東燃ゼネラル石油和歌山工場潤滑油製造プラントの火災
(写真はMatomame.jpから引用)
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< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、和歌山県有田市にある東燃ゼネラル石油の和歌山工場である。和歌山工場は敷地面積約248万平方メートルで、製油所精製能力は132,000バレル/日である。
■ 発災があったのは、和歌山工場の潤滑油製造プラントの第2プロパン脱ろう装置である。プロパン脱ろう装置は原油から潤滑油を精製する際に出るワックス(ろう分)を取り除く施設である。
有田市の東燃ゼネラル石油和歌山工場付近 (矢印が発災場所)
(写真はGoogleMapから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年1月22日(日)午後3時40分頃、潤滑油製造プラントの第2プロパン脱ろう装置で火災が起った。プラントからは激しく炎が上がり、周囲に黒煙が立ち込めた。
■ 午後3時47分、有田市消防本部は通報を受けて消防隊を出動させた。現場では、東燃ゼネラル石油の自衛消防隊とともに消防車10台などで消防活動を行った。
(写真はDigital.asahi.com
から引用)
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■ 出火当時、プラントには10人ほどが作業しており、突然、施設から爆発音とともに火柱が上がったという。作業員らは出火後、すぐに避難し、けが人は出なかった。
■ 火災の勢いは収まらず、爆発の可能性があるとして、1月22日(日)午後5時20分、火災現場に近い初島地区の住民に対して避難指示が出された。対象の住民は1,281世帯2,986人で、有田市文化センターと箕島中学校が避難所として開放された。避難してきた住民のひとりは、「どんな状況かわからず、不安です。いつまで避難しなければならないかなど情報がほしい」と語った。
JR初島駅を通過する列車内から見える火災
(写真はTwitter.comから引用)
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■ JR西日本は初島地区に避難指示が出たことを受け、この地区にあるJR紀勢線の初島駅に列車を停めずに通過させる措置をとった。
■ 1月22日(日)午後10時30分時点で、第2プロパン脱ろう装置のほか、第2潤滑油抽出水添精製装置付近で火炎が上がっていることが確認された。装置群の原材料流出入は遮断され、周辺装置への放水冷却が行われ、延焼の拡大を防いでいる。
■ 火災および消防活動の状況は、報道機関のヘリコプターからの映像で報じられている。
映像はYouTubeでも流れている。(「石油工場で火災、避難指示和歌山の東燃ゼネラル」、「和歌山の石油工場で火災」、「和歌山県有田市で石油精製工場火災から一夜明け」を参照)
■ 火災は発災から約40時間余を経過した1月24日(火)午前8時27分に鎮火した。
被 害
■ 第2プロパン脱ろう装置および第2潤滑油抽出水添精製装置の内液が焼失し、関連設備が焼損した。被災面積は850平方メートルを超えている。
避難所に避難してきた住民
(写真はJapantimes.co.jp
から引用)
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■ 事故に伴う負傷者はいなかった。地元住民約2,986人を対象に避難指示が出された。(報道によると、避難所に避難した人数は約570人だったという)
< 事故の原因 >
■ 出火原因は調査中である。
< 対 応 >
■ 1月22日(日)午後5時20分、有田市に災害対策本部が設置されるとともに、和歌山県消防保安課に連絡室が設置された。同時に地元の初島地区の住民に避難指示が出された。
■ 東燃ゼネラル石油の広報CSR統括部は、1月22日(日)、同社ウェブサイトに「和歌山工場での火災発生について(第二報)」と題してつぎのような声明を発表した。
「本日、和歌山工場で発生した事故により、近隣住民の皆様や関係各位、特に避難されている方々に多大なるご迷惑、ご心配をおかけしていますことを心からお詫び申し上げます。
火災は、和歌山工場敷地内の潤滑油製造装置群で発生しましたが、22時30分現在、当該装置群のうち第2プロパン脱ろう装置および第2潤滑油抽出水添精製装置付近で火炎があがっていることを確認しております。弊社は当該装置群の原材料流出入を遮断するとともに、周辺装置への放水冷却を行うことで延焼を防ぐなど、被害の拡大を阻止すべく関係当局と協力しながら消火活動に全力を挙げおります。引き続き、近隣住民の皆様の安全確保に全力を尽くしてまいります。
工場の当該装置群以外の稼働は最小限にとどめており、明日午前中の出荷は見合わせる予定です。
その他詳細の情報が確認でき次第、皆様に速やかにお知らせします。
先週18日の同工場におけるクリーニング作業中のタンク火災に引き続き、本日の事故が発生しましたことにつきまして、近隣住民の皆様をはじめ、関係各位には改めてお詫びいたします」
