発生すれば大事故となる可能性が高いが、職員の安全意識や根本的な対策が十分でない」とし、対策の準備を促してきた。

■ 「ポリエチレン」は、エチレン(H2C=CH2)を原料として生成される結晶性で無味無臭の熱可塑性合成樹脂である。性質は、化学的に安定していて水や薬品に耐性があり、電気絶縁性や防湿性に優れている。
 基本構造は、-CH2-という単位がどこまでも一直線につながった単純なものである。ポリエチレンは、1933年、化学メーカーICI社の研究員が、ベンズアルデヒドとエチレンを高圧下で反応させる実験を行っていた際、容器に白いワックス状の固体がこびりついていたのを分析したところ、エチレンがたくさんつながって(重合)できていることはわかったことから発見された。
 一般的に密度が0.94未満のものを低密度ポリエチレン、0.94以上のものを「高密度ポリエチレン」(High Density Polyethylene:HDPE)と呼び、低密度ポリエチレンは、フィルム、ラミネート、電線被覆などに使用され、高密度ポリエチレンは、洗剤容器、工業薬品缶、ガソリンタンクなどの中空容器、パイプ、フィルム、コンテナーに使用されている。

大林産業のポリエチレン製造設備 (写真はDaelim HPから引用) 
■ 「大林産業」(Daelim Industrial)は、1939年に設立され、主にE&C(エンジニアリング·建設)部門と石油化学部門を持ち、韓国最大の財閥の一つである大林グループを牽引している。石油化学部門は、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)、ポリプロピレン(PP)およびプラスチック製品の製造を行っている。麗水市の工業団地に高密度ポリエチレン製造設備などの石油化学工場を有している。 E&C部門は国内で着実な実績を重ねているほか、1966年にベトナムでの進出以降、海外へ積極的に展開している。

所 感
■ 今回の設備は貯蔵タンクではあるが、ポリエチレンであり、報道によっては「サイロ」と表現している設備でもある。事故の原因は、タンク内の残留ガスが溶接(溶断)作業によって着火・爆発したもので、プラント施設者の運転管理(タンクのパージ不足)および火気工事着工許可に関するミスによると思われる。 「事故は隠れたがる」というが、大林産業には明らかに隠蔽体質や下請けへの発注者特権意識があり、いろいろな問題が内在しているように感じる。
■ 前回、韓国の亀尾市の国家工業団地における頻発する事故を紹介したが、麗水市の工業団地においても、韓国産業の急発展という「陽」の部分に対する「陰」の部分が事故として顕在化した。特に、今回は6名の死亡を含め、17名の死傷者を出したため、一気に不満や問題が吹き出しているという印象を持つ事例である。

後 記; 韓国の情報はなかなか入手しずらいことがよくわかりました。海外から見て日本の情報
が入手しずらいことと同じで、韓国語がわからないと、知りたい情報を得ることができません。たとえば、麗水工業団地の地図情報や企業情報はいろいろ調べましたが、はっきり確認できるものがなく途中で諦めました。今回の事故情報について韓国語のわかる方がブログに掲載しており、参考になりましたが、原文が確認できないため、「追加情報」として分けました。一方、信ぴょう性についても疑問に思う情報もありました。爆発時の写真を掲載している情報源が3つありました。右写真がその一つです。どこかで見たような写真と思ったら、昨年、姫路市の日本触媒における爆発事故時の写真でした。考えれば、韓国の事故は夜間であり、昼間の爆発写真はありえませんから、違うということはわかりますが、このような情報源は内容が正しくても疑いの目で見てしまいますね。結局、引用から外しています。 



2013年4月2日火曜日

韓国の慶尚北道で重油タンクが爆発

 今回は、2013年3月7日(木)、韓国の慶尚北道亀尾市にある韓国鉱油の重油貯蔵タンクが爆発した事故を紹介します。韓国の貯蔵タンク事故情報は、このブログで初めてですが、亀尾市では、3月初めに3件の工場事故があり、昨年2012年9月には死者を出す化学工場事故が発生しており、一連の事故に関する意見や住民の声が取り上げられています。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・KoreaJoonganDaily.com,  Gumi Blasted with Third Disaster in under a Week, March 8,  2013
      ・YonhapNews.co.kr,  Oil Tank Explodes in City Grappling with Gas Leak, March 7,  2013
  ・Khan.co.kr, Blast at a 28,000ℓ Crude Oil Tank! Another Surprise in Gumi, March 8,  2013  
  ・Iyaninarukan.doorblog.jp, 亀尾で今度は重油タンクが爆発・重大事故は今月3件目, March 8,  2013
  ・Lovecokea.exblog.jp, 亀尾でまた事故、今度は重油タンクが爆発(朝鮮日報), March 8,  2013 

