2023年11月29日水曜日

カナダの酸化アスファルト製造プラントでタンク火災

 今回は、2023831日(木)、カナダのアルバータ州カルガリーにある屋根材製造会社であるIKOインダストリーズ社の酸化アスファルト(ブローンアスファルト)製造プラントで起こったタンク火災について紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、カナダ(Canada)アルバータ州(Alberta)カルガリー(Calgary)の南東部42番街(42 Avenue SE1600番地のアリス/ボニーブルック工業団地(Alyth/Bonnybrook)にある屋根材製造会社であるIKOインダストリーズ社(IKO Industries)の酸化アスファルト(ブローンアスファルト)製造プラントである。

 ■ 事故があったのは、 酸化アスファルト製造プラントのタンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2023831日(木)午後10時頃、 IKOインダストリーズ社のプラントで火災があった。火災から出る大量の煙は数ブロック離れた遠いところからも見えた。

■ 当時、プラントには6名ほどの従業員が働いていたが、避難して負傷者は出なかった。

■ 発災に伴い、カルガリー消防署の消防隊が出動した。出動した消防士は45名である。

■ アスファルトプラントから立ち上る黒煙を評価するためにカルガリー消防署のハズマット隊(HazMat Team)も招集された。近隣の建物や人々に煙による影響はなかった。

■ 火災は屋根板の吹き付けに使用される酸化アスファルト(ブローンアスファルト)が入ったタンクから発生したとみられる。 消防隊の隊長によると 「特にコンクリートサイロの1基からかなりの煙と炎が発生し、隣接の建造物も完全に巻き込まれた」と語っている。

■ 消防隊は最も制圧効果のあるはしご車と地上から放水ノズルを使用し、消火活動に努めた。

 

■ 酸化アスファルト製造プラントのタンク設備が火災で損傷した。被災範囲はわかっていない。

■ 負傷者は出なかった。

■ 近隣の建物や人々に火災の煙による影響はなかった。

< 事故原因 > 

■ 事故原因は調査中でわかっていない。

< 対 応 >

■ 発災から3時間後の91日(金)午前1時頃、火災は制圧され、鎮火した。

■ 鎮火後、地元当局が出火原因の究明に着手できるようになったのは91日(金)午前7時過ぎだった。事故が起きたプラント地区は当局によって原因調査のため確保された。原因調査はしばらくかかるとみられ、プラントの稼動再開にはしばらく先になるとみられる。

■ IKOインダストリーズ社の工場の火災に消防隊が対応したのは、これが初めてではなく、そのうちの2件は20143月に発生している。


補 足

■「カナダ」(Canada)は、北アメリカの北部に位置し、10の州と3つの準州からなる連邦立憲君主国家で、英連邦加盟国である。人口は約3,760万人で、首都はオンタリオ州のオタワである。

「アルバータ州」 (Alberta)は、カナダ西部に位置し、人口は約444万人である。肥沃な農業地帯が広がるが、第2次大戦後、石油が発見された産油地域でもある。近年はオイルサンド採掘で得られる重質原油の生産が主力になっている。

「カルガリー」(Calgary)は、アルバータ州の南部にあり、カナディアンロッキー山麓から東におよそ80 kmの高原地帯に位置し、人口約123万人の都市である。

■「IKOインダストリーズ社」(IKO Industries)は、1951年に設立した建築材製造会社で、特に屋根材と関連製品を製造しており、北米、欧州などに展開している。カナダのオンタリオ州ブランプトンにIKOインダストリーズ社の本社があり、カナダには完成品と原材料を供給する製造工場と施設が13個所ある。カルガリーにあるプラントが、今回、発災した酸化アスファルト(ブローンアスファルト)の製造プラントである。

■ アスファルトといえば、日本では舗装などの道路に使用されるストレートアスファルトを指すが、海外では、建築材料に特化した「酸化アスファルト」がある。酸化アスファルトは“ブローンアスファルト” やビチューメンアスファルトなどと称されることがある。 酸化アスファルトは弾力性に富み、防熱性や耐水性が高く、屋根材として使用される。屋根材の製品はアスファルトシングルと称し、特に北米でのシェア率が高く、100年以上前から使用されている。

「酸化アスファルト」の製造プロセスの例を図に示す。反応器はアスファルト(ビチューメン)と空気を混合して酸化させるもので、通常、真空容器である。アスファルトと空気の混合を改良したブレードや機械的撹拌装置を装備したものもある。酸化プロセスは発熱を伴うので、反応器の上部に水(または水蒸気)スプレー装置を付けアスファルトの温度を調節する。火災や爆発の危険性を極力無くすため、反応器の上部領域への水注入を利用して酸素の量を減らす。

