2018年4月27日金曜日

インドネシアのボルネオ島で海底パイプラインから油流出、死者5名

 今回は、2018年3月31日(土)、インドネシアのボルネオ島においてプルタミナ社のバリクパパン湾に敷設している海底パイプラインから原油が流出した事故を紹介します。
(写真はTheguardian.com から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、インドネシア(Indonesia)のボルネオ島(Borneo)の東カリマンタン州(East Kalimantan)バリクパパン(Balikpapan)にある国有石油会社プルタミナ社(Pertamina)の石油パイプライン施設である。

■ 発災があったのは、バリクパパン湾に敷設されている原油用の海底パイプラインである。海底パイプラインは、東カリマンタン州ラウエ・ラウエのタンク・ターミナルからバリクパパンにある製油所へ移送するため、バリクパパン湾を横断するためのもので、呼び径20インチ、炭素鋼製API 5L Grade X42、厚さ12.7mmで、深さ22mの海底に敷設されている。 パイプラインは1998年に設置されたもので、水圧や腐食に耐えられるようコンクリート被覆されている。
インドネシアのボルネオ島(カリマンタン島)周辺
(写真はGoogleMapから引用)
 < 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年3月31日(土)、プルタミナ社がバリクパパン湾に敷設している海底パイプラインから油流出事故が発生した。

■ 油流出は、3月31日(土)の午前3時頃、地元の漁師が製油所の近くの海で変な臭いに気がついて連絡したことから分かった。

■ 油流出の発見後、3月31日(土)午前10時30分頃に火災が発生した。火災による黒煙が空高く立ち昇り、煙はバリクパパンの市街地から見ることができ、周辺に臭いが漂った。近くにいた釣り船と貨物船(石炭運搬船)が火災に巻き込まれた。この災害に伴い、釣り船に乗っていた5名の漁師が死亡した。停泊していた貨物船エバー・ジャジャー号(EverJudger)の乗組員は救助されたが、1名が火傷を負った。このほかに20隻ほどの船が湾周辺にいたが、安全に避難した。火災は、クリーンアップのため海面の浮遊油を燃焼させるために点火して生じたものだったとみられる。

■ 火災は、パリクパパン消防署、シェブロン社の消防隊、プルタミナ社の消防隊の共同作業によって消された。消火時間は3月31日(土)の正午頃までに消されたという。
(写真はThejakartapost.comから引用)
■ 当初、死亡事故は、クリーンアップの作業に当たっていた漁師が、海面の浮遊油を燃やして浄化させようとした際に制御不能な火災になってしまったことから発生したという情報が流れたが、後に否定された。漁師たちは一緒に休暇をとって、釣りに出かけた男性グループだったという。

■ 油流出事故の影響は、多くの住民に呼吸困難や吐き気などの健康被害を引き起こし、マングローブの林を汚染した。4月1日(日)には、油流出のあった海岸で、絶滅の危機にあるイルカ1頭が死んでいるのが発見された。死亡の原因は有害な油膜によるものとみられる。

■ 4月3日(火)、当局は緊急事態を宣言し、住民に油流出地域でタバコを吸わないように警告した。また、当局は、刺激の強いヒュームや煙に対して防護するマスクを配布した。

■ 当初、パイプラインからの漏れはないと否定し続けていたプルタミナ社は、海上流出油がパイプラインの破損から出た原油であることを認めた。プルタミナ社によると、予備調査では、油は船舶の燃料だという判断だったが、4月3日(火)の夕方、プルタミナ社のパイプラインの破損部から出たものだったことを確認したという。事故が発見されて以降、予防的措置としてパイプラインの移送は停止しているという。

■ 環境省によると、3月31日(土)にバリクパパン湾で始まった流出は広がっていき、4月4日(水)には、湾外のマカッサル海峡側へ出て、面積はおよそ12,000ヘクタールに及んでいるという。影響を受けた海岸線はおよそ20km以上といわれ、多くのマングローブの林が油で覆われているという。

