今回は、2012年6月28日、ウェールズのペンブルックシャー郡ミルフォードヘブンにあるセム・ロジスティクス社の石油貯蔵施設で油漏洩事故について紹介します。油漏洩は構内に留まり、構外へ流出する環境汚染事故にはなりませんでしたが、ウェールズ環境庁など関係行政機関が事故対応にあたりました。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
・BBC.co.uk, Oil Leak at SemLogistics Tank Storage Site in Milford Haven, June 28, 2012
・WalesOnline.co.uk, Milford Haven Oil Leak Investigated by Environment Officials, June 28, 2012
・WesternTelegraph.co.uk, Investigation into Semlogistics Oil Spill, June 28, 2012
・WesternTelegraph.co.uk, Semlogistics Leak Still Contained, June 29, 2012
<事故の状況>
■ 2012年6月28日(木)、ウェールズのペンブルックシャー郡にあるタンク貯蔵施設から油の漏洩事故があった。事故のあったのは、ペンブルックシャー郡ミルフォードヘブンのセム・ロジスティクス社のタンクで、漏れ量は多くないとみられる。
■ ウェールズ環境庁(EAW)はこの事故に関して調査を始め、EAWの担当者が現地で漏れの影響について評価し始めた。環境庁の広報担当によると、最初の観測状況では、漏洩油が封じ込まれた様子であることを示しており、流出による影響は大きくなく、水路系へ入る可能性はないと言い、つぎのように語った。
「セム・ロジスティクス社とは完全に協力して作業を進めており、タンクおよび周辺施設のモニタリングを行い、必要な措置を講じ、現在は漏れ原因の調査を始めました」
■ ウェールズ公衆衛生局は、健康被害が出る可能性はほとんどないと発表したが、空気と水について現地で採取し、モニタリングを行うと述べた。セム・ロジスティクス社のタンク貯蔵施設は、EAWと健康・安全行政部(HSE)の双方から規制を受けて調査されることになる。
■ EAWの広報担当が付け加えたところによると、今回の事態対応については環境庁のほか、ウェールズ公衆衛生局、ペンブルックシャー郡議会およびセミ・ロジスティクス社の責任者で行うことが確立しており、流出の影響のモニタリングと評価を行い、地域社会と環境が守られることを確認していくという。 事故対応の監視団は、他の関係組織と協議会を開くことを申し合わせている。
■ ウェールズ環境庁が6月29日(金)に語ったところによると、タンク施設からの漏洩状況について徹夜での監視を行った結果、油漏れは構内だけに限られていることが確認できたという。状況は、漏洩事故の対応を行うとして結成された監視団によって行われ、油が構外に流出している兆候はないことがわかった。
ウェールズ公衆衛生局は、最新の状況に基づいて今回の事故に伴う健康へのリスクはほとんどないことを改めて発表した。 ウェールズ環境庁も、漏洩した油は引き続き封じ込まれた状況にあり、環境汚染の恐れはないと語った。
予防的措置としてとられている空気と水のモニタリングは、継続して週末(6月30日、7月1日)も実施し、地域社会と環境が守られていることを確認する予定だという。
補 足
■「ウェールズ」はグレートブリテン島の南西に位置する国で、首都はカーディフにあり、人口は約292万人である。ウェールズは、イングランド、スコットランド、北アイルランドとともに「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)を構成する国の一つである。
「ペンブルックシャー郡」はウェールズの南西部に位置し、人口約12万人の郡である。 ペンブルックシャー郡には、現在、製油所が2箇所あり、ペンブロックにあるシェブロン社の製油所(精製能力22万バレル/日)では、2011年6月2日、容量730KLのタンクが爆発して4人の死者の出る事故が起こっている。当時、製油所はシェブロン社からヴァレロ社への売却が決まっていた。
「ミルフォードヘブン」はペンブルックシャー郡の南方に位置し、天然の良港を有する人口約13,000人の町である。
座礁したシー・エンプレス号 (写真はKarapaiaから引用) |
