2012年12月17日月曜日

米国オクラホマ州グレンプール火災(2006年)の消火活動

 今回は、今年10月の紹介に引続き、米国の消火専門会社であるウィリアムズ社(Williams  Fire & Hazard Control)が消火活動を支援した事例を紹介します。
 2006年6月12日、米国オクラホマ州グレンプールにあるエクスプローラ・パイプライン社の石油ターミナルの貯蔵タンクが落雷によって火災する事故が起こり、ウィリアムズ社が出動し、大容量泡放射砲システムを使用して消火に成功した事例です。グレンプールでは、この石油ターミナルの隣りにある石油ターミナルで3年前にタンク火災があった事例は前回に紹介しました。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・ FireWorld.com, A Lightning Strike in Glenpool, OK, Threatens To Consume 120,000 Barrels of Gasoline, Industrial Fire  World Vol21 No4
  ・ khk-syoubou.or.jp, 米国の石油タンク全面火災事例, August 31, 2006

<事故の状況> 
■  2006年6月12日(月)午前9時、米国オクラホマ州グレンプールにあるエクスプローラ・パイプライン社石油ターミナルのタンクに落雷があり、火災が起こった。発災タンクは、ガソリン用の内部浮き屋根式タンクで、直径43m、油面最大高さ13.6m、容量20,000KLであった。
 タンクにガソリンを油面13m19,800KL)まで受入れたとき、この地方に雷雲が通過し、1時間後の午前9時頃、落雷を受け、シール部火災(リング火災)が発生した。2時間半後の午前11時半頃、外側のコーンルーフ(円錐屋根)が崩壊、タンク内に落下し、内部浮き屋根が沈没してしまい、このため、タンク全面火災に拡大した。 約11時間後の午後8時頃、消火活動によって火災は鎮火した。
<消火活動> 
=初期対応=
■午前9時10分、グレンプール消防署へ落雷による火災発生の報告があった。 同消防署では保有している消防用エンジン1台と3名の消防士を出動させた。消防士は、タンク屋根の外周りで火災が発生しているので、シール部火災(リング火災)と判断した。また、タンクはコーンルーフタンクを改造した内部浮き屋根式タンクであることを確認した。                            
■午前11時30分頃、外側のコーンルーフが崩壊し、タンク内部に落下した。このため、内部浮き屋根が沈没し、火災は全面火災へ拡大した。 この頃、エキスプローラ・パイプライン社はウィリアムズ・ファイア・アンド・ハザード・コントロール社に連絡をとった。 ウィリアムズ社は同社からの要請に応え、活動を開始した。
■ 一方、グレンプール消防署は、タルサ市など近郊の消防署の協力を要請した。 消火用水は2つの水源から持ってくる措置がとられた。一つは、5インチホースを展張して、エキスプローラ社の給水ラインにつなぎ込まれた。もう一つは、タルサ市から運び込まれた大容量送水ポンプによって直接供給するようにされた。
 エキスプローラ社はウィリアムズ社に、火災タンクから内容物であるガソリンを移送する旨、通知していた。ウィリアムズ社はタンクから油を抜かないように何度も忠告したが、この立場の違いは異なったままだった。ウィリアムズ社は、「油移送しない理由は屋根の損傷を防ぐため」だと述べた。 しかし、すでに屋根は損壊してしまっており、エキスプローラ社を説得できなかった。 内部浮き屋根は6本の脚で着底するようになっている。油移送することによって、浮屋根が異常に高温になったり、屋根の下に可燃性ベーパーが溜まることの危険性を説いた。エキスプローラ社は深さ10フィート(約3m)で油移送を停止した。
=ウィリアムズ社の対応= 
■ ウィリアムズ社は、午後4時までに5名の専門消防士と必要な補助機材の準備を終え、チャータ便で派遣した。ウィリアムズ社が専門消防士を身軽に移動できるのは、消防資機材の関係会社とネットワークを構築しており、各所の製油所や倉庫に資機材を保有させているからである。 今回の場合、送水ポンプ1台(4,000gpm = 900㎥/h)と消火薬剤18㎥1㎥トート×18個)は、タルサ市のサノコ製油所から運んだ。 ウィリアムズ社がこの地域で出動要請のあったのは、この2年間で3回目だった。 このため、この地域の緊急対応に応えるようにしていた。