■「発災タンク」の仕様は報じられていない。グーグルマップで調べると、同じ径の被災タンクが3基あり、直径は約7.8mである。高さを15mとすれば、容量は716KLとなる。

 消防隊の隊長が 「特にコンクリートサイロの1基からかなりの煙と炎が発生し、隣接の建造物も完全に巻き込まれた」と語っているが、酸化アスファルトのプラントは反応器を含め、コンクリート製にする必要はなく、鋼製の円筒タンクではないかと思う。


所 感

■ 一般的に(ストレート)アスファルトのタンクで注意すべきことは、水による突沸、軽質油留分の混入、運転温度の上げすぎ、屋根部裏面の硫化鉄の生成などであることは、これまでのアスファルトタンクの事故で述べてきたことである。アスファルトタンクの事故や要因は、「米国イリノイ州の石油プラントでアスファルトタンクが爆発、死傷者2名」20235月)を参照。

 しかし、今回のように酸化アスファルト(ブローンアスファルト)の火災事故は、これまでのアスファルトプラントとは異なるプロセスであり、違った要因があるのかも知れない。酸化アスファルトの製造プロセスは、引火性の高くはないアスファルト(ビチューメン)を原材料に使用するが、反応器で空気と混合するので危険性の高いプロセスである。火災や爆発の危険性を極力無くすため、反応器の上部領域への水注入を利用して酸素の量を減らす制御を行うという。常識的に考えれば、事故要因は反応器での空気量を制御する操作の運転ミスから派生した事故ではないかと思う。

■ 発災写真ではかなり大きな炎が出ている。しかし、夜の火災は大きく見える傾向にある。鎮火したあとの被災写真では、タンクはいずれも損傷程度が小さいように見える。最も大きな炎を出していたとみられるタンクは上部からアスファルトが流出したような跡が見えるが、爆発の形跡はない。

■ 消火戦略には積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略の3つがあるが、今回の消火活動は放水によるタンクの冷却に集中する防御的戦略を優先している。制圧には発災から3時間を要しており、アスファルトタンクの火災にしては時間を要していると思われ、タンクとタンクの間の配管からの漏れによる堤内火災を伴ったのではないだろうか。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Calgary.ctvnews.ca, No injuries reported in 2-alarm fire at Calgary asphalt plant,  September 01, 2023

   Globalnews.ca, 2-alarm fire hits shingle manufacturer in Calgary industrial park,  September 01, 2023

   Calgary.citynews.ca, Calgary crews respond to fire at SE asphalt plant,  September 01, 2023

   Calgaryherald.com, 'Significant smoke and flames': Firefighters battle two-alarm blaze in S.E. industrial area, September 01, 2023

   Msn.com, 2-alarm fire hits shingle manufacturer in Calgary industrial park,  September 01, 2023


後 記: 今回の事故で酸化アスファルト製造プラントのことを初めて調べました。日本は屋根として瓦を使ってきましたので、屋根材として酸化アスファルトのニーズは少なかったでしょう。しかし、日本でも2007年に建築基準法が改正され、アスファルトシングルと称して住宅の屋根に使えるようになりました。そういえば、私の町で新しく建つ家は、近年、瓦を使ったものが急減しています。屋根を見れば、昭和の時代に建てられたものか、平成・令和のときに建てられたものか判別できますね。

2023年11月23日木曜日

ブラジルのサンタカタリーナ州で燃料販売所の貯蔵タンクが3日間火災

 今回は、20231113日(月)、ブラジルのサンタカタリーナ州にある燃料販売を営むマクスル・コンバスティベス社の燃料貯蔵施設で貯蔵タンクが火災になり、3日間続いた事例を紹介します。

< 発災地域の概要 >

■ 発災があったのは、ブラジル(Brazil)サンタカタリーナ州(Santa Catarina )シャペコ(Chapeco)にある燃料販売を営むマクスル・コンバスティベス社( Maxsul Combustives)の燃料貯蔵施設である。この施設には貯蔵タンク13基があり、15,000KLの燃料が保管されている。

■ 事故があったのは、高速SC-480号線沿いにある燃料貯蔵施設内にある燃料タンクである。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20231113日(月)午前630分頃、シャペコの燃料貯蔵施設で炎が高く舞い上がった。火災は燃料を供給していたタンクローリーから発生したもので、すぐに貯蔵タンク1基に延焼した。

