2012年9月10日月曜日

タンク火災への備え

 今回は、タンク火災の事故でなく、2008年11月の「Fire Engineering」誌に投稿された「Storage Tank Fire:Your Department Prepared?」(Craig Shelly)という「タンク火災への備え」に関して書かれた情報を紹介します。
 本情報はインタネットで得た「Storage  Tank  Fires:  Is  Your  Department Prepared?」(By Craig H.Shelly  Fire  Engineering;2008年11月)の記事について関連事項を要約したものである。
はじめに
■  この数か月の間に、新聞や雑誌で米国を含む世界各地で起こった石油貯蔵タンクの火災事故の記事が掲載されている。タンク火災は、西海岸、東海岸あるいは中央部の都市などいろいろなところで起こっている。最近の火災で最も大きな事故になったことで知られているのは、2005年に起こった英国バンスフィールドのタンク火災である。石油貯蔵タンク火災に関する記事の中では、消防隊の活動について書かれていないことが多い。公設消防やボランティア型消防の消防士は、直接火災に立ち向かい、あるいは消防活動の後方支援を行っている。
  私たちは、自分の仕事に関することは日々研鑽しているし、テロリストによる事故対応についても訓練を行っているが、自分たちの地元にある工場に関わる危険性については余り認識がないといえよう。消防機関でも、建物については構造を調べ、火災になった場合の対処方法を事前に検討しているところは多いが、管轄区にある貯蔵タンクについて消防隊が詳しく研究しているところはない。地元にある工業地帯は昔からある風景として違和感なく目にしている。
■ 石油工業が発達し始めた初期の時代には、タンク火災はめずらしくなく、よく起こった。工業が成熟してくると、米国石油協会(API)や米国防火協会(NFPA)による規格や基準が整備され、より良い設計、より良い構造、より良い防火策がとられるようになり、その結果、昔と比べ現在は、タンク火災がかなり少なくなった。しかし、火災は突然やってくる。
■ 注目すべきことは、タンク火災の発生頻度は減っているが、タンクのサイズが大きくなってきており、火災が起こったときの危険性は増大していることである。タンクが大きくなってきている結果、一旦、大型の地上式貯蔵タンクで火災が起これば、設備コストの被害規模は大きく、工場の操業は停止し、環境汚染の問題が生じ、世間からの評価が低下する事態となる。さらに、タンクの全面火災を制圧し、鎮火させるために必要な人材や消防資機材を確保しなければならない。火災によって想定される損失が大きいため、ファイア・プロテクション工業分野では、大型貯蔵タンクの火災に対応できる消火技術の改善に取り組んできた。これらの技術改善は日進月歩で進められている。
■ 本稿では、地上式常圧タンクの種類、想定される火災の種類、火災への対応計画および消火戦術についてまとめる。
一般事項
     石油貯蔵施設におけるタンク全面火災
   (写真はWilliams Fire & Hazard Control提供)
■  可燃性液体の貯蔵タンクは、製油所、石油化学、備蓄基地、港湾ターミナルのような工業分野の工場で見られる。発電所、空港、地方の燃料取扱所にもあり、自動車工業や製鉄所などの製造業でも可燃性液体を貯蔵するタンクを見ることがある。
 貯蔵タンクの大きさは、直径10フィート(3m)から350フィート(105m)を超えるものがあり、平均の高さは45フィート(13.5m)である。原油や石油製品などを貯蔵するタンクの中には、容量が1.5百万バレル(24万KL)を超えるものもある。巨大施設の中には、いろいろな大きさのタンクを100基以上保有し、各種の液体を貯蔵しているところもある。このような施設では、タンク間の距離は小さく、数基のタンクと共有の防油堤としていることが多い。

■ 防油堤は、タンクからオーバーフローさせたり、タンクが壊れたときに、漏れた液体が広がらないように構築された堤である。防油堤は、内容物によって仕切りを入れたり、タンクをグループ化して運用されたりする。堤は土盛りやコンクリート製などがある。防油堤の高さと面積は、堤内に入るタンクの容量と関係する。防油堤の容量は、タンク全量分に余裕率を加えて設計されることが多い。この余裕率のとり方としては、緊急事態時に放水される消火用水の貯水量を予想して決めることが標準的である。共有の防油堤に複数のタンクを入れる場合、防油堤は、少なくとも、最大タンクの容量に余裕率を加えた大きさにすべきである。
貯蔵タンクの種類
■ タンクを屋根の種類によって分けると、固定式屋根、内部浮き屋根、開放型(外部式)浮き屋根、ドーム型外部式浮き屋根となる。このほか、貯蔵液体の種類や設置場所で分けることもあり、例えば、ガソリン・サービス・ステーションやタンク基地などである。燃焼性の液体は、通常、比較的大きいコーンルーフ式タンクに貯蔵され、このほか低圧式立型タンクまたは地下タンクに貯蔵される。可燃性の高い液体は、通常、開放型浮き屋根または内部浮き屋根タンクに貯蔵され、このほか、低圧式立型または横型タンクあるいは地下タンクに貯蔵される。
■ 固定式屋根タンク : 固定式屋根タンクは、鋼製の立型円筒式で固定式の屋根が設置されている。石油精製や石油化学分野では、固定式の屋根は、通常、円錐(コーン)の形をしており、“固定式コーンルーフ”タンクと呼ばれている。固定式の屋根には、平面あるいは水が溜まらないようにわずかにドーム形をしたものもある。固定式屋根タンクは、液面と屋根裏面の間に空間(ベーパー・スペース)があるのが特徴である。固定式屋根タンクはAPI規格に従って製作されるが、屋根と側板の溶接部は意図的に弱くする。これは爆発などの事象でタンク内圧が過剰に上がった時に、先に屋根と側板が外れて圧力を逃がし、タンク底板の溶接部が破断したり、タンクが浮き上がるような事態を回避するためである。