■ 屋根がタンク内へ脱落してしまったので、ウィリアムズ社は消火戦術を変える必要があった。ウィリアムズ社は、内部浮き屋根式コーンルーフタンクの外側の屋根が崩壊した理由について「内部浮き屋根とコーンルーフ間の空間で、油のベーパーによる息継ぎが起こり、コーンルーフの弱い部分に応力が集中し、長い時間、火災に曝されたのち、屋根が崩落した」と判断していた。
■ ウィリアムズ社は、現場の状況を歩いて確認し、現場指揮所の位置を決めた。各消防士の役割を割り当て、活動は開始された。 エキスプローラ社は トラックやフォークリフトなどの資機材を提供し、グレンプール消防署などの消防隊はホース展張に従事した。 この消火活動に対して、のちに、ウィリアムズ社は過去に経験した火災対応の中で最も強力な支援を受けたと述べている。
 ウィリアムズ社は、2,000gpm7,500L/分)の大容量泡放射砲モニター“Hired Gun”を使用し、バックアップとして8001,000 gpm3,0003,800L/分)の“Daspit Tool”を使用した。ウィリアムズ社は標準の“フットプリント”理論の消火戦術で対応し始めた。 “フットプリント”理論は、同社が特許をとった消火方法である。
■ ウィリアムズ社は、 “フットプリント”に織り込んだもう一つの消火戦術の方法をとった。この方法も特許をとったもので、「ティーシング;梳(すく)」または「ワイピング;(はく)」法である。 消火活動中、14分間をこの方法に変えた。ウィリアムズ社では、原油火災に対してこの方法の経験はあるが、ガソリン火災では初めて使った。消火戦術を変える必要があったのは、タンク中央部にあった大きな配管のためだった。この配管のために、タンクでは、泡被膜の上で炎が上がっていた。
■ 「ティーシング;梳(すく)」(炎を“もてあそぶ”)のテクニックは、ノズル角度をわずかに増やし、高さを上げ、放射砲モニターによる放射面積を変えることによって、炎を前後に動かすことである。 この方法が良かったのは、沈下した屋根が泡被覆より上に出ている区域が45箇所に分かれ、それぞれで炎が上がっていたからである。小さな火の手でも、大きな火災に至る可能性がある場合は、消火戦術上、影響は大きい。   
■ この他にちょっとした問題としては、タンク屋根の下側についているコーク(炭)だった。コークはわずかに燃えていた。ウィリアムズ社は、時間をかけて、このコークの処置作業を行った。 熱したコークを冷却し、安全を保持するために使った泡薬剤は全使用量の30%に達した。
■ 午後8時までにタンク内の火災は完全に鎮圧された。 
=事例の教訓=
 ウィリアムズ社は、このグレンプール火災(2006年)の消火活動における教訓について、つぎのように述べている。 
  • タンク内の油のポンプ移送; 内部浮き屋根式コーンルーフタンクにおいて、外側の屋根がタンク油の中に落ちてしまったら、ポンプによる油の移送はやめるべきである。これは、屋根が油によっていくらか保護できる可能性があるためである。 屋根が油で保護できない場合、できるだけ屋根が上に出ている面積を小さくすべきである。このことによって使用する泡薬剤が少なくて済む。そうできない場合、多数の小火災に対する消火活動に立ち向かわなければならない。
  • 消火用水の確保; 火災を消火するためには、水が必要だということは今回の事例で理解されたであろう。
  • 経験の大切さ; 消火用水が確保されたとしても、最大の力は経験である。実際の火災現場への出動経験、鎮火に成功した正しい消火活動の経験が有用である。

補 足
■  「オクラホマ州」は米国南中部にあり、人口約375万人で、州都および最大都市はオクラホマシティである。オクラホマ州は石油、天然ガスおよび農業の生産が高い。合衆国46番目の州になっており、当初は全米のインディアン部族のほとんどを強制移住させる目的で作られた州で、このため、他の州に比べ、インディアンの保留地が非常に多い。気候は比較的温暖な地域にあるが、春先から晩夏にかけて、この地域特有の気候条件により雷雨が発生しやすいところである。
 「グレンプール」はオクラホマ州東中部のタルサ郡にあり、タルサ市圏にあり、人口約10,900人の町である。

