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2025年8月8日金曜日

米国ネブラスカ州のバイオ燃料製造工場で粉塵爆発、少女ら3名が死亡

 今回は、2025729日(火)、米国ネブラスカ州ドッジ郡フリーモントにあるホライゾン・バイオフューエルズ社のバイオ燃料を製造する工場で大きな粉塵爆発があり、少女を含む3名の死者を出した事例を紹介します。


< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国ネブラスカ州(Nebraska)ドッジ郡(Dodge County)フリーモント(Fremont)にあるホライゾン・バイオフューエルズ社(Horizon Biofuels)のバイオ燃料を製造する工場である。

■ 事故があったのは、サウスフリーモント(South Fremont)のシュナイダー通り(Schneider Street)とクローバリー道路(Cloverly Road)の近くにあるバイオ燃料工場の主プラントである。この工場は木材廃棄物を利用して、家畜の寝床や暖房・燻製用の木質ペレットを製造しているペレットミル・プラントである。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2025729日(火)正午頃、バイオ燃料工場で大きな爆発があり、火災が起こった。

■ 現場から約半マイル(0.8km)離れた住民は、「爆発で家全体が揺れ、音が非常に大きく、敷地内にある建物に車を突っ込んだのではないかと思った」といい、「外を見ると、ものすごい煙が立ち昇っていました」と語った。

■ 発災にともない、消防署の消防隊が出動した。近隣の消防隊も支援に出動した。他の製造工場や食品加工工場に囲まれた火災現場に最初に到着した消防隊員は激しい炎と黒煙に直面した。

■ 警察は付近の道路の交通を閉鎖した。

■ バイオ燃料工場のメインタワーの頂上が破壊され、コンクリートと鉄筋が剥き出しになった。また、下の建物の金属製の壁と屋根は崩れ、黒焦げになった。消防隊によると、建物は「外側がセメント構造で、そこに金属フレームが固定されている」と述べていた。

■ 消防隊は、爆発事故からほぼ1日が経過した翌日も、瓦礫の中からくすぶる煙と炎と闘った。 消防隊によると、爆発で建物が不安定なため、消火活動中の隊員が建物内に入るのが困難になっているという。一晩中雨が降っていたにもかかわらず、炎は燃え続けた。

■ ホライゾン・バイオフューエルズ社は、施設全体が倒壊する可能性があるかどうかを評価しているという。 当局は、「作業は非常に時間がかかるだろう」といい、「行方不明者の捜索予定を立てられない」と述べた。

■ 瓦礫を撤去するために重機が持ち込まれ、復旧作業のために建物の一部にアクセスすることが可能になった。730日(水)、消防士らが24時間以上にわたり、くすぶる残骸と不安定な建物と格闘した後、行方不明だった3名を収容した。

■ 730日(水)、当局は、行方不明だった少女2名と成人1名の死亡が確認されたと発表した。ふたりの子供はホライゾン・バイオフューエルズ社で働く義父が仕事を終えるのを待って、その後、医者の診察を受けに行く予定だったという。亡くなった成人1名は少女たちの義父だった。少女の正確な年齢は不明だが、ふたりとも12歳未満だという。当局は現時点でふたりの氏名を公表していない。(その後、メディアの中には少女たちの名前などを報じたところがある)

■ 当局によると、爆発の原因は工場のメインタワーで発生した木材粉塵による可能性が高いという。米国労働安全衛生局(OSHA)によると、木材粉塵が大量に蓄積すると、火災や爆発の危険性があるという。一方、当局の捜査に協力的だと言われていたホライゾン・バイオフューエルズ社はメディアのコメントを求める取材には応じなかった。

■ 関係者によると、爆発が起きた時、少女たちは義父と一緒に職場にいたという。上司は、義父が少女たちを連れて行くのを許可していたからだ。少女ふたりは休憩室にいたとみられる。休憩室はメインタワーの一番下にあり、頑丈な部屋になっていたはずである。

■ ユーチューブでは、この事故の動画が投稿されている。

 YoutubeThree people ‘missing and unaccounted for’ after explosion at Horizon Biofuels plant in Fremont2025/07/29

   ●YoutubeCrews respond to explosion at plant in Fremont2025/07/30

   ●Youtube Drone Footage Shows Aftermath of Deadly Explosion at Nebraska Biofuel Plant2025/07/31

   ●YoutubeState Fire Marshal‘s Office reveals cause of deadly explosion at Horizon Biofuels plant2025/08/01