 固定式屋根タンクでは、アスファルトなど重質で粘性の高い液体を貯蔵する場合、保温される。固定式コーンルーフタンクには、液体の入出荷時や温度差の大きい場合に息つぎ(ブリーザー)ができるようにベント装置が設けられる。ベント装置には、オープンベントやプレッシャ-バキューム・ベントがある。プレッシャ-バキューム・ベントは、タンク内圧を外の大気圧に保持するような機能を持っている。タンクの設置場所によって地元への配慮を行い、環境調節機能付きのベントを設けたり、内部ガスの発散を抑制するフレーム・アレスターを付けることもある。
■ 内部浮き屋根タンク : 内部浮き屋根タンクは、固定式屋根タンクの内部に浮き屋根を設けたものである。内部浮き屋根タンクは、通常、固定屋根を支えるためにタンク内に垂直方向の支持柱を備えるか、あるいは固定屋根が屋根自体を支える構造になっている。内部浮き屋根は、“パン”と呼ばれたりするが、液面上で浮いており、液位変動によって上下している。パンは、浮子のポンツーンによって浮力を持たせるか、あるいはダブルデッキにして液面での浮力を得るようにしている。
 固定式屋根の屋根部にはオープン-エア・ベント(大気ベント)を設けて、内部浮き屋根より上部空間が息つぎできるようにしている。この方法によって、ベーパー・スペース部が爆発混合気の範囲以下になるようにする。浮き屋根と側板との間隙部はリムシール・スペースと呼ばれるが、このリムシール・スペースにシール装置を設けて、ベーパーが発散しないようにする。このリムシール部は、通常、1~4フィート(30~120cm)あり、火災発生の要因になることがある。内部浮き屋根タンクは、ガソリンなど精製された石油製品で揮発性の高い液体に使用されることが多い。
■ 開放型(外部式)浮き屋根タンク :  開放型(外部式)浮き屋根タンクは鋼製の立型円筒式で、タンク液面上に浮く浮き屋根を有している。屋根の上は大気に開放されており、固定屋根を持っていない。内部浮き屋根タンクと開放型(外部式)浮き屋根タンクの相違は、大気環境から内部液を保護する固定の屋根を持っているか、いないかの違いである。内部浮き屋根タンクと同様、開放型浮き屋根タンクもパンを有し、ポンツーンやダブルデッキによって液面での浮力を持つようにしている。この浮き屋根も液位変動によって上下している。このタンク型式もまたリムシール部で内部液体のベーパーが発散するのを防止している。
■ ドーム型外部式浮き屋根タンク : ドーム型外部式浮き屋根タンクは、既設の外部式浮き屋根タンクにドーム型のカバーを被せて、内部浮き屋根タンクと同様の機能をもつように改修したタンクである。このタンクは軽量ドームタンクと呼ばれることがある。このドームの役割は風雨の影響を防ぐことであるが、また内部ベーパーの発散による環境汚染を少なくする役割を果たしている。 このタンクにおいて火災が発生した場合、消火活動の初期段階においてドーム用パネルを焼損(メルトダウン)させ、障害物はサポート用のフレームだけにすべきである。 実際、火災が長く続けば、燃え上がる火炎の中でサポート用フレームも大抵は折れ曲がり、倒壊するだろう。 「大型常圧貯蔵タンク火災プロジェクト」(Large Atmospheric Storage Tank Fire; LASTFIRE)は、当該タンクの全面火災時において障害物となることが予想されるので、多量の泡放射量を必要とし、事故時対応計画の策定時に泡放射量を通常より高く設定すべきだと勧告している。
基本的な対応の考え方
■ タンクにはいろいろな種類があるが、火災の観点からみると、共通的に分類できる。火災の激しさによれば、単純なベント火災からタンク全面火災まで分かれる。タンク火災事故を大きく分けると、過充填による地上火災、ベント火災、リムシール火災、障害物あり全面火災、障害物なし全面火災である。
■ 過充填による地上火災 : 過充填による地上火災あるいは堤内火災は、配管またはタンクからの漏れによって起こる。この事故は、多くの場合、オペレータ・ミスや設備不調などに起因しており、事故の過酷さからいえば、大きくはないといえる。過充填による漏れが起こったとき、引火していなければ、注意を払って発火源を取り去ればよい。引火してしまった場合、プール火災としての対応をとる。過充填による地上火災は、固定式コーンルーフタンク、内部浮き屋根タンク、外部浮き屋根タンク、ドーム型浮き屋根タンクに共通して起こる事故である。
■ ベント火災 : ベント火災は、コーンルーフタンクや内部浮き屋根タンクのような固定式屋根タンクに起こる事故である。この火災の原因は大抵、落雷によるもので、ベント部に存在していた可燃性ガスが着火する事故である。事故の過酷さからいえば、それほど大きいものでなく、通常、ドライケミカル消火剤で消すことができるし、あるいはタンク内の圧力を下げることによって火は消える。 
フル・システム             セミ・システム
■ リムシール火災 : リムシール火災は、大抵の場合、外部浮き屋根タンクにおいて起こる事故であるが、内部浮き屋根タンクやドーム型浮き屋根タンクでも起こることがある。このタンク火災の多くは落雷による着火が原因であるが、浮き屋根タンクでは、直接雷でなくても、誘導電荷によって着火することがある。この火災はこれまでよく起こっているが、通常、消火活動によって鎮火に成功することが多い。ただし、ポンツーンが爆発によって損壊したり、消防活動中に浮き屋根を沈没させたりした場合は別である。リムシール火災の鎮火に成功することが多い要因は、フォーム・チャンバーのようなリムシール火災の泡消火システムを設置していることによる。リムシール火災の泡消火システムにはセミ・システムとフル・システムがあり、過去の経験が活かされている。ただし、泡消火システムは、適切な設計が行われ、適切に据付けられ、適切に保全されていかなければならない。 
 内部浮き屋根タンクのリムシール火災では、特に泡消火システムが設置されていない場合、消火活動は少し厄介である。火災箇所へのアクセスはベントまたはアクセス用カバーしかなく、ここから消火剤を注入しなければならない。
■ 障害物あり全面火災 : 障害物あり全面火災は、固定式コーンルーフタンク、内部浮き屋根タンク、外部浮き屋根タンクで起こる事故だといえる。これらのタンクでは、屋根やパンの部品が燃焼面に障害となって存在することがあり、消火活動を難しくする。屋根やパンはいろいろな要因で沈むことがある。例えば、内部浮き屋根タンクの液の蒸気圧が増すによって沈下し、パンが傾斜することがある。外部浮き屋根タンクでは、雨天時あるいは屋根部のメカニカルシールが不調の時にドレン弁を閉めたままにすると、屋根上に雨水や内容液が過剰に溜まってポンツーンの機能を喪失させ、結果的にパン部が一部沈没してしまうことがある。