■ プルタミナ社のダイバーの調査によって、海底パイプラインがオリジナルの敷設位置から約120m移動していることが分かった。東カリマンタン州警察とプルタミナ社は漏洩の原因の調査を始めた。プルタミナ社は、20年間使用されたパイプに外部から大きな力がかかっていた可能性があるとみている。バリクパパン湾は船の通行量が多く、特にボルネオ島で産出される石炭を積出す桟橋への船舶が多いという。

被 害
■ 呼び径20インチの海底パイプラインが破損した。
■ パイプライン内部の原油が流出した。流出した油量は分かっていない。

■ 流出した油を燃焼させる作業中、火災に巻き込まれて5名が死亡した。このほかに1名の負傷者が出た。また、近隣の多くの住民が呼吸困難や吐き気などの健康被害を引き起こした。

■ 流出油が海岸に漂着し、マングローブの林が汚染されるなど自然環境が汚染された。また、この海域に住む絶滅の危機にあるイルカが1頭死んだほか、魚類や動物への影響が出た。
(写真は、左:Liputan6.com、右:Sarahbeekmans.co.idから引用)
(写真はMedia.greenpeace.orgから引用)
(写真はMedia.greenpeace.orgから引用)
(写真はMedia.greenpeace.orgから引用)
< 事故の原因 >
■ 事故原因は警察によって調査中である。海底パイプラインの破損部は切断して回収され、調査中である。
 一方、インドネシア政府(エネルギー省)およびプルタミナ社は、海底パイプラインが敷設されて投錨してはならない海域において貨物船がアンカーを下ろしたため、パイプラインが損傷して、内部の原油が流出したとみている。

■ プルタミナ社が4月15日(日)に公表したところによると、パイプラインはつぎのように良好な状態だったという。
 ● パイプラインは定期的に検査していた。
 ● 最近の検査は、2017年12月10日にダイバーによる外観検査、電気防食の検査、肉厚の抜取り測定を行った。
 ● 2016年10月25日には健全性検査が行われ、石油・天然ガス協会の使用許可証(有効期限:2019年10月26日)が発行された。使用許可証は3年毎に更新する必要がある。

< 対 応 >
■ 4月2日(月)、インドネシア政府は緊急事態を宣言した。この決定は、財源が確保され、より一貫性のある迅速な対応が可能となる。対応チームは環境省が主導し、警察、海軍、捜索救助隊、地方自治体が活動することになる。
 
■ プルタミナ社は、他の石油会社の支援を受けるとともに汚染対応に着手した。汚染区域を4つに分け、4つのチームで対応をすることとした。4つの区域に対して15隻の船を配備した。 

■ 4月3日(火)、環境省は、夕方までに約70,000リットルの油を回収したと発表した。さらに、流出油の囲い込みを行うために複数のオイルフェンスの展張を実施しているという。
 環境相は、流出油の刺激臭や潜在的な危険性を考慮して、集落付近の流出油のクリーンアップを優先するよう環境省の対応チームへ指示したほか、プルタミナ社にも伝えた。

■ 海岸のクリーンアップのため、約500名のボランティアが募集され、67の地区から軍人、大学生、教職員、ビジネスマンなどが支援に駆けつけた。

■ 環境省は、流出の広がりを確認するため、ドローンを飛行させた。さらに、影響を受けたエリアの衛星写真を提供するようラパンにある国立航空宇宙研究所に要請した。また、バカムラにある海上保安庁には、湾内での船舶の航跡に関するデータを収集するよう要請した。

■ バリクパパンの漁業者は、4月4日(水)、インドネシア政府とプルタミナ社に流出事故を説明するよう抗議活動を行った。

■ 4月4日(水)、プルタミナ社は、約1,000人の従業員を動員してバリクパパン湾のクリーンアップ作業をおこなっていると発表した。作業にはオイルフェンス、油吸収剤、油回収船などを使用している。