■ 1月23日(月)午前4時10分、火の勢いが弱まったとして初島地区に出されていた避難指示が解除された。JR西日本では、23日は始発から通常運行するといい、避難指示が出された地域内の小中学校2校でも通常通り授業が行われた。しかし、依然として消防隊による消火活動は続いている。
■ 東燃ゼネラル石油和歌山工場は、1月23日(月)午後3時に工場長らの記者会見を行い、 「多くの方にご心配をおかけし申し訳ありません。消防や警察と協力して原因を究明し、再発防止に努めます」と謝罪した。東燃ゼネラル石油によると、出火元とみられるプラントに可燃性のプロパンガスが残っているため、周辺に散水して冷却しながらガスが燃え尽きるのを待っている状態だという。若干の炎が残るとともに冷却によって白い水蒸気が立ち上っているが、人体に与える影響はなく、可燃性ガスが燃え尽きるまでに約30時間かかるという。
また、東燃ゼネラル石油は、鎮火を確認してから、人為的なミスや設備の劣化などの可能性も含めて原因を調査し、周辺住民に説明会を開くことやインターネットで原因を公開することなどを検討していると語った。
■ 火災が長引き、有田市消防本部のほか海南市、御坊市、和歌山市の各消防隊が応援で出動したほか、有田市消防団が支援で参加した。また、東燃ゼネラル石油の自衛消防隊のほか相互応援協定により近隣企業の消防隊が出動した。消火活動で出動した消防車両の合計は63台にのぼった。
■ 火災の消火にはプラントに残っているプロパンなどの可燃性ガスが燃え尽きるのを待ち、発生から40時間余り経った1月24日(火)午前8時8分に鎮圧され、午前8時27分に鎮火が確認された。
■ 鎮火後、和歌山県警有田署と有田市消防本部が合同で現場検証を行った。1月25日(水)、消防庁は消防法に基づく消防庁長官の火災原因調査を行うとして、職員を現場に派遣した。
■ 和歌山工場では、被災したプラント以外は原油処理などの操業は続けている。鎮火したことで、停止していたガソリンや軽油などの製品出荷の再開を検討している。
■ 和歌山工場では、被災したプラント以外は原油処理などの操業は続けている。鎮火したことで、停止していたガソリンや軽油などの製品出荷の再開を検討している。
(写真はDigital.asahi.com
から引用)
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(写真はDigital.asahi.com
から引用)
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(写真はJapantimes.co.jpから引用)
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(写真はMainichi.j
pから引用)
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(写真はYouTube.comから引用)
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(写真はSankei.com
から引用)
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補 足
和歌山県有田市の位置
(図はCity.arida.lg.jpから引用)
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■ 「和歌山県」は、近畿地方にあり、紀伊半島の西側に位置し、人口約95万人の県である。
「有田市」(ありだ市)は、和歌山県中部に位置し、人口約30,000人の市である。
■ 「東燃ゼネラル石油」は、2000年に東燃とゼネラル石油が合併してできた石油精製・石油化学の会社である。川崎、和歌山、堺、千葉(市原)に工場がある。
「和歌山工場」は、軍用航空揮発油・潤滑油を製造する国策会社(東亜燃料)として1941年に操業を開始した歴史のある製油所である。1945年の空襲で壊滅したが、1950年に操業を再開した。精製能力は170,000バレル/日であったが、現在は132,000バレル/日である。
東燃ゼネラル石油和歌山工場の石油精製工程図
(図はTonengeneral.co.jpから引用)
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■ 東燃ゼネラル石油のウェブサイトによると、和歌山工場の潤滑油製造プラントは「潤滑油接触脱ろう装置」(1,500バーレル/日)×1基、「潤滑油水添改質装置」(2,200バーレル/日)×1基となっている。
一方、発災は「第2プロパン脱ろう装置」とされ、さらに「第2潤滑油抽出水添精製装置」が火災になったと発表された。これらが同一の装置かどうかはわからない。
潤滑油(ベースオイル)は、減圧蒸留装置の減圧軽油を原料として潤滑油製造プラントで製造される。一般にパラフィン基原油から得られた潤滑油は高い粘度指数をもつ優れたものであるが、ろう分が多いと流動点が高くなるので、脱ろうしなければならない。この方法として、ろう分を抽出除去する溶剤脱ろう法があり、MEK(メチルエチルケトン)溶剤法やプロパン溶剤法などがある。ろう分は溶剤に溶解しにくいため、原料油と溶剤の混合液を冷却すると、ろう分は固化析出するので、これを濾過分離する。一方、水素を用いて原料油中のろう分(ノルマルパラフィン)を選択的に接触分解することによって低温流動性を改善する接触脱ろう法がある。発災のあった「プロパン脱ろう装置」のプロセスの詳細はわからない。