■ 障害物なし全面火災 : 障害物なし全面火災は、タンク径があまり大きくなく(150フィート=45m未満)、十分な資機材と訓練された人員が揃えば、比較的鎮火は容易である。タンク径が大きく(150フィート=45m以上)なると、火災の燃焼面が広くなり、火災を制圧し、鎮火させるためには、かなりの量の資機材が必要になり、消火活動は困難を極める。障害物なし全面火災は、内部浮き屋根の無い固定式屋根タンクでも起こりうる。すなわち、当該タンクで爆発や過剰圧力がかかって、タンク屋根と側板部の意図的に弱くした溶接継手部が破断して、屋根が噴き飛び、結果的に全面火災となることがある。外部浮き屋根タンクもまた、豪雨時に屋根が沈没して、全面火災に至る傾向のあるタンクである。屋根排水系統が閉塞すると、屋根は比較的短い時間で沈み、落雷に対して無防備な液表面を曝すことになる。
事故時対応計画の策定
■ 消防活動に携わる部署では、事故時対応計画について事前によく検討し、検証しながら策定する必要がある。貯蔵施設における事故時対応計画では、まず主要な事故において起こる得る火災規模を明確にしなければならない。そして、その火災規模に必要で有効な資機材を検討して決める。この種の貯蔵施設では、火災時を想定して、タンクの仕様、内容物の種類、消防活動に供することのできる資機材、アクセスのための防災道路の位置、駐車可能な場所の位置、水源の位置を示した資料を用意しておく。
■ 実際の火災は複雑な要因を含んだ事象である。この火災と戦うには、優秀な緊急事態管理組織によって、有効な資機材を適切な判断を行いながら使用し、事故時対応計画を実行することである。しかし、計画どおりに実施しても、いつも成功するとは限らない。計画に従って実施しても、火災の状況に期待する効果が得られない場合、消火戦略と消火戦術を見直し、安全を図りながら成功に導くことである。
■ 事故時対応計画書は、項目毎にシートを作成したり、チェックリストを作ったりして工夫するのがよい。事故対応者が事故時対応計画を実行するのに使いやすいようにすることである。
■ 建設仕様 : 事故を想定して、とるべき消火戦術とともに、タンク構造に影響する建設仕様は明らかにしておく。通常、取り扱うタンクは鋼製の構造であることが多い。鋼製のタンクであっても、火災に曝されると、熱せられ、軟化し、損壊する。タンクの中には、溶接構造のほか、リベット構造のものもある。リベット構造は原油生産地区のタンクによく見られるほか、別な工業分野でも見ることがある。バーモント地方にある石油備蓄会社の基地には、リベット構造のタンクがある。リベット構造のタンクは、火災に曝されると、溶接構造のタンクより損壊するのが早いと思われる。防油堤内の地上火災が起こった場合、そこにどんな配管が走っているのか、何でできているのか、そして火災の影響はどうなのかということを知りたくなるだろう。
 火災時に火炎に曝されているタンクが複数基あった場合、できるだけ曝されているタンク群を冷却しなければならないだろう。考え方としては、火災タンクは冷却せずに、360°周りのタンクを一様に冷却すべきである。一様に冷却できていないエリアにあるタンク側板は焼損することになるだろう。
■ 他の施設との関係 : タンクだけの貯蔵施設であるかどうか? すなわち、火災が拡大していった場合、タンク以外の工業施設が影響を受けることはないか? 火災を起こしているタンクよりも他の工業施設に延焼した場合の方が危険性が高いかどうか? 危険性が大きい場合、その工業施設の防火に集中すべきか?
■ 資機材および職員の配置 : 貯蔵タンク1基の消火活動を行うために必要な資機材があるか? 供給できる泡消火剤はどのくらい保有しているか? 保有している泡放射砲の型式とサイズは? 泡放射砲は固定式か可搬式か? 自所で配備できる対応人員はどの位いるか? タンク火災では、通常、大量の水と多くの泡消火剤を集中的に必要とする。泡放射砲と泡消火剤を保有していても、これらの資機材を展開できる職員を配置できるか?
■ 人身災害 : 人命の安全は最優先である。従業員の安全を守るだけでなく、消防隊の安全ともに地域住民の安全を確保しなければならない。災害対策本部は、施設の従業員や構内で従事する協力会社の人たちのことを考えておかなければならない。構内にいる従業員数と協力会社の人数はどの位いるか? 施設内で誰かが伝えたいことが出た場合、災害対策本部はどのようにして伝達するか?
冠水すると、タンク据付位置に影響あるほか、消防活動に影響を与える。
■ 地形 : 事故が起こったとき、地形について考慮しなければならない場合がある。可搬式泡放射砲などの資機材の配置はまともに影響を受ける。最近の大きなタンク火災では、激しい豪雨のときに起こっていることもある。発災タンク周辺やアクセスのための防災道路が冠水すると、事故対応が遅れたり、消防資機材の配置が理想的な場所から外れたりする。地形によっては、封じ込めや消火排水の処理に影響を及ぼしたり、他のタンクへの移送に影響したりする。消防士が深く溜まった水の中を移動しなければならなかったり、泡の排水が流れて構外へ出てしまったりすることがある。タンク火災では、大量の水を必要とするので、使用した消火排水が封じ込めを図っている箇所から溢流してしまうかもしれない。このようなことが考えられる場所が、どのくらい、どこにあるか?
■ 水の供給 : 水は火災時に最も重要なものである。工場火災では、消火用、冷却用、蒸発防止用に大量の水を必要とする。燃料貯蔵タンクの火災に対して効果的な攻撃を行うために耐えうる必要量の水を構内において供給できるか? もし、できなければ、補給する水は、どこから、どの程度供給できるか?
 供給できる水源があっても、消防隊は送水方法を考えておかなければならない。消火用水を発災点まで展張できるような大口径ホースを保有しているか? 事故時対応計画において近隣の消防隊に大口径ホースの支援を依頼する前提であれば、自所のホースと支援消防隊のホースの整合性はとられているか? 例えば、支援消防隊のホースが4インチ径で、自所のホースが5インチ径の場合、両ホースの接続が必要になったときに、連結用金具(4インチ-5インチ)は保有しているか?