■ 発災に伴い、消防隊が出動した。

■ 目撃者によると、事故の間に数回の爆発があったという。現場近くにいたタンクローリーは火災場所から距離をとって移動させられた。

■ 火災はマクスル・コンバスティベス社の保有する燃料タンクや堤内に燃え広がり、火災規模が大きくなった。火災により有害な化学物質が空気中に放出され、風によって近くの地域に運ばれる恐れがあった。

■ 黒煙によってこの地区の交通に混乱をきたし、地元住民に不安を引き起こした。煙はほかの自治体からも見えた。高速道路SC-480号線は発災直後から交通規制が行われた。

■ 火災は、合計約2,000KLのディーゼル燃料、ガソリン、エタノールの入っている貯蔵タンクに燃え広がった。火は容赦のなく燃え上がり、舞い上がる炎は数マイル離れたところからも見えた。この憂慮すべき火災事故の初期の映像は現場に居合わせた軍の消防士によって撮影されたものである。

■ 消防隊は爆発の恐れを避けるために他のタンクやタンクローリーの冷却に全力を注いだ。火災は4基のタンクのある共通の防油堤内に発生しており、消防隊は別に設置された合計8,000KLを貯蔵するタンク群の冷却に努めた。

■ 同州環境研究所(IMA)は発災した1113日(月)から火災とともに油の漏れを監視していた。漏れた油が近くの湿原地域に到達し、水系に達したと発表した。マクスル・コンバスティベス社は油の封じ込めと除去のために業者を雇ったという。

■ 民間防衛局は、火災によって発生した煙が濃く、黒く、有毒であり、地域の住民に影響を与える可能性があると警告し、住民に対して煙との接触を避けるよう勧告した。 

■ 空港消防隊や軍消防隊など近隣の消防署が支援し、50名の消防士が活動にあたった。火災現場から約10km離れたウルグアイ川から取水し、数台の給水車で輸送され、消防活動が行なわれた。今回の事故は、この地域で記録された最大規模の火災のひとつである。

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。

■ ユーチューブなどには火災の状況を示す動画が投稿されている。主な動画はつぎのとおりである。

 YoutubeMajor fire at the Maxsul warehouse in the Chapecó of Santa Catarina in Brazil2023/11/13

 ●YoutubeIncêndio na MAxsul em Chapecó2023/11/13

 ●YoutubeIncêndio atinge distribuidora de combustíveis em Chapecó | Bora Brasil2023/11/14


被 害

■ 燃料貯蔵タンク4基が焼損した。タンク内液の燃料油が焼失した。 

■ 負傷者は出なかった。

■ 近くの道路が閉鎖された。

■ 燃料の燃焼によって有害な化学物質が空気中に放出され、環境が汚染された。また、タンクから漏れた油が近くの湿原地域に到達して水系に達し、油の封じ込めと除去が必要になった。


< 事故の原因 >

■ 事故の原因は、タンクローリーへの油移送時のミスによるものとみられる。このミスによって火災が発生し、貯蔵タンクへ延焼したと思われる。

< 対 応 >

■ 1114日(火)、火災から2日目を迎えた。消防隊は、合計2,000KLの可燃性液体が入った4基のタンクに対して24時間を越えて消防活動を行っている。火災は月曜日(13日)午前630分頃に発生し、火曜日の午前630分時点でも、活動がいつ完全に終わるか予測できない状況だった。

■ 消防隊は火災タンク以外の貯蔵タンクを防護して本体温度が上がらないよう防御的戦略を維持した。消防関係者によると、貯蔵タンク13基のうち4基が火災で損傷した。

■ 消防活動は発災から3日間、65時間続けられ、1116日(木)午前120分に火災は消えた。

■ マクスル・コンバスティベス社は、つぎのような発表を行った。「1113日朝の事故による混乱のため、シャペコにある燃料供給基地の稼動を停止しました。期限は未定です。他の基地での積込みの輸送費用は提供しますので、ご理解を賜りますようお願い申し上げます」

補 足                                                                          

■「ブラジル」 (Brazil)は、正式にはブラジル連邦共和国(Federative Republic of Brazil)といい、南アメリカに位置し、国土面積は日本の22.5倍を有し、人口約21,500万人の連邦共和制国家である。首都はブラジリアである。

「サンタカタリーナ州」(Santa Catarina)は、ブラジル南部に位置し、東は大西洋、西はアルゼンチンに隣接する人口約624万人の州である。青森県と友好提携を結んでいる。