被 害

■ バイオ燃料工場のペレットミル・プラントと倉庫など主施設が爆発で損壊した。 

■ 死傷者が3名出た。従業員1名とその家族の少女2名である。

< 事故の原因 >

■ 爆発の原因は粉塵爆発で、工場のペレットミル・プラント内で発生した木材の粉塵によるとみられる。 

< 対 応 >

■ ネブラスカ州緊急事態管理局(NEMA)によると、ドッジ郡管理委員会が州の対応を要請したので、構造問題の専門家や救助犬チームを含むネブラスカ州タスクフォース1のメンバー14名が支援に派遣された。メンバーは、すでに現場にいた消防隊や他の緊急対応チーム、複数の法執行機関合流した。

■ 2012年に労働安全衛生局(OSHA)が安全上の問題を指摘し、ホライゾン・バイオフューエルズ社に罰金を科したと報じられている。安全上の問題には、従業員が作業中に機器に通電しないことを徹底していなかったこと、機械周辺の作業エリアを清潔に保っていなかったこと、特に製粉機周辺に木くずが蓄積していたことなどが含まれていた。

■ 2014年、ホライゾン・バイオフューエルズ社の建物で火災が発生し、電気系統が損傷したものの、建物自体は無傷だったという。

■ 木くずや木材関連バイオマスの処理と取り扱いには重大な火災と爆発の危険があり、米国では大規模バイオマス施設の増加に伴い事故も増加しているという。 

■ 専門家は、「ホライゾン・バイオフューエルズ社の工場で何が起きたのかを正確にいうのは時期尚早ですが、私自身の経験から、木質ペレットの取扱いがいかに難しいかを知っています。乾燥すると木粉は容易に飛散し、予熱炉(ハイビーム)や排気システムといった目立たない場所に堆積します」といい、「木質ペレットは、湿気があると塊のままだと自己発熱して発火する可能性があります。設計に内在する安全性、優れたメンテナンス、そして適切な運用手順が不可欠です」と語った。

■ 環境保護団体は、長年、燃料用木質ペレットの製造と保管が火災を引き起こす可能性があるとして警告してきた。ネブラスカ大学で農業安全を専門とする准教授は、ホライゾン・バイオフューエルズ社の爆発ビデオを見て、「大きな爆発が起こる数ミリ秒前に上部の窓から小さな炎が噴き出しているのに気づき、この瞬間、粉塵爆発だと思いました」と語った。准教授によると、これは穀物の粉塵爆発の研究でみてきたパターンに合致するといい、製造工場内の木材は微細な粉塵に粉砕され、それが酸素と火花や高温の表面などの発火源が存在する密閉空間の空気中に拡散すると、爆発につながる可能性があるという。

■ 730日(木)、ホライゾン・バイオフューエル社は初めて声明を発表した。

「ホライゾン・バイオフューエル社ファミリーの一員3名を失ったことに、深い悲しみで胸が張り裂けそうです。この悲しみは言葉では言い表せません。私たちは、何が起こったのかを理解すべく、徹底的かつ透明性のある調査に全力を尽くします。国民の安全は常に最優先事項であり、このような悲劇が二度と起こらないよう、あらゆる手段を講じます」と述べている。

補 足

■「ネブラスカ州」は、米国の中西部に位置し、人口約196万人の州である。

「ドッジ郡」(Dodge County)は、ネブラスカ州の東部に位置し、人口約37,000人の郡である。

「フリーモント」(Fremont)は、ドッジ郡の南部を位置し、人口約27,000人の都市でドッジ郡の郡庁所在地である。フリーモントは、製造業と農業の中心地であり、21世紀に入っても130社のアグリビジネス(農業に関連する幅広い経済活動)が立地している。

■「ホライゾン・バイオフューエルズ社」(Horizon Biofuels)は、2006年に設立されたバイオマス関連企業で、従業員は10名だという。バイオ燃料工場は、地元企業から廃棄された輸送用パレットや建築メーカーから廃棄された木材を用いて家畜の寝床や暖房・燻製用の木質ペレットを製造している。この工場は、ネブラスカ州内にある3つの商業用ペレット工場のうちのひとつで、廃木材から作られた木質ペレットを年間20,000ショートトン(18,100トン)生産する能力がある。同社は、これまで2009年、2010年、2018年、2021年に廃棄物削減を支援するためネブラスカ州から助成金を受けている。