 もし、要求があれば、必要量の水を遠い距離に送ることができるか? あるいは、大容量の長距離送水ポンプがあるか? 最近の技術開発によって、水源である貯水池に複数のポンプを設置し、送水ポンプに正圧で吸い込ませる方法がある。油圧駆動の小型のポンプ群を水中に入れ、この一連の小型ポンプ群から大型の送水ポンプへ正圧で供給する。このシステムでは、貯水池の近くに大容量送水ポンプやポンプ車を設置する必要がなくなる。
■ 消防補助設備 : 消防補助設備とは、工場施設内にある消防システムや消防装置である。貯蔵タンクでいえば、消防隊による消火活動に役立つよう設置してある手動の泡消火システムで、特にリムシール火災に有効である。事故時対応計画書の中では、この設備の仕様と機能を明示しておく。誰がシステムを操作するのか、誰がシステムに必要な水と消火泡剤を供給するのか? 自所で消火システムに供給する場合、きちんと対処できるか? 標準の操作手順書をまとめ、定期的に訓練を実施する必要がある。
 公設消防が施設内に到着すれば、災害対策本部の関係者は適切に支援し、対処できるようにしておかなければならない。事故時対応計画書の中には、災害対策本部で活動するメンバー明らかにしておき、携帯電話の番号と活動できる時間帯を記載しておく。
■ 道路のアスセス性 : 道路の条件はアクセス性が良くなくてはならない。工業地区や貯蔵タンク施設は住民の居住区から離れているところに建設されることが多い。一般道路が狭く、曲がりくねった所になることもある。施設内のアクセス道路も狭いことが多い。このことは、自所で保有する消防資機材のサイズによっては、緊急時の対応や機材の設置に影響するかもしれない。消火戦術として大容量泡放射砲を使用することを想定した場合、消火活動が可能な道路になっているか? 消防資機材を配置することで道路をふさいでしまって、泡消火剤を運搬する他の車両やホース展張の支障になることもある。 排水用溝(施設内の排水をよくするために道路を横切る深い凹地)がある場合、消防資機材の長さや車両の大きさによっては、道路沿いに設置や展張できないこともある。場合によっては、凹地を横断させるために、消防資機材を凹地の底に沿って敷設しなければならないかもしれない。これらの支障事項は事故時対応計画の段階で決めておくべきである。最近の訓練でわかったことだが、車両のアウトリガーのサイズが変わってきており、当初決めていた配置位置では配備できなかったり、他の資機材を配置するのに、道路を封鎖しなければならないことがあった。さらに消防資機材幅や長さが変わって、旋回するための半径がとれないこともある。
■ 天候 : 天候の条件は消防活動、とりわけ規模の大きなタンク火災の消火活動に影響を与える。風があると、発生した大量の黒煙が長い距離にたなびき、アクセス上の支障になる。無風状態や深い霧が発生した状態では、消防活動している場所に煙がとどまってしまう。激しい雨によって冠水すると、消防活動や資機材の配置に影響する。厳寒時や猛暑時の消防活動では、頻繁に体調を確認したり、休憩をとらなければならない。激しい雨が降ると、放射して敷き詰めた泡の膜が消えたり、防油堤内から溢れたりすることがある。このような時、必要に応じて、防油堤内から水を出すことになるが、この排出方法があるか? また、排出先はあるか? そのような施設にしておくか、仮設ポンプを設置することになる。この必要性の是非については、事故が起こる前に考えておかなければならない。
■ 曝露対策 : 貯蔵タンク火災が発生した時、何の曝露対策をしなければならないか? 一般的には、風下側を第一優先に曝露対策を行うことになる。風下の右側と左側にあるタンクについて冷却する必要が出るだろう。注意すべき点は、過剰に冷却水を使うと、施設内の雨水排水系統のシステムを設計以上に酷使することになる。施設内の排水用ポンプの能力を超えてしまうと、火災地区で使用した水が溢れて、防油堤内をオーバーフローし、混合汚染の問題が生じる恐れがある。
 曝露対策として冷却のための放水をしている場合、タンク側板部に水蒸気が出ている限り、冷却効果があると見て放水を継続すべきである。水蒸気が出ていない状態になれば、冷却の放水を停止する。タンク側板が再び熱せられた場合、冷却を再開する。このようにして消火用水の量を管理することによって、排水の量を減らす。タンクへの冷却水量はつぎのように算定する。
  •  直径100フィート(30m)未満の常圧貯蔵タンク;500ガロン/分(1,850L/分)
  •  直径100150フィート(3045m)の常圧貯蔵タンク;1,000ガロン/分(3,780L/分)
  •  直径150フィート(45m)超の常圧貯蔵タンク;2,000ガロン/分(7,560L/分)
■ 面積 : 火災面積を考える場合、通常は幅×長さで考える。タンク火災では、火災になっているタンクの面積を考える。この場合、簡単計算するには、タンク直径の自乗に0.8を掛ければ対象面積になる。防油堤面積は、防油堤の長さ×幅の面積からタンク面積を引く。
■ 現状および拡大ケース : 事故時対応計画書では、想定の火災シナリオ(現状)の面積と最悪ケースのシナリオ(拡大ケース)の面積に従って算定される消防資機材を明らかにしておくべきである。
■ 時間 : 火災や事故が起こったとき、いつの時間かによって対応は影響を受ける。1日のうちのある時間帯は、工場内ですぐに支援できる人間がいないことがある。別な時間帯では、施設内で危険性の高い作業が行われることによって、火災のリスクが増えることもある。火災が起こると、拡大することもあり、場合によっては長い戦い(数日間)に及ぶこともある。施設内には適当な照明設備はあるか? 事故時対応計画書の中には、現場用高輝度投光器について記載しているか? 消火活動が長引いた後に、可搬式投光器を運び込もうとした場合、消防資機材や展張ホースが支障になって、搬送ルートが通れなくなっているかもしれない。投光器類の必要性の判断は早い時間帯に行えば、搬送ルートが通れなくなる前に設置することができる。
 避難の必要性が出た場合に、時間帯によっては地元住民の避難の連絡や方法に影響が出るかもしれない。夕方の時間帯は、地域の居住区に避難の対象者がたくさん居るようになるだろう。夜間は消防士の作業ペースが低下し、発災地区に適切な照明がなければ、消防士の安全確保が損なわれるようになる。
■ 高さ : 貯蔵タンクの高さは消火活動に影響する。自所に保有する可搬式放射砲は最も高いタンクに届く性能をもっているか? 泡放射の放物線は重要で、タンクの頂部を越えて入るような性能でなければならない。タンクから遠すぎると、放射された泡はタンクの頂部に届かない。近すぎて、危険性の高い作業位置にいれば、放射した泡を油面上の狙った位置に着水できない。