 <事故の状況> 
(写真はIyaninarukan,doorblog.jpから引用)
■  2013年3月7日(木)午前8時21分、韓国の慶尚北道亀尾市にある石油貯蔵タンクが爆発する事故があった。事故があったのは、亀尾市オタエドーにある韓国鉱油の亀尾油槽所の容量200KL重油タンクである。タンクはコーンルーフ式で、爆発によって屋根が噴き飛んだ。
■ 事故発生後、ただちに消防隊が出動し、190名を超える消防士と20台の消防車が現場へ駆けつけ、泡消火を行なった結果、約30分後に鎮火した。警察および消防当局によると、この事故によるけが人はなかった。 

■ 韓国鉱油は地方の燃料供給を行っており、亀尾油槽所には貯蔵タンク4基と出荷設備を有している。4基のタンクはディーゼル燃料用2基、灯油用1基、重油用1基であった。事故当日、重油タンクには28KLの油が入っていた。従業員の話によると、タンクローリーに24KLの重油を積み込んでから約5分後に爆発音を聞いたという。消防当局によると、タンクには入っていた4KLの大半が燃焼し、被害額は約900万ウォン(81万円)と見込まれる。


 (写真はYonhapNews,Khan.co.krら引用) 
■ 消防署および亀尾市当局によると、油や消火排水は、防油堤によって封じ込まれ、構外へ流出することはなかったと発表している。警察および消防当局は、タンク内のオイル・ベーパーの爆発が事故原因とみているが、真の原因究明のため国立科学捜査機関へ調査を依頼したという。また、当局は事業者の従業員に対して事故の状況について事情聴取している。 事故当時、事業所の現場には3名の従業員がいたが、事前に異常を発見できなかった。従業員のひとりは、「わたしは事務所で仕事をしていたんですが、大きな爆発音が聞こえ、同時に揺れを感じました。外を見ると、タンクの方から真っ黒い煙が流れてきました。そして炎が空へ勢いよく上がっていました」と語っている。
 なお、警察の関係者によると、韓国鉱油に設置されている監視カメラが今回作動していなかったため、事故発生時の状況把握が難しいと話している。

■ 亀尾市民のカン・ジョンミョンさんは、「終わりのない工場事故が続いており、怖いね。どこか別な町に引っ越したくなるね」と語った。
 (図はIyaninarukan,doorblog.jpから引用) 
 2日前の3月5日(火)、亀尾市コーダドーにある亀尾ケミカル社の工場で塩素ガスの漏洩事故が起こっている。液体塩素を貯蔵タンクローリー車へ荷役中、午前8時50分にバルブから漏れて塩素ガスが流れ、近くの住民約200人が医者の手当を受けた。この事故では、液体塩素貯蔵所の浄化処理用の送風機が故障していたことで、被害が大きくなったが、事前に10~15分ほど送風機を試験稼動するという作業規則が守られていなかった。
 3月2日(土)には、午後8時34分、亀尾市イムスードーにあるLGシルトロン社の半導体工場において、硝酸、フッ化水素酸、酢酸を含む有毒な化学物質を約30~60リットルを大気へ漏洩させる事故が起こっている。この事故では、発生から16時間後にようやく当局へ通報され、隠蔽の疑いが持たれている。
 この一連の事故の3か月前の2012年9月には、亀尾市の化学会社ヒューブ・グローバル社の工場で爆発があり、大量のフッ化水素酸が漏洩し、死者5名、負傷者18名が出たほか、周辺住民約1,500人が病院で治療を受けるという事故があった。この事故では、ヒューブ・グローバル社の作業員がマニュアルに記載された作業要領を守っていなかった。

■ 亀尾市は、1969年、国内初の国家工業団地として建設され、現在では、工業団地内に1,800社が操業している。亀尾市の工業団地は、当初、電子産業として始められ、今や韓国国内で輸出製品を生産している最も大きい地域の一つとなり、韓国の経済成長を牽引している。市民団体は、今回の一連の事故が産業化の過程における経済成長一辺倒の行き過ぎに関係しているとみている。
 度重なる事故の背景について、亀尾YMCAの総主事であるイー・ヨンシクさんは、「経済成長が第一優先という1970年代のポリシーが今も続いており、地方自治体や中央政府の意識が変わらないと同様、会社の意識やシステムは成長に合ったものになっていません」といい、さらに、「今こそ、自治体と市民が一緒になってセーフティ・ネットを確立し、地域全体として事故防止と通報・広報システムを構築すべきです」と語った。 

■ 亀尾市当局は、「危険物や有毒物を取り扱う事業者は、現在136箇所あるが、これらを指導・チェックする担当公務員は1人しかいない」と説明した。また、作業の特性上、1箇所の工場で有毒物、危険物、毒性ガスなどを同時に取り扱う事業者が多いが、関連する法律と管轄(消防・環境・ガス公社・地方自治体)が複雑に絡み合っているため、効率的な管理が難しい状況にあるという。慶尚北道の道庁である大邱(テグ)にある大邱保健大学消防安全管理学科のチェ・ヨンサン教授は、「1997年のアジア通貨危機以降、企業に対する規制緩和により安全管理者の選任基準が緩和され、3~5社が共同で1人を採用することも可能となった。ところが、これが企業の安全にとってマイナスの結果をもたらしている」と指摘した。