「シャペコ」(Chapeco)は、サンタカタリーナ州の南西部にあり、人口約22万人の都市である。

■「マクスル・コンバスティベス社」( Maxsul Combustives)は、1994年に設立したブラジルの燃料販売を営む会社で、主にガソリンスタンドと企業や最終消費者向けのディーゼル燃料、エタノール、ガソリンの卸売を行っている。 2000 年にサウスカロライナ州のシャペコに支店を出した。(写真を参照)


 今回の事故でタンクローリーが火災になっており、長いタンク部の被災写真があるが、マクスル・コンバスティベス社では連結のタンクローリーも保有している。(写真を参照)

■「発災タンク」の仕様は報じられていないが、グーグルマップで調べると、火災になった4基のタンクは同径の固定屋根式で、直径は約8.4mである。高さを11mとすれば、容量は約609KLとなる。最初に発災したタンクから隣接タンク3基へ延焼し、火災は、合計約2,000KLのディーゼル燃料、ガソリン、エタノールの入っている貯蔵タンクに燃え広がったとあるので、タンク1基あたりは670KLとなる。したがって、火災になったタンクの1基あたりの容量は600700KL級のタンクとみられる。

所 感

■ タンクローリーへの油移送時のミスによるものとみられる。このミスからタンクローリーと堤内火災が発生し、貯蔵タンクに延焼したものであろう。この初めの火災の被災写真を見ると、燃焼性が高いことからガソリンによる火災と思われる。

■ 発災タンクは激しい堤内火災で座屈したものと思う。発災タンクに隣接したタンク3基のうち1基は屋根から炎が出ており、損傷は大きい。しかし、残りの2基は激しい火災に曝されて、タンク上部通気口から炎が出ているが、タンク本体の損傷程度は意外と大きくない印象である。固定屋根式タンクであるが、内部浮き屋根型とも考えられるが、側板に通気設備がないので、そうではないようだ。

■ 現場では消火用の水源が不足し、10km離れた川から給水しなければならないという悪条件と排水系が不適切な条件が重なり、消火活動は非常に厳しいものだったとみられる。

 消火戦略には、積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略の3つがあるが、今回は爆発が起こっていることも考慮して、近くのタンク群に延焼しない冷却を優先した防御的戦略をとられた。しかし、火災は3日間続いて火勢が弱まったとみられる状況下でも泡消火が行われていないと思われ、泡消火をやろうにも泡薬剤が無かったのではないだろうか。

 今回のタンク火災は運がよく、被害を最小に食い止めたという印象である。これで良しとするのではなく、石油施設には適切な消火設備や消火資機材が必要だということを示した事例である。 

備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである

    Tankstorage.com, Fire at one of Brazil’s largest fuel distributors,  November  14,  2023

    Tw.sports.yahoo.com, Fire Breaks Out at Fuel Storage Facility in Southern Brazil,  November  14,  2023

    Brazil.postsen.com, URGENT: Fire at the fuel distributor is extinguished,  November  15,  2023

    Bnn.network/watch-now, Chapeco Fuel Storage Facility Engulfed in Massive Fire, Releases Harmful Chemicals,  November  14,  2023

    Ndmais.com.br, Drone mostra avanço do fogo na distribuidora de combustíveis em Chapecó,  November  13,  2023

    G1.globo.com, Incêndio em distribuidora de combustível com fumaça tóxica em SC chega ao segundo dia,  November  14,  2023

    96fm.fm.br,  VÍDEO: Bombeiros seguem combatendo incêndio em depósito de combustíveis no Oeste,  November  15,  2023


後 記: 今回の事故は被災写真が多く投稿されていました。しかし、火災は3日間にわたっていますので、写真が撮られた日にちと時間の情報が欲しいと思いました。脈絡なく、写真の説明もなく、掲載されていますので、いつの時点のものか分かりません。ブログに載せる写真を選んでいきましたが、似たような写真が多く、半分以上カットしました。つぎにどのような所で火災が起こったかを示す遠景の写真を選び、そのあと時系列のものを選びたかったのですが、意外と分からないということがわかりました。とくに今回は防御的戦略がとられた3日間の写真ですので、いつの時点のものかはっきり分かりませんでした。炎の写っていない鎮火のものが最後で、これだけは分かりました。 

2023年11月17日金曜日

韓国で開放工事中の内部浮き屋根式タンクが爆発、死傷者2名

 今回は、1年半前の2022420日(水)、韓国の蔚山市にあるSKジオセントリック社蔚山工場において開放工事中の内部浮き屋根式タンクで爆発が起こり、死傷者2名を出した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、韓国の南東部にある蔚山市(グァンヨク・シ/うるさん・し)南区にある化学会社であるSKジオセントリック社(SK Geo Centric)の蔚山工場である。  

■ 事故があったのは、 蔚山工場にあるトルエン用の容量10,000バレル(1,590KL)の内部浮き屋根型固定屋根式円筒タンクP-T145である。発災当時、タンクに入っていた油は抜出され、開放工事が実施されていた。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2022420日(水)午後130分頃、SKジオセントリック蔚山工場でタンクが爆発した。

■ 事故に伴い、消防隊が消防士55名と消防車両22台を伴なって出動した。追加事故に備えてタンク安定化のための冷却作業が行われた。

■ 火災は約10分で消えた。

■ タンクは、開放検査のため、内液の除去、パージ、水洗の清掃工事を完了していた。当日は、タンク内に入槽して内部浮き屋根のリムシールの撤去作業を行う過程で発生した。

■ 発災に伴い、請負会社の作業員2名が負傷した。タンク内で瞬間的に発生した炎で全身火傷を負った。負傷者は蔚山大学病院に搬送された。しかし、427日以降、ふたりの負傷者は相次いで亡くなった。

被 害

■ 容量10,000バレル(1,590KL)の内部浮き屋根型固定屋根式円筒タンク1基が損傷した。

■ 内部で作業していた作業員2名が火傷で負傷した。のちにふたりとも死亡した。

< 事故の原因 >

■ 原因は、内部浮き屋根のリムシールの撤去作業を行っている間に、タンク内部に残留していたトルエンが何らかの点火源によって爆発が発生したとみられる 。

< 対 応 >

■ SKジオセントリック社は、「石油化学製品の貯蔵タンクは定期的に整備するが、清掃する過程で事故が発生したようだ」といい、「火災原因究明など関係機関の調査に協力し、何よりも負傷した協力会社の従業員の治療に努める」と語った。

■ 警察と消防当局は、事故の経緯と被害状況などを調査し始めた。

■ トルエン残留ガスを除去するために設備内部を換気装置で十分に換気させ、作業前に有害物質濃度を測定しなければならない。このようにトルエン貯蔵タンク内の作業は非常に危険な作業であるため、二重、三重の徹底した安全措置を講じなければならないが、適切に安全措置がなされていなかったとみられる。事故現場では、昼休み前に換気を中断したが、昼休み後に換気施設を稼働した事実が確認されていない。10,000バレルサイズのタンク内の酸素濃度や有害ガス濃度を測定するとき、タンクの入口でのみ測定をして正しくガス濃度測定したとはいえず、酸素濃度や有害ガス濃度を正しく測定したか確認されていない。

■ 2022428日(木)に出された調査結果では、作業当日はタンク内のガス検知を行い、問題がないことを確認して、タンク内に入槽した。そして、内部浮き屋根のリムシールの撤去作業を行っている間に、タンク内部に残留していたトルエンが何らかの点火源によって爆発が発生し、作業員が火傷を負ったとみられている。

■ この調査結果にもとづき、つぎのような安全対策が検討された。

 ● 作業段階別の危険性の確認と対策の準備

 ● タンク内部の水洗工事時、内部浮き屋根の上下空間を含む残留物質を十分に除去

 ● 連続的な強制換気設備の運用とリアルタイムの可燃性ガス濃度のモニタリング

 ● 帯電防止のための除電、制電作業服の着用、インジケータの使用

 ● ボルト作業、内部清掃、シール除去作業などには作業工具は必ずノンスパーク工具を使用

補 足

■「韓国」は、正式には大韓民国で、 東アジアに位置し、人口約5,170万人の共和制国家である。

「蔚山市」(グァンヨク・シ/うるさん・し)は、 韓国の南東部(朝鮮半島の南東部)に位置し、人口約115万人の広域市である。蔚山市には、自動車の生産高で韓国一位である現代自動車や現代重工業など現代グループの企業があり、海岸沿いには韓国最大の石油コンビナートがある。

■「SKジオセントリック社」 (SK Geo Centric)は、石油企業であるSKイノベーション社の化学事業子会社である。SK総合化学と称していたが、2021 SKジオセントリックに社名を変更した。なお、SKイノベーションは1962年に大韓石油公社として設立し、2011年にSKイノベーションと社名を変えた。

■「発災タンク」は、トルエン用の容量10,000バレル(1,590KL)の内部浮き屋根型固定屋根式円筒タンクと報じられている。1,500KL級のタンクは直径12.5m×高さ12.5mほどの大きさである。なお、グーグルマップで蔚山市の石油コンビナートを見たが、特定できるような情報がなく、分からなかった。

 「リムシール」はタンク側板と浮き屋根のシールである。日本では、シール部にエンベロープ(カバーシート)内にウレタンフォームを圧縮した状態で包み込むフォーム・ログ・シール方式である。米国には、メカニカルシール方式(パンタグラフ・ハンガー式またはメタルシール)を使用した浮き屋根タンクが多い。今回の事例では、リムシールの種類は分からない。

 保全工事中のリムシールに関する事故は初めてである。リムシール 火災は少なくなく、主な事例はつぎのとおりである。

 ●「テキサス州ウィチタ郡の貯蔵タンク基地でリムシール火災」20189月)

 ●「メキシコ・ペメックス社のタンクターミナルで落雷によるリムシール火災」20218月)

 ●「マレーシアの製油所で原油タンクが落雷でリムシール火災」20206月)

■「トルエン」(Toluene)の化学式はC7H8で、無色透明の芳香族炭化水素の液体で、引火点約4℃、爆発範囲1.27.1%、沸点約111℃、水を1としたときの比重は0.87である。常温で揮発性があり、引火性が高く、特徴的な臭気を持ち、人体に対しては麻酔作用があるほか、毒性が強い。水には極めて難溶だが、アルコールや油類などには極めて可溶なので、溶媒として用いられる。主な用途は、染料、香料、火薬(TNT)、有機顔料、合成クレゾール、漂白剤、ベンゼンやキシレンの原料、医薬品、塗料・インキ溶剤などである。

所 感

■ 事故原因は、内部浮き屋根のリムシールの撤去作業を行っている間に、タンク内部に残留していたトルエンが何らかの点火源によって爆発したとみられる 。韓国における今回の原因および安全対策は迅速な対応をしている。類似事故を回避するためには、早い情報開示が求められる。

■ 一方、内部浮き屋根式タンクを保有する事業者にとっては、内部浮き屋根の型式を示してもらいたかったと思う。というのは、“タンク内部に残留していたトルエン” はどこに滞留していたのかという疑問が残り、安全対策の中でタンク内部の水洗工事時、内部浮き屋根の上下空間を含む残留物質を十分に除去するだけで十分なのだろうか。例えば、リムシールの撤去を行っているので、リムシール自身に不具合(例えば、フォーム・ログにトルエンが浸透)があったのではないか、あるいは浮き屋根のポンツーンに亀裂ができていて内部に油が浸み込んで残留していたという可能性やリスクは考えなくてもよい状態だったのだろうか。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Yna.co.kr,  SK지오센트릭 울산공장 탱크 청소 중 화재…근로자 2명 중상(종합),  April  20,  2022

      Safetyhappy.tistory.com,  蔚山SKジオセントリック内部作業中の爆発事故,  April  28,  2022

      Ziksir.com,  SK지오센트릭 울산공장 탱크 폭발…근로자 2명 중상,  April  20,  2022

      Munhwa.com,  SK지오센트릭 울산공장서 탱크 폭발로 2명 부상…청소작업 중 사고 추정,  April  20,  2022

      Nocutnews.co.kr,  SK지오센트릭 울산공장서 탱크 폭발…2명 중상,  April  20,  2022

      News.nate.com, SK지오센트릭 울산공장서 탱크 폭발로 2명 부상…청소작업 중 사고 추정,  April  20,  2022

      Ulsanlabor.org ,  중대재해처벌법 울산 적용 2, SK지오센트릭 경영책임자를 처벌하라!,  May  03,  2022


後 記: このところ、本ブログではタンクの保全工事中の事故の紹介が続いています。今年の事例でないものもありますが、意識して保全工事中の事故を取り上げているわけでありません。これまでの経験から、世の中が忙しくなるとタンク事故が増えるように感じます。新型コロナウイルス感染が落ち着き始めたことと関係があるのでしょうか。少なくとも、メディアに取材の制限が無くなってきたので、ニュースが増えてきたことは関係あるといえます。

 

2023年11月13日月曜日

ロシア連邦のコミ共和国で清掃中のタンクが爆発・火災、死傷者3名

 今回は、20231029日(日)、ロシア連邦のコミ共和国ウシンスクの近くにある石油会社;ルクオイル・コミ社の石油施設で、清掃工事中の貯蔵タンクが爆発・火災を起こし、死傷者3名を出した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、ロシア連邦(Russia)コミ共和国(Komi)のウシンスク地区(Usinsk)ヴェルフネコルヴィンスク村(Verkhnekorvinsk)の近くにあるロシアのエネルギー企業;ルクオイル社(Lukoil)の子会社であるルクオイル・コミ社(LukoilKomi)の石油施設である。