■ 特別な条件 : ここでは前もって明確にしておくべき事項でなく、補足的な事項を述べる。ハズマット隊が対象にするような危険性物質の有無、特別な消火技術、プロセス制御運転、制定されている緊急事態対処計画、必要になるかもしれない外部の消火専門会社などについて記載しておく。重要なことは、事故に遭遇する前に多くの情報を集めれば、事故対応計画を策定するのに役立つということである。
事故対応時の配慮事項
■ 貯蔵タンクに緊急事態が起こった際には、消防部署はただちに事故に関する情報を集め、事故の状況を判断し始めることである。事故の状況判断は、鳴った警報の種類から始め、最後の部隊が現場を離れるまで続けるとよく言われるが、実際に事故時対応計画書に従って始める。この段階で集めるべき情報は、事故に関する基礎データ、起こっている事故に対する戦略と戦術に関するものである。事故時対応計画書に従い、最初の警報の情報とその後からわかった情報から事故の状況を判断し、現場到着後に火災と戦うべき有効な戦略を考える。配慮すべき事項はつぎのとおりである。
  • 発災現場内に救助すべき人間の有無 
  • 現場第一線で立ち向かうメンバーの安全防護策 
  • 戦線の拡張  
  • 火災の封じ込め 
  • 消火活動の方法 
  • 環境汚染の配慮事項 
  • 地元住民への配慮事項
■ 前に述べたように、まず火災のタイプを決める。火災のタイプとは、ベント火災、リムシール火災、配管/接続部からの火災、全面火災、過充填による溢流火災、タンクおよび堤内火災、複数タンク火災、火災の輻射熱である。
 火災のタイプを決めるということは、必要な消防資機材を決め、火災と戦うための事故対応計画をはっきりさせることである。火災のタイプに応じて災害対策本部は火災と向き合い、戦うべき方法を選択して臨む。
 地上火災あるいは防油堤内火災、例えばタンク過充填や配管損傷によって流出して火災になったプール火災を想定してみる。まず、いびつな形の流出であっても火災面積を計算してみる。必要な水量と泡消火剤を決めても、十分な消火資機材が現場にそろった後に、消火活動に入るのが最適な戦術である。よくある間違いは、まだ消火資機材が十分そろっていない段階で消火を試みることである。現場にある限られた消防資機材による消火活動で火災を制圧できなかった場合、火災は継続し、せっかく張った泡の膜が壊されることになり、無駄な作業になってしまう。
■ タンクおよび関連配管とポンプは、地上式放水銃などを使って冷却散水を行い、火炎の曝露から防護する。
■ 消防士は、安全が確保できないうちは、防油堤内に入るべきでない。安全の確保とは、堤内に流出する可能性がまったくないことが確認でき、周辺のガス検知で問題ないことが確認できた状態をいう。このことは、特に少量の漏洩時に考慮すべき事項で、これは漏洩油の引火有無に関わらず考慮すべきである。多量漏洩時に、着火して泡消火剤を投入している場合には、堤内に入ることはあきらめるべきである。投入した泡の膜が乱されるような状態が起これば、悲惨な結果にあるので、消防士はどんなことがあっても漏洩した液の中に入ってはならない。
          “Daspit”ツール
(写真はWilliams Fire & Hazard Control社カタログから引用)
■ 通常、リムシール部の火災は、セミあるいはフルの固定泡消火システムによって消火することができる。この種の火災対応は、建物のスプリンクラーと同様、固定泡消火システムを作動させる現場へ行って操作する。このときスプリンクラーとの大きな違いは、水と泡消火剤が正しく供給されることを確認し、消火活動中に両者が十分に供給されることを確認するまで、混合操作を開始してはならないことである。前に述べたように、事故時対応計画の策定時において、この消火システムの仕組みと操作について明確にしておかなければならない。そして、このシステムを誰が操作するのか明確にしているはずである。消火システムを使用するに当たってのテストは、事故が発生してからでなく、事前に行っておかなければならない。事故時対応計画の策定時において、施設内のメンバーが作業を行うこととし、消火システムへの供給や操作は定期的に訓練されているはずである。

■ セミまたはフル固定泡消火システムが設置されていない場合、リムシール火災に対しては可搬式の設備を使用して消火活動を行う。この場合、ホースを展張して泡用モニターを使用し、水と泡の混合液をリムシール部に投入する。例えば、“Daspit”のようなツールは、リムシール火災用として特別に設計された設備である。この泡用モニターは、タンクの側板頂部に取り付けることができるようにブレースとクランプが設けてある。勿論、別な設備を使ってもよい。なお、 “Daspit”の機種の中には、地上据付型や車両設置型のものもある。リムシール火災では、泡混合液の放出性能がつぎのような機種を使い、放出時間は20分間とする。 

  • 小型タンク;直径90フィート(27m未満) 250ガロン/分(945L/分)
  • 中型タンク;直径90~175フィート(27~52m) 550ガロン/分(2,080L/分) 
  • 大型タンク;175~300フィート(52~90m) 950ガロン/分(3,590L/分)
大型タンク火災時に用いる大容量泡放射砲と大口径ホース
■ 消防士によるタンク火災の消火方法としては、可搬式または消防車の泡消火モニターを使用する。よく使われるのはタイプⅢの泡消火モニターで、“オーバー・ザ・トップ”と呼ばれるタンク側板越えに上から燃焼面に泡消火剤を投入する方法である。 “オーバー・ザ・トップ”の方法で配慮すべき事項は、最小泡放射量、混合濃度、持続時間、防油堤内に補助的に注入する泡放射量である。
 これらの配慮事項は、油の引火点、水の不混和性、泡薬剤の種類、使用機材によっていろいろ変わる。ガソリンや軽油のような炭化水素系の油火災では、3%混合が標準とされてきた。しかし、現在は1%混合の泡消火が採用されてきている。これはいろいろなテスト結果によって効果が確認されている。アルコールやMTBE(メチル-ターシャリ・ブチル・エーテル)などのような極性溶媒の火災では、3%・6%耐アルコール泡薬剤(ARC)を6%混合比率で使用する。ただし、極性溶媒に対してARC泡は3%混合で使用するように設計されている。
■ 混合比率とは、水の中に混合させる泡薬剤の割合(%)をいう。例えば、3%混合泡とは、3%の泡薬剤液と97%の水を混合した比率の泡をいう。泡溶液の放射量は火災になっている液面積に関係する。リムシール火災と同様、水と泡薬剤の両方が十分に揃い、消火させるために必要な時間分が供給できると判断されるまでは、消火活動を試みてはならない。