■ 4月4日(水)、米国の環境保護団体であるスカイ・トゥルース(SkyTruth)は、バリクパパン湾で起こった油流出事故の衛星写真を公表した。4月2日(月)に撮影された衛星写真では、油流出がバリクパパン湾から出てしまったことが分かる。
 また、スカイ・トゥルースは、当初、油流出源とみられた貨物船エバー・ジャジャー号が流出した油膜エリアのひとつの先端でじっと停止していることについて、船がアンカーを下ろして動かないためだろうと述べている。
           油流出状況の衛星写真   (写真はSkytruth.orgから引用)
           油流出と貨物船の衛星写真   (写真はSkytruth.orgから引用)
■ 4月6日(金)、エネルギー省は、パナマの国旗をあげた貨物船がアンカーを下ろしてパイプラインを損傷させた可能性が高いと語った。当時、天候が悪かったため、アンカーを下ろしたものとみられるが、この海域は船が投錨してよい場所ではなかった。

■ 4月9日(月)、プルタミナ社は、流出油のクリーンアップ作業の状況について公表した。クリーンアップは、「桟橋エリア」、「セマヤン〜バリクパパン・プラザ区域」、「カンポン・アラス・エアー〜カンポン・バル・ウル区域」、「ペンジャン区域」、「バリクパパン湾区域」、「カリアンガウ区域」の6つに分けて行われている。
 ● 「桟橋エリア」は、4月8日(日)時点で油回収が概ね完了しているが、軽質の油膜が残っており、クリーンアップ作業は継続中である。
 ● 「セマヤン〜バリクパパン・プラザ区域」は、海岸と海域周辺の油回収が行われ、外観上はきれいになっている。今後は、流出油にさらされた岩石エリアや防潮堤などのクリーンアップ作業になる。
 ● 「カンポン・アラス・エアー〜カンポン・バル・ウル区域」は、家庭用廃水が出ているところであるが、まだ油膜が残っている状況である。
 ● 「ペンジャン区域」と 「バリクパパン湾区域」は、4月6日(金)に油回収を終えてきれいになり、パトロールによる監視を行っている。
 ● 「カリアンガウ区域」 は、海岸部の油回収作業を船によって実施中である。

■ 4月11日(水)、プルタミナ社は、流出油のクリーンアップ作業を継続中ということのほか、住居環境に影響が出ている地区の調査や食料支援を行っている状況を発表した。

■ バリクパパンにある製油所は、被災を免れたサイズの小さい呼び径16インチのパイプラインからの原油供給とオイルタンカーからの荷揚げによって操業を継続している。

■ 環境保護団体によると、今回の油流出事故は、1989年のアラスカにおけるオイルタンカー「エクソン・バルディーズ号」による油流出事故や2010年のメキシコ湾におけるBPオイルの油井事故に比べると広範囲ではないが、環境回復には数年あるいは十年以上かかる可能性があると指摘した。

■ 4月18日(水)、インドネシア政府は油流出の原因はパナマの国旗をあげた貨物船によるものだとした。全長約230mのエバー・ジャジャー号が12トンのアンカー(高さ3m×幅2m)を下ろしたことによって海底のパイプラインを損傷させたとしている。当時、事故の海域にいた船はエバー・ジャジャー号のみだった。調査したダイバーによると、海底にアンカーによると思われる溝が約500mの長さにわたって残っていたという。溝は幅1.6~2.5m、深さ40~70cm、長さは498mだった。
 貨物船は中国の船長によって運行されていたが、船長や乗組員22名が起訴されるか未定である。なお、エバー・ジャジャー号は、インドネシアの石炭をマレーシアに運ぶ予定だった。

■ 4月15日(日)、プルタミナ社は、油流出のあった海底パイプラインの損傷部を切断して引き上げる計画であることを発表した。パイプラインの回収は、損傷の責任の所在を明らかにするためで、警察の立会いのもとに行われる。なお、切断部の復旧のため、1本12m長のパイプを22本準備しているという。