ミルフォードヘブンといえば、1996年の大型タンカーの座礁事故が有名である。1996年2月15日、13万トンの北海原油を積載したリベリア船籍大型タンカーのシー・エンプレス号(147千DWT)が港外で座礁した。直ちに救助作業が開始されたが、荒天に災いされ、漂流と座礁を繰り返した後、2月21日にようやくタンカーを港内の桟橋に着桟させ、船内に残った原油を陸揚げすることができた。 最初の座礁で約2,500トンの原油が流出し、更にその後の救助作業の間に69,300トンの原油が流出し、約200kmの海岸線が環境汚染された。
■「セム・ロジスティクス社」(SemLogistics)は、1998年に設立された石油の貯蔵・輸送を主とする石油会社である。ミルフォードヘブンの施設は、1968~1997年までガルフ社が操業していた製油所のタンク施設を受け継いだものである。タンク80基(最大タンク102,000KL、最小タンク800KL)、貯蔵能力147万KL、貯蔵油種はガソリン、ナフサ、ジェット燃料、軽油、超低硫黄ディーゼル油、原油である。最大着桟能力165千DWTの桟橋を有する。 セム・ロジスティクス社は米国オクラホマ州タルサに本拠を置く、セム・グループの傘下にある会社である。
なお、このタンク地区には、2008年に北海油田から産出される天然ガスの貯蔵基地としてドラゴンLNGターミナルが併設されている。
WalesOnlineに掲載されていた発災事業所の写真であるが、煙突があり、旧製油所時代のものと思われる。 |
■「健康・安全行政部」(Health and Safety Executive;HSE)は1974年に設立され、イングランド、ウェールズ、スコットランドにおける国民の健康と安全を司る国の機関である。 工業界で起こった大小の事故に対してはHSEが調査を行っている。2011年6月に起きたシェブロン製油所のタンク爆発事故の原因調査を行っている。 HSEが行った事故調査で有名なものは、2005年12月に起きたイングランドのバンスフィールド石油貯蔵所における爆発火災事故(40名以上の負傷者発生)である。
所 感
■ 今回の事故は、タンク施設でいつ(時間)、どのような状況で、どのくらいの漏洩が起こったかという基本的な情報が明らかにされていない。油漏洩が施設構内に留まり、構外への環境汚染の恐れがない場合、重大なニュースとして取り扱わないという意識があるように感じる。ひとつは、実質的に住民への健康や生活に影響がないことがあろう。ふたつめは、発災事業所が旧製油所撤退後に継続する形で石油貯蔵所として操業し、雇用などの地域貢献を果たしており、過剰に企業をたたくような報道が避けられたのではないだろうか。世界的に経済不況の時代であり、メディアの意識も変化しているように感じる。
■ 一方、行政側の動向については細かく、報じている。油漏洩という環境汚染に対して住民の健康と安全を守るのは、所管する官庁だという意識が高い。今回の事例ではウェールズ環境庁であり、さらにウェールズ公衆衛生局と健康・安全行政部(HSE) が対応している。
奇しくも同じ6月28日に起こった日本のコスモ石油千葉でのアスファルトタンクから漏洩して海に流出した事故の対応と比較すると、差異がある。 発災事業所が危機管理能力を持つことは勿論であるが、 「地域社会と環境を守る」という基本的な姿勢に立って行政側の危機管理に関する体制(組織)と対応実務能力について改善されることを期待する。
後記; 本州の西端、地元山口県では、7月末に知事選挙があります。明治維新の長州藩ですが、前知事が引退発表しても出馬する人が出るのだろうかというほど政治的に人材不足のような状況でしたが、最後になって4人が立候補し、選挙戦が始まりました。しかも、ここに来て全国的に注目される知事選になっています。それは、原発建設計画と岩国米軍基地へのオスプレイ陸揚げ問題が争点の一つになっているからです。もともと山口県上関町に中国電力の原子力発電所を建設する計画が30年前からあり、埋立てが始まりつつあったときに福島の原発事故があり、現在は埋立てが中断している状態です。岩国の米軍基地は日本との関係も良好で、基地で行われる航空ショーには多くの人が集まり、以前は基地内でトライアスロン大会が行われたりするほどでした。また、滑走路の民間共同使用されるようになり、この12月には岩国錦帯橋空港が開港することになっています。
候補者の発言内容が永田町や霞ヶ関に伝わるようになり、メディアによると、霞ヶ関官僚出身の候補者は原発問題と岩国基地問題に関する話を避けるようになったそうです。昨年から山口県では、盛り上がりの欠けた二回り目の国体や全国植樹祭がありましたが、知事選での政治的な話題で関心を持たれることはいいことです。山口県民は、桂小五郎(木戸孝允)より本当は吉田松陰や高杉晋作のような行動的な人物が好きなんですがね。
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