■ 泡溶液の必要量はつぎの式で算出する。
泡溶液の全必要量(ガロン)=[(0.8)×(タンク直径)2]×(0.26gpm/平方フィート)×(60分または120分)                                                         
 ここで、 放射量の「0.26gpm/平方フィート」および必要時間の「60分または120分」の出典は、LASTFIREプロジェクトおよびBPBritish Petroleum)によって採用されている最新のデータである。可搬式または消防車の泡モニターを使用する場合、最小放射量を決めているNFPAの数値に60%増やし、泡放射量を「0.26gpm/平方フィート」(10.9L/min/㎡) として計画することをBPは推奨している。これは、放射した泡がタンク内の油面に着水するまでにロスしたり、火災の熱や熱気流によって泡が壊れることを見込んだものである。最近の大規模火災の実績を見て、この分野における専門家の共通の意見としては、泡放射量をより高く設定する必要があるという結果になった。一般的に、泡放射量はタンク直径(表面積)によって変える。タンクの直径が大きくなるに従って、泡放射量はより大きくとる。前述のように専門家が推奨する泡放射量はつぎのとおりである。
 タンク直径;フィート (m)  泡放射量;gpm/平方フィート (L/min/㎡)    注;gpm=ガロン/分
  • 150未満 (45)            0.16 (6.5)  
  • 150~200 (45~60)        0.18  (7.3) 
  • 201~250  (61~75)         0.20 (8.1)  
  • 251~300 (76~90)        0.22 (9.0) 
  • 300超 (90超)            0.24以上(9.8以上)
■ 2005年12月に出されたLASTFIREの見直し版では、火災の制圧を保持できれば、手持ちの泡供給量を少なくとも初期消火段階の使用量と同じとすることは認められるとしている。私の個人的な意見としては、泡放出量の算出はより高くとり、泡と水を供給できるようにすべきだと思う。倉庫の中に使わない泡消火薬剤を抱え込むことに難色を示すだろうが、もし、泡を十分供給できなければ、そのときは火災を鎮圧できないかもしれない。
 この推奨される泡放射量を時間枠内に保持できれば、火災を制圧できるけれども、大型タンクの火災では泡供給量も大量に必要になり、消防機関によってはこのような大量の泡薬剤を保有していないこともあることを、消防に関係する部署は理解しておくべきである。この解決方法としては、自治体の共同保有、企業による共同保有、消火専門会社への委託などがあろう。ある検討例によると、泡放射量が10,000~18,000ガロン/分(37,800~68,000L/分)を超える規模になり、このために必要なトレーラー型大容量泡放射砲や可搬式の大型移送ポンプの資機材を搬送する必要があった。
■ タンク火災が起こった際、施設の関係者からはタンクに入っている液を移送するよう提案があるかもしれない。注意すべきことは、すぐにタンク内液を移送することは最善の策とはいえないことである。火災になっているタンク(または火炎に曝露されているタンク)から内容液を移送するということは、火災に曝されるタンク鋼板部を増やすことになる。タンク内に液が入っている場合、その液は熱吸収源のように働き、火炎に直接曝されているタンク側板部を保護する役目を果たしている。この観点でいえば、タンク内液を移送すべきでないし、場合によってはタンク内に液を入れる判断をすべきである。現場指揮所の考えとしてタンク内に液を入れようとする場合は、施設の運転関係者に相談する。
スロップオーバー、フロスオーバー、ボイルオーバー
■ ここでは、スロップオーバー、フロスオーバーおよびボイルオーバーの各現象について述べる。スロップオーバーとは、放射した水が燃えている油の熱い表面にかかることによって、燃えている油がタンク側壁を越えてこぼれ散る現象をいう。フロスオーバーは、粘度の高い熱油の表面より下で水が沸騰し、燃えていないタンク内液がオーバーフローする現象である。例えば、アスファルトをタンクへ荷揚げする際、タンク内に水が入っている場合に起こることがある。この場合、水が加熱されて沸騰し始め、アスファルトがタンクからオーバーフローしてしまう。 
■ これら2つの現象に比べて、ボイルオーバーは突然に起こる激しい現象である。ボイルオーバーでは、原油(または別な液体)がタンク内から突然、激しく噴き出す。これは、液体の熱い層がタンク底に溜まった水と接触して起こす現象である。燃焼面において出てきた残渣分(燃焼後に残った重質の粒子)はまわりの軽い油に比べて重く、この残渣分が表面レベルからタンクの底の方へ向かって沈んでいくときにボイルオーバーが起こる。燃えた油が比重の重たい熱い層となって徐々に下方へ移動していき、この“ヒート・ウェーブ”と呼ばれる層は最終的にタンク底に溜まっていた水の層まで達する。この両方の層が接すると、水は過熱され、つぎに沸騰し、爆発的に膨張して、タンク内液が激しく噴出する。温度条件が通常の212°F(100℃)の場合、水から水蒸気へ変わるときの膨張率は1,700:1である。もっと高い500°F(260℃)の温度条件の場合、膨張率は2,300:1となる。
■ ボイルオーバーが起こると、おおざっぱにいうと、原油はタンク周囲からタンク直径の10倍の距離まで飛び散る。例えば、原油タンクの直径が250フィート(75m)の場合、タンクから2,500フィート(750m)のエリア内に原油が飛び散ると予想される。これらのデータは、300フィート(90m)を超えるような大型タンクでテストされたものではないが、この種の大きさのタンクでは、直径の10倍の距離に飛び散ると考えていた方がよい。従って、現場指揮所の位置、消防隊の配置、資機材の配備、医療トリアージ(治療優先順位の区分け)、安全区域について十分考えておく必要がある。
■ 明確にしておくことは、支援可能な他の消防部署の人員・資機材である。地方にあるプラントの消防部署のメンバーは、多くの支援や技術的なアドバイスを受けることができる。必要な消防資機材の多くは施設内の保有分で賄うことができたり、市や企業との相互応援協定によって支援が受けられる。ある施設では、石油火災の消火に関する専門会社と契約しているところもある。
消火戦略
■ 消防活動に関する戦略と戦術は重要な事項の一つである。目的すなわち最終ゴール対リスクを評価する。戦略とは、つぎのようなことである。 
