(写真はRt.com
から引用)
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< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、メキシコのベラクルス州(Veracruz)に敷設されているメキシコ国営石油会社のペメックス社(Petroleos
Mexicanos: Pemex)の石油パイプラインである。
■ 発災があったのは、ミナティトラン(Minatitlan)から首都メキシコシティ(Mexico
City)まで敷設されている石油パイプラインで、ベラクルス州ザポアパン(Zapoapan)付近に敷設されていた場所である。メキシコでは、原油、天然ガス、石油製品がパイプラインで移送されているが、発災のあったパイプラインの油種はガソリンとみられる。
ベラクルス州ザポアパン付近
(写真はGoogleMapから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年8月19日(土)午前7時30分頃、ザポアパンの畑を通っているペメックス社の石油パイプラインで爆発が起った。爆発に続いて火災が起こり、畑から真っ黒い煙の柱が立ち昇った。
(写真はRadioformula.com.mx
から引用)
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■ 爆発は、石油パイプラインの違法なタップによる油窃盗中に起ったものとみられる。現場には、焼けた車が2台残っていた。
■ この事故によって、ひとりが死亡、5人が負傷した。火傷を負ったのは、15歳の妊娠した女性を含めて20歳、25歳、36歳、65歳の女性2名、男性3名が病院に搬送された。(死者5名、負傷者5名と報じているところもある)
■ 火災発生に伴い、地元当局はザポアパンの住民と近くにあるベラクルス中央工科大学の学生を避難させた。
■ ペメックス社はパイプラインの移送バルブを閉止し、作業員が現場に急行した。現場では、ペメックス社は漏れた燃料油を燃え尽きさせ、火災の制圧に導いた。同社は、爆発の原因が違法なタップによるもので、火災は消えたと発表した。
■ 事故後、警察と法医学捜査員が現場の調査に入った。
(写真はNews.trust.orgから引用)
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被 害
■ 事故に伴い、少なくとも死者1名、負傷者5名が出た。
発災に伴い、地元の住民が一時的に避難させられた。
■ 石油パイプラインに違法なタップが設置され、配管が損傷した。パイプラインから内部の油が漏洩し、焼失した。
< 事故の原因 >
■ 爆発の原因は、油窃盗のため違法なタップによる故意の過失である。
< 対 応 >
■ メキシコでは、油窃盗による組織犯罪が増加傾向にあり、被害額は全土で年間10億ドルにのぼる。違法タップは非常にリスクが高く、爆発事故で作業中に亡くなったり、治安部隊に射殺されたりするケースが出ている。
■ メペックス社の年次報告書(2016年版)によると、パイプラインの違法タップは過去10年間で868%に増加しているという。さらに、2017年はすでに3,400件の違法タップが報告され、昨年同期間と比べて57%増えているという。
■ 今年5月には、ベラクルス州ティエラ・ブランカで油窃盗の疑いのある4名が爆発・火災で死亡している。また、同じく5月、プエブラ州中央部で油窃盗と思われる一団と軍隊が撃ち合いになり、10名が死亡している。
(プエブラ州の事例は、AFP:フランス通信社の日本語版で報じており、「メキシコ中部で石油窃盗団が問題化、軍と銃撃で死者も」を参照)
補 足
■ 「メキシコ」(Mexico)は、正式にはメキシコ合衆国で、北アメリカ南部に位置する連邦共和制国家で、人口約1億2,800万人の国である。
「ベラクルス州」(Veracruz)
は、メキシコ南東部にあり、人口約760万人の州である。州都はパラパで、最大都市がベラクルス市である。
「ザポアパン」(Zapoapan)は、ベラクルス州の南西部にあり、人口約2,500人の町である。発災場所の近くにベラクルス中央工科大学のキャンパスがあり、学生を避難させているが、ザポアパンの町とベラクルス中央工科大学は5kmほど離れており、正確な発災場所は不詳である。
メキシコ合衆国と各州の位置 (図はUpload.wikimedia.org
から引用)
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ベラクルス州ベラクルス中央工科大学付近
(写真はGoogleMapから引用)
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■ 「ペメックス社」(Petroleos
Mexicanos: Pemex)は1938年に設立された国営石油会社で、原油・天然ガスの掘削・生産、製油所での精製、石油製品の供給・販売を行っている。ペメックス社はメキシコのガソリンスタンドにガソリンを供給している唯一の組織で、メキシコシティに本社ビルがあり、従業員数約138,000人の巨大企業である。
なお、ペメックス社の関連事故については、つぎのような事例がある。
● 2014年7月、「メキシコのペメックス社でタンク火災、負傷者も発生」
● 2014年7月、「メキシコで原油パイプラインからの油窃盗失敗で流出事故」
● 2017年3月、「メキシコのペメックス社の石油ターミナルで爆発、死傷者8名」