補 足 
■  「慶尚北道」(キョンサンプクト、けいしょうほくどう)は、韓国(大韓民国)の東南部に位置する行政区で、人口約270万人である。「慶尚」とはかつての中心都市であった慶州(新羅の古都)と尚州組み合わせた地名であり、この周辺地域を慶尚と呼ぶ。
 「亀尾市」(クミ市、 きび市)は、慶尚北道の南西部の内陸に位置し、朴正煕元大統領の出身地で、その政権下で工業都市化が進んだ町であり、現在、人口約41万人である。亀尾は、元々、農業が主であったが、亀尾国家工業団地が造成され、 1970年代初めの政府の輸出促進政策に力を得て、内陸最大の先端輸出産業を保有する都市へ成長した。現在、亀尾市には亀尾国家工業団地1~4団地(24.4㎢)の地区があり、主な生産品としては半導体、携帯電話、LCD、TV、ブラウン管、情報通信機器などがある。

(写真はYanhapNews.co.krから引用) 
■ 韓国の主要な石油会社としては、SK社、ヒュンダイ・オイルバンク社、GSカルテックス社、エスオイル社などである。「韓国鉱油」は地方の燃料油供給を行っている石油会社であるが、詳細な会社情報は不詳である。亀尾市オタエドーに油槽所を所有しているが、グーグルマップで調べてみても貯蔵タンク所らしい場所は見出せなかった。 

所 感
■ 今回の事故情報はよくわからないところが多い。内容液について「重油」としたが、バンカーBオイル、バンカーCオイル、クルードオイル、産業用ボイラー燃料と報道によって違っている。タンクの大きさについて直径約5m×高さ約5mと報じているところもあるが、このサイズでは容量200KLではなく、100KLクラスになる。
 事故内容について疑問があるとすれば、タンクローリーへ移送した後、4KLしか残量がないことである。タンク容量の2%であり、タンク高さを5mと仮定すれば、液位は10cmレベル程度である。タンクは保温されているので、内部に加熱設備が設けられていると思われる。加熱設備の型式が分からないが、液位が低い状態で油が過剰に過熱された可能性がある。また、加熱設備が発火源になったことも考えられる。

■ これまで韓国の貯蔵タンク事故情報はあまり無い。実際に無いのか、情報が伝えられないのかはよくわからない。近くて、遠い国である。今回の事故報道では、亀尾市の国家工業団地における頻発する事故で、市民が不安を持ち始めているというところに力点がおかれている。日本の昭和40年代のような様相である印象をもつ。韓国産業の急発展という「陽」の部分に対して、これまで潜在化していた「陰」の部分が顕在化したといえる事故情報である。


後 記: 今回の事故情報は韓国産業の実情の一端を知る機会になりました。日本では、金融緩和によるデフレ脱却の論争が盛んですが、最近、哲学者の内山節(うちやまたかし)さんが興味深い話をしています。断片的ですが、印象に残った言葉を抜き出してみます。
周南市西緑地公園の桜

 「マクロ政策の視点では人々のそれぞれの生き方は見えず、手の出しようがないのです」 「デフレに陥っているといわれていますが、物価の下落幅は小さいし、物価が下がっていても国内総生産(GDP)はわずかだが拡大している時期のほうが多いのです。物価下落の背景には、世界経済の供給構造の激変があります。少数の先進国が生産を独占していた自動車や家電製品も、途上国の工業化で価格が急激に下がりました。液晶テレビのような競争の激しい製品が、金融緩和で値上がりするわけがありません」 
 「若い人たちは物価も賃金も上がらないなかで、お金を使わずに生活するノウハウを持ち始めています。たとえば、シェアハウスに住む人が増えている。(中略) 当初は収入が増えず防衛的にやっていたのでしょうが、そんな生活も悪くない、と」 
岩国市錦帯橋の桜
 「多くの人たちが、富を貨幣で換算することに疑問を強く持ち始めています。たとえば住宅を買う時も、価格がいくらかではなく、家族だんらんの温かい雰囲気にできるかを大切にしている」
 「(日銀や政府は)とにかくインフレを起こさないようにしてもらいたい。物価安を前提に、豊かさを追い求め、生活のスタイルを確立した人々の世界がいっぺんに行き詰まるからです。いま社会で起きている生き方の模索を邪魔してはいけない。デフレをコントロールできていないのに、インフレをコントロールできるという論理はかなり怪しい」 
 「若い人たちにモノを買ってもらうために必要なものは、財政政策でも金融政策でもありません。非正規雇用に制約をかけて正規雇用さざるを得ないように企業誘導するとか、最低賃金を引き上げるとか、雇用・労働政策をきちんとやればいいのです」 
 「企業は一度、低賃金でやれる仕組みをつくると、それが当たり前になってしまう。そこからイノベーション(技術革新)は起きません。いま日本経済を冷え込ませているのは、この問題なのです」
 少し硬い後記になりましたので、この日曜日に行った山口県の桜の写真を入れました。こちらは今が満開です。