  • 不介入戦略 : これは実質的に行動しないことで、介入することによるリスクが大きく、許容できない場合である。すべての人間は安全区域にとどまる。
  • 防御的(ディフェンシブ)戦略 : 防御的戦略では、“事故”をある程度認めた対応をとることとし、消火戦術は事故対応を制限して、火災の曝露対策と事故の拡大防止策に限定する。
  • 積極的(オフェンシブ)戦略 : 積極的戦略では、消火戦術において“事故”を制圧するため、火災に対して攻撃的で、直接的な消火方法を使用する。
■ 火災に対する際には、とろうとしている戦術の利益がリスクより優っていなければならない。もし、小型タンクが周りへの曝露の恐れもなく、燃えている場合、火災を消火させるべきか? もし、タンクがすでに内容液を消費してしまいそうな場合、曝露のための防護策をとることは適切か? これらの配慮事項は、事故時対応計画の策定時、緊急事態対処計画の検討時、想定される事故シナリオの中で明確にしておく。
■ 風や雨のような環境条件では、泡混合液の放射距離や放射範囲に問題が出る可能性がある。風向きによっては、消防資機材の配置を決めている事故対処計画を見直さざるを得ないこともあるだろう。温度が上がったり、湿度が上がったりした場合、消防士のローテーションを早めて、熱ストレスによる症状が出ないようにする。
その他の配慮事項 
■ ここでは、事故時対応計画や事故対処計画の策定時に、検討すべき対応条件や行動条件について述べる。
■ 相互運用性 : この相互運用性については事故時対応計画の策定時に明確にしておく。施設内の消火用水と消火システムの相互運用、相互援助協定または自動援助協定を結んだ関係機関の相互運用、貯蔵タンク火災や緊急時の対応支援契約を結んだ消火専門会社との相互運用に問題がないことを確認する。
■ 泡薬剤の供給 : 大規模な貯蔵タンク火災や緊急事態時に必要となる泡薬剤の供給に問題がないように、泡薬剤を地域で共有する仕組みについて検討する。前に述べたように、泡薬剤だけでは十分でないかもしれない。緊急事態時の対応に必要な大容量泡放射砲および移送用の大口径ホースについても検討する。
■ 産業用の緊急タスクフォース : 事故対応のために産業用の緊急タスクフォースの立上げを検討しておくのがよい。緊急タスクフォースでは、想定される緊急事態時の状況を緩和するため、貯蔵タンク場所へスタッフを派遣し、消火活動の設備、泡薬剤、資機材に関する判断の支援のために行動する。現場の事故対処部隊は、一つのタスクフォースあるいは複数のタスクフォースを呼び、対応に必要な人材、設備、資機材に関する知見を聞くことができる。このようなタスクフォースについては事故時対応計画の策定時に検討する。
■ 外部の消火専門会社 : 事故時の対応として必要性を感じるならば、外部の消火専門会社との契約や話し合いについて明確にしておく。消火専門会社は、主要な都市や町をベース基地に24時間体制で、必要な泡薬剤、専門消防士、消防資機材を供給することが可能である。
■ 特別な産業火災トレーニング : 消防部署は、所属メンバーに特別な産業火災トレーニング・コースを受けさせることを考慮すべきである。トレーニング・コースでは、貯蔵タンクの消防活動や緊急事故時の対応について多くのことを学ぶことができる。いくつかのトレーニングセンターでは、米国プロ-ボード(National Pro-Board)が認可している貯蔵タンク緊急時対応のコースを受けることができるようになっている。自所に貯蔵タンクを保有している所では、メンバーを特別なトレーニングを受けさせることのほか、専門の講師を呼んできて自所でトレーニングを行うこともできる。あなたの考え方が本業に関するトレーニングに片寄っていれば、あなた自身に低発生頻度/高リスクのトレーニングを受けてもらわなければならない。
■ ジェット型混合器 : 泡混合液を放射泡ノズルの地点まで移送するために必要な設備の中に、ジェット型混合器方式があり、真剣に検討すべきである。一般に、泡混合器は放射泡ノズルから指定の距離以内に設置しなければならない。通常、150フィート(45m)である。使用に適した放射泡ノズルとともにジェット型混合器を用いれば、泡薬剤源を放射泡ノズルから2,500フィート(750m)まで離れた場所に設置することができる。ジェット型混合器はベンチュリ式の装置で、泡薬剤の貯蔵位置から使用に適した放射泡ノズルまで泡混合液を移送することができる。 
泡薬剤を搬送したり、保管する際に用いるトート 
■ 泡薬剤の量 : 火災になれば、大量の泡混合液が必要になってくる。大規模な事故では、55ガロンドラム缶(200リッタードラム缶)の使用は推奨できない。泡薬剤を運ぶ手段としては、275ガロン用トート(1,000リッター用トート)または専用のローリー車が好ましい。事故対応時に判断しなければならないが、事故時対応計画の策定段階でも、泡薬剤を泡の注入場所まで搬送するロジスティクスについて考えておかなければならない。アクセス・ルートが車両やホースで通れないような場合、どのようにして必要な場所で泡薬剤を確保するか? さらに、泡薬剤をコンテナーから注入する水ラインまでどのように移送するか? ここに問題が生じれば、全体が機能しない弱点箇所となる。最高の泡薬剤を大型のコンテナーで保有していても、コンテナーを開けるための専用レンチを紛失してしまったら、無用の長物を持っているのと同じである。自所で内在する最大の弱点と思われるものは何か? 目的の達成に邪魔だと思っていることは、実は些細なことである。
■ 火災を“もてあそぶ” : タンク火災の全面消火の攻撃に入る前に、火災を“もてあそぶ”ことを行う。最初に貯蔵タンクの火災部に水をかけると、冷たい水が燃えている油面をたたくことに反応し、一時的に火炎の勢いが増す。さらに激しく反応しないように、水を油面上でなく、タンクの上を越えるように放水すると、しばらくして火災は落ち着いた状態になる。この時点で、泡混合液を放射して全面攻撃を始める。この火災を“もてあそぶ”(Teasing)という言葉は、ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社のドワイト・ウィリアムズ氏が使い始めた。同社は貯蔵タンク火災に対する消火専門会社で、過去に消火させた最大の貯蔵タンクの直径は270フィート(81m)である。
■ 泡の打ち込み : いろいろな角度から泡を打ち込もうと、タンク周りに泡放射モニターを分散配置してはならない。泡放射モニターは一箇所に配置し、泡の放射はタンク内の同じ箇所を狙い、同じエリアの表面にぶつかるようにする。こうすることによって、すばやく安定した泡の膜を形成することができる。この泡の膜が、タンク中心付近から表面に沿って広がっていく。泡の放射の狙いを別な位置へ移動するような試みは行わない。泡放射を始めてから20~30分以内に、火災の勢いが目に見えて小さくならなければ、泡放射の狙い位置を動かすのではなく、泡放射量を見直すべきである。 