● 2017年6月、「メキシコのペメックス社の製油所で浸水による火災で死傷者9名」
■ メキシコの石油パイプラインの総延長は35,000kmといわれている。原油、天然ガス、石油製品のパイプラインがメキシコ南部を中心として縦横に敷設されている。
メキシコの石油パイプライン・マップ (図はTheodora.com
から引用)
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■ パイプラインの違法タップは「ホットタッピング」によるものである。本来はパイプラインの内容物を抜かずにバルブを切り込んだり、バイパスラインを設置するために開発された工法で、パイプラインに枝管(バルブ付き)のノズル部を溶接し、ホットタッピング・マシンという特殊な穿孔機を使用してパイプラインに孔を明け、抜出し口を設ける。通常はパイプラインの流れを一時的に止め、内圧を下げてから溶接工事や穿孔工事を行なう。パイプラインからの油窃盗では、内圧がかかったままであるので、極めて危険な工事である。
正規のホットタッピング工法の例
(図はWermac.org
から引用)
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パイプラインへの違法タップの例
(写真は、左;News.bbc.co.uk 、右;Linkedin.com から引用)
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■ パイプラインの違法タップの油窃盗に対して、メキシコでは 「ドローンによる監視」を行っているが、十分な効果は出ていない。また、パイプライン窃盗防止モニタリングという技術を提供している会社もある。アコースティック・エミッションを活用したり、防食用被覆材の損傷による電圧の急激な変化を検知する方法である。(A3 Monitoring社の 「Pipeline-Theft-Monitoring」を参照) 実際の有効性は分からない。
所 感
■ メキシコの石油パイプラインにおける油窃盗による事故は、2014年に「メキシコで原油パイプラインからの油窃盗失敗で流出事故」を紹介したが、その後、違法タップによる油窃盗は無くなるどころか、増え続けているという。この背景には、貧困の拡大、安易な石油パイプラインの敷設、窃盗団による組織的犯罪などいろいろな要因があるようだ。
さすがに日本では、石油パイプラインの油窃盗事件はないが、セキュリティの対象として石油パイプラインに弱みがあるのは、認識しておく必要のある事例であろう。
■ 石油パイプラインで油窃盗による爆発・火災があった場合の対処は、パイプラインの移送バルブを閉止し、漏れた油は燃え尽きさせるという方法がとられるとみられる。中途半端に火災を消火すると、油汚染や消火泡による土壌・水質の環境汚染の問題を懸念していると思われる。多くの事例による経験則であろう。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Reuters.com, At least One Dead, Five Burned in
Eastern Mexico Pipeline Explosion, August 20,
2017
・News.trust.org, Police and Forensic Personnel Investigate The
Area where a Pipeline Exploded during an Illegal Tap in Zapoapan,
Veracruz, Mexico, August 19,
2017
・Wtop.com, Mexico:
1 Dead, 5 Hurt in Blast at Illegal Fuel Pipeline Tap, August
19, 2017
・RT.com, Mexico Gas Pipeline Explosion Leaves 1 Dead,
5 Wounded, August 20,
2017
・Hazardexonthenet.net,
Pipeline Blast Kills at Least One in Mexico, August
21, 2017
・Firedirect.net,
Pipeline Blast Kills 5 in Mexico, September
08, 2017
・Segundoenfoque.com,
Explosión en Pemex dejó un muerto y 5 heridos, August 19, 2017
・Libertadbajopalabra.com,
Explota ducto de Pemex en el municipio de Ixtaczoquitlán, August 19, 2017
・Lavozdelpuerto.com.mx ,
Muere un ‘huachicolero’ y cinco más resultan heridos tras explosión, August 19, 2017
・Afpbb.com, メキシコ中部で石油窃盗団が問題化、軍と銃撃で死者も, May
08, 2017
後 記: 事故の中には、その国の国情を反映していることがありますが、今回の事例はまさにその典型です。犯罪組織だけによる窃盗事件ではなく、普通の市民が共犯として手を出しているところにわびしさを感じる事例でもあります。ホットタッピング工法を考え出した発明者はどんな思いでいるのだろうと、ふと考えてしまいます。