2012年11月20日火曜日

安全警告;タンクの過圧

 今回は、今月初めに紹介した「英国石油産業協会」(United Kingdom Petroleum Industry Association ;UKPIA)の安全警告の第2弾として「タンクの過圧」事例を紹介します。
本情報は「英国石油産業協会」(United Kingdom Petroleum Industry Association ;UKPIA)が提供した「安全警告」についてつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・UKPIA.com, Process Safety Alert 002, Tank Overpressure, November 16, 2009

 <概 要>
 この安全警告は、石油貯蔵タンクにおいて起こった事故から、熱水によるタンクの過圧に関するリスクについて提起したものである。

 <事故の状況> 
■  大型の貯蔵タンクに重質燃料油の受入れ準備をしていた。
■ タンクに設置されている受入れバルブを開けた途端、オペレータはタンクが膨らみ、基礎から浮きあがったのを見た。
■ タンクの側板が床面に着地したとき、タンク円周の四分の一にわたって溶接線が破断し、内液の水混じりの油が約25㎥流出した。
■ 幸い負傷者は出なかったが、タンクと付属設備には大きな被害が出た。

=事故の原因=
ベントと屋根の損傷状況 (写真はUKPIA Process Safety Alert002から引用
■ 考えられている原因は、閉じ込められた状態で熱水が蒸発して大きな圧力が形成され、その後急速に凝縮して水に戻ったものだと思われる。その過程はつぎのとおりである。
 ● タンクと受入れ配管内の油の中に、かなりの量の遊離水が存在していた。
 ● 受入れ配管はスチーム加熱によって数時間加温されていた。このため、水と油の混合液は100℃を超える温度になっていた。
 ● タンクへの受入れ配管系統のバルブが開けられ、熱水がタンク内へ激しく入り、極めて短時間に水の蒸発が起こった。
 ● 水からスチームへ変化して1,600倍に増加した容積はタンクのベントから抜け切らず、タンク側板が膨らんでしまった。
 ● 目撃者とタンクの損傷状態から、タンク内のスチームが急速に冷却されて水に戻ったため、タンク内の圧力が急降下し、負圧状態になったものと思われる。

 <教 訓>
■ 油の中の水の蓄積に注意すること。
■ 配管の加熱調節と制限値に注意し、水が存在する場合、100℃未満に保持すること。
■ 職員にはスチームの危険性についての理解を徹底させること。 特に、槽内で水が短時間で蒸発した場合、圧力が急上昇すること、そしてスチームが凝縮すると、急速な圧力降下の恐れがあること。
            1バレルの水が100℃で蒸発すると、 ・・・   1600バレルのスチームになる! 
                                         (図はUKPIA Process Safety Alert002から引用)

補 足
■ 「英国石油産業協会」(United Kingdom Petroleum Industry Association UKPIA)は、英国の石油産業の下流部門に携わっている9社の会員会社による団体で、石油製品の精製、流通、販売に関して非競争領域における一般的な問題について共有化するために設立された。UKPIAでは、安全警告(Process Safety Alert)など英国の石油産業の下流部門に貴重な情報を提供している。

■ 「重質燃料油」は原文では「Heavy fuel oil」となっており、詳しい性状はわからない。一般に重油と同意語として使われている。日本では、重油の規格は3種あり、最も重質なC重油は、通常、4070℃に予熱しておく必要がある。海外では、燃料油を6グレードに分類する傾向にあり、この場合、5番燃料油(No.5 Fuel Oil)または6番燃料油( No.6 Fuel Oil)が重質燃料油に該当するものと考えられ、 5番燃料油の必要な予熱温度は77104℃、 6番燃料油はさらに高粘度の残渣重油で、予熱温度は104127℃を要する。
 従って、「重質燃料油」は日本の重油より高粘度の重い燃料油と思われ、タンク内の保持温度が100℃を超えるケースもありうる。日本でも、一般商用のC重油より重質の残渣油が工業用加熱燃料油として使われており、この場合のタンク内の保持温度は100℃を超える。 

所 感
■ 今回の事例は、結果を見れば、水が蒸発するときは容積が増大するという常識的な話である。しかし、この事例は、過去の話ではなく、最近の2009年に先進国である英国で起こっている。盲点があるとすれば、受入れ配管中に存在していた水が起因していたことであろう。また、定常時のタンク保持温度が100℃未満で、水による突沸現象のリスク認識が薄かった可能性もある。事故は定常運転でなく、非定常運転に伴うものが多いと言われるが、今回の事例も定常運転へ移行するときの非定常状態時の事象だと言える。いずれにしても、英国石油産業協会(UKPIA)は、重質燃料油を扱うところや高温のプラントでは共通的な問題として、水の危険性について警告を発するべきと判断したに違いない。
■ 今回の事例では、内圧が上がったとき、タンク屋根と側板の溶接線が破断せずに、底板と側板部の溶接線が破断している。屋根の放爆構造が機能せず、タンク側板部が膨らんで、側板下部がリフティングしたあと、床面に着地したため、底板と側板部の溶接線が破断したものであろう。膨らんだタンクの写真を見ると、側板の左下部が一部黒くなっており、ここが破断して油が流出した箇所と思われる。現場にはオペレータがいたようだが、この破断場所にはいなかったと思われ、ケガ人が出なかったのは幸いだった。

後記; 今回の安全警告の事例を紹介したのに続いて、次回は2012年6月に起こった「コスモ石油千葉でアスファルトタンクから漏洩して海へ流出」した事故の原因を紹介する予定です。アスファルトタンクの事故原因は、コスモ石油が同社のホームページのニュースリリースにおいて8月から経過報告を出しており、最終的に、9月14日に事故調査委員会の結果報告が公表されています。状況は違いますが、英国石油産業協会(UKPIA)が指摘した安全警告の類似事故だったことがわかります。









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