東燃ゼネラル石油和歌山工場の潤滑油製造プラント付近
(発災前)
(写真はGoogleMapから引用)
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■ 脱ろう装置の事故としてはつぎのような事例がある。
● 1996年7月、「MEK脱ろう装置の定期修理中、ろ過機室内で火災」
● 2003年2月、「接触脱ろう装置の熱交換器フランジ部から漏洩火災」
なお、MEK脱ろう装置の系統図の例は添付図を参照。
MEK脱ろう装置の系統図の例
(図はNoe.jx-group.co.jpから引用)
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所 感
■ 爆発を伴わなかったプロセス装置の火災にしては、鎮火までに40時間と長くかかっているという印象をもった。爆発を伴えば、機器や配管などを破壊して被災エリアが広がるので、大きな火災となる。大量に燃焼源を保有している貯蔵タンクと比べると、一般にプロセス装置はインベントリー(液の保有量)が大きくなく、火災の規模は比較的小さい。さらに、潤滑油製造プラントは石油精製装置の中で設備規模が小さく、通油を停止してしまえば、燃焼源は限定される。今回の場合、プロパンという液化石油ガスを使用しており、燃え尽きるまで待ったようである。しかし、被災面積が広がったのは、プロパンでなく、原料油である減圧軽油を主とする油の地上火災ではないだろうか。このような場合、冷却用の水が装置内を流れ、その表面を油火災が漂って広がることがある。
■ 火災の原因調査が行われるが、消火活動についてもまとめられることを期待する。
● 自衛防災隊は初動にどのような活動をしたか。
● 有田市消防本部の覚知は発災から7分を経過しており、現場への到着はさらに遅いが、その時点で発災状況はどのようなものだったのか。
● 自衛消防隊から有田市消防本部への現場指揮の交代は円滑にいったのか。
● 現場指揮所の体制はどのような組織で運用されたのか。
● 当該施設の潤滑油製造プラントに詳しい人材を作戦本部に配置することができたか。
● 初期の消火戦略・戦術はどのようなものだったのか。
● 消防資機材に不足するものはなかったか。
● 地上からでは消防活動の効果状況を十分確認できなかったと思われるが、どのような観察方法がとられたか。
● 消火用水の供給に問題はなかったか。排水系統に問題は出なかったか。
● 延焼が拡大した時点で、どのような消火戦略・戦術がとられたか。
● 40時間に及ぶ消防士の配置や交代はどのように行われたか。
発災写真を見ると装置内は機器や配管が輻輳しており、消火活動が難航したであろうことは想像できる。しかし、貴重な経験や知見を次代に活かすべく、記録として残してもらいたい。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・NHK.or.jp, 和歌山
有田市の石油精製工場で火災 住民に避難指示, January 22, 2017
・Digital.asahi.com,
石油工場で火災 爆発の恐れ、1281世帯に避難指示, January 22, 2017
・Mainichi.jp, 石油工場火災 有田市で避難指示 和歌山・東燃ゼネラル, January 23, 2017
・Fdma.go.jp, 東燃ゼネラル石油株式会社和歌山工場の火災(第7報), January 25, 2017
・Sankei.com,東燃ゼネラル工場火災、11時間ぶり避難指示解除…周辺住民「原因しっかり調べて」, January 23, 2017
・Wbs.co.jp, 石油工場火災
東燃ゼネラルが会見で謝罪(写真付), January 23, 2017
・Jiji.com,東燃ゼネラル工場火災が鎮火=発生40時間余り, January 24, 2017
・Mainichi.jp, 東燃ゼネラル火災 作業員ら無事避難 和歌山で避難指示, January 22, 2017
・Logi-today.com, 東燃ゼネラル石油和歌山工場で再び火災、出荷見合わせ, January 23, 2017
・Tonengeneral.co.jp,
和歌山工場での火災発生について(第二報),
January 22, 2017
後 記: 事故の早い時期には、発災元が潤滑油製造プラントのドラムという情報もありましたが、その後、この情報は消え、
プロパン脱ろう装置という広い区域に変わりました。ドラムといえば、横型または立型の円筒槽ですから、広義にいえばタンクの範ちゅうでしょう。ということで、事故情報を集めてみました。発災事業所はインターネットで原因を公開すると語っていますので、とりあえず、発災直後の情報としてまとめてみました。正確には「公開することを検討する」と言っているようですので、少し不安(日本のある分野では、検討するというのは、何もしないということらしいので)ですが、注視しておくこととします。