 ■ LCES : 事故対処計画を検討する際には、頭文字LCES(Lookouts, Communications,  Escape routes,  Safety zones)、すなわち、見張り、コミュニケーション、脱出経路、安全区域のことについて検討する。
 見張り役は経験者で、火災の状況と消防士の状態を観察し、消防士のリスクを認識できる人でなければならない。見張り役は、事故対応部隊の新たな目と耳にならなければならない。見張り役は現場指揮所に居て、条件が変わった時や伝えるべき情報が出た時に、必ず事故対応部隊へ伝達する。
 コミュニケーションの維持は重要で、現場で対応しているすべての人たち、施設を運転している人たち、目的を持って支援している専門の人たちの間のコミュニケーションを維持しておかなければならない。消火戦術上の変更で、それぞれの配置場所が変わっても、コミュニケーションの維持を図らなければならない。見張り役も現場対処部隊とのコミュニケーションを維持しておかなければならない。
 脱出経路を確立し、安全に関する情報連絡時にすべての人たちに伝達しておく。脱出経路は2つのルートを設定しておき、安全区域へ確実に行くことができるようにする。
 安全区域は発災場所の風上で、高い場所に設定する。そして、その場所が安全区域として適していることを確認する。さらに、安全区域から避難する経路をはっきりさせておき、安全区域でも安全の確保が難しい危険な状況になったときに、避難できるようにしておく。
最後に
■ 地上式貯蔵タンクを巻き込んだ火災が起こると、設備被害額は極めて大きく、環境汚染の問題が発生し、地域社会に大きな影響を及ぼす。さらに、タンクが全面火災になると、火災の制圧と鎮火のために要する人員と資機材の量は膨大になる。そのような火災と戦うには、適切に緊急時対応ができる組織によって計画を立て、準備を行い、有効な資機材を投入して実行する必要がある。あなたの部署で行うトレーニングと訓練だけが、貯蔵タンク火災と戦うための戦略と戦術を実行できるプロになる道である。 
著者の補記
■ ドーム型浮き屋根タンク : 軽量ドーム状構造物は、まっすぐの短い軽量部材を使って三角形や多角形を組み合わせて丸い形状にした構造物である。この軽量ドーム型は、ベーパーの発散を少なくしたい場合や天候の影響を受けたくない場合に使用される。ドーム型浮き屋根タンクは、浮き屋根に雪が積もるのを防ぐことができ、雨水が溜まるのを防ぐことができる。 
■ LASTFIREプロジェクト :  LASTFIREプロジェクトは、国際的な石油会社による協会のプロジェクトで、貯蔵タンク火災に伴うリスクの再調査とそのリスクを軽減するための改善方法を開発している。
■ 冷却散水量 : 火災によって曝露されているタンクへの冷却散水量の根拠は、Hildebrand,M.S. and G.G.Noll,  Storage  Tank Emergencies.  Annapolis, MD: Red Hat,1997による。
■ LASTFIREの見直し版(2005年12月) : 見直し版では、「標準的な基準(NFPA)は少なくとも65分間の放射時間を必要としている。火災がすでにある程度の時間燃え続いている場合、少なくとも120分間の放射時間に増やすべきである」と述べている。 

所 感
■ 著者のグレッグ・シェリー氏は、米国で消防分野に40年以上携わっているベテランの専門家であり、今回の資料は多くの経験からよくまとめられている。特に、タンク火災の消火活動における実践的な話は、日本で耳にしないので、新鮮に感じる。曝露タンクへの冷却散水のかけ方や水量データ、ボイルオーバーの発生経緯や油飛散エリアのデータなどは参考になる。
■ 消火の戦略と戦術に関する基本的な考えを示しており、興味深い。戦略や戦術の対象になる“火災”を頭脳や意志を持った物であるかのように考えている。この根底があるから、戦略や戦術が生まれるのだと思う。タンク全面火災時に、火災を“もてあそぶ”という表現と消火方法はその例である。
 リムシール火災において消防士がタンクへ上がり、泡放射ノズルを取り付けるという英雄的な行動を認める一方、脱出経路や避難経路を予め確認しておくという人命尊重は戦略・戦術の思考だと感じる。
■ 日本の法律では、タンク直径範囲毎に大容量泡放射砲の放水性能が規定されており、今回の資料による推奨値とベースが違うが、参考に比較してみると、つぎのようになる。
   タンク直径(m)  今回の推奨泡放射量(L/min/㎡)  日本の泡放射量(L/min/㎡)
  •  45未満          6.7                              6.2~   
  •  45~60            7.5                                        7.1~   
  •  61~75           8.4                    9.0~ 
  • 76~90           9.2                      7.9~ 
  • 90超            10.1以上                 7.6~  
  • 100以上           ー                      10.2
日本で大容量泡放射砲システムの導入が検討されていた2005年当時、必要な泡放射量は7.0~8.0L/min/㎡程度と考えられていた。その頃、欧州では、タンク側壁沿いに泡を注入する消火方法で泡放射量を10.0L/min/㎡とする考え方があった。今回の資料にあるように、泡放射砲でタンク中央部に打ち込む消火方法でも、火災状況によって泡放射量を増やす必要性があるという傾向に変わってきている。

後記;  学校や幼稚園の夏休みが終わったというのに、暑い秋が続きます。今年は西日本より東日本の方が暑さが厳しいようで、北海道でも30℃を超える日があるようです。さすがにアブラゼミに代わってツクツクボウシが鳴くようになりましたが、9月の実感がしません。こんな中で夏休みの宿題のような今回の資料に当たり、火炎の曝露対策やボイルオーバーの油飛散などの項では、想像しただけでより熱さ(?)を感じながらまとめました。 








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