■ 「エクスプローラ・パイプライン社」(Explorer Pipeline)のパイプラインは、メキシコ湾岸からシカゴなど中西部まで(距離1,400マイル=2,200km)、ガソリン、ディーゼル燃料油、ジェット燃料油を移送している。オクラホマ州タルサ市の南60マイル(約100km)のグレンプールにある石油ターミナルは、パイプラインの中継基地として操業されており、貯蔵能力はタンク31基×340万バレル(約54万KL)である。

■ 「ウィリアムズ・ファイア・アンド・ハザード・コントロール社」(Williams Fire & Hazard Control)は1980年に設立し、石油・化学工業、輸送業、軍事、自治体などにおける消防関係の資機材を設計・製造・販売する会社で、本部はテキサス州モーリスヴィルにある。ウィリアムズ社は、さらに、石油の陸上基地や海上基地などで起こった火災事故の消防対応の業務も行う会社である。
 ウィリアムズ社は、2010年8月に消防関係の会社であるケムガード社(Chemguard)の傘下に入ったが、2011年9月にセキュリティとファイア・プロテクション分野で世界的に事業展開している「タイコ社」(Tyco)がケムガード社と子会社のウィリアムズ社を買収し、その傘下に入った。
 ウィリアムズ社は、 米国テネコ火災(1983年)、カナダのコノコ火災(1996年)、米国ルイジアナ州のオリオン火災(2001年)などのタンク火災消火実績を有しており、2003年に起こった今回と同じオクラホマ州グレンプールで起こった火災にも出動している。96年、01年、03年のタンク火災の消火活動については当ブログで紹介済みである。
                  
■ 「火災タンクからの油移送」についてエキスプローラ社とウィリアムズ社に意見の相違があった。エキスプローラ社は、同社なりの判断(消火活動の容易さと安全性を考慮)で、火災直後から油移送を開始して、午後の中頃まで行われ、貯蔵量20,000KLから15,000KLの油を回収した。 推測であるが、エキスプローラ社が製品油の回収を指向した背景には、3年前のグレンプール火災(2003年)がタンク火災からプール火災に至ってしまった事故の記憶があったためではないかと思われる。

所 感
■ 今回の事例は、直径43m油面最大高さ13.6m容量20,000KLのガソリン貯蔵タンクの全面火災において大容量泡放射砲システムによって消火できた事例である。20039月、十勝沖地震後の出光興産北海道製油所において日本で初めて起こった全面火災は、直径42.7m高さ24.39m容量32,779KL(出火時26,874KL)のナフサ貯蔵タンクであり、今回の事例のタンクと同規模の大きさだったが、当時の消防資機材では消火できなかった。この点、大容量泡放射砲システムの有効性を実証する事例の一つである。
■ 消火活動に参加した米国の消火専門会社であるウィリアムズ社(Williams  Fire & Hazard Control)がとった消火戦術や後日語られた教訓は意義深い。教訓の一つに「経験の大切さ;消火用水が確保されたとしても、最大の力は経験である。実際の火災現場への出動経験、鎮火に成功した正しい消火活動の経験が有用である」という指摘は正しいだろう。日本にはタンク全面火災の鎮火に成功した正しい消火活動の経験者はいない。これを補うのは訓練であり、他の火災の消火活動の情報を知り、疑似体験することしかない。

後記; この後記で石油備蓄基地の管理について一般競争入札に関する新聞記事の話をしましたが、その後、同じ朝日新聞の「記者有論」の欄に問題提起した記者が記事の背景について載せていました。要は「天下りの連鎖を規制で断つ」ため、「関連した業界への一切の再就職を禁止するという踏み込んだ規制が不可欠だ」という趣旨でした。しかし、今回の場合、石油備蓄基地の会社に矛先を向けるのは片手落ちだと思います。中央官僚は天下り先の独立行政法人を作るような施策をとります。「石油天然ガス・金属鉱物資源機構」ができた際に石油備蓄基地関連の部門は大幅に人員が増えています。すなわち、天下り先を確保したのです。まず、この問題の掘り下げが先だと思います。
 ついでに言いますと、将来は天下りを進めるべきだと思います。官僚組織がピラミッド型でだんだん人を減らしていく仕組みをとる限り、新しく独立行政法人などを作ったり、関係業界への天下り先を確保しようとするのです。この仕組みをやめ、できるだけ長く勤めてもらうような組織に変えることです。そして、優秀な官僚人材は、関連業界でもどこでも天下りして、能力を発揮してもらうことです。仕事はしないというイメージの天下りではなく、実力のある人材が引き抜かれて天下るという世の中にすれば良いのです。

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