■ 商業用ペレット工場は、通常、「ペレットミル・プラント」と呼ばれ、バイオマス・ディーゼルなどの液体燃料を製造するプラントと異なり、木質ペレットを最終製品として製造するため、プロセスは基本的にシンプルである。しかし、ホライゾン・バイオフューエルズ社がどのようなプロセスを採用して建設したかは分からない。一般的なペレットミル・プラントの例を下に示す。(ユーチューブでは、ペレットミル・プラントの例が投稿されている。

を参照)

所 感

■ バイオマス関連施設の爆発火災としては、20239月に起こった「米子市のバイオマス燃料発電所で爆発・火災事故」と類似性がある。米子市の事例では、燃料受入れ建屋1棟とエレベータ1基が被災した。調査結果では、木質ペレットの自然発火(建屋内に木質ペレットの屑が層状にたまって発酵して発生した可燃性ガスが着火)、建屋内での粉塵の充満(砕けて粉末状になった木質ペレットによる粉塵爆発)、の2つの可能性があるとされた。特定されなかったが、この種の施設では粉塵爆発のリスクが高い。

「米子市のバイオマス燃料発電所の爆発・火災事故の原因調査結果」2023/10/09を参照)

■ バイオ燃料工場の爆発・火災という馴染みの少ない施設の事故であり、被災者がふたりの少女ということで欧米の主要なメディアが記事にしている。米国のおおらかさ(粉塵爆発のリスクのある建物の休憩所に少女を受け入れる)が逆に働いた悲惨な事故である。

 しかし、2012年には、労働安全衛生局(OSHA)が安全上の問題(従業員が作業中に機器に通電しないことを徹底していなかったこと、機械周辺の作業エリアを清潔に保っていなかったこと、特に製粉機周辺に木くずが蓄積していたことなど)を指摘していたにも関わらず、今回の事故を起こしたことは、ホライゾン・バイオフューエルズ社の安全軽視の企業風土が招いた事故であると思う。 

■ 消火活動と被災者の捜索活動は難しかったという。メインタワー頂上以外の下部の構造が、外側はセメント構造で、そこに金属フレームが固定されていた。爆発で建物や壁が不安定な状態のため、消火活動中の隊員が建物内に入るのが困難になっていたという。ここでも見栄えの外観性を優先したホライゾン・バイオフューエルズ社の経営の価値観に疑問を感じる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Edition.cnn.com, Nebraska plant explosion killed 2 girls and an employee, and the fire is still burning,  July  31,  2025

   Euronews.com, Two girls and one employee killed after explosion at Nebraska biofuels plant,  July  31,  2025

   Apnews.com,  Nebraska plant explosion killed 2 girls and an employee,  July  31,  2025

   Firerescue1.com, ‘It’s going to be very slow': Fire at Neb. plant explosion keeps crews from recovering bodies of girls and adult,  July  30,  2025

   Kptv.com, Search underway for missing people after explosion at Nebraska fuel pellet plant, officials say,  July  30,  2025

   Thechemicalengineer.com, Three dead following blast at biofuels plant in Nebraska, August 01,  2025

   Abcnews.go.com, 2 children, adult killed in explosion at Nebraska plant: Mayor,  July  30,  2025

   Cbsnews.com, Nebraska biofuels plant explosion kills 3 people, including 2 young girls,  July  30,  2025

   Jsonline.com, Drone footage shows deadly biofuel plant explosion in Nebraska,  July  31,  2025 

   Starherald.com, Dust deemed cause of Fremont plant explosion that killed 3; Horizon Biofuels officials make statement,  July  31,  2025


後 記: 本事故を初めて知ったときは、バイオ燃料の製造施設でタンクが爆発した事例だと思いました。ところが、情報を見ていくと、木質ペレットを最終製品とする施設の事故だということが分かりました。貯蔵タンク事故とは違いますので、投稿対象ではなく、やめようかと思いました。ところが被災者が少女ふたりということで、欧米の主要なメディアが取り上げる関心度の高い事故となっていたため、投稿することとし、調べていきました。事故の起こった初期段階は情報が混乱し、情報源が限られており、同じような記事が多く、調べても深堀りができませんでした。木質ペレットを最終製品とするペレットミル・プラントであることが分かり、粉塵爆発のリスクがあるにも関わらず、安全を軽視する企業風土のある会社の事故だということを理解しました。

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