■ 4月19日(木)、プルタミナ社は、クレーン船を使って海底パイプラインの損傷部を切断して回収する作業を開始したと発表した。切断して回収するパイプラインは3分割し、1本目を4月19日(木)に行った後、4月21日(土)までに3本を陸上へ揚げる予定である。なお、切断部の復旧は、原因調査が完全に終わってから実施する予定だという。

■ 破損した海底パイプラインの切断・回収は、悪天候のため1日遅れの4月22日(日)午後に終えた。3つに分割されたパイプは、それぞれ7m×3.5トン、12m×9トン、24m×12トンだった。
(写真は、左: Tanyakan.news、右:Twwiter.comから引用)
(写真はMedia.greenpeace.orgから引用)
補 足
■ 「インドネシア」(Indonesia)は、正式にはインドネシア共和国で、東南アジア南部に位置する共和制国家で、人口約2億4,700万人の国である。首都はジャワ島にあるジャカルタである。
 「ボルネオ島」(Borneo)は、東南アジアの島で、インドネシア・マレーシア・ブルネイの3か国の領土で、インドネシアではカリマンタン島(Kalimantan)といい、南部がインドネシアの領土である。
 「バリクパパン」(Balikpapan)は、ボルネオ島南部の東カリマンタン州(East Kalimantan)にあり、人口約70万人の港湾都市である。この地方は資源が豊富なことで知られ、石油製品、鉱物資源を輸出し、スマヤン港(Semayang)やカリアンガウ港(Kariangau)がある。

■ 「プルタミナ社」(PT Pertamina)は、1957年に設立され、インドネシア政府が株式を所有する国有の石油・天然ガス会社である。国内に6箇所の製油所を持ち、5,000箇所以上のガソリンスタンドを有している。バリクパパンには、ボルネオ島で唯一の精製能力26万バレル/日のバリクパパン製油所を保有する。
 プルタミナ社の事故としてはつぎの事例がある。

■ 発災のあった「海底パイプライン」は、東カリマンタン州ラウエ・ラウエのタンク・ターミナルからバリクパパンにある製油所へ原油を移送するため、バリクパパン湾を横断するためのもので、呼び径20インチ、炭素鋼製API 5L Grade X42、厚さ12.7mmで、深さ22mの海底に敷設されている。
 米国の環境保護団体であるスカイ・トゥルースは、インドネシアのバリクパパン湾で起こった油流出事故の衛星写真を分析して推測した海底パイプラインの敷設ルートを発表している。
       海底パイプラインの敷設ルートの推測    (写真はSkytruth.orgから引用)
 呼び径20インチの海底パイプラインから流出した油量ははっきりしていない。仮に海底パイプライの全長を20kmとすれば、パイプ内の容量は約3,600KLである。4月20日(金)の報道の中に40,000バレル(6,400KL)という記事があるが、根拠ははっきりしない。しかし、1,000KLオーダーの油流出があったとみるべきだろう。

所 感
■ この事例は、貨物船の投錨によって海底パイプラインが破損したとみられ、かなり大きな油流出事故である。日本でも、海底パイプラインを保有している会社は少なくなく、他山の石とすべき事例であろう。

■ 一方、この事故にはいろいろな疑問がある。
 ● プルタミナ社は当初なぜ海底パイプラインからの流出を否定したのか。
  そして、パイプラインからの流出だと確認するまでになぜ4日間もかかったのか。
 ● 貨物船のアンカーの引きずった跡と海底パイプライン破損部の位置に相関はあるのか。
 ● 貨物船船長の証言に関する話がなぜ報道されないのか。
 ● 海面の流出油を燃焼させる処置は誰が考え、誰が承認し、誰が実行したのか。