■ 発災があったのは、ヴォゼヤ油田のブースターポンプ場(BS -7)にある貯蔵用のRVS-5000タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20231029日(日)午前1130分頃、貯蔵タンクが爆発し、火災となった。

■ 発災に伴い、消防隊が出動し、消防士51名と18台の消防機材で対応した。タンク内の火災の局所化と周辺施設への延焼を防ぐための消防作業が行われた。消防隊は、通報によってRVS-5000のタンクで行っていた作業中に火災が発生したとの報告を受けていた。

■ 貯蔵タンクは空で清掃工事中であり、残留ガスが爆発した可能性があるとみられている。

■ 火災になったタンクは崩壊し、隣接した油の入った別なタンクに延焼したと報じられた。別なタンクには、57mのレベルまで油で満たされているという。

■ フォームリフターが火災に巻き込まれ、隣接するタンクを冷却するために放水モニターが設置された。

■ 事故に伴い、タンクの定期補修を行っていた請負会社エコライフ社(Ecolife)の従業員2名が負傷した。1名は火傷の負傷で、病院へ搬送された。このほか、別の従業員が行方不明という情報が報じられている。のちに、火災当時タンク内にいたとされるエコライフ社の従業員が死亡したという。

被 害

■ 貯蔵タンク1基が損壊した。このほか、周辺の配管が火災で被災した。

■ 3名の死傷者は出た。死傷者のうち、ひとりが死亡し、ふたりが負傷した。

■ 火災と黒煙が立ち昇り、環境汚染の恐れが出た。

< 事故の原因 >

■ 事故原因は安全規則違反である。しかし、安全規則違反の内容は分からない。  

< 対 応 >

■ 事故の原因は安全規則違反と報じられている。

■ コミ共和国天然資源省は火災が近隣の貯蔵タンクに延焼したと報じたが、後に消防隊はなんとかタンクの延焼を阻止したと明らかにした。しかし、貯蔵タンクの遮断弁近くの配管から火災が起こった。

■ 消防隊は増強され、消防士80人以上と25台の消防機材で対応した。

■ 消防隊は、9時間以上消火活動を続け、1029日(日)午後8時頃までに火災を制圧し、午後921分に鎮火させた。消火活動には、圧縮空気泡システム(Compressed Air Foam System)も使用された。火災エリアは360㎡だった。

■ 事故後、石油施設のブースターポンプステーションDNS-7の運転は停止された。

■ コミ共和国での火災事故について、メディアの中には、ロシアの石油産業を悩ませていると指摘している。ロシアのクラスノダール地方にあるアフィップ製油所で最近発生した火災は、ウクライナの2機のドローンによって引き起こされたと伝えられており、企業内部の安全上の欠陥と外部の脅威の両方に対する業界の脆弱性を浮き彫りにしたという。

 ■ ロシアのメディアの中には、記事中に発災時の動画を添付しているところもある。主な記事はつぎのとおりである。

 Fontanka.ru, Ситуация осложнилась. Под Усинском в Коми загорелся второй резервуар для хранения нефти2023/10/29

 ●Life.ru, В Коми один человек погиб и двое пострадали при пожаре на нефтяном резервуаре2023/10/29

補 足

■ 「ロシア連邦」(Russia)は、通常、ロシアと称し、ユーラシア大陸北部に位置し、人口約14,600万人の連邦共和制国家である。

「コミ共和国」(Komi)は、ロシア連邦中北部の共和国で、1921年にコミ・ジリャン自治州として設置され、1936年にコミ自治ソビエト社会主義共和国になった。ウラル山脈の西部、東ヨーロッパ平原の北東部に位置し、原油、天然ガス、石炭、金、ダイヤモンドなどを産し、主要産業は石油精製、木材加工などである。人口は約101万人で、ロシア人が約60%、コミ人が約25%、ウクライナ人が約6%、タタール人が1%などで、公用語はコミ語とロシア語である。

「ヴェルフネコルヴィンスク村」(Verkhnekorvinsk)は、コミ共和国のウシンスク地区(Usinsk)にあり、人口約1,300人の村である。

■「ルクオイル・コミ社」(LukoilKomi)は、ロシアのエネルギー企業であるルクオイル社(Lukoil)の子会社で、 20014月に設立された。ルクオイル・コミ社は主にコミ共和国で事業を行っている。主な活動は油田・ガス田の探査、建設、開発であり、生産地の一部は北極圏の上に位置している。生産油の半分以上は粘度が高いという特徴を持ち、生産が難しく、特別な高価な抽出技術が必要であるといわれている。

■「発災タンク」は番号RVS-5000タンクと報じられているだけで、詳細は分からない。また、コミ共和国のウシンスク地区のヴェルフネコルヴィンスク村にある石油施設の場所をグーグルマップで調べたが、特定できなかった。タンクは被災写真を見るかぎり容量3,0005,000KLクラスと思われる。

■「圧縮空気泡システム」(Compressed Air Foam System CAFS;キャフス)は、圧縮空気泡消火装置で、水と消火薬剤を高圧の空気で混ぜて泡を作り、消防ホース経由して消火ノズルで噴射する。日本でも東京消防庁や横浜消防本部など地方自治体の消防署に配備されているところが出ている。 CAFSは世界的に採用され始め、このシステムを車両の中に組み込んだ自走するものが出ている。今回、コミ共和国で使用された圧縮空気泡システムははっきりしないが、標題の写真に載っている空港用化学消防車の一種ではないだろうか。

所 感

■ 今回のタンク事故はつぎつぎと変更された内容が報じられ、状況がはっきりしない。事実(らしい)状況と被災写真をつなぎ合わせれば、つぎのような経緯ではなかったかと思う。

 ● 発災タンクであるRVS-5000は清掃工事を行うために開放された。タンクは完全に空でなく、内部には原油スラッジが残っていたとみられる。2006年に起こった「太陽石油の原油タンク清掃工事中の火災事故」 20173月)のように「原油スラッジ中の軽質油分の気化ガスがタンクマンホールの開放に伴う通気によって爆発混合気を形成し、清掃工事用の機工具類などによる何らかの着火源によって引火して火災になったものとみられる」と同様、人がタンク内に入り、爆発が起こったのではないだろうか。この事象によって死傷者3名が出てしまった。

 ● 発災タンクの爆発で、タンクは火災になり、タンク側板を座屈させた。また、爆発によって底板と側板の接続部の一部が外れ、配管接続フランジ部が破損して、油が漏れ、堤内火災が発生したのではないだろうか。

 ● 堤内火災は、隣接したタンクに延焼するのではないかと思うほど大きな火災になった。このとき、隣接タンクの遮断弁は開放状態で接続フランジ部が緩み、タンクと配管内部の油が漏れて堤内火災が大きくなったのではないだろうか。

 ● 堤内火災はタンクと配管内部の油が燃え尽きるほど続き、約9時間後に火災を消すことができた。

■ 消火戦略は、①積極的(オフェンシブ)戦略、②防御的(ディフェンシブ)戦略、③不介入戦略の3つのうちいずれかを選択する。今回は、タンクと配管からの漏れによる堤内火災と思われるので、安易に消火させても再燃しやすい。従って、隣接タンクへの延焼を防ぐ防御的戦略をとったと思う。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

       Pravda.com.ua, Oil reservoirs on fire in Komi Republic, Russia,  October 30,  2023

       Censor.net, Oil tanks burning in Russia’s Komi Republic, one dead and one injured,  October 29,  2023

       Bnn.network, Fire at Komi Republic Oil Reservoir: A Stark Reminder of Industry Risks,  December 29,  2023

       Fontanka.ru, Ситуация осложнилась. Под Усинском в Коми загорелся второй резервуар для хранения нефти, October 29, 2023

      Ria.ru, В Коми взорвался нефтяной резервуар,  October 29,  2023

      Neftegaz.ru, По факту возгорания резервуара на УПСВ ДНС-7 Возейского месторождения возбуждено уголовное дело,  October 30,  2023

      Usinsk.bezformata.com, 30 октября вместе с Главой Республики Коми Владимиром Уйба побывали на месте возгорания выведенного из эксплуатации нефтяного резервуара в посёлке Верхнеколвинск,  October 31,  2023      


後 記: 今回ほどつぎつぎと内容が変わって報じられた事故はありませんでした。ほかのタンクへ延焼したと認識していたところに、消防隊が延焼を食い止めたという情報が出てきて、わたし自身の頭が混乱しました。しかし、再度、発災写真をよく見ていくと、遠くから撮った映像はタンクから上がっている炎ではなく、堤内火災という方がよいように感じ始めました。崩壊したタンクまわりの火災は明らかに別なタンクの火災ではありません。石油施設のあるコミ共和国のウシンスクはすでに雪が積もっていますし、グーグルマップでコミ共和国を見ていくと、北極圏に近く、うら寂しいところです。このようなところにメディアが取材に訪れることはないでしょう。報じられる内容が変化していくのもやむを得ないだろうなと思いながらブログをまとめました。