■ 海上流出油事故の緊急事態対応は不適切で、後手後手の対応になってしまった。プルタミナ社は自社の油ではないと言い続け、初動対応が極めて遅れている。インドネシア政府が緊急事態を宣言し、環境省が主導する対応チームを立ち上げたのは、事故発生から3日目で、初動対応がとれていない。この間、対応としてとられたとみられる浮遊油の燃焼によって最悪の死者を出している。
 それ以降のクリーンアップ活動も場当たり的で、戦略的な対応をとられた様子がうかがえない。「敵である流出油」の推測量と挙動(拡散状況)にもとづき、クリーンアップ戦略(体制・組織、人員投入、回収資機材の配備)を立て、実際の対応(戦術)をとっていく必要があった。途中で70KLの油を回収したという発表はあったが、クリーンアップ作業によって油回収量がどの程度になっているか分からない。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Thejakartapost.com , Pertamina, BPBD Deny Fire Caused by Oil Spill Clean-up,  April 01  2018
    ・Marinelink.com, Oil Spill Blaze Kills Two off Borneo Island,  April 01  2018
    ・News.mongabay.com,  Indonesia investigates deadly oil spill in eastern Borneo,  April 03,  2018
    ・Bbc.com , 6 Indonesia Declares State of Emergency as Oil Spill Spreads,  April 03,  2018
    ・Radioaustralia.net.au,  Borneo Oil Spill: Police Question Bulk Coal Carrier Crew after Four People Killed, Water Polluted
,  April 03  2018
    ・Pertamina.com, Synergy to Cleanup Oil Spill,  April 04,  2018
    ・Time.com, Indonesia Has Declared a State of Emergency as Borneo Oil Spill Spreads,  April 04,  2018
    ・News.mongabay.com, Deadly Oil Spill in Eastern Borneo Spreads to the pen Sea,  April 05,  2018
    ・Offshore-technology.com, Indonesia Blames Bulk Coal Carrier for Oil SpillApril  06, 2018
    ・Pertamina.com,  Oil Spill at Balikpapan Bay: Pertamina to Perform Sweeping and Countermeasures,  April 09,  2018
    ・Liputan6.com , Pertamina Pastikan Pipa yang Putus di Teluk Balikpapan Sesuai Standar,  April 17,  2018
    ・Hazardlab.jp ,  ボルネオ島沖合 原油が大量流出 海洋生物が大量死! ,  April 05,  2018
    ・Dw.com,  120-square-kilometer Oil Spill off Indonesia Caused by Broken Pipeline, Official Says,   April 06  2018
    ・Skytruth.org,  Pipeline Falure Cause of Fatal Oil Spill in Indonesia,  April 05  2018
    ・Phys.org , Deadly Indonesia Oil Spill Caused by Burst Pipe: CompanyApril  04, 2018
    ・En.tempo.co , Alert on Pertamina Invisible Oil Spill ,  April 09  2018
    ・Lifegate.com,  Indonesia, What the Balikpapan Oil Spill Has Cost Communities and EcosystemsApril  12, 2018
    ・Thejakartapost.com , Balikpapan Oil Spill: What We Know and Don’t KnowApril  11, 2018
    ・Pertamina.com, Oil Spill Restoration Continues, Pertamina Provide Food Aid For Marho Mulyo and Kariangau Resident,  April 11,  2018
    ・Pertamina.com, Balikpapan Oil Spill’s Broken Pipe Will be Removed,  April 15,  2018
    ・Borneobulletin.com.bn, Indonesia Says Panama-flagged Ship Caused Major Oil Spill,  April 19, 2018
    ・Reuters.com,  Indonesia Removes Pertamina Chief after Oil Spill, other issues,  April 19,  2018  
    ・Pertamina.com, Pertamina Hopes to Reveal External Factors of Balikpapan Oil Spill after Lifting the Broken Pipeline,  April 19,  2018
    ・Thejakartapost.com , Pertamina Completes Removal of Broken Oil Pipes in Balikpapan,  April 23,  2018


後 記: この事故の情報を調べていくと、消化不良というかフラストレーションが溜まっていく事例でした。事故直後の情報から見ていくのですが、あとから見ると大きな誤報が続きます。まず、油は船から出たものだという情報、火災で亡くなった漁師は火をつけた本人だったという情報などです。続いて、油汚染の範囲に関するデータが情報源で違っており、どれを信頼していいのか分かりません。よく言えば、いろいろな人がオープンに話していますが、悪くいえば、いい加減な情報をもとにしているようです。通常、日にちが経つと報道される情報がなくなりますが、今回は事故に関する続報が割に出されているので、ある程度まとめることができました。パイプライン破損部の検査結果が待たれるところですが、いつのことになるのか、また公表されるのかわからないので、待たずに投稿することにしました。

2018年4月15日日曜日

チェコの製油所で貯蔵タンクの清掃作業中に爆発、死傷者8名

 今回は、2018年3月22日(木)、チェコ共和国のクラルピ・ナト・ヴルタヴォウにあるユニペトロール社クラルピ製油所の配送用タンク・ターミナルにある貯蔵タンクで清掃作業中に爆発が発生し、死傷者8名が出た事例を紹介します。
(写真はContinentainewsshow.comから引用)
 < 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、チェコ共和国(Czech Republic)の首都プラハ(Prague)から北へ約20km離れたクラルピ・ナト・ヴルタヴォウ(Kralupy nad Vltavou にあるユニペトロール社(Unipetrol)のクラルピ製油所(Kralupy Refinery)である。製油所の精製能力は80,000バレル/日である。

■ 発災があったのは、製油所のプラントから離れた場所に設置された配送用タンク・ターミナルにある燃料用貯蔵タンクである。
ユニペトロール社クラルピー製油所のタンク・ターミナル付近
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018322日(木)午前10時頃、配送用タンク・ターミナルにある貯蔵タンクで爆発が発生した。固定屋根式タンクの屋根部が噴き飛び、鉄骨がねじ曲げられ、煙が立ち昇った。しかし、爆発後に火災が引き続いて起こることは無かった。

■ 爆発のあったタンクは空で、清掃作業中に起った。製油所は、327日(火)~59日(水)の間、定期保全と改造工事のため、準備作業を行っていたが、当該タンクとは直接の関係はない。

■ この事故に伴い、請負会社の作業員6名が死亡し、2名が負傷して病院へ搬送された。

■ 発災に伴い、消防隊が出動した。現場は制圧下にあり、危険性物質の漏れは無く、危険性は無いという。爆発は製油所プラントや配送タンク・ターミナル全体に大きな被害を与えるものでなかったが、爆発したタンクは完全に損壊していた。

■ 発災現場には、警察の捜査官が立入り、原因の調査を開始した。

被 害
■ 燃料用貯蔵タンク1基が損壊した。被害の範囲や程度は分かっていない。

■ 爆発によって死傷者が8名発生した。うち6名が死亡した。
(写真はFiredirect.netから引用)

< 事故の原因 >
■ 事故原因は調査中で分かっていない。

■ 一部のメディアは、タンクの清掃作業が新しい会社で実施されており、この会社は作業方法の適切な手続きについて遵守していなかったと報じている。また、ガスが電気的短絡(ショート)によって引火したと報じている。

< 対 応 >
■ やけどの負傷者が発生したことを受けて、中央ボヘミア・レスキュー・サービスが隊員とヘリコプターを出動させた。

■ ユニペトロール社は、3月23日(金)、社内に原因調査チームを発足させたと発表した。調査は警察に全面的に協力するという。 

■ 事故で操業を停止していた配送用タンク・ターミナルは、3月27日(火に運転を再開した。
(写真はAbcnews.go.comから引用)
(写真はZpravy.e15.czから引用)
補 足 
チェコ共和国と周辺国
■ 「チェコ共和国」(Czech Republic)は、通称チェコで、中央ヨーロッパに位置し、人口約1,050万人の共和制国家である。1995年にチェコスロバキアがチェコとスロバキアに分離して独立した。
 「クラルピ・ナト・ヴルタヴォウ」(Kralupy nad Vltavou)は、中央ボヘミアにあり、首都プラハから北へ約20km離れた人口約18,000人の市である。
チェコ共和国のクラルピ・ナト・ヴルタヴォウ付近
(写真はGoogleMapから引用)

■ 「ユニペトロール社」(Unipetrol)は、チェコの石油化学工業の民営化に伴い1995年に設立された石油会社である。株の大半はポーランドの石油会社PKNオーレン(PKN Orlen)が保有している。チェコにある3つの製油所のうちふたつを所有し、うちひとつが発災場所の「クラルピ製油所」(精製能力8万バレル/日)である。

■ 「発災タンク」は配送用タンク・ターミナルの燃料用貯蔵タンクであるが、タンク仕様については報じられていない。発災場所におけるグーグルマップを調べてみると、発災タンクは固定屋根式で、直径は約6.3mとみられる。高さを9.0mとすれば、容量は約280KLとなる。 
事故のあったタンク・ターミナル (矢印が発災タンク)
(写真はAsiaone.cpmから引用)
所 感
■ この事故は、過去にたびたび出てくるタンク清掃作業という非定常運転時のタンク内外の火気作業における人身事故であろう。米国CSB(化学物質安全性委員会)がまとめた「タンク内外の火気作業における人身事故を防ぐ7つの教訓」が活かされていない事例である。改めて7つの教訓の項目は列記すると、つぎのとおりである。
   ①火気作業の代替方法の採用  ⑤着工許可の発行
   ②危険度の分析        ⑥徹底した訓練
   ③作業環境のモニタリング   ⑦請負者への監督
   ④作業エリアのテスト 

■ タンク清掃作業で死傷者が8名も発生し、うち6名が亡くなるという過去最悪の事例である。今回、感じたのは、タンク清掃作業を請負ったのが新しく入構した会社だったということである。変わった背景にどのようなことがあるか分からないが、タンク清掃作業の危険性を熟知していなかったとみられる。日本では、近年、働き手が団塊の世代から次世代へ移っていく。若い世代や新しい会社になっていくことは良いことではあるが、過去の失敗から得られた貴重な教訓は活かされていくことを期待する。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  Unipetrol.cz , Extraordinary Event at Kralupy nad Vltavou Road Terminal,  March  22,  2018
    Unipetrol.cz , Unipetrol Cooperates with the Police and Has Initiated its own Investigation,  March  23,  2018
    Reuters.com,  Six Dead after Blast at Czech Refinery,  March  22,  2018
    Abcnews.go.com , 6 Dead in Chemical Factory Explosion in Czech Republic ,  March  22,  2018
    Continentalnewsshow.com, 6 Dead, 2 Injured as Explosion Rips through Chemical Plant in Czech Republic,  March  22,  2018
    Euronews.com , 6 People Killed in Czech Refinery Explosion,  March  22,  2018
    Hazmatnation.com, Six Dead after Blast at Czech Refinery,  March  23,  2018
    Thestar.com, Czech Republic Chemical Factory Explosion Leaves 6 Dead,  March  22,  2018
    Thechemicalengineer.com, Explosion at Unipetrol Chemical Plant in Czech Republic,  March  23,  2018
    Firedirect.net,  Czech Republic – Tank Explosion, Six Fatalities During Cleaning Operation,  March  26,   2018
    Shropshirestar.com , Explosion at Chemical Factory in Czech Republic Kills Six,  March  21,  2018
    Riscad.aist-riss.jp,  チェコの化学工場で貯蔵タンクの爆発(リレーション化学災害データベース),  March  22,  2018


後 記: チェコの事故を取り上げるのは初めてです。各国の報道機関が報じており、情報はたくさんあるのですが、消化不良気味の調査結果でした。初期段階で、ポーランドと提携している石油化学プラント内で起こった事故という情報ということから混乱があったようです。訂正記事を出しているところもありますが、そのままのところも多く、何が事実なのかはっきりしない点の多い事例です。事業者のユニペトロール社からプレス発表が3回出されていますが、曖昧で情緒的な表現が多く、このブログで扱う事故報告の情報としてあまり参考になりませんでした。また、事故対応に直接関わった消防や警察による発表やコメントもほとんどなく、信頼できる情報を選択